バックナンバーズ 第3話 『高嶺の花都さん』(1/3)
火は、灯火にもなれば炎にもなる。
灯火は人々を煌々と照らし安らぎを与えるが、炎は轟々と燃え盛り、あらゆるものを燃やし尽くしてしまう。
僕は炎のような男だ、映画を語らせたら人が変わったように加熱し、相手を燃やし尽くすまで止まらない。だからずっと1人でいた、1人この部室で燻っていたのだ。
しかし、白百合詩由という薪を得て、俺の心は再度動き出した。
撮ってみたいワンシーンを求めて。
バックナンバーズ 第3話
「高嶺の花都さん」
高校生映画のスタッフの数なんてたかがしれている。今は昔と違って機材も多種多様に揃える必要もない。こだわればキリがないが、最低限デジカメとパソコンさえあればあとはなんとかなる。
「頼む安藤!映研に戻ってくれ!」
俺が頼むと、安藤はとても嫌そうな顔をした。
「嫌に決まってんじゃん」
断ることはわかっていた。そのうえで頼んだつもりだったが…。
「お前、俺が映研辞めた理由忘れたわけじゃないだろう」
そう、安藤は元々俺と同じく映研に所属していた。辞めた理由は、簡単にいえばお互いの活動方針の違いである。
しかし、この学校にあの部室にある道具を使える人間は俺と安藤以外いないだろう。
「オマケに苦手なギャルもいるんじゃな、ますます行く気にならねえよ」
今はギャルでは無いんだが…。
俺は、今でも安藤とは仲がいいと思う。だがやめてから映画の話はあまりしない。なんとなくそこに壁があるとは常々感じている。今俺がやろうとしている事は、きっと安藤が望んでいた活動内容にも沿っていると思うのだが…。
「おーい、諏訪ー」
クラスメイトの1人が俺に声をかけてきた。
「なんか後輩が呼んでるぞー、女の」
扉を見ると、白百合が顔を覗かせていた。
昼休みに市川先生のところに話に行くところだったのだ。
「あー、ちょっと俺用があるから行くわ。安藤あの話は…」
安藤は驚愕目を向けていた。
「あの子誰!?」
安藤が鬼気迫る勢いで俺に掴みかかってくる。
「あいつはあれだよ、例の白百合!」
知らなかったのか…。そもそも白百合の情報源はお前じゃないか。
「え!?なんで?どーいうこと!?」
話をするとややこしいと思ったので、とりあえず安藤を引きはがす。
「とりあえず映研の件は考えておいてくれよ!じゃあな!」
疑惑の目を向ける安藤を尻目に教室を出ていく。こりゃあ…誘ったのは間違いだったかもしれん…。
職員室に行き、市川先生と今後の話をする。
しばらくの奉公部活動停止は、あちこちから批判があったようだが、それだけ働いていた証拠だと褒めてくれた。
市川先生は映研の顧問ではあるが、映画や部活動には全く興味が無い。とりあえず自由にやって 、困ったことがあったら相談してくれとのことだった。
「実は…早速相談があるのですが…」
現在直面している問題は、兎にも角にもスタッフだ。
いまのところ、主演女優(仮)と監督兼雑用しかいない状態である。安藤もいれば少しは条件も変わるだろうが、それにしてもあきらかに足りない。
演者は、そんな大掛かりなものをとるつもりもないからてきとーに数名集めればいいだろうが、特に問題が…。
「誰かシナリオかける人とか心当たりないですかね?」
シナリオである。
俺も安藤もそうだったが、俺たちには文才というものが欠片もなかった。
いい言葉回しは見つからないし、シーンが繋がらない。致命的である。
ちなみに白百合には元より期待してない。
市川先生はしばらく悩んでいた。
「一応演劇部にかける人はいたと思うが、今はコンクールに出るとかで忙しいらしいしなー」
1番適役と思われる人がNGだった。
ひとしきり悩んでいると、突然なにかを閃いたようだった。
「そういえば、3年で心当たりいるな。あいつならもしかしたら出来かもしれん」
ようやく光明が見えた。
「ほんとですか!?」
だが、市川先生はすぐに渋い顔をした。
「しかし…あいつはちょっと難しいかもな…性格上…」
早速暗雲が立ち込めた。
数時間後、俺は白百合と一緒にとあるマンションにいた。
市川先生の紹介で教えてもらった人の住所がここだった。
ここに未来のシナリオライターが…と思うとドキドキしてきた。
「ピンポーン」
白百合が容赦なく呼鈴を鳴らした。
「ちょ…白百合さん、なんでもうおしてるの!?」
「はぁ?鳴らさなきゃ出てくれないでしょ」
「いや、お前には心の準備というものがないのか?」
「うっさいわねチキン野郎、さっさと用事済ませないと、やることたくさんあるんでしょ?」
「そりゃそうだが…」
「いつまで喋ってるの?」
突然知らない声が割って入った。
既に扉は開けられていた。
「…」
「…す、すみません…」
扉から出た人はため息をつく。
「市川先生から話は聞いてるわ。とりあえず入ってちょうだい。お茶くらい出すわ」
俺たちは、すごすごとおじゃますることにした。
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