第102話消えた少女、前編

「ここが「匠亭」か・・・。」

「なんかおっきーねー。」

「まさに高級旅館って感じね・・・。」

「ん。素敵なところ。」

「いいわね。私こういうところ好きだわ!」

「まずは入って話を聞いてみましょうか?」


日曜日。


僕たちはじゃぶじゃぶの里の一番上、つまり一番高級な「匠亭」に来ていた。

今回はアイーダも一緒にいる。

行方不明の少女という部分が引っかかったらしい。

状況は違うが自分と重ねたのかもしれない・・・。



「桜」旅館も十分高級旅館だったが、ここは格が違った。

坂の途中に和風の門があり、下からは一切中が見えない造りとなっていた。

そしてじゃぶじゃぶの里の坂の上の方はすべてこの「匠亭」の敷地となっている。


そこはどこか城のようだった。


門をくぐると日本庭園が広がっていた。


門から旅館までは石造りの道に、道の両側には白い小石がちりばめられていた。

そして両側にきれいな石やコケがあり、その中央には池もあった。

池には赤い橋が架かっており、そのの奥には主張しすぎない程度の花が咲いていた・・・。


まさに理想的な日本庭園と言えるだろう・・・・。


建物は木造りの小さな城のようだ。


門から5分ほど歩くと、玄関先の両側に5人ずつ着物に身をつつんだ人たちが立っていた。


「「「「「「おかえりなさいませ。お客様。」」」」」」


ここに帰ってきた、という気持ちにしてくれる挨拶は、実に日本人らしかった。


「おかえりなさいませお客様。「カンパニー」ご一行様でよろしかったですか?」


おかみさんが話しかけてくる。


「桜」旅館の可愛らしいおかみさんとは違い、こちらのおかみさんは、きりっとした顔のいかにも仕事ができる感じの人だった。

恐らく60歳手前だろうが背筋がしっかり伸び貫禄があった。


「はい。今回調査に来た「カンパニー」です。」


僕らは自己紹介をし、中に案内してもらう。


僕は例の温泉に入る前にここまでのいきさつを思い出していた・・・。



「少女が行方不明?」

「はい。あまり大きな声では言えないのですが・・・。」

「ん。詳しく聞かせて?」


前日の土曜日。


皆で宴会をし、部屋に戻ってみんなでダイブアウトする前におかみさんが僕らの部屋を訪ねてきた。


「カンパニー」に依頼がしたい、とのことだった。


「実はこのじゃぶじゃぶの里の旅館はすべて結界が張ってあります。理由は二つ。温泉に入っているお客様が外から覗かれないようにするため。そしてもう一つは魔物が入り込まないようにするためです。」


ここの結界は人知を超えた力があるようだ。

まぁ魔法がある時点で越えていたが・・・。


「そして結界を張る魔法陣は10年に一度、書き直さなければならないのですが・・・。それを2日ほど遅れてしまったところがありまして・・・。」

「それで魔物が入り込んだ、ということかしら?」

「いえ、それはまだ・・・。」


おかみさんはまだはっきり話すかどうか悩んでいるようだった・・・。


「とにかく、行方不明の少女についてお話願えますか?」


兎に角話を聞かないことには始まらない。

おかみさんに話を促す。


「はい・・・。実は他の旅館の事なのであまり大きな声では話せないんです。できれば直接話を聞いてやってもらえませんか?場所はじゃぶじゃぶの里最高級宿の「匠亭」という所です。」


ーーーーーーーーーーー

シークレットクエスト発生


【行方不明の少女?】


じゃぶじゃぶの里、9割引券を手に入れ、信頼できる人に、会ってほしい人がいるようだ。

そのお願い通りに「匠亭」に行き、お願いを聞いてあげよう。


YES/NO


残り時間72:00


ーーーーーーーーーーーー

こうして僕らは「匠亭」に来て、現在茶室にておかみさんの話を聞くことになっていた。


「それで、ここで少女が行方不明になった、と聞いて来たのですが・・・。」


「はい・・・。実はその少女というのが私の孫でして・・・。孫の両親はすでに他界してて最近はあまりかまってあげられてなかったので・・・。なんでこんなことに・・・。こんなことになるならもっと・・・。」


おかみさんは震え、泣きのを我慢しているようだ。


「心中お察しします。お辛いでしょうがその時の事をお話願えないでしょうか?」


「はい。実はこの宿には「夢見る温泉」という温泉があるのですが・・・。そこら辺一帯を最近立ち入り禁止にしていたのです。そこに娘が入ってしまい・・・。そのまま消えてしまいました・・・。」


なんかホラーっぽくなってきたな・・・。

お化けとかあんまり得意でないのでやめてほしいのだが・・・。


こらアイリス。

何で嬉しそうに尻尾が振られてんだ。

まじめな話をしているのに・・・。


・・・・・・そう言えば、こいつホラーとか大好物だったな・・・。

不謹慎な奴め・・・。


「消えた・・・。とは?あまり意味が分からないのですが・・・。」


「そうですよね・・・。ですが文字通り消えたのです。誰もいないはずの部屋で、誰もいないはずの場所で・・・。忽然と・・・。」


アイリスの尻尾はさらにスピードを増す。


やめい。

カサカサ畳とこすれる音がしてるし・・・。

まだホラーとは決まってないもん。

・・・怖くいなんかないもん。


「その「夢見る温泉」は何故立ち入り禁止に?」


エリザベスが別の切り口から話を進める。


「温泉の結界のことはご存知ですか・・・?」


おかみさんが話していたな・・・。


「はい。存じています。」


「そうですか・・・。実は結界を張るのに2日ほど遅れてしまいまして・・・。この大繁殖期のせいで王都からくる結界師が遅れてしまいまして・・・。その為、「夢見る温泉」に魔力だまりができてしまったのです。」


魔力だまりができると魔物が集まってきたり、不思議なことが起きたりと危険なことが起こることがある・・・。

お化けももしかして出るのかも・・・。


「今は結界は?」


「もう張りなおしています。結界のおかげで魔力は少しずつ分散し、いずれ消えていきます。あと3日くらいでしょうか。そして温泉を立ち入り禁止にしたのですが・・・。従業の話では部屋に入っていく孫を見たって。そして後を追うと・・・、そこには誰もいなかったのです。」


「手掛かりは何もなかったのですか?」


「いえ・・・。脱げた靴が片方と・・・。鏡に小さな手形が沢山・・・。」


怖いなぁ怖いな・・・。


帰りたいなぁ帰りたいなぁ・・・。


アイリスの尻尾うるさいなぁアイリスの尻尾うるさいなぁ・・・。


不謹慎だなぁ不謹慎だなぁ・・・。

ーーーーーーーーーーーー

シークレットクエスト

【行方不明の少女?】クリア



シークレットクエスト発生

【夢見る温泉】

旧本館にて忽然と姿を消した少女。

彼女はいったいどこに消えてしまったのか・・・?

なぜ消えってしまったのか・・・?

鏡に残る手形・・・?

もしかして・・・・・・・。


しっかり戦闘準備をして行こう・・・。



残り時間70;48

ーーーーーーーーーーーー


駄目だこれは・・・。

出ますやん絶対・・・。

旧本館って定番ですやん・・・。

ホラーですやん・・・。

鏡に手形って・・・・。

祟りでっせ?おかみさん。

残念ながら諦めなはれ・・・。


僕は皆を見ると、皆険しい顔をしていた。


・・・そうだよな?

皆だって怖いよな?

旅館に消えた少女って定番すぎるもんな・・・。


僕は残念そうにゆっくりと横に首を振り、皆はゆっくりとうなずいてくれる・・・。



「わかりました!!アイリス達が解決いたします!!」

「そうね!任せてください!!」

「ん。必ず見つける。」

「女の子が消えたなんて見過ごせないわ!」

「「カンパニー」の名に懸けてね。」



え・・・・・そっち?

僕、首横に振ったよね?

僕の残念そうな顔をした演技は何だったの?って話になりません?

すっごい恥ずかしいですやん・・・。


「本当ですか?ありがとうございます!!本当に大事な孫でして・・・。もし見つけたら愛してるって、早く帰ってきてって伝えてくれますか・・・?」



死亡フラグですか?

ここで死亡フラグですか?

え・・・?

おかみさん死んじゃうの?


もしかして僕が死んじゃうの?


こうして僕は行きたくもない旧本館に向かった・・・・。


ぎしっぎしっ、と木の床がきしむ音がする・・・。



「夢見る温泉」の看板が見えてくる・・・。


「お兄ちゃん怖がりすぎ!!」

「そうよ。何もいないって。」

「ん。ウィル可愛い。」

「ふふ。こういうの苦手なの?」

「ウィルは小さいころからホラー系がダメなのよ。」


うるさい。


両親が家にいない時が長い僕にとって、夜中のホラーは天敵だった。


何度泣きながら隣の山下家に突入したかわからない・・・・。



「ここね。」


そこには濃い空気と、確かに鏡には沢山の小さな手形があった・・・。


あかん・・・・。

気を失いそう・・・。


アイリスが鏡に触れてみる・・・。

するとアイリスが鏡に吸い込まれるようにして消えていく・・・。


「アイリス!!??」


僕らはアイリスを引き戻そうと、アイリスの服を掴む。


すると服から手が離れなくなり、僕らはアイリスと共に鏡の中に消えていく・・・。


そこには小さな手形と大きな手形が残った鏡だけが残っていた・・・。

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