第204話悪魔の城への道中「鏡花水月」編

「く!!どうするでござる!?このままだと拙者達地面に激突してぺしゃんこでござる!!こんな事ならせめて結婚くらいしたかったでござる」

「意外と余裕ありそうだね十左エ門。さてどうしようか」

「ん?ウィル殿はこんな状況でも意外と余裕ありそうだな?」

「ああ、僕この世界に来てから割と何度もこうやって落ちてるんだよね」

「そ、そうでござるか。苦労してるんでござるな……」


 僕は半蔵之介と「鏡花水月」と共にミサイルのせいで出来た穴の中に落ちている最中である。本当にどうしようか。割と深いしこのままだと死に戻りそうだな。


「ちょっと!!何冷静に会話してるんですか!!このままだと全員死に戻りでクエスト失敗ですよ!どう責任取ってくれるんですか!」

「いや、そもそも僕等の事引っ張らないでくれたら僕らは助かったんだが」

「こんな可愛い美少女集団を置いて生き残ろうというその考えが間違ってます!!」

「いや、道ずれに穴に落とす方が間違ってると思うが」


 しかし不味いな。地上の光がだんだん見えなくなってきた。本当に深い穴のようだ。


「う、ウィルさん!!下に明かりが!!そろそろ地面が見えてきます!このままじゃ!」


 卍さんの慌てた声で下を見ると確かに明かりが見えてきた。壁際にいる僕と半蔵之介は何とか着そうだが、穴の中心にいる三人はこのままだと本当に死に戻りだ。


「半蔵之介。壁を蹴って落下速度を落としていこう。後は壁に剣をさして速度を落とす。何人掴める?」

「この位置だと座長殿一人が限界であるな。あとの二人は任せられるでござるか?」

「了解。任せて」


 僕と半蔵之介は同時に壁を蹴り僕はフクチョウと卍さんを、半蔵之介は座長さんを掴み何度も壁を蹴り速度を落とし最後は壁に剣をさして速度を落とす。


「っと。ギリギリ間に合ったな。半蔵之介も平気そうだな」

「うむ。何とか間に合ったでござるな」


 僕らは抱えた「鏡花水月」を下ろしながら壁に刺した剣を確認する。多少耐久値が落ちたが流石「王剣」。その造りもしっかりしているので大して問題はなかった。


「ちょ、ちょっと二人とも!助けられるならもっと早く助けてくださいよ!!ビビったじゃないですか!!本当に死んじゃうかと思ったじゃないですか!!」

「そ、そうですよ~。ちょっと泣きそうでしたよ私」

「ほんまやで~。こんな高いところから落ちたのは初めての経験や……。もう二度と味わいたくないなぁ」


 三人は文句を言いながらも腰を抜かしてしまい未だ立ち上がることのできないようだ。僕と十左エ門は目を合わせてニヤリと笑う。実際僕らは落ちてすぐに三人を抱えて助けることもできた。だが流石に道ずれに落とされたため二人ともそんな気にならなかっただけだった。まぁこれで一緒に落としたことはチャラにしてやろう。


 彼女達が立ち上がれるようになるまで状況確認をしておく。上を見上げれば見える光はかなり遠く小さな点のような光しか見えない。皆で上までよじ登るのは不可能だろう。


 次に辺りを見回してみる。ここは高さは7、8M横幅4,5Mくらいの洞窟になっているらしい。前後に道はありかなり奥深くまで掘られているらしい。一体何の洞窟なんだ?


「ウィル殿。これを見てくだされ」


 十左エ門は洞窟の壁を真剣に見ながら僕を呼ぶ。


「これは……掘られた跡?」

「うむ。恐らくこの洞窟は人工的に作られたようでござる。そしてウィル殿も気づいておろうがこの洞窟はかなり奥深くまで掘られているでござる」

「みたいだね。でも誰が……。って十左エ門が知らないなら悪魔しかいないか」

「そうなるでござるな。そしてこの洞窟を見て某冷汗が止まらないでござる」

「風邪でもひいたの?」

「この状況でジョークをいう余裕のあるウィル殿が羨ましいでござる。この洞窟一方は我々の進行方向に、つまり「悪魔の城」の方から来てるでござる」

「そうみたいだね。それで?」

「うむ。そしてこの反対方向、つまり悪魔が掘り進めている方向。この先にあるのは我等が都、「江戸の街」でござる」


 つまり悪魔は人間の住む街まで掘り進めていたと。何のために、なんてことは聞かない。人間と悪魔が対立しているのならばそれは戦争の為だろう。地下からの攻撃は古典的ではあるが気づかなければかなり有効な手段だ。


「ここに落ちてある意味正解だったかもね。気づかなければ手遅れになっていた」

「本当でござる。まさか地下からの攻撃とは。悪魔も汚い手を考えてくるでござる」

「ふふふ!!これも私の作戦通りでござる!この地下道を十左エ門殿に教えるために一緒に落ちたのでござる!!」

「フクチョー殿……。そんな腰を抜かした状態で言われても説得力ないのでござる」

「クッ!ウィルさん!!何してんですか!さっさと手を貸しやがれです!立てないじゃないですか!」

「理不尽だな君は。まぁ手は貸すけどさ」


 とりあえず彼女達を立たせる。三人とも怪我はしていないようだしステータスも正常だ。少しメンタルがやられただけなので時間が経てば落ち着くだろう。


『ビー、ビー、ビー!地下道に侵入者発見!地下道に侵入者発見!地下道にいる戦闘員は直ちに集まってください!繰り返します……』


「な、な、なんですか!!これ!?」

「卍さん落ち着いてください。どうやらここにいることがバレたみたいですね」

「ウィルさんは落ち着いてはるなぁ。でもどうして分かったんやろ?」

「たぶんこれのせいでござるな。今まで気づかなかったが所々にこの機械があるみたいでござるよ」

「監視カメラみたいですね。作業員を監視していたのでしょうか。そんなカメラがあったなら一つか二つ欲しいですね。主に温泉街の女湯に設置しておきたいですね。考えただけで私ちょっと興奮してきました」


 フクチョーは体をくねくねしながらはぁはぁしている。こいつはGMコールして垢停止してもらった方がAOLの世界の為なんじゃないかと最近思い始めている僕がいる。


「十左エ門、卍さん、座長さん、急ぎましょう。ここにいるのは危険な気がします」

「ちょっとハーレム王子!!何さらっと私を省いてやがるんです!いや、言いたいことは分かりますよ!?ならこうしましょう!一緒に観ましょう!キャッキャウフフしてる天使たちを一緒に観て興奮しましょう!」

「ウィルさん。進行方向はこっちでいいんですよね」

「そのはずですよ。さ、行きましょう」

「油断大敵でござる。この先は何があるか分からんでござるよ」

「そうやなぁ。いつでもスキルを発動できるようにしとこうなぁ」

「ああ!!お姉様方まで!じょ、冗談ですよ!!だからこっち見て下さい!せめて目を合わせてください!だからそろそろ一緒に温泉入らせて下さい!私だけ何故いつも別風呂なのですか!?」

「フクチョー殿がどんな人物かだんだん分かってきたでござるよ……」

「というかこの状況でお願いができるその精神力は凄いと思うよ……」


 先ほどの警報の後突然トンネル内が明るくなったことにより僕らは一気に洞窟内を進んでいく。


「何か来ます!後ろからも!」


 フクチョーの声で皆武器を構える。狩人のフクチョーが一番索敵スキルが高いとはいえなんだかんだちゃんと仕事してるんだなと感心する。


「ウィルさん、どうしますか?」

「十左エ門、後ろを頼める?僕と卍さんで前を切り開く。フクチョーと座長さんはサポートを!」

「「「「了解」」」」

「恐らくだけど此処に留まって戦うといつまでもトンネルから脱出できないと思う。可能な限りのスピードで移動しながら戦っていこう」

「そうですね、久しぶりにウィルさんと共闘できて光栄です」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

「ちょっと!ハーレム王子何うちのお姉様とイチャイチャ、アイタッ!」

「フクチョーうるさいで。で?数は?」

「うう、数は前から数体、後ろから数か多くて数えられません」

「それを早く言ってくれ……。皆走るよ!」


 狭い洞窟で出来るだけフォーメーションを崩さず走ると数分で敵が前後から迫ってくるのを目視で来た。


・発掘ロボット兼戦闘ロボ、バージョン18号 LV44 ×?


 バージョン18号って。ロボット開発も大変なんだな。


「こいつらLVがあまり高くないですね!」

「そうだね。でも数が多い。油断はできないよ」

「お姉様の手は煩わせません!「インパクトショット」!!」

「まずはうちらからや!「ファイアーアロー」!!」


 広範囲攻撃の「インパクトショット」で敵を相当数巻き込み吹き飛ばしていく。見事な選択だ。だが吹き飛んだ敵に「ファイアーアロー」が当たった瞬間敵が爆発、洞窟内に煙と誇りが充満し視界を奪う。


「げほ、げほ!な、何が起きたんです!?」

「おそらく座長姉様の炎がロボットの背中にある燃料タンク引火したんです!」

「ほんまか!?く、ならうちはここでは足手まといかもしれん!うち炎魔法スキルばかり育てているから」


 座長さんが落ち込み皆が何か言葉を駆けようとした瞬間、今度は後ろから爆発音がし、同時に埃と煙でさらに視界が悪くなる。


「す、すまないでござる!敵を斬っただけなのに爆発したでござる!」

「え?って事はまさか……」


 僕が試しに前にいた敵を一体斬ってみる。するとHPが0になった瞬間爆発を起こした。


「ゲホッゲホッ。ちょ、爆発王子!何しやがるんですか!」

「誰が爆発王子だ。こ、これ敵を倒しただけで爆発するの。まずいな」

「ウィル殿!悩んでる暇はないでござる!後ろから数えきれないほど来てるでござる!」

「くそ!皆走るぞ!敵をできるだけ弱体化させて逃げるんだ!」

「まったく使えない逃走王子ですね!ですが賛成です!逃げるが勝ちです!」

「そうですね。あ、皆さん!敵の車輪だけを攻撃すれば動かなくなるみたいです!」

「流石うちのリーダーやなぁ。この状況で素晴らしい情報や!それならうちも仕事ができるで!」


 座長さんとフクチョーのアシストのおかげで僕と卍さんは敵の車輪を正確に斬り捨てて進むことが出来た。後ろでは十左エ門も何とか敵を足止めしながら着いてきている。


 どれほどの敵を斬っただろうか。いくら斬っても敵の数が減る様子がない。


「このままでは埒があきませんね」

「ウィルさん!ハーレムパワーを今こそ使うのです!敵を全て貴方に惹きつけるのです!」

「それ遠回しに僕が囮になれって言ってないか?」

「遠回しではありません!囮になれと言っているのです!私達は貴方の屍を踏み越えていく覚悟ができてます!」

「それすでに僕死んでないか?」

「フクチョー意外と余裕ありそうやなぁ。うちはMPが不安になってきたわ」

「フクチョー殿!余裕があるならこちらの援護もしてほしいでござる!」

「あ、私綺麗な女性しか助けないタイプなので」


 なんだかんだ皆まだ余裕がありそうだ。だけど確かにこのままでは皆のMPが切れてしまう。何か方法はないか?


 そんなことを考えていた時、後ろの方から汽笛と何度も爆発音が鳴り響く。


「おいおい、嘘でござろう……?」

「十左エ門どうし、た……?これは」

「ウィルさんよそ見してる余裕は……え?」

「これは、流石にまずいですね」

「今日は厄日かなんかなんか?」


 僕らの後ろからかなりの速度で列車がこちらに向かって走ってきていた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る