第174話決意

「クネル」の街は1000人程が暮らす小さな町だった。

街には城壁はなく小さな木の柵があるだけの簡単な作りになっており、入り口に門番が一人立っているだけだった。

アレクサンドラ達の格好を見て門番は驚き頭を下げるが彼らが王族であることは知らないようだ。

流石に辺境の平民たちは王族の顔を知らなく、どこかの貴族だと思われているのだろうが、僕らにはその方が都合がよかった。

街に入ると小さな服屋でアレクサンドラ達の服を買い、いかにも冒険者のような恰好をしてもらった。


「見て見てアレクサンドラ!!これ似合うかしら?まるで魔法使いのようだわ!」

「似合ってるよ姉様!僕もなんだか剣士のようだ。こういう格好は憧れていたんだよなぁ。」

「うむ!!二人とも本物の冒険者のようだぞ!!次はあの店に行ってみよう!!聖剣エクスカリバーが売ってるかもしれんぞ!!」

「聖剣!?行きましょう!」

「私も行く!!」


二人は物珍しそうに屋台や道具屋などを見て回っていた。

まぁ変なのも一人混ざっているが・・・、と言うかこんなところに聖剣が売っててたまるか。

王族と言うのは基本的には城から出れず城で王宮学を学ぶか、剣や魔法の鍛錬をしているだけらしい。

流石に外に出て以前のように誘拐事件でもあったら問題になるからだあろう。

僕らはそんな二人をしばらく微笑ましく見守ることにした。

こんな時だが・・・、いや、こんな時だからこそ二人には笑顔で元気でいてほしいと思っている。

だがそんな時間も長くは続かなかった・・・。


「・・・!?レイ!!」

「わかっている!!」


レイたちが次の店に向かおうとしている途中で、突然物陰から短剣が投げつけられそれをレイが防ぐ。

彼女がそばにいてよかったと冷汗をかく。

短剣を投げた奴はそのまま家と家の隙間に逃げていった・・・。


「ウィル!アイリス!!追って!残りは私と共に護衛に!」


エリザベスの鋭い指示に従い僕とアイリスは刺客を追い、残りは王子達の護衛に向かう。


アイリスはそのまま刺客を追い、僕は家の壁を蹴りそのまま屋根に上って上から追跡をする。

刺客は家の間を4件分ほど進んだところで追いつき僕が行先に飛び降り道を塞ぐ。


「・・・さて、もう逃げられませんよ。まずは名前を名乗って・・・く!?」


刺客は僕が上から来たことに驚くがすぐに短剣を取り出し斬りかかってくる。

僕はそれを受け流し顎に向かって掌底を放つが死角は後ろに飛びそれを躱す。

刺客はかなりの武道家らしい、身のこなしが普通ではない・・・・・・あ。

ゴン!!


「全く!!いきなり短剣を投げちゃいけませんってお母さんから教えられなかった?・・・って聞いてないかぁ。」


刺客が後ろに着地しようとしたところをアイリスが大剣の腹の部分で頭を殴りつけ刺客を気絶させる。

・・・妹よ、知らない人の頭をいきなり殴りつけちゃいけないって母さんに教わらなかったのか・・・?

まぁナイス判断だが。


刺客から武器を奪い着ていたローブを脱がせるとやせこけた40代くらいの男だった。

僕らはそのまま脱がせたローブで彼の両手を後ろに縛り話をしようと顔を叩くがなかなか起きない。


「お兄ちゃん!そんなんじゃだめだよ!男の人を起こすにはこうするのが一番!」


アイリスはそう言うと彼の股間を思い切りけ飛ばす。


「ふごっっ!!??」


彼は一度目を覚ますがそのまま悶えて倒れて気絶してしまう・・・。


「あれー?おかしいな?また寝ちゃった。効かなかったのかな?もう一回やってみようかな?」

「もうやめてあげて!!彼が可哀想だ!!彼が男性として死んでしまう!!」


アイリスは今度は大剣の柄の部分で何かしようとしたのでアイリスを掴みそれを止める。

きっと僕が止めなかったら彼は、彼女になっていただろう・・・。

本当に何する気だったんだこの子は・・・。


「「!!??」」


その時突然僕の後ろからナイフが飛んできて彼の喉元に刺さり、彼は光となって消えていった・・・。

アイリスはその場で唖然と立ち尽くしていたが、僕は反射的にナイフを投げた屋根の上にいた男を追いかけた。

が、屋根に上ると男は自分でナイフで刺し光となって消えていくところだった・・・。


「くそっ!!そこまでするか・・・?命を粗末にしやがって・・・。」


僕が地団駄踏んだ時、エリザベスから念話が入る。


(ウィル、アイリス、戻ってきて!!早く町を出た方がいいわ!)

(!?何かあったの?」

(それは後から話すわ。私達は町の北側の門番がいない方から町を出るからあなた達もその先で会いましょう!!)


僕は屋根から飛び降り、アイリスと共に町の外に向い走り出す。

その時町の人たちが騒がしかったので僕は耳を澄ませながら走っていると・・・。


「・・・聞いたか?王子達の話・・・。」

「やーねー・・・。王子達が国家転覆罪なんて・・・。」

「・・・この国は一体どうなるんだ・・・。」

「・・・怖い怖い・・・。」


僕らは町のはずれの柵を飛び越え山脈近くまで走るとそこにはエリザベス達と顔を真っ青にした王子達が僕らを待っていた。


「・・・どうしたの?」


僕は何となくは想像できたが確認のためエリザベスに聞いてみる。


「・・・王子達が国家転覆罪で国中で指名手配になってしまったわ・・・。」

「ん。町の人たちは王子達の顔を知らなかったから無事だったけど・・・。」

「さすがに町にいるのは危険と判断して一旦逃げてきたのよ・・・。そっちはどうだった?」

「やっぱり・・・。こっちは、駄目だった。」


僕は先ほどの事を皆に話す。


「そんな・・・。口封じのために命まで・・・。」

「そんなことが許されるのか!?命を何だと思っているんだ!!俺達は一つしかない命を大切に生きるべきだ!!」

「ん。レイの言う通り。命あれば人生やり直せるし、希望はあるもの。粗末にするのは愚か者のする事。」

「本当ね。でも相手もそれだけ本気で殺しに来たって事よね・・・。」


僕らの間に沈黙が流れる・・・。

一部の貴族が相手ならまだ何とかなったが国が相手となると話が変わってくる。

王様は何している?

国王派は何している?

僕らの頭の中に色々な疑問が浮かんでくるが今それを答えたれる人はいない。


「・・・うぉおおおおお!!腹減ったーーー!!」

「・・・は?」


突然レイが叫びだし僕らは驚き彼女を見る。


「ウィル!!そろそろ昼飯の時間だ!!ご飯を作ってくれ!!」

「そうだねー!!アイリスもお腹減っちゃった!!」

「・・・ふふ。そうね。何か食べましょう?」

「ん。ウィル何か作って。」

「そうね。お腹が減っては戦はできないもんね。」

「・・・そうだね。じゃあ何か作ろうか。」


という事で僕はBBQセットを取り出し、適当に肉や野菜を切って焼き始める。


「うぉおおお!!BBQは好きだぞ!!ナイスチョイスだウィル!!」

「おいしそ~!!もう食べていい??」

「こらアイリス!それまだお肉赤いわよ?ちゃんと焼けるまで待ちなさい。」

「ん。こっちに野菜なら食べられそう。」

「ふふ。アレクサンドラ達もこっちにいらっしゃい。ご飯にしましょう。」


アレクサンドラ達は未だうずくまり顔を青くしていた。


「・・・いえ、僕はまだ食欲が・・・。」

「私も・・・。今は何も食べたくないわ。」


14.5歳の子供が国から追われるなんていったいどれほどのショックなのだろう・・・。

僕には想像もつかなかった・・・。

そんな時エリーゼがエミリアの口に、アイリスがアレクサンドラの口に無理やりお肉を突っ込み、二人は驚き熱がり跳ねまわる。

そしてそれをレイは大笑いしている。

・・・こいつら何してんだ?


「・・・ちょ!!こんな時に何してるんですか!?」

「そうよ!口の中やけどしちゃったじゃない!!」

「ん。ヒール。」

「あ、ありがとうございます・・・。じゃない!!いきなり何するんですか!?」

「あら、治った。ってちがーう!!私達は追われているの!!もうどうすることも出来ないの!」

「じゃあ皆で逃げる?」

「「え・・・?」」


エリザベスの一言で二人は固まってしまう。

・・・と言うかAOLの世界にもノリ突っ込みってあるんだな。

王宮学であるのかな?

ノリ突っ込み講座とか。


「戦わないなら、立ち向かわないなら逃げるしかないわ。そうでしょ?国から追われているなら戦わないなら逃げた方がいいわ。」

「ん。確かにそう。今あなた達にあるのはその2択だけ。」

「そうだねー。隠れているって手もあるけど国が相手なら逃げられないだろうしねー。」

「そうね。結局あなた達がどうしたいかよ。まぁ逃げるも勇気、だと思うわよ。私は。その間に誰かが解決してくれるかもしれないしね。」

「うむ!!この肉上手い!!こちもうまいぞ!!さすがウィル!!」


レイは一人で肉を食い続けている。

と言うか食いすぎだ。

一人で8人前食べてしまう勢いだぞ・・・。


「・・・逃げるなんて!!そんな事できるわけないじゃないですか!!僕らの為にすでに5千人もの兵士が犠牲になっているんですよ!!」

「そうよ!!それにこの問題は私達が王宮に帰らないと解決しない問題なのよ!?私達が戦わなくては第一王子がこの国の実権を握ってしまうわ!それだけは避けないと!!」


現在王宮では第一王子とブクブク副神官が手を組んで王座を狙っているはずだ。

それを阻止できるのは、王位継承権第一位のエミリア王女しかいない・・・らしい。


「あら、わかっているじゃない。」

「でも!!怖いんだ・・・。それに「カンパニー」の皆さんも巻き込んでしまって・・・。」

「ん?私達はあなた達がいなくても戦うつもりだったわよ?こっちのも事情があるからね。」

「・・・事情?事情って何よ?」

「ん。ノアの無実を証明して悪事を暴くこと。」

「そうだよ!ノアの服から計画書が出てきた・・・。でもそれは何かの間違いだと思うんだよ!でしょ?お兄ちゃん!!」

「そうね。私達は私達の目的で動いてるの。勝手に巻き込まれた被害者にしないで?」


クリスの言葉でアレクサンドラ達は黙ってしまう。

確かにそうだ。

僕らの目的はノアの無実を暴き、そして副神官長達の悪事を暴くことだ。

ノアとの付き合いは短かったけど・・・それでも良くしてくれた、親のように接してくれた、魔法を教えてくれた、信頼してくれた・・・。

そんな人があんな事をするはずがない・・・。


「私達は私達の目的で動く。そしてその道中であなた達の護衛を頼まれたの。いい方は悪いけどあなたたちの事はついでなの。そしてあなたが、私達の道の解決策の一つなら私達はあなた達を全力で守るわ。・・・まぁ後はあなた達次第よ。」

「・・・僕達次第・・・。」

「・・・でも・・・。私も怖いわ・・・。」


流石に即決はできないか・・・。


「・・・そうだね。今すぐ答えを出さなくてもいいんじゃないかな?でもこの状況をどうにかしたい気持ちはあるんでしょ?戦いたい気持ちはあるんでしょ?・・・だったら僕は戦う事を選んでほしいと思う。」

「「・・・・・・・・・。」」

「・・・さっきさ、エリザベス達が昔僕が助けてくれたって言ったけど、その時僕も怖かったんだ。その時戦うことも怖かったけど皆を失うことの方が怖かったんだ。今あるものが無くなってしまうことの方が怖かったんだ。だから僕は戦った。戦うってことは、生きるってことは、時には怖いことなんだ。でも戦うという事は、生きるという事はその恐怖と向き合うってことなんじゃないかな?・・・本当に大事な物が何か、どうしたいか、君たち自身はその答えをもう持ってる気がするけどな・・・。」

「・・・僕が大切にしたいもの・・・。どうしたいか・・・。」

「私がどうしたいか・・・。どうなりたいか・・・。」


二人は先ほどまでの恐怖の表情から何かを考え答えを出そうとしている・・・。


「・・・さっきから二人は何を考えているのだ・・・?」

「「・・・え?」」


一人でBBQを楽しんでいたレイが満足そうにこちらに来て僕らの会話に入ってくる。

・・・というかこいつ、8人前を一人で平らげやがった・・・。

もうさっき準備した食材がないじゃないか・・・。

どんな胃袋してやがるんだ?

なんで食べ過ぎでバッドステータスが出ないんだ?


「俺なら戦う!それが正しいことなら!!それが正しいと思ったらたとえ世界が敵になっても、たとえ一人になっても戦い続ける!世界から恨まれようと、睨まれようとな!大事なのは自分の心であって他人の目ではない!恐れても何にもならないぞ?自分の声を、心の声を信じて突っ走る!!それでいいではないか?・・・それに今の俺には間違ったことをしたら止めてくれて、導いてくれる仲間がいる。・・・お前たちはどうだ?心はなんと言ってる?周りには誰もいないか?本当に一人なのか?よく考えてみろ!答えはすでに出てるんだろう?ならやることはシンプルじゃないか!」


レイは言い切ると再びBBQセットの方に行き、自分のインペントリから肉を取り出し焼き始める。

・・・まだ食うのかこいつは・・・。

だがレイの言ってることは正しいと思う。

彼らは答えが出てるはずだ。

あとは誰かが背中を押してあげれば・・・。


「・・・アレクサンドラ、エミリア。僕たちは君たちの味方だよ。何があってもね。それにイアンも。伯爵も。王様側の勢力だってまだたくさんいるはずだ。・・・どうする?それでも君たちは逃げることを選択するのかい?」

「・・・僕たちは・・・。いや・・・。僕は・・・戦います!戦って勝ってみせます!」

「・・・そうね。私も戦って前に進むわ!自分の心に正直に生きて負けたなら、後悔はないはず!今逃げたら一生後悔しそうだわ!」

「・・・そっか。素晴らしい選択だと思うよ。・・・さ、まずはご飯にしよう。これからどうするかはそれからはなそうね。」


僕は新しい食材準備して皆で楽しく食事をする。

これから戦うために、辛いこともあるかもしれないけど、今はこうして楽しく笑っていよう・・・。

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