第9話 暗躍する諜報員のアンドロイド

「僕たちの部隊が得ていた情報では、クレド様が地球に来られた際、そのお姿は女鹿であった事と、日本の綾瀬重工に匿われた事は判明しておりました。皇帝陛下が秘密裏に行動を起こされたため、親衛隊ですらクレド様の動向を掴めていなかったのです。そこで第7機動群司令部では情報戦の専門家である大尉にクレド様の探索と護衛任務を命じられたのです。日本と帝国は友好関係にあり、クレド様の亡命に関しても日本政府とは合意していたと言われています。戦闘部隊は最小単位で、軍曹の海兵隊からの精鋭と帝国親衛隊から数名が配置される予定でした」

「それが精鋭ではなくサル助が配置され、親衛隊は来なかったと」

「そうです」

「それはおかしいな」

「そうです」

「いや、そもそも大尉が派遣されたこと自体がおかしいんだよ」

「えっ?」

「帝国と日本が友好関係にあり、ウチのような大企業が関与しているならすでに話は通っているはずだ。椿さんが日本に来たのは1年前だ。今頃、探索するとか行動が遅すぎる。もう帝国からは護衛役の人員が派遣され配置についていても不思議じゃない」

「それはそうですが」

「つまり、反帝国派でいいのかな?例のサレストラ系の連中に騙されたんだよ。君たちは」

「え?まさか第7でそんな」

「親帝国の軍組織に反帝国派が紛れ込んで何か画策してるんだろうな」

「その通りだ!!」

 バン!とドアが開いた。そこには金髪で小柄な少女と黒髪でスタイルの良い少女が居た。

 金髪の方は見た目が小学4年生位の小柄な少女である。短めのツインテールにしている。目の青い白人だ。もう一人は黒髪で東洋人で高校生位と思われる。が、なかなかスタイルが良く豊かな胸元が眩しい。二人とも紺のブレザーとチェックのスカートだ。これは地元の竜王学園の制服だったと思う。二人の顔を見てゼリアは驚いて席を立ち片膝をつき左手を床に右手を胸に当て頭を下げる。彼らの最敬礼のポーズだ。

「よい。直れ」

「はい。ララ様、ミサキ様」

 ララと呼ばれた少女はズカズカと目の前に来てゼリアの座っていた椅子に腰かける。もう一人のミサキは悠々と目の前を横切り俺の右隣に座る。俺はベッドの上で椿さんとミサキに挟まれる形となった。ゼリアは下がって直立不動の姿勢を取る。

「少年、ミサキ姉様の椅子を」

「不要です。私はここがいい」

 そう言って彼女は俺の右腕にしがみつき胸を押し付けてくる。俺の鑑定では99センチIカップ高雄級である。椿さんも負けじとすり寄ってくる。椿さんは101センチJカップで愛宕級。二人の巨乳美女に挟まれ昇天しそうな幸福感に見舞われている。

「姉様!正蔵の隣から離れてください。不要な揉め事はご遠慮願いたい。正蔵も鼻の下が伸びてるぞ」

 俺の事はご存知らしい。

「やっぱりダメ?」

「ダメです。姉様の横槍でご破算となっては陛下に顔向けできません。さあ離れて」 

 渋々俺から離れパイプ椅子へと座るミサキ。座る場所の無くなったゼリアに向かって自分の太ももを叩き

「ねえ君、ここに座る?良いよ」

 ゼリアは直立不動のまま首を振る。

「貴様も座れ。正蔵の隣が空いた。楽にしていいぞ」

「はい。ララ様」

 ゼリアは頭を下げ俺の隣に座った。

「どなたですか?」

「金髪の方がアルマ帝国第4皇女のララ様です。黒髪の方が第3皇女のミサキ様です」

 椿さんが紹介してくれた。第3皇女と第4皇女。つまり皇帝のご令嬢なのか。先ほどからのゼリアの態度で結構な身分の人だとは思っていたが、最高ランクじゃないか。

「初めまして。綾瀬正蔵です。こっちの少年はゼリアです」

「うむ。正蔵、椿をよろしく頼むぞ」

「え~っとご存知なので?」

「スマンが先ほどから外で会話を聞いていてな。入るタイミングを逃してしまった……立ち聞きしたのは悪かった。そういう事だ正蔵。椿をよろしく頼む。大事な事なので2回言ったぞ」

「はい、承知いたしました」

「うむ。お前たちは水入らずで同棲生活を楽しむがよいぞ。面倒ごとは私が全て引き受ける」

 皇族とはいえ、こんなお子様では何もできないのではないか。ゼリアと年恰好は変わらないじゃないか。不審に思う俺の意図を察したのかララは席を立ち俺の顔を見つめながら近づいてくる。

「私こそが皇帝警護親衛隊隊長のララバーンスタインである。椿の護衛役としては最適だ。不満があるのか?」

 親衛隊隊長?この見かけでは身分だけでその地位につき実力は伴っていないと判断するのが妥当なのだが……椿さんを見るとにこやかに頷き語り始める。

「ララ様は近接格闘戦においては無双の実力をお持ちです。過去2回御前試合において優勝を収められ、圧倒的な支持を得て親衛隊隊長へと推挙されたのです。レイ軍曹相手だと約3秒でKOですよ」

「KOってレイ軍曹が3秒でKOされるんですか?」

「そうですよ。ララ皇女を怒らせると命がいくつあっても足りませんわ」

「褒めるな。恥ずかしい。それに私はめったなことでは怒ったりしない。椿と違ってな。正蔵、覚悟しておけよ。この娘は嫉妬深いぞ」

 恐ろしさを強調したような言い分に褒めるなとは豪胆だ。そして椿さんは嫉妬深いのか。うむ。注意しなければ。先ほどの告白に応えたので浮気は厳禁って事だな。しかし、あのレイ軍曹を3秒でKOするとはどんな強さなのか想像がつかない。

「ああ、そうそう。私一人では手が足りん場合があるからな。ミサキ姉様に手伝ってもらう事とした。それと入ってこい!」

「失礼します」

 ゲルグガラニア大尉とレイ軍曹が入ってくる。

「この二人も暇そうなので招集した。貴様らはしばらく皇帝警護親衛隊の隊員だ。一応、帝国随一のエリート親衛隊だからな。喜べ」

「その様な辞令は聞いておりませんが」

 訝し気に大尉が返事をする。

「たった今私が決めた。原隊にも連絡してやるから心配するな」

「はい!」

 二人は敬礼し返事をする。

「それから少年」

「はい」

 ゼリアが立ち上がり返事をする。

「貴様は未成年なので親衛隊には入れられん。正蔵に預かってもらえ。幸運にも見た目は地球人と同じだ。不都合はあるまい。椿に常時付き従え。頼むぞ」

「はい」

「ただし、二人の睦事の邪魔はせんようにな。お主も経験がなかろうが其処は十分に注意せよ。いいな」

「はい」

 顔を赤くして敬礼するゼリアである。睦事の意味を正確に理解していると見た。侮れん少年だ。

「ところでララ様。質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ正蔵」

「先ほどの話の続きなのですが、親帝国の軍組織、第7機動群ですか。そこに反帝国派が紛れ込っで何か画策してると言う話です」

「そうだったな。その通り。しかし、詳細は掴めていない。黒剣が動いているので報告を待て」

「黒剣とは?」

「日本でいえば公儀隠密、御庭番、米国ならCIAやFBI、ロシアではKGB、英国ならMI6、イスラエルならモサドだ」

「ララ様、日本だけ時代錯誤ですが……」

「ん?そうか?スマン。まあ意味は同じだ。黒剣つまりアルマ帝国の諜報組織、そこの超恐ろしい姉御あねごが動いている」

「シルビア様ですか?」

「椿、知っておるのか」

「ええもちろん。つい先日もお会いしましたわ」

「むむむ。姉御を知っておるとは流石。今後名前は出さぬようにな。しゃべったのがバレるとコレじゃ」

 ララは手刀を首に当て命はないぞのポーズを取る。その表情は少し青ざめているようだ。

「皆良いな。その名は口にするな。ミサキ姉様は大尉を連れて綾瀬開発部へ行って下さい。軍曹は私についてこい。邪魔したな」

 颯爽と部屋を出ていくツインテールであった。ミサキ、大尉と軍曹もついていく。

「椿さん。その姉御さんって怖いんですか?」

「ええ。人類最恐ではないかと。冷酷で冷血で残忍です。ララ様の天敵かもしれませんね。うふふふふ」

 何時もにこやかな椿さんである。

 ゼリアは顔面蒼白で震えていた。目に涙を溜めている。

「ごめんなさい。ちょっとちびりました」

 泣く子も黙る、いや、泣く子がちびる恐怖の女王様ってところか。

「以前から、あの方の名を口にすると死が訪れる、その名を耳にすれば災厄に見舞われると、そのように聞いております。椿様、勘弁してください」

 顔面蒼白で震えながら話すゼリアだった。ちょうどその時正午のチャイムが鳴る。

「ゼリア。着替えて来いよ。そしたら昼飯にしよう」

「はい分かりました」

 ゼリアは部屋を出ていく。

「今日は天気は良いので、お弁当を買って外で食事しませんか?」

「そうだな。そうしよう」

 戻ってきたゼリアと共に表へ出る。椿さんが幕の内弁当を買って来た。春の暖かい日差しを受け弁当を食べる。桜はすでに葉桜となっていたが、その黄緑の葉もまた美しいと思った。

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