第180話パライスの街
「お前たち何者だ!!お前たちがこの子達を攫ったんだろう!」
「キララよくぞ無事で!!あんた達絶対許さないんだから!!」
現在僕らは剣や槍を突きつけられている状態だ。
場所は「パライス」の街のすぐそばに来ており街はすでに遠くに見えている。
が、そんな時子供たちを攫われた親たちによる捜索網に引っかかり僕ら人間は疑われている、と言う状況になっている。
子供たちは親を見つけて一目散に親の元へ駆けつけ再会を喜んでいた。
が、親達はすぐに僕らを睨みつけて武器を突き付けてきた・・・。
「待って!この人達は私達を捕まえた人達じゃないわ!悪い人達ではないの!」
「そうよ!この人達が私達を助けてくれたの!!だから武器を下ろして皆!!」
アリスとサリィが僕らの前に立ち庇ってくれた。
大人たちは顔を見合わせて考え込んでいるが、まだ僕らを疑っているようで武器は下ろされていない。
「・・・あんた達が子供達を助けたのかもしれない。だが、そう思わせて街に入り込んでさらに多くの子供達を攫うかもしれない。」
「・・・そうね。あなた達が貴族の仲間じゃない証拠はあるの?」
ここの人たちの人間不信はどうやらかなり根深いものになっているようだ。
「・・・証拠になるかわからないですが、私達は「カンパニー」と言うクランで、流れ人です。」
「・・・流れ人だと!?・・・流れ人って・・・あの?」
「・・・そう言えば最近沢山の流れ人がこの世界に来たってこの前聞いたわ・・・。」
エリザベスの言葉に皆が再び考えだし、アリスやサリィの真剣な表情を再び見てやっと彼らは武器を収めてくれた。
「・・・流れ人なら奴らの仲間の可能性は低いだろう。だが、まだ完全に信じたわけではない。しかし恩人を街に入れないで歓迎をしないのは我等獣人の恥となろう!歓迎しよう「カンパニー」の諸君!!「パライス」の街へようこそ!!」
僕らは大きな白猫の男、アリスの父親である族長に着いていき街まで案内される。
「・・・おお。獣人って色々な種類の人がいるんですね・・・。」
「ほんとだねー!!モフモフ天国だ!!モフ天だ!!」
「ん。じゅるり・・・。あ、よだれが。」
「エリーゼ、ちゃんと自重しなさいよ?私達まだ疑わられてんだから。」
「そうね。今は信頼を得るのが優先ね。」
「うぉおおお!!強そうなのばっかりだな!!戦いてぇぇ!」
獣人の街はどこかピリピリした空気を漂わせながらもとても活気のある街だった。
辺りの屋台からは見たことのない料理などからとてもいい匂いを漂わせていて、買い物客で賑わっている。
家々も他の街よりもカラフルで隣の家と同じ色にならないように造られているらしい。
獣人の種類は本当に様々いた。
犬、猫、狼、兎に狐、羊に象なんかもいた。
他にも様々いるが、どうやらやはり基本ベースは人間のようだ。
人間の体に耳や角、尻尾が生えた人がほとんどだ、が、族長や他数だけは体全体に毛が覆われ本当に二足歩行している大きな猫にしか見えない。
「はっはっは!!赤髪の嬢ちゃんは戦うのが好きなのか?」
「レイだ!!レイと呼べ!!戦うのは好きだ!特に強い奴と戦うのが好きだな。」
「ほう、いいな。俺と同じだ。と言うか獣人の男は戦うのが好きな奴が多い。あとで誰か強い奴と戦わせてやろうか?」
「おお!!本当か!?望むところだ!この「カンパニーの赤いオオカミ」が相手になろう!!」
「おお!!かっこいい二つ名だな!!がっはっはっは!!こいつは楽しみだ!!」
いつお前は赤いオオカミになった。
聞いたことないぞ、そんな話。
「ん?そいつらが流れ人か?なんだ同族もいるじゃないか。」
「ふむ。族長や、そいつらは本当に信用できるのか?」
「がっはっは!!わからん!!だが儂の直感が言っておる。こいつらは大丈夫だと。それに恩人を追い返すなど我等獣人にはあってはならぬからな。」
「はははは!!確かにな!歓迎しよう恩人よ。ようこそ「パライス」の街へ。」
僕らはアリスと共にどうやら街を収める偉い集団が会議をする家に招かれたようだ。
ここで僕らについて色々話しあうのだろう・・・。
「む?ここはけっとうじょうじゃないのか?」
「がっはっは!!待たれよ赤き狼よ。まずはゆっくり茶でもしながら話をしよう。戦うのはそれからでもよかろう。」
「うむ。茶か。ちょうど喉が渇いていたところだ。気が利くではないか族長よ。」
「がっはっはっは!!そう言ってもらえると助かる。」
もう完全に赤き狼が浸透し始めているな・・・。
「ね、ねえお兄ちゃん。いつからレイは赤き狼に・・・?」
「ん。ただ髪が赤いだけなのに・・・。」
「そうね。まぁ的を得てるんじゃない?すぐ敵に突っ込んでいこうとするし。」
「それなら赤き猛獣の方がいいんじゃないかしら・・・?」
「ま、まぁ本人が気に入ってるならそれでいいんじゃないか?」
僕らは勧められた席に座り、その反対に半円に並べられた席に8人の獣人が座っていた。
その中心に街の長、アリスのお父さんがドンと座り9人の獣人による僕らの事情聴取が始まった。
まずはアリスがいつ攫われたのか、どういったやつらに攫われたのか、どんなルートでどんな奴がいたかなど事細かに皆に聞かれ答えていった。
「・・・なるほどな・・・。つまり彼らが助けてくれたのは偶然であり真実だったという事か・・・。」
「・・・ですな。本当に奴らの仲間なら洞窟の破壊まではしないだろう。」
「そうね。それに話にあった戦闘・・・。帝国兵100人相手に戦うなど普通じゃそこまでしないわ。」
「うむ。なら彼らは、白、という事でよろしいかな?皆の者。」
「「「「「「「「異議なし。」」」」」」」」
そんな簡単に白と決めていいのか、と心配にはなるが信じてもらえるならそれでいいだろう。
「・・・では次に「カンパニー」諸君からも話を聞こう。」
「わかりました・・・。それでは・・・。」
エリザベスが中心となりアリスと出会ったところから(もちろんアレクサンドラ達が王族とは言わない)ここに至るまでの話をした。
これで普通に話は終わるはずだったんだが・・・。
「・・・そして兄貴は相手と同時に動いて!!」
「そうだ!!ウィルは同時に左右から真ん中に落ちた岩を切り裂いてだな!!」
「おお!!それはすごいな・・・。」
「相手も只者じゃないわね・・・。・・・それで?」
何故か僕とリムルの話にアレクサンドラとレイが熱弁し、戦闘好きの獣人たちがその話に食いつき話が盛り上がってしまっている。
「お兄ちゃんの話はどこ行っても盛り上がるねぇ!!」
「ん。私ウィルの話だけでご飯食べられる。」
「私も。ふふ、お姉ちゃんとしては鼻が高いわね。」
「ふふ。そりゃあ私達の旦那よ?当然じゃない。」
「い、いや。僕としてはなんか恥ずかしいんだが。」
あの時は真剣で、集中して戦っていたから、その話を客観的に語られると何とも恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。
レイに至っては椅子の上に足を乗せ力こぶしを造りながら力説している。
「・・・気に入った!!気に入ったぞウィルよ!!お前の力が見たくなった!!」
「そうね。なら「決闘の儀」を開催しましょう。」
「おお!!それはいい!!がははは!明日が楽しみになってきた!」
・・・なんかおかしな単語が聞こえたが気のせいか・・・?
「・・・あの、今なんの儀って言いました?」
「ん?聞いてなかったのか?「決闘の儀」族長である儂とお前で明日決闘をするんだ。」
「・・・すみません。ちょっと何言ってるかわからないです。なんで決闘するんですか?」
「???なんだってお前強いんだろ?だったら戦うだろ。」
「ああ、なるほど。意味が分かりません。」
「うぉおお!!ずるいぞウィル!!俺にも戦わせろ!!」
「ふふ。なら「赤き狼」は私と戦いましょうか。こう見えて街の女性で一番強いのよ?」
「む。それは楽しみだ!!今日はしっかり休んで万全な状態にしてくるんだぞ!?俺もそうする!!」
「ふふふ。わかったわ。」
「いや、僕は了承してないんだが・・・。」
「よし!!そうと決まったら明日の午前10時にこの建物の裏に来い!!裏には小さなリングがあるからな!!」
「いや、だから僕は・・・。」
僕の声はすでに彼らには届かず、彼らはすでに明日の準備につい話し合っていた。
なんて理不尽な話だ・・・。
「ふふ。明日楽しみね。」
「お兄ちゃんの伝説がまた一つ増えるね!!」
「ん。ビデオカメラ持ってきたいな。」
「そう言えばカメラ機能はあるけど、動画機能はないのねAOLって。」
「ウィル。私達を護衛するものとして負けたら許さないわよ。」
「兄貴!頑張ってください!!」
また僕には味方はいないようだ。
なんか最近戦ってばっかりだな、ゆっくり食べ歩きでもして観光とかしたいのに僕は・・・。
とりあえず僕らはこの日は宿に泊まりダイブアウトすることにした。
アレクサンドラ達は僕らが来るまでは決して宿から出ないように約束をして。
次の日、アレクサンドラ達と合流してから、昨日の会議場の裏にある場所までやってきた・・・んだが・・・。
「いらっしゃいいらっしゃい!!焼きそばはいかがかねー!?」
「こっちのクラーケン焼も美味いよ!!」
「お、そこの綺麗なお姉さんお人るいかがかね?」
そこにはいい匂いを漂わせて屋台が並び、人で溢れていた。
「・・・な、何この人達は・・・。」
僕の疑問はすぐに族長の大きな声で答えが返ってきた。
「がっはっはっは!!きたなウィル!「カンパニー」諸君!!今日は久々の「決闘の儀」だからな!こうやってお祭り好きの馬鹿野郎共が集まってきちまうもんさ!!」
「・・・ねぇ。僕よく「決闘の儀」の意味が分かってないんだけど・・・。」
「ん?機能説明しなかったか?「決闘の儀」は成人を迎えた男性や、喧嘩した奴らが仲直りする時、外から来た奴と仲良くするときなんかに行われる、まぁいわゆる獣人の伝統的な儀式みたいなもんだ。獣人は基本的に強い奴に従う習性があるし、それに何より皆強い奴が好きだからな!!」
「・・・つまり僕が戦うのは・・・。」
「そう 昨日の話を聞いて俺たちはお前たちが気に入ったし、恩人だと思ってる。だがな、やはりそれだけじゃ人間やエルフのお前達を受け入れられない奴らはいるもんだ。俺たちは本来ならば街を上げてお前たちに感謝するべき立場なんだが・・・。まぁお前たちを紹介するためにも、皆に認めてもらうためにもこの「成人の儀式」が必要だと思ってな。」
・・・どうやら僕はこの人(?)を勘違いしていたようだ。
この人なりに僕らの事を考えての事だったらしい。
そうとわかれば今日は頑張んなきゃな・・・。
「・・・とまぁ、その理由は後付けで、昨日の夜に気づいたんだがな!!最初はただお前と戦ってみたかっただけだ!!がっはっはっは!!」
・・・訂正しよう、この人(?)はただの戦闘狂らしい。
そんな人がトップで大丈夫かこの街は・・・。
「まぁそれに・・・。まぁなんていうか、お前達も知っての通り最近は特に物騒でな。街全体がなんだかピリピリしていてよ。皆どこかでストレスを発散してほしいんだわ。ま、ウィルには悪いが付き合ってくれよ。」
「・・・まぁ、そう言う理由ならいいよ。それに今更引けない空気だしね。」
「がっはっはっは!!確かにな!!助かる。」
まぁ、なんだかんだこの人(?)なりに考えがあったようだ。
それに街の為に頑張ってる男に頼まれたら断れないしな。
僕らは族長と共に祭りのように賑わっている道の中心を歩いていく。
「おう!!そいつらが「カンパニー」か!!仲間を助けてくれてありがとなー!!」
「族長!!人間なんかに負けんなよ!!」
「何よ。まだガキじゃない。それに人間って信用できない・・・。」
大半の人は道を歩く僕らに声援を送ってくれるが、中にはやはり人間をよく思わない人たちもいるようだ。
だが、それも仕方のない事だろう。
貴族に、人間に子供たちを奪われもう二度と会えないかもしれない人たちはこの中には少なからずいるはずだ。
「・・・兄貴。すみません。僕も戦ってこの国の人間の信用を取り戻したいところなんですが・・・。」
「・・・そうね。私達が戦わないのはなんだか悔しいわね。さっきの話を聞いたら特にね。・・・絶対負けないでよ?」
「うん。大丈夫。僕にできることは僕がするから。きっとこの先この街の人たちのために君たちができることは沢山あるはずだ。君達はその時に存分に力を振るえばいいさ。」
「兄貴・・・。ありがとうございます。そうします。」
「フ、フン!わかってるわよ!・・・絶対人間は悪い奴らなんて思っている奴らの信用を取り戻して見せるんだから。」
アレクサンドラ達はやはりどこか後ろめたさを感じているのだろう。
ここの子供たちを攫っている貴族たちの長である王族が自分たちなのだから。
トップは部下の失態を「知りませんでした」では周りは絶対納得などしない、許されるわけがない。
失った信頼は少しずつ、一歩ずつ回復していくしかないんだ。
・・・今は彼らの代わりに僕が頑張ろう。
「うぉおおお!みろウィル!!クラーケン焼とかいうのは旨そうだ!!お?あの水あめみたいのもいいな!!と言うか早く戦いたいぞ俺は!!」
「はーい。そうですねぇ。」
レイは一人で子供のようにはしゃぎ、エリザベス達になだめられながら歩いている。
いつの間にかレイの隣にはアイリスが大量の食べ物を抱えながら歩いていた。
・・・お前はいつかったんだそんなに食べ物を・・・、というか食べきれるのかそれ・・・。
「?お兄ちゃんもほしいの?口移しならあげてもいいよ?」
「いらんわ。大体そんな行儀の悪い事をしようとするんじゃない。」
僕らはそんな事を話しながら歩いていくと、いつの間にか大きな広場に着き、その中心には石で作られた30×30mくらいの正方形のリングが見えてきた。
「ここが儂等が戦う舞台だ!!さぁまずは「赤き狼」から戦うことにしよう。相手はこの街の女性で一番強い「リリス」だ!リリス!!いるか?」
「何さ。大きな声出してさっきから後ろにいるじゃないか。」
ふり見くと、いつの間にか僕らの後ろにとても身軽な恰好をした狼族の女性が立っていた。
・・・というかいつからいたんだ?
一応常に「気配察知」は使っている。
「ふふ。皆いい顔しているね。私がいつからついてきていたか気づかなかった顔だね。ん?当たりかな?アッハッハッハ!あんた達は可愛いね。顔に出しちゃだめだよそんな簡単に。」
「おいおい。あんまりいじめてやるな。こいつが「赤き狼」と戦うリリスだ。今分かった通りリリスは隠密のプロだかららな。まぁ「狼」対決でいいじゃないか。」
「む?確かにな。宜しくなリリス!!いい試合をしよう!!」
「お?礼儀正しい子だね。気に入った!!いい試合をすることをこの血にかけて約束しよう!!」
レイとリリスが握手すると、いつの間にか僕らの周りには沢山の人が集まっており、皆二人の握手に拍手を送っている。
・・・こうして「決闘の儀」の幕は下ろされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます