第104話消えた少女、後編
少女はゴーストを守るように立っている・・・。
宙に浮かび、半透明で真っ白い体をしたゴーストは、長い舌を出し僕らにドヤ顔をしてくる。
なんとも腹がたつ顔だ。
「アングレアちゃん・・・でいいかな?」
「・・・なんで私の名前を・・・?」
不思議そうにつぶやく少女。
「・・・君のおばあさんから聞いたんだよ。とても心配していたからね。」
嘘だがここを突破するためには彼女を説得した方がいい。
僕はゆっくりと、説得するように話しかける。
「・・・嘘だよ!!おばあちゃんは私なんかを心配するはずがな・・・・。」
怒っていた彼女はゴーストに触れられて、だんだんと顔色が悪くなる・・・。
「魔力の流れを見て!!」
クリスの叫びで、僕は目に魔力を集める。
少女の魔力が少しづつゴーストの手を伝い流れていく・・・。
どうやらゴーストが彼女の魔力を吸っているようだ。
・夢を見せるゴーストLV57
LVも微妙に上がっている・・・。
アングレアはのHPはどんどん減っていく・・・。
このままでは少女は・・・。
あまり時間がないと考え、僕は少女を躱しゴーストに切りかかる・・・。
が、剣先にいたのは避けたはずの少女だった・・・。
いつの間にか少女とゴーストは入れ替わっていた・・・。
「くそっ!」
僕は振り向きゴーストの方に切りかかる。
が、なんと僕の剣はアイリスの剣によって防がれてしまった・・・。
「なんで・・・・?」
「お兄ちゃん!!自分にキュアかけて!!」
アイリスが何を言っているのかわからなかったが、自分んにキュアをかける。
すると、先ほどまでゴーストと思っていたのは、なんと少女だった・・・・。
「何がどうなってる・・・?」
「お兄ちゃんはゴーストに幻覚を見せられていたんだよ!!」
僕は気づかないうちに魔法をかけられていたようだ。
僕はゴーストと少女の姿を逆に魅せられていたんだろう・・・・。
「危ない!!」
アイーダの叫びでゴースト本体の方を見るとファイアーボールが飛んできていた。
「くっっ!!」
僕はアイリスを抱き寄せ、背中にファイアーボールを食らってしまう。
僕とアイリスはみんなのいるところまで吹き飛ばされる。
「ん。ミドルヒール。」
すかさずエリーゼが回復魔法をかけてくれ、何とか傷は癒える。
「お兄ちゃんありがとう・・・・。」
「僕のミスだ。教えてくれてありがとう。アイリス。」
心配そうに見つめてくるアイリスの頭を撫でてやる。
アイリスの尻尾は左右に振られ、嬉しそうにしている。
ゴーストは少女から離れようとしない。
どうにか幻覚魔法にかからず敵だけを攻撃できないものか・・・。
エリーゼが何度かアングレアにヒールをかける。
少しづつだが彼女の顔色はよくなっていく・・・。
だが、あまり長くやっていると彼女の体力が持たないかもしれない。
できるだけ早く決着をつけたいのだが・・・。
「トリプルアロー!」
「アイスアロー!」
クリスとエリザベスの魔法が飛ぶ。
・・・が、ゴーストから2mほど左にそれた場所にそれらは飛んでいく。
この二人がこんな距離で外すはずがない・・・。
というころは・・・。
「ん。キュア。」
「・・・あれ?当たったはずなのに・・・?」
「・・・まさか、私たちもやられていた・・・?」
どうやらエリザベス達は幻覚魔法にかかっていたようだ・・・。
「・・・なかなか厄介な相手ね・・・。」
この戦闘でアイーダは何もできずに歯がゆい思いをしているようだ。
彼女は非戦闘員だ。
彼女を守りながら、少女を守りながら、幻覚魔法にかからないようにする・・・。
・・・かなりハードル高いな・・・。
「しかも、なかなか腹がたつ顔してるわね・・・。」
「ほんと。あの長い舌に矢を射ってやりたいわ。」
エリザベス達は攻撃が外れて悔しそうにしている。
と、僕の「空間把握」に何かが飛んできたのを感じる。
「左!!」
すぐに左を見るとファイアーボールが複数飛んできていた。
皆間一髪でよける。
「・・・んなっ!?」
先ほどまでは正面の池の前にいたゴーストと少女は、いつの間にか門の前まで移動していた。
「・・・いつの間に・・・。」
「・・・・というより、いつ幻覚魔法をかけられたのかしら・・・?」
「ん。全然わかんなかった・・・。」
エリザベス達でもお手上げか・・・。
これはやばいかもしれない・・・・。
「お父さんとお母さんをいじめないで!!」
体調がよくなった少女が叫ぶ。
彼女はまだ幻覚を見せられているようだ・・・。
「ここは「匠亭」じゃないし、それはモンスターなのよ!?」
「そうだよ!!目を覚まして!!」
クリスとアイリスの叫びも空しく少女は再びうつろな目をしている・・・。
「ん・・・?」
少女は先ほどもっていなかった人形を大事そうに握っていた
あの人形の形は・・・。
僕はインペントリから首の取れた人形を取り出す。
「アングレアちゃん!!これを見て!!」
アングレアはうつろな目で僕の握っていた人形を見る。
「・・・え?それ・・・。なんで・・・?それは私が握っている・・・え・・・?」
アングレアが人形を再び見ると、先ほどとは違いそこには体のない人形があった。
「・・・・ぐぐぅぅ・・・・。」
いきなりゴーストが苦しみだす。
・・・何が起きたかはわからない。
が、チャンスな気がする。
「アングレアちゃん聞いて?ここは「匠亭」じゃないし、それはモンスターだ。残念だけどご両親はすでに亡くなっているはずだ。だけど君を待つ人はまだいるはずだ。思い出してくれ。君のおばあちゃんであるおかみさんを・・・。」
アングレアは何かを思い出そうとしている・・・。
それに対してゴーストは苦しみが激しくなっている。
「嘘だ嘘だ・・・。お父さんとお母さんは・・・・。それにおばあちゃんは私の事嫌いなんだ・・・。」
「そんなことないわ!!貴方のおばあ様は「本当に大事な孫で、もし見つけたら愛してるって、早く帰ってきてって伝えてくれますか・・・?」って泣きそうになりながら必死に心配していたわ!!」
「・・・・おばあちゃん・・・。」
パリィィィィィン・・・・。
突然ガラスが割れたような音がして辺りの風景が歪んでいる・・・。
池などはなくなり、先ほどとは違って、ここは洞窟の中だと認識できた。
が、まだ「匠亭」はそこに存在していた。
「・・・もしかして、ここは少女の記憶を使ってゴーストが私たちに幻覚を見せているんじゃないかしら・・・?」
「・・・つまりこの風景は全て偽物・・・?」
「・・・ん。そうかもしれない。」
少女の目の色が戻ってきたのと同時に、ゴーストの苦しそうな表情は増す。
「アングレア!!」
僕らの後ろから叫び声がして、振り返るとそこには「匠亭」のおかみさんがいた。
「アングレア、帰っておいで・・・。今まであんまりかまってあげられなくてごめんね。これからはもっと時間をつくるから・・・。だからもう帰ってきておくれ・・・。・・・そいつがアングレアをたぶらかしたモンスターかい?」
「おばあちゃん・・・?」
アングレアが驚きおかみさんを見たのと同時に、ゴーストもおかみさんを見据える。
すると・・・ゴーストは形を変え、そこには着物を着た男女がたっていた。
30代くらいだろうか・・・。
とても人がよさそうな二人はどこかおかみさんに似ていた・・・。
「お母さん、お父さん・・・?」
「・・・あんた達・・・。」
僕らは何が何だかわからなかったが、どうやら二人はアングレアのご両親らしい…。
僕らが二人の男女を見守っていると不意に女性が口を開く・・・。
「お母さん・・・。アングレアの事をよろしくお願いします。あの子はまだ小さいから私たちの事をよく分かっていないかもしれないけど・・・。私たちの大事な大事な宝物なんです。すみませんが後はよろしくお願いします・・・。」
それはまるで遺言のようだった・・・。
次に男性が口を開く。
「お義母さん・・・。すみませんでした。妻を、子供を守ると約束したのに守れそうにありません。どうかアングレアの事をよろしくお願いします。あの子は私達の宝物なので・・・。」
二人はしゃべり終わると姿を消し、元のゴーストに戻る。
「・・・お母さん!!お父さん!!」
アングレアは泣き、いつの間にかおかみさんがアングレアを抱きかかえてこちらまで来ていた。
「あれは、一体何だい・・・?幻覚魔法かい・・・?確かにあの二人が最後に私に言った遺言でした。」
「もしかして・・・。ウィル。あのゴーストは目を見た者に幻覚をかけるのよ!!そしておかみさんが現れたことによってあの二人が現れた、たぶんね!」
エリザベスの推理は当たっているような気がした。
だが僕にも親を亡くした気持ちは痛いほどわかる。
このまま倒してしまっていいものか・・・。
「・・・お兄ちゃん達。アイツを倒して!!お父さんとお母さんはもう死んだの!!私にはおばあちゃんがいる。だから大丈夫!」
「アングレア・・・。そうですね。アイツを倒してください。そして帰りましょう・・・。」
僕はうなずき、腰にあったナイフを掴み、ゴースト目掛けて投げつける。
相手の目を見れないため、勘で投げたが「っぐぐっ」と声がしたため当たったようだ。
これで瞬間的に幻覚魔法はかけられないだろう。
僕はすかさず走り、ゴーストの足元だけを見て、「空間把握」でゴーストを乱れ切りする。
「ッグググッ!!」
ゴーストの苦しそうな声がして再び剣を握り一刀両断でゴーストを真っ二つにする。
こうしてゴーストは倒し、辺りはただの洞窟に戻った。
「もしかしたらアングレアちゃんの魔力を吸って、その記憶からあの風景とご両親を再現して、昔のように遊んで欲しかったのかもね・・・。」
「でも頭のどこかでこれが偽物だと気づいていた。だから泣いてしまったのね・・・。」
結局おかみさんはアングレアに謝り、これからはもっと一緒にいると約束した。
だがアングレアはそれを断り、代わりに自分が「匠亭」で働くと言い出した。
両親が働いていたところで、おばあちゃんと一緒に働きたいと。
これにはおかみさんが、号泣。
聞けばやはりあの二人の幻覚はおかみさんが二人から最後に聞いた遺言だったようだ。
おかみさんとアングレアはこうして無事仲のいい孫と祖母に戻ったのだった。
こうして事件は一件落着した。
「でもよかったね!!二人が仲良くなれてうぴゃ!!」
「そうね。めでたしめでたしうぴゃ!!」
「あははは!!うぴゃうぴゃ!!」
「ん。解決してよかったうぴゃ。」
「家族は一緒の方がいいものねうぴゃ!!」
「もうそのネタはいいわ!!」
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