第191話次の目的地
いつもの街並み、いつもの道を風を切りながら走り階段を上がっていく。季節はすっかり夏になりもうすぐ夏休みだ。早朝だというのに蝉はうるさく泣き太陽は僕らを攻撃するかのように強く輝いていた。
「おお、弥生お早う。もうすっかり夏じゃのう」
「お早うジィジ。ちゃんと水分取ってる?倒れないように気を付けてね」
「ガッハッハッハ!!サハラ砂漠で3週間生き延びた儂にとってこんな日差しなんともないわい」
相変わらず訳の分からない体験をしていたジィジはいつものように神社の掃除をしながら僕を迎え入れてくれた。
「今年の夏はどこか行くのかの?」
「んーどうだろう。皆夏は外出したがらないしもしかしたらAOLばかりしてるかもなぁ」
「それはいかん。学生の夏休みといったら皆で山に、海に行き楽しむものじゃ。青春の一ページをゲームの中で過ごすなどもったいなさすぎるわい」
「でもゲームの中なら皆でどこでも行けるよ?そうだ、ジィジ達もAOLの中で海に行かない?そのあとまた皆で温泉とかも。AOLの中なら一瞬で移動できるし」
「ぬ?確かに海と温泉を一瞬で移動できるのはいいのぉ。むう、少し考えてみるか」
「あはは。考えてみて」
僕は日課のお参りをすませて再びジィジの元に駆け寄る。
「そう言えばジィジ達のおかげで前回引き分けたっていう相手に勝つことが出来たよ」
「おお!そうか。うんうん。神代家に敗北の二文字は許されんからの」
「いつの時代の武将だよ。でも今回のクエストは本当に大変だったな……」
ジィジに今回のクエストで感じたことを簡単に説明する。
「ふーむ。国とは、か。確かに難しいテーマじゃのう。時代あの流れ人の考えは日々変化するものじゃしの。じゃが確かにそこには変わらない答えは存在するの」
「変わらない答え?」
「そうじゃ。人が人であること。そして人は愛を、優しさを持っている事じゃ。人はいつの世も愛に生き、そして人である限り愛に苦しむのじゃよ。それは歴史が変わろうと変わらない答えじゃ」
「んー、よく分からないなぁ」
「ガッハッハ!まぁ今は分からなくてもよい。頭の片隅にでも入れて覚えておいてくれれば」
「うん。分かった」
人が人である限り、か。その答えは歴史を学び感じ人生を必死に生きたジィジだからこそわかる答えなのかもしれないな。
「哲二はきっと今回のクエストではこう言いたかったのじゃろう。「歴史を学べ、国とは人、システムは補助でしかない。独裁政権の果ては孤独な死、人を知れ、個人を見ろ、自らを知れ。手を取り合う必要はない。だが同じ未来をイメージしろ。国とはその先に存在する。」とな」
「それは爺ちゃんが言ってたの?」
「うむ。酒の席でな。あ奴はあ奴なりに国をこの時代を先の時代を考え行動していた。あ奴らしいテーマのクエストだったんじゃろう。恐らくそのクエストはやったプレイヤーが違えばそれだけの沢山の答えを見せてくれるんだと思うぞ?」
確かに今回のクエストは沢山の選択肢があった。というより選択肢が多すぎた。もしあの時こうしていたら、なんていうのは常々考えできるだけ後悔しない道を必死に考えながら進んでいた。
「しかしお主らはまだあの国から出ておらなんだな。あの世界は地球よりも広いんじゃろ?速く遷都死ぬまでクリアできぬかもしれんぞ?」
「クリアかぁ。あるのかな完全クリアって。人生にクリアがないようにあれにもクリアなんてない気がするなぁ」
「どうなんじゃろうな。そう言われたらそうなのかもしれん。じゃがゲームなんじゃ。ある程度の区切りのいい所でクリアはありそうじゃがのぉ」
「んー。そうなのかも。一度それを探してみるのもういいかもね」
ゲームクリアか。確かにどこかには存在するのかもしれない。だけど世界が壮大すぎて次はどちらに進めばいいのかさえ分からない状況だ。そろそろ次の国には行きたいけど。
「しかし人生のクリアと言えば「死」になるのかの……。「成人」「結婚」色々なゴールがあるが最終的にはそこに行きつくわけだし」
「それを言ったらゲームだってそうじゃん。でも「死」がゴールなんて悲しすぎるな。確かに皆が通る道だけど……」
「分からんぞ?ばあさんなんか化け物じゃから一生死なんかもしれんしな。1000年後とかも生きてる可能性すらある。まさに妖怪ばばあじゃな!!ガッハッハ!!」
その瞬間先ほどまで泣いていた蝉が一斉に鳴きやみ辺りが静かになる。
今の僕なら、命がけの戦闘を何度も経験した僕ならわかる。これは殺気だ!
「僕、そろそろ帰るね!!じゃあね!!」
「ん?どうした弥生いきなり。気をつけて帰るんじゃぞ?お?ばあさんなんじゃ?もう朝ごはんの時間か?あ……待て待て待て!!なんか体から魔力が溢れてるぞ?何故雷を纏っているんじゃ!?や、弥生助けぎゃあああああああ!?」
どうやらばあちゃんは「雷神衣威」をリアルで覚えたようだ。本当にばけも、いや、止めておこう。
いつも通り学校に行き放課後、今日はAOLを休み家の事や勉強に精を出す。最近はゲームに入り浸りだったので家事が溜まっていたためだ。勉強も最近はあまり手に着かずさぼりがちだったので今日は念入りにやっておく。
「ぬあああ!もう勉強は疲れた!!戦いたいぞ弥生!!」
「いや、まだ勉強初めて15分くらいでしょ?さっきまでユイとゲームして遊んでたじゃん」
「ぬ?何故知っている?まさかストーカーか?」
「いやな言い方するな。声が丸聞こえだったんだよ」
「ああ、なるほどな。しかしユイが強くてな。何故ユイも美和もあんなにゲームが上手いんだ?」
「まぁ小さいころからやってたからね」
「クソ!今からと特訓だ!弥生付き合え!」
「いや、勉強しなさい」
全くなんで家の皆はゲームばかりするのだあろうか。
「ん。弥生。洗濯とお風呂掃除終わった」
「今日の夕食の支度も終わったわ」
「ありがとう二人とも」
二人はそのままレイの隣に座りレイの勉強を見てあげる。うん、この二人がいれば大丈夫だな。
「げ!お兄ちゃん何で一階にいるの?勉強は?」
「や、やーちゃん勉強は?」
「なんだ「げ」って。二人ともゲーム誌に来ただろう?」
「あばばば!!違うんだよお兄ちゃんユイはちょっと息抜きに……」
「わ、私はちょっと気分転換に……」
「それはどっちも同じ意味だからな?」
全く少し目を離したらこれだ。なんでこんなので成績学年トップ何だろう。理不尽だ。
「そう言えば弥生。LVはいくつに上がったの?」
「ん?AOLの話?85まで上がったよ。やっぱり最後のボーナスが大きかったみたいだね」
最後の謁見のまでの戦い、リムル討伐、そしてイベントクリア報酬。イベントクリア時にボーナス報酬としてかなりの経験値を貰い僕らは最低5以上のLVが上がった。さらに最後の戦いに参加した姉妹クランの皆もボーナスを多少貰いLVが一気に上がったそうだ。
「それにしても長い戦いだったわね。もうすぐ夏休みだものね」
「そうだね。本当に終わってよかったよ。それに色々考えさせられたし」
「ん。人の脆さに強さ。両方見た気がする」
「確かにねー。貴族の上からの圧力の弱さはなんだかリアルの組織のようあったしねー」
「そうかもしれないわね。私は白うさぎの死が印象的だったわ。人の死ぬ瞬間をああやってみることはあまりないもの」
「確かにな。俺も色々学んだ気がする。何を学んだか聞かれたら困るが」
レイは放っておいて皆それぞれ今回のクエストには考えさせられたようだ。
「でもいつ版安心したのはやっぱりお兄ちゃんがまた元気になった事かな!!それが一番うれしい!」
「本当ね。最初は泣きそうな顔してプレイしてたからどうしようかと思ったわ」
「う、ごめんよ」
「ん。でも最後リムルを倒した時の弥生はかっこよかった」
「確かにね。あのクエストはある意味あの国での最終クエストみたいな感じだったから、ラストアタックを決めた弥生はなんだか勇者そのものだったわ」
「ぬ!?勇者は俺がなる!!いや、俺の場合は聖騎士か?」
確かにあのクエストでもうあの国は持ち直しいい国になっていくだろう。
「しかし皆にはこっぴどく怒られたね。あれがある意味一番大変だったよ」
「あはは!!そうだね!でもしょうがないもんね。クエスト中は転移ポータルもメールもできずに連絡手段はなかったんだもん!」
「そうよ。なのにみんなして「何で教えてくれなかったんだこんな楽しそうなクエスト」だもんね。こっちは大変だったのに」
「ん。でもそのあとのキルが弥生に「再戦だ!!」って聞かなかったのが一番鬱陶しかった」
「ふふ。たしかにあれは鬱陶しかったわ。本気で斬りかかってきてたものね」
「うむ。俺もキルと戦ってみたいぞ!弥生次は俺だからな!」
もう今後キルはレイに全て押し付けようか。うん。それがいい。
「さてさて、問題は次はどこに行くかだよな。あの国でやれることはもうやった気がするし」
「そうだねー!出来れば獣人の国に行きたいな!!もふもふ天国!!」
「ん。賛成ニャ。猫族天国!」
「んー私はやっぱりエルフの集落に行ってみたいわ。確か獣国の近くにあるのよね」
「私もエルフの国かしら。そこならきっと私達の知らない魔法が沢山あるだろうし」
「俺は強い奴が要る所ならどこでもいい!!」
意見がバラけてしまったな……。王宮に出入り自由になったからそこで調べてから出発でもいいが。
今までの情報だと、エルフの国には「闇魔法」を扱える者や知らない魔道具など様々な魔法に特化したものものがあるそうだ。だがそこに行くには「迷いの森」という迷宮のような盛を抜けていかなければならないらしい。
獣国には強い戦士が沢山いる。そしてアイリスにとっては「獣化」を覚える為に行くという意味もある。もちろん僕もモフモフには興味がある。
皆であれこれ話しているときに僕の携帯に電話が鳴り響く。
「おい弥生!!どこにいるんだ!?「火の国」行くぞ準備しろ!!」
いきなりタクからの電話で僕らの次の行先が決まってしまった……。
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