第208話伸ばした手の先にあるもの

 悪魔が現れたのと同時に警報が鳴り止む。


 悪魔は3体。どれも大きく、まるでヒーロー漫画に出てきそうな形をしている。人型で全身黒く、かなり高性能に作られているのか動きがとても滑らかだ。


 ・悪魔ブラザーズ LV95


 悪魔が一定の距離を保ち立ち止まると、黒かった目が赤く輝きその頭の上にHPバーが表示される。戦闘開始の合図だ。


「ん。「ブースト」」


 事前に用意していたのだろう。エリーゼが範囲的なブーストを発動、皆のステータスを上げる。


「ウィルは真ん中!アイリス、レイは右を!鏡花水月と十左エ門は左をお願い!」

「「「了解!」」」


 エリザベスの指示で皆即座に駆け出し、後衛組は既に魔法の詠唱に入っている。さて、どこから狙おうか。


 三体の悪魔の射程圏内に入ったのだろう、その右腕をこちらに向けると手の平に穴が開き銃口が姿を現し火を噴いた。


 SF映画顔負けの光景に苦笑しながらも僕はスキルを発動、速度を上げ銃弾をかいくぐる。

「空間把握」を広げていた為、左右に走る仲間たちも上手く銃弾を回避していることがわかる。


 右はレイが盾を構えそれを防ぎアイリスがその陰に隠れながら進み、左では十左エ門と卍さんが左右に動き見事にかわしている。


 が、悪魔に一番に到着するのは僕のようだ。派手にかましその口火を切ろう。


「「魔爆剣」!!」


 悪魔の放たれる銃口の先から縦に割るように剣を叩きつける。だが悪魔の装甲は固く、傷一つつかない。だが十分だ。


 剣をぶつけた後僕は素早く駆け抜け悪魔の足の間から背後に回る。


 と、同時に悪魔の右腕が破裂し吹き飛んだ。


 これは先の戦いでアイリスが気づき皆で話し合った結果だが、この世界には火薬はない。ならどうやって銃弾を飛ばしているかと言うと、その方法は二種類あるらしい。


 一つは小さな鉄の塊などを魔力で飛ばす、もう一つは魔力自体を弾丸のように飛ばす、の二種類。


 詳細は省くが、そのどちらも魔力を溜め爆発的に放出することでその力を発揮するそうだ。


 ここまでの悪魔が背中にジェット噴射をつけ空を飛ぶ事がで来ていたのもそう言う原理だ。


 つまりそこにはかなり多くの魔力の塊がある。そしてそれを叩けば魔力は爆発する。これはジェット噴射ですでに実証済みだ。


 つまり僕は魔力の塊に「魔爆剣」を叩き込み、そして爆発させたわけだ。


 背後に回った僕は飛び上がり、爆発により体制を崩した悪魔の首に「切断剣」を使い剣を叩きつける。


 スキルにより鋭さを増した剣はその首を落とそうと突き刺さるが、一割ほど刺さっただけで止まってしまう。


 だけど刺さる。関節が弱点なのはどの生物(?)も同じなようだ。素早く剣を抜き、悪魔の背を蹴って後ろに飛ぶ。


 左右を見ると、ほぼ同時に二体の右腕も吹き飛んでいる最中だった。


 一体の前ではレイがしゃがみ、アイリスがその腕に上から剣を叩きつけている。恐らくレイを踏み台に飛び上がり上から攻撃したのだろう。


 もう一体は卍さんが横から腕に剣を叩きつけている。壁を駆け移動し、そのまま飛んで斬ったのだろう。同時に十左エ門が僕同様に首に剣を叩きつけているが、やはりあちらもあまり深くは着る事が出来ないみたいだ。


 皆一度悪魔から離れると、その瞬間矢と魔法の雨が悪魔たちに降り注ぐ。前衛は悪魔から離れ、爆風を避ける。が、その眼は鋭く爆心地である悪魔からは一切目を背けず次の隙を伺う。


 魔法を受けた悪魔たちは倒れずしっかりとした足で立ち、HPもまだ8割以上ある。レベルが高いだけあって一筋縄ではいかないようだ。


 此処が所謂中ボスの間なら、戦闘後は悪魔は襲ってこず休憩時間が取れるはず。念のためMPが無くならないように節約しながらも、皆その事を分かっているから全力で戦っている。


 戦闘が始まって20分は経っただろうか。


 その固い装甲もだんだんと削られ、今では全身傷だらけで腕が片方ない悪魔が漸く地に膝をついた。


 だが誰も油断はしない。そろそろHPバーがレッドゾーンに入るからだ。


「「豪火球」」


 座長さんとエリザベスの放つ大きな火の玉が悪魔に直撃した時、ついにその時を迎える。


「ガ、ガ、ユル、ユルサナイ。ワレワレハ、ニドト、クリカエ、サセナイ!」


 悪魔たちは突然光に包まれ、そして3つの光は一つに重なり真の姿を現す。


「う、嘘でござろう……」

「そ、そんな事って……!?」


 思わず僕と十左エ門は言葉を漏らした。


 その姿はまさに合体ロボット。三体は各部の部品を外し繋ぎ直し、一瞬のうちに一体のロボットへと形を変えた。


 2mあった大きさが、今では5mはある。6本あった腕は肩に、足に、そして腕にと姿を変え、まさに巨大ロボット。


「変形するなら顔も変形しなさいよ……」

「あ、あれじゃただの変態だよ~」

「変形変態巨大ロボですね……」


 見事に融合された体ではあったが、何故か顔は元のまま。だが三つとも何故か股間の位置についていた。男性ならではの物に見えてしまい女性陣はドン引きである。


「ユル、サナイ!!ニンゲン、ユルサナイ!!」


 股間が、いや、顔がしゃべる。


 その三つの股間は、いや、三つの顔の目が光り、再び戦闘態勢に入り皆武器を握り直す。


「ま、待つでござる!!あんなカッコいいものと戦うのでござろうか!?」


 皆魔力を練りスキルを発動させようとしたとき、十左エ門が待ったをかけた。女性陣は「はぁ?」といった冷たい目で彼を見る。


 十左エ門の気持ちは痛いほどよく分かる。男なら変形ロボにロマンを感じないはずがない。だが今は戦闘中、僕も心を鬼にして彼に言わなければならない。


「十左エ門。今は戦闘中だ。あれがロマンの塊という事は僕も理解している。だが戦わなければならない時があるんだよ」

「待ってくだされウィル殿!あんなかっこいい物、なんとか壊さずに持ち帰ることはできないでござろうか!?」


 その一言はまさに目から鱗だった。確かに何とか破壊せずに持ち帰ることはできるかもしれない。


「確かに……それは一考の余地ありだな」

「おお!流石ウィル殿!話が早い!!」


 僕と十左エ門は頷きあい、そして変態ロボに向かい話しかける。あれは言葉を発していた。ならば話し合えるはず。


「待ってくれロボよ!こちらに戦う意思はもうない!話を聞いてくれないだろうか!?」

「そうでござる!お主を破壊することなど忍びない!何とか話し合いで決着をつけられないだろうか!?」


 僕らが前に出たことで変態ロボは戦闘態勢に入ったが、問いかけたことでその動きが止まり答えた。


「ニンゲン、シンヨウ、デキナイ!クリカエス!カナラズ、クリカエス!!」


 その意味が何のことなのか、今の僕らには分からない。だがどうやら意思の疎通は測れるみたいだ。


「申し訳ないが、その言葉の意味は分からない。だが約束しよう!僕らは繰り返さないと!」

「そうでござる!人は変われる!お主が変形したように、拙者達の心もまた変われるでござるよ!!」


 十左エ門の例えはよく分からなかったが、変態ロボは何か思考するように沈黙し、暫くしてその股間が再び口を開く。


「ニンゲン、カワレル?ダガ、シンヨウデキナイ!」

「大丈夫、もう一度人と手を取ってみよう!信じてくれ!」

「エラー、システムエラー、ニンゲン、シンヨウ、シンヨウ?」

「そうでござる。悪魔と人、手を取り合う道もござろう」

「エラー、システムエラー!!」


 変態ロボの赤い目が何度も何度も揺らぎ、そして次第にその色は淡く、すんだ青色に変化す。


「システム、再起動。人間。再び手を取ろう。我は人間を信用すると約束しよう」


 無機質な話声は、目の色の変化と共に流暢な言葉遣いへと変化する。ハッキングされたシステムはバグを起こし正常に起動したのだろう。


 僕と十左エ門は目を潤ませながらその手を伸ばし、彼との和解を示す。


「さあ、僕らと共に」

「もうお主らを裏切らないと誓おう」

「お前達、信用できる」


 変態ロボもその手を伸ばす。そう、これがこのゲーム「AOL」の伝えたいことだったんだ。


 人と機械は理解しあえる。仲良くなれるんだ。


 僕らはその答えを見つけたんだ。


「茶番ね」

「茶番だね~」

「茶番だな」

「ん。茶番」

「さ。さっさと終わらせましょう皆さん」


 僕らの手が、心が繋がろうとしたその瞬間、僕らの背後から数えきれないほどの矢と魔法が変態ロボの股間に命中する。


 その爆風で僕と十左エ門は後ろに吹き飛び、変態ロボは膝をつく。


「ま、待て皆!早まらないでくれ!」

「無慈悲な!?今理解しあえたのに!!」

「人間、ユルサナイ!また、裏切った!!」


 僕らの、変態ロボの叫びもむなしく、何故かロボは股間に集中業火を食らい、そしてその瞳の光は消えていき変態ロボは倒れ光となって消えていく。


「「変態ロボおおおおおおお!!??」」


 光と共に、僕と十左エ門の声は広い空間に儚く消えていった。

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