俺の愛しいアンドロイド
暗黒星雲
第1話 突然のアンドロイド
目の前に美女がいる。
サングラスをかけニット帽を被っているが、その佇まいは美女のオーラを強烈に放っている。お忍びの芸能人といった風体だ。
こんな人知らないなあと思いながらふくよかな胸元をみつめる。100センチはありそうだ。身長は俺とそう違わないようで170センチ位。スリムではないが太っているわけでもない均整のとれた体型で、このままグラビアアイドルになれるのではないかと素直に感心してしまう。染めていない黒い髪と、透き通るような白い肌は俺好みだ。
彼女は一歩俺に近づき両手を首に回す。豊満な胸が押し付けられると同時にキスされた。唇と胸の柔らかい感触は俺の性感を昂らせる。俺の股間は一気に勃起した。彼女はその変化を感じ取ったのか、下腹部を俺の股間に擦りつけながら舌を差し入れてきた。俺も彼女の背に両腕を回しきつく抱き締め舌を絡めていく。女性経験の無い俺は、これだけで射精してしまいそうな強烈な快感を味わっている。彼女は右手を下ろし、ジーンズの上から股間を撫で始める。このままだと、本当に、射精、してしまいそうだ。そう思った瞬間……
ドンドンドン
部屋のドアをたたく音が聞こえた。
ドンドンドン
目が覚めた。
古く薄汚れた木製の天井が見える。目眩く快楽の世界から、重苦しい現実の世界へと一気に叩き落とされた。
底なしの喪失感を味わいながら右手で股間を触ってみる。ギンギンに勃起しているが射精はしていない。良かった。一人暮らしでも夢精してしまうのは恥ずかしいものだ。夢だった事を認識しため息をつく。
ドンドンドン
時計を見ると朝の10時だった。まだ4時間くらしいか睡眠がとれていない。このまま無視しようと思い布団をかぶる。
ドンドンドン
訪問者はあきらめる気がないらしい。仕方ないのでベッドから起き上がり玄関口へ行く。扉を少し開け外を確認する。そこに立っていたのは先ほどの夢の中で抱き合っていたサングラスの美女だった。こんな偶然があるのか!?どう判断してよいやら惑ってしまう。
彼女は携帯端末を差し出し「どうぞお話しください」と言う。俺は素直にそれを受け取った。その瞬間に。
「はいはーい。しょうくんおはよう!起きてた?紀子おばさんですよぉ~」
元気のいい声の主は俺の叔母、
「今起きたところです。何か御用ですか?」
生あくびをかみながら返事をする。
「あらー大学生は気楽でいいわね。学生時代が懐かしいわ。ところで、あなた暇そうだしバイトしない?」
確かに俺は暇だ。地方の国立大学二年生なわけだが、最近は講義にはあまり出席せず深夜のバイトに精を出している。
「すっごい簡単だから、お願い、ねっ!」
俺の事情はお構いなく一方的に喋る叔母である。
「その娘はね。試作機なんだけどね。モニターをね。お願いしたいのよ。その娘、預かってね。お・ね・が・い!!」
「し、試作機って、この娘ロボットなんですか?」
「そうよ~。すごい美少女でしょ。私の造形技術の奥深さを思い知りなさい」
とても作り物には見えない彼女を見ながら、叔母さんの天才っぷりに感心する。
叔母はとある有名大企業で人型ロボット、アンドロイドの開発をしている。彼女の開発した製品は介護や介助などの分野では世界トップレベルの性能で、シェアは70%以上とか言われている。開発した最先端試作機のパフォーマンスを確認したいのだろうか。なぜ俺のところでという気もするが、身内であれば万が一の事故でも訴訟事にならないからではないかと勝手に想像してみる。
「じゃあお願いね。詳しいことはその娘に聞いてね。あ、そうそう、その娘とっても高価だから壊さないでね。じゃ!」
ツー
勝手に電話を切られてしまった。
こんな話をしているうちに股間は収まってきたようだ。玄関口に座り扉を全部開く。この部屋の扉はドアではなく引き戸である。
「綾瀬正蔵様でございますね。綾瀬重工製家事支援アンドロイド
と携帯端末を差し出す。見ると承諾書とある。色々説明事項が記載してあるが、面倒なのですっ飛ばす。不用意だとは思うが【承諾します】をタッチする。
「これで椿は正蔵様の所有物となりました。期間は本日より無期限となります。保険料や整備費用等は綾瀬重工より支払われますので、正蔵様がご負担されることはありません。同時に使用者モニターのアルバイトに関する条項が付帯されております。こちらは一年間の契約となります。契約の更新はありません。日当は一万円となります」
日当一万円!!この高給提示に胸が高鳴る。本当に一万円なのか?一日一万なら年間で365万円てことなのか?気になるので聞いてみた。
「あの、椿さん。仕事の内容はどんなの?何をすればいいのかな」
「特別なことは何もありません。基本的には私が常時、正蔵様をモニタリングしております。そのデータを製造者側が客観的に判断します」
「つまり」
「つまり、私たちのような人間そっくりの家事支援アンドロイドを使用する側の人間をモニターさせていただく事です。正蔵様が私に観察される事がお仕事です。特に性的な部分が必要です」
急に恥ずかしくなった。
「24時間ですか」
「そうです。24時間です」
自分のプライバシーが瓦解していくのを感じた。もしかして、オナニーもできないのかと心配になる。ちょっとニュアンスを変えて聞いてみる。
「例えば、俺が女性とデートしたりするとその様子なんかもモニターするんですかね?」
「もちろんです。すべてをモニターされることが正蔵様のお仕事です。お食事をして公園でキスしてラブホへ行ってエッチするところまで全部モニターされてください。私をデートに誘ってくださるのがベストだと思いますけど。彼女、いないんでしょ」
「あのー、そんなこと何で知ってるんですか?」
「それは公然の秘密です。綾瀬の跡取りに彼女がいないことなど大学中に知れ渡っております。合コンとかサークル活動とか、そっち方面で頑張ればすぐにでも出来そうなものなんですけどね。そんなものには興味ないと孤高の戦士気取り。趣味は油臭いガソリンバイクいじりでは、普通の女子は近寄りませんわ」
アンドロイドのくせに痛いところを突いてくる。
俺の親父は綾瀬重工という日本有数の大企業で社長をやっていて、俺はそこの一人息子なのだ。周囲の認知度は高く女性に縁がないことは知れ渡っている。
「ごもっともですが、そんな言われ方すると傷つきますよ」
「あらごめんなさい。今回の調査テーマは『童貞男子と美形アンドロイドの恋愛は成立するのか?』なのだそうです。テーマの設定はもちろん紀子博士です。他には、家事支援アンドロイドとの性行為は不倫になるのか?とか、アンドロイドに性行為を強要した場合は強姦になるのか?とか、様々なシチュエーションを想定しての研究が行われております」
なるほど、こんな事を押し付けるのに最適な人選が俺だったわけだ。それにしても、アンドロイドに性行為機能を付加するだけで家庭内では様々な問題が起こり得る。なるほど。こんな美少女と旦那さんがイチャイチャしているだけで、奥さんの方は心中穏やかではないだろう。椿さんの説明を聞きながら妙に納得してしまう俺だった。
いや、今、性行為がどうのこうの言ってなかったか?
「あの、椿さん。性行為って、その、エ、エッチできるんですか?」
「はい。可能です。私達XRHシリーズは性行為可能モデルとして製造されております。セックス機能専用アンドロイドはすでに出回っておりますが、それは単に出来の良いラブドールです。私達のような高機能AI搭載型では初であるとの認識です」
可能なのか?夢の中での熱い抱擁を思い出し再び股間がうずく。
「まんざらでもないって表情ですね。今から試してみますか?」
胸がドキドキしてきた。こんな美人と、いや美女アンドロイドとエッチし放題なのか?
いや待て、話がうますぎる、もう一度契約について確認が必要だと思い聞いてみる。
「椿さん。確認したいんですが、良いでしょうか?」
「はいどうぞ」
「先ほど、椿さんが俺の所有物となった旨聞きましたが、俺は何をしたらいいのでしょうか」
「ご自由にどうぞ。私は家事支援アンドロイドとして正蔵様の身の回りのお世話をいたします。私のお仕事の邪魔をしなければ何をされても結構です。ただし、エッチなことは例外です。お仕事中でも遠慮なく襲ってくださって結構です。私の希望を申しますと、恋人もしくは妻として愛で慈しんで下さると幸せでございます」
つまり、椿さんをどう扱うのか、そこからモニターされているわけだ。性行為までモニターするつもりだとは紀子叔母さんも相当なものだ。下手な事はできないと心に刻む。
「恋人同士とか夫婦とか、そんな関係になるのが椿さんの希望なんですね」
「はいそうです」
明るくにこやかな返事である。
「それ以外の扱い方をすると、椿さんは困りますか?」
「例えばどんな事でしょう」
「例えばお友達関係とかです」
「おや、これはこれは、お互い他に好きな人がいる、他に付き合っている人がいる状況でエッチなことをしてしまう、そのような不倫的なものをご希望されるのですか?」
「違う違う。恋人や夫婦になるまでにはその前段階というか、お互いが意識していない状態から意識しあうようになり、それが好きな気持ちになっていきお付き合いして結婚する。そういう流れだろ?俺たちは今日出会ったばかりだから、いきなり恋人とか夫婦とかは難しいんじゃないかな」
「私はそれでも結構ですけど」
「俺は、心の準備というか整理というか、性欲だけで突っ走るのはよくないというか、まだそこまで踏み込めないんだよ」
「分かりました。お友達から恋人へ、そういう流れでお願いします」
「ありがとう椿さん。あと、普通に家事支援アンドロイドだけをやって貰って俺は椿さんに手を出さないっていうのはどうかな?普通のアンドロイドはこんな感じで使用するんでしょ」
「それでは紀子博士が満足しませんし、私も面白くありません。おや?正蔵様はメイドに性的な奉仕をさせるご趣味がおありなのですか?それならそれで一考の余地がありますが……」
「それは多分ないです。奉仕させるとか、強制的にどうこうとか、そういうのは逆に気分が萎えるかも。俺は、いわゆるイチャラブってのに憧れてる気がする」
何故か赤面した。自分の顔が熱くなってくるのがわかる。
「あら。私もですわ。正蔵さんと性的趣向が一致しましたわね。えへへ」
椿さんも何気に顔が赤くなっている気がする。
「やっぱりエッチする方向なんですね」
「正蔵様がお嫌ならしませんけど、たくさんエッチすると、プラスアルファでボーナスが支給されるかもですよ」
「マジですか?」
「マジです」
俺の意思にかかわらず、エッチする方向へ話が進んでいる。
「次、契約期間の話ですが」
「無期限です」
即答された。
「つまり、俺が生きている限り椿さんは俺の所有物なのですね」
「はいそうです」
「エッチなこともし放題?」
「はいそうです。私には避妊具は必要ありませんので。言ってる意味、お分かりですよね」
つまり、エッチし放題で、中出しし放題なのか。
「良いのですか?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
笑顔で答えてくれる椿さんであるが、俺は釈然としない。
「その所有に関する契約の破棄はできるの?」
「可能ですが、違約金は300億円です」
驚いて咳き込んでしまった。咳き込みながら聞く。
「それ、嘘でしょ」
「はい。嘘です」
ニコニコしながら返事をする椿さんである。普通アンドロイドは嘘をつかないはず。椿さんのAIはどうなってるんだろう……。
「本当は解約可能です。特に違約金の規定はありませんが、双方の合意が必要です」
「双方というのは誰と誰ですか?」
「正蔵様と私。離婚する夫婦みたいなものかしら?」
これはこじれる可能性が大きいという事だ。叔母にしてやられた敗北感を味わう。椿さんと良好な関係を築ければ問題はないのだろうが。
玄関先で長時間話すのもまずいと思い中へ入るように案内した。
「では失礼します」
深いお辞儀をし椿さんは部屋へ入る。
ギシリ、ギシリ、床が軋む。
畳へ上がった瞬間にズボリと椿さんが沈んだ。
「あはははは、やっちゃった(笑)」
頭を掻きながら笑う椿さん。
コレは天然ドジッ娘属性なのだろうか。とてもアンドロイドとは思えない椿さんを見ながら、こんな代物を作り出す紀子叔母さんってやっぱ天才だと感心してしまうのだった。
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