第142話サバイバル島、その18

二日目序盤はとにかくPKの嵐だった。

倒しても次が現れ、倒しても次が現れ・・・。

こちらの場所がばれているんじゃないか、と思ってしまうほどPKプレイヤーだらけだった。


だが後々考えてみれば理由は簡単だった。

昨夜、僕らがダイブアウトした後に「砂漠の島」の水晶が解放されたとの情報が流れた。

つまり残る水晶は「真冬の島」のみとなる。


そして僕らも今真冬の島にいる。

他のプレイヤーも真冬の島の水晶狙いでここにいる。

PKだらけになるのは仕方のない事だった。


因みに「ダブルナイツ」「悪魔結社」「鋼鉄騎士団」の三クラン合同作戦は失敗。

先に他のクランが「砂漠の島」の水晶を解放したらしい。

昨日寝る前にタクから電話が来てさんざん愚痴を聞かされた。

すごく鬱陶しかった・・・。


朝9時からダイブインしたが11時には一度ダイブアウト。

流石に2時間連戦はきつかった。

HPも危なかったので一度逃げてきたというわけだ。


「はぁ~疲れたよ~・・・。」

「本当ね・・・。まさかあんなにプレイヤーがいるとは思わなかったわ・・・。」

「ん。しばらく動きたくない。」

「ほんとよ。皆すごい顔して襲ってくるのだもの・・・。」


4人は神代家のダイニングテーブルで顔を伏せている。

流石の4人もあの戦闘の数には参ったようだ・・・。


僕らが全て倒したわけではなく混戦になったが、それでもそこには常に100名以上のプレイヤーが集まっていたと思う・・・。


僕らは「真冬の島」に9時ちょうどに転移した。

転移場所はランダムだが、運よく僕らは町の近くに転移した。


「冬の島」は南東、南西に二つの街があり、その真ん中あたりまで山脈がある。

そして山を挟んで北東にお城、北西に大きなダンジョンがある。

他にも洞窟や、山の上のボスなど攻略する場所はいくつかあるが、水晶はその2つのダンジョンかお城にあるだろうという推測をし、僕らはお城を目指した。


だがこの島を攻略する人たちは皆大体同じことを考えていた上に、北西に向かう道が雪崩によって塞がれ、通れることには通れるが、かなり苦労してしまうらしい。

その為ほとんどのプレイヤーがお城を目指し始めた。


現在イベントに参加しているプレイヤーは15万人を超えている。

そのうち何人がお城を目指したか知らないが・・・、道中ひどいありさまだったとしか言えない。

そこら中から悲鳴や怒号が聞こえ、まさに戦国状態だった。


そして僕らのパーティーは有名なうえに美人だらけだ。

力比べを望むもの、記念に戦いを挑むもの、戦っていいとこを見せようとする男ども、アピールしてあわよくば「カンパニー」に入れてもらおうとする者。

理由は様々だが、兎にも角にも僕らは狙われた。

まぁ逆にいいとこ見せようとして守ってくれたパーティーもいたが・・・(最終的にエリザベスに背後から殺されていったが。)。


「ダブルナイツ」達は3クラウンで協力して一気に城まで行ったらしい。

昨日は他のクランに「砂漠の島」で先を越されたから気合が入っているのだろう。

まぁお城の中もプレイヤーが溢れ、さらにはトラップやモンスターが沢山いるらしく、まさに地獄だとさっきメールが来てた。


僕らはもう十分コインを集めたので早めにダイブアウトして、最後の方にまたゆっくりプレイしようという話になった・・・。


「この後どうする~?もうあそこには行きたくないなぁ・・・。」

「行かなくていいんじゃない?「ダブルナイツ」達がかたずけてくれるでしょう。」

「ん。後はのんびりするのに一票。」

「私もそれに一票。」


皆あれにはかなり参ってるようだな・・・。


僕は食事の支度をしながら話を聞いている。


「ほら、これでも食べて元気だしな。」


「おいしそ~!!いっただきまーす!!」

「やっぱり一家に一人やーちゃんね。」

「ん。弥生がいれば一家は安泰。」

「ほんとよ。いつも悪いわね。」

「そう思うなら手伝ってくれよ・・・。僕だって疲れてるんだ・・・。」


僕は特に皆から狙われた気がする。


「鋼鉄騎士団」達が新人教育をしているときに新規プレイヤー達から「AOLで一番強いプレイヤーは誰ですか?」という質問をよくされたらしい。

そのたびに「「カンパニー」のウィル」と答えていたらしい。

それを誰かが掲示板に乗せたため、僕を倒せばAOL1強いプレイヤーになれる、という話が出ているらしい。

おまけに美人を従え、3クランも従えているという話にもなっている。

要は嫉妬の対象だ。


PKだけではなくPVPも何度かい挑まれた。

そして僕が「雷神衣威」を使ってしまったため、雷魔法はどこで覚えられるのか、という質問を多くされた。

そこでエリザベスが「ウィルを倒した者だけに教える。」という話をしてしまった為、挑んでくるプレイヤーが倍増。

エリザベスはそれを見て楽しもうという魂胆だったみたいだが、僕が仕返しに「「カンパニー」のリーダーは彼女だ。彼女に勝てば「カンパニー」に入れるかもしれない。」という話をした。

僕に来ていたプレイヤーはエリザベスの所に・・・行かなかった・・・。

作戦は失敗したのだ。

だったら「カンパニー」を倒していいところを見せて雷魔法を教えてもらい「カンパニー」に入ろう、という一石二鳥作戦が全プレイヤーによって行われた。

僕らは完全に墓穴を掘ったのだ。


兎にも角にも僕らはみんなに狙われた。

そしてポチ達(エリザベスが即席で雇った奴隷たち(男たち))を周りの固めちょっとした戦争が起こっていた。(ポチ達の報酬はエリザベスに踏まれるという変態的なものだった)


そんなこんなの激闘を終えた僕たちは精神的に疲れ果てていた。


僕らはゆっくりと食事を楽しむ。

誰も口を開かず静かな食事を。

皆しゃべる事さえめんどくさくなっていた。

まぁこんな沈黙が苦じゃない関係だから成立する時間だ。


「はぁー。ご馳走様ー。なんだか眠たくなってきちゃった・・・。」

「私もよ・・・。でも食べた後すぐ寝ると太っちゃう・・・。」

「ん。・・・でも少し寝たい。」

「んー。そうね。少し眠って3時頃からダイブインしましょう?イベントは9時までやっているのだし。」


食事を終えると皆それぞれ部屋に向かう。

まぁ、全員僕の部屋に、なんだが・・・。

ベッドに寝転がるとすぐに睡魔が襲ってきて、皆特に話すことなく夢の中へと誘われた・・・。


だがその睡眠も長くは続かなかった。


ピピピピピ・・・・・・・。


誰だこんな時に電話なんて・・・。


「・・・もしもし・・・?」


「おいウィル!!なんでダイブインしてないんだ!?今大変なんだ!!早く来てくれ!!」

「・・・どちら様でしょう?詐欺ですか?」

「詐欺師が詐欺です、と言うか!?オリバーだ!!」

「ああオリバーさん。どうも。僕たち今昼寝中なんで・・・。」

「寝るな!!起きろ!!ドラゴンが出た!!助けてくれ!!」

「ドラゴンとな?それは僕にはどうすることもできなさそうだ。ではでは・・・。」

「諦めるな!!しかも5体もだ!!封印をすべて解除してボスを倒したら眠っていたサバイバルドラゴンが暴れだしたんだ!真に封印されていたのは奴らだったんだ!」

「ZZZ・・・。」

「起きろ!!今倒さなきゃイベント後に王都を狙うらしい!!睡魔になんか負けてる場合じゃないぞ!!今は全区域でPKが禁止になって、全プレイヤーVSドラゴンになっている!!お前たちも参戦しろ!!てかしてください!!」

「ZZZ・・・。」

「それはもういい!!起きてんだろ!?早く来ないと・・・うぉ!?今ので100人は死んだぞ!!くそ!!こっち来やがった!!じゃあ頼むぞ!!」


プー・・・プー・・・プー・・・。


・・・なんか大変な事になってるな・・・。


「・・・タク君?なんだって?」

「ああ。香織さん起こしてごめん。ただのいたずら電話だった。」

「お兄ちゃん・・・。あっさり見捨てたね今・・・。」

「げ、ユイ聞こえていたのか?」

「聞こえていたわよ。っていうか寝ぼけて気づかなかったみたいだけど、携帯スピーカーになってるわよ?」

「姉さんも・・・。あ・・・。本当だ・・・。」

「ん。ドラゴンが出てきたなら仕方ない。行くしかない。」

「げ・・・。15万人近くのプレイヤーがいるんだろ?大丈夫だろ?」

「何言ってんのよ。あれだけの乱戦があったのよ?半分くらいは死に戻りのデスペナルティでイベント会場にすら入れないわ。入れてもしばらくはステータスダウン。」

「そう言うこと。それに生産組を除いて6万5千人ほど残っていたとしてもドラゴンは5体。」

「もし五大陸に分かれているとしたら一体につき1万1,2千人だね!」

「ん。それにタク君が苦戦するほどの相手。ここ二週間くらいに来た新規プレイヤーたちは瞬殺だと思う。」


二週間というと10万人・・・。

どれだけ残っているかわからないけど半分は新規プレイヤーだとしてまともに戦えるのは6千人・・・。


「・・・別に平気じゃないか?」

「何算したらその結論になるわけ?さっきタク君が「今ので100人は死んだ」って言ってたでしょ?」

「もしその範囲攻撃が何度もできるとしたら6千人なんてあっという間よ?」

「ん。それに倒した時の報酬はでかいはず。」

「つまり参加しなきゃ損ってことだよお兄ちゃん!!」

「ZZZ・・・・。・・・ッッいたたたた!!香織さん!!そこは、そこだけは握っちちゃダメ!!女の子になっちゃう!!」

「寝たふりなんかするからよ。弥生はいいの?今回のラスボスが他の人に取られて。」

「別にいいんじゃないか?・・・いたたたた!!いいわけない!!いいわけないです!!だからもがないで!!」

「あ、タクさんからメールが来てるわよ?」

「いたたたた・・・。・・・なんだって?」

「「残り3000人」だって。」

「・・・どれだけやられてんだよ・・・。」

「あ、また来たわ。「残り2000人」だって。」

「怖いなそのカウントダウン・・・。というか皆やられるの早くないか・・・?」

「また来た。「残り1500人。」」

「怖い怖い!!やめさせろその死のカウントダウン!」


というかメール打つなんてアイツ意外と余裕だな・・・。


「これはもう行くしかないねお兄ちゃん!!」

「何が「これは」なのかわからないけど・・・。まぁ行くしかないんだろうな・・・。」

「そうね。じゃないと本当に女の子になってしまうわよ?」

「おい!!みんな何寝てんだ!?すぐにダイブインするぞ!!」

「そんなに痛かったのね・・・。」

「ん。男の子は大変だ。」

「ダイブインは寝ながらじゃないとできないよ?お兄ちゃん・・・。」

「あ、確かにそうだ。じゃな寝たままでいいや。早くダイブインしよう。僕の人生がかかってる。」


まさかゲームをするか女の子になるかの二択を迫られる日が来るなんて思わなかった・・・。


僕らはすぐにそのままヘッドギアをつけてAOLの世界へ旅立つ。


「「「「「ダイブイン!」」」」」


・・・そこは僕らが逃げてダイブアウトした場所、雪の町だ。

先ほどとは違い静かなその街にはしんしんと雪が降り続けていた。

争いなんてなければ綺麗な場所なのに・・・。

何故人は争うのだろう・・・。

何故人は殺しあうのだろう・・・。

何故仮想世界なのに僕の股間はこんなにも痛いのだろう・・・。

何故そんなとこまでリアルタイムに再現したのだろう・・・。

・・・ちゃんとまだついてるよな・・・?

・・・・・・あ、あった。


「お兄ちゃん!!早く行くよ!!」

「何股間を触ってるのよ。欲求不満なの?」

「ん。あとで相手したあげるから。」

「何回でもね。だけど今はドラゴンよ。」


僕の股間はドラゴンの二の次かい・・・。

男にとっては一大事なんだが・・・。


オリバーに連絡した所「鋼鉄騎士団」と「悪魔結社」は別大陸のドラゴンの対処に向かったそうだ。

そしてこの島のドラゴンはお城のそばを飛び回っているらしい。


僕らは雪に足を取られながらも急いで走る。


30分ほど走った後次第にそれは姿を現した。


空を縦横無尽に飛び回る空の支配者。


ドラゴンが・・・。

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