第61話地下坑道前編


「おう。見送りありがとな。」

「いえいえ。こっちこそ色々助かったよ。」


ここはフェラールの広場。

周りにはまだ初期装備から抜け出せてないプレイヤーがちらほらいる。

二陣組は明日で一周間経つ。まだ仕方ないだろう。


僕らはジンを見送っていた。

2万Gかかったけどクランクエストで多少お金が入ったから問題ない。


ジンとと別れポータルで戻ろうとしたところ・・・。


「待ってお兄ちゃん。あの子・・・」

アイリスの視線の先にかわいらしい女の子が険しい顔でベンチに座っていた。


「何かのクエストかな?」

「違うよ。あの子はプレイヤーだよ。」

「何かあったのかしら。」

「ん。声かけてみる?」

「そうね、初期装備だし初心者が困っていたら助けてあげたいわ。」


エリザベスの最後の言葉で僕らは彼女を助けることにした。


「ねぇ君、何か困ってる?もしよかったら力になるけど。」


「な、何?ナンパはお断りして・・・・。あら?皆さん女性でしたか。失礼。」


僕は男だ。まぁいい。

彼女は珍しく妖精族だ。というかプレイヤーでは初めて見た。


「くくっ。この子は男よ?あとは女だけど。」

「えっ??・・・なら話しかけないでください。ハーレムの中に入る気はないから。」


クリスが笑いをこらえながら答える。


誰がハーレムだ。

・・・・・違うよね?


「そんなつもりじゃないのだけれど・・・。もしよかったら力になろうと思って。お邪魔だったかしら?」


彼女は金髪の髪をドリルのようにして、まるで貴族のお嬢様のようだ。

くりくりした目でこちらを見回して・・・。


「・・・はぁ、まぁいいわ。ねぇ。私の力になりなさい。」


突然僕は命令された。

・・・・もしかしてめんどくさい子だったか?



場所は変わり以前訪れたレストランの個室。

「それで?どうしたの?」


「・・・・笑わないで聞いてくれる?」

「もちろん笑わないわよ。」

「ん。笑わない。」

「そう・・・。私ね。アイドルになりたいの。みんなの前で歌を歌ってみたいの。でも私人見知りで・・・。リアルじゃ難しいから「何者にでもなれるAOL」の中ならなれるんじゃないかって・・・。」


聞けば彼女はアイリスと同じ14歳。アイドルになりたいけど両親の反対により断念せざるおえない。そこでAOLなら・・・と。


「だから私に協力してもいいわよ!!有名になる私の第一歩の力になれるのよ。光栄に思いなさい。」


やはりめんどくさい子だった。


「でも今まで誰かに協力してもらわなかったのは何故?」


「ふん。決まってるじゃない。私が可愛い過ぎて今までナンパ目的のやつばっかりだったのよ。それに男女のパーティーに入っても女に目の敵にされるし、あんな馬鹿共とはやってられないわ。」


「ん。この子リアルでも友達いなさそう・・・。」


「な!!と、友達なんか必要ないわ!!どうせ男は私の体目当てでしか近づいてこないし、女は影でグチグチ悪口言うだけの能無しばっかりだし・・・。」


彼女がだんだんどんな子かわかってきたな・・・。


「ま、まぁとりあえずどうしたい?力になるって言っても大したことできないかもだけど。」

「大丈夫よ。あなたたちレベルが高そうだしレベル上げに付き合いなさい。」


聞けばレベルを上げれば歌手になるためのいいスキルがあるとのこと。

どんなスキルなんだそれ・・・。

少し興味がわいた僕らは彼女に協力することにした。



僕らはフェラール山脈に来ていた。Mr.とレヴィに鉱石のお土産を持って帰るためでもあるしまだ始まりの森の方は新規プレイヤーで溢れているためだ。



「き、きゃ!!び、びっくりした・・・。モンスターかと思った・・・。」


それはただの小石だ。


彼女はどんくさかった。

妖精族は戦闘に向いてなく、彼女は戦いたくないと言い出したので、仕方なく彼女を囲むようにフォーメーションを組む。

彼女のレベルが初め4だったのでどんどん上がっていく。今では10だ。


「あっ、スキル覚えた。」

「お?おめでとう。因みにどんなスキルか聞いてもいい?」

「フェアリースターね。自分の周りを小さなお星様がいっぱいおキラキラするんだって。いいじゃない。」


・・・・・・・・・・・・。


フェアリーの種族スキルは初めはアイドルにや、歌手になるための人たち向けのものばかりみたいだ。

初めに覚えたのは「フェアリーライト」。自分自身が発光して目立つスキルだ。

そして次が「フェアリープチウィンド」。自分の周りに微量の風を起こして髪をなびかせることができるらしい・・・。


プププや「無期懲役」の妖精たちみたいに幻術魔法を覚えるのはまだまだ先になりそうだな・・・。



「・・・・・・・それでね!ママはまだ早いっていうし、パパも悩んでたけどママが言うならダメだって。でもね私にはわかるのよ!パパはなんだかんだ私に甘いから押せば行けんじゃないかってね。問題はママよ。ママは普段優しいし綺麗だけど、怒るととっても怖いのよ?この前パパなんか「服から知らない香水のにおいがする」って言って顔に飛び蹴りされてたの。それで窓を突き破ってしまって「窓を割ったわね」ってまた怒られて、かかと落としを食らっていたわ。でも私思ったの。もしかして窓を割ったのはママも悪いんじゃないかって。・・・・・・・ねぇ聞いてる?あなたはどう思うのよ?」


…パパよ。頑張れ・・・。死ぬなよ・・・。


「あ、あぁ。なかなかパワフルなお母さんなんだね。それと僕もお母さんも悪いと思うかな・・・。お父さんはそんなに悪くないんじゃないかな・・・・。」



この子はよくしゃべる。とにかくしゃべる。妖精族は皆こうなのか?

僕らが戦闘中でも、話しかけてくる。そして忙しくて聞いてないと石を投げつけてくる。

この理不尽さは母親譲りなんだろう・・・。


そして何よりフェアリーライトやこの子の声は洞窟内ではよく目立ちモンスターがどんどんやってくる。

20もレベルが低い相手に、僕もレベルが一上がったほどだ・・・。


今は僕が鉱石を採掘をし、他がその護衛という形だ。

尚ほかのメンバーは話を聞き流し、唯一相槌を打っていた僕が彼女の話し相手に捕まってしまったのだ。


「・・・そーだ。私、歌うたってあげる!!暇になってきちゃったから。いいアイデアでしょ?」


「い、いゃ!ちょっとそ・・・・・・」


彼女の歌で魔物が寄ってきてしまうので止めようとしたが、かまわず歌いだす。


~~~~♪~~~~~~♬


思わず皆、彼女を見る。

うるさかったからではない。

とてもきれいな歌声をしていたからだ。


思わず聞き入ってしまう・・・。


なぜかモブゴブリンも聞き入っている・・・。

肩組んで左右に揺れている・・・。何やってんだこいつら・・・。


「・・・どうだったかしら?あら、モンスターに囲まれているずゃない。早く仕事しなさい。」


ハッ、っと皆正気に戻る。

モブゴブリン達はうっとりとしている。


皆でモブゴブリン達を蹴散らす。


「あら、見習い歌手のジョブを手に入れたわ!」

ピョンピョン跳ねて喜びを表現している。


僕らはどんどん敵を倒していく・・・。

モブゴブリンはフラフラスと魅了されている・・・。



「ありがとう。みんなのおかげで欲しかったジョブが手に入ったわ!!」


モブゴブリンを倒した後、満面の笑みでお礼を言われる。


「み、皆は特別に私の名前を呼ぶことを許すわ。今からアイーダと呼びなさい!い、いやとは言わせないわ」


何の宣言だ・・・。

この子めんどくさいんじゃなくてツンデレなのかな・・・?


僕らは突然の宣言に呆然としていると・・・。

「い、いやなのかしら・・・?」

と泣きそうな顔をしてくる。


なんか悪いことをしている気分だ・・・。


「わかった!!アイーダだね!!」

「そう、そうよ!貴方のことはアイリスって呼ばせてもらうわ!」

「もちろん!!えへへーアイーダ!!」

「な、何よ、あ、アイリス・・・。」

「なんでもなよー!呼んだだけ!!」

「・・・ふふっ。そう。呼んだだけね。アイリス。」

「うん!!えへへー!!」


アイリスはしっぽを振りながら楽しそうに話す。

アイーダも嬉しそうだ。


・・・・まぁいいか。

僕らも改めて自己紹介をし、フレンド登録しあった。


「しかしさっきのモブゴブリンなんであんな行動とったのかな?」

「ん。気になる。」

「もしかして職業スキルが関係してるんじゃない?」

「「歌う」ってスキルのおかげかしら?」


まんまだな。


「歌に感情をのせ、相手に届ける。ですって。」

「だからかしら。すごくいい歌だったか相手の心まで動かしたのかしら。」

「そ、そんなに良かった・・・?ま、まぁ私だからね!!当然よ!!」


顔を真っ赤にし、嬉しそうに言うアイーダ。

なんか慣れてくるとかわいい子かもしれないな。


「な、ならもう一曲歌ってあげる!!」


「「「「「えっっっっ?」」」」」


~~~~♪♬


いやいやいや・・・・。

いい歌なんだけどさ・・・・・。


「「「「モブ,ゴブ、モブ、ゴブ、モブ、ゴブ」」」」


「ほら来た!!」

「に、逃げよう!!さすがに数が多い!!」

「ん。おばか・・・。」

「走るわよ!!」


僕がアイーダをお姫様抱っこし、皆と走る・・・。


「わ、私。パパ以外にお姫様抱っこされるの初めてだわ!!意外と快適ね!!」


やかましいわ・・・・・・・。

こんな時でもアイーダはうるさかった。



「まずい!!挟まれた!!」

「戦うしかないかな・・・。」

「あ、あそこに小さな穴があるわ!!」


アイーダの指さす先に人ひとり分くらいの通路があった。


僕らは迷わず飛び込む。


「「「「「「う、うわあぁぁぁぁっぁ!!」」」」」」


通路は坂道になっており僕らは転げ落ちる。


「いたたたた。は、早くどいて・・・。」

「いったいよー!おしりうったー」

「ん。ウィルのいい匂い」

「ちょっとどさくさに紛れて何してんのよ!!」

「ふふっ。早い者勝ちよ。」

「ちょ、ちょっと!!どこ触っているのよ!!」


エリーゼとエリザベスが僕の左右にしがみつき、アイーダが胸の上に座っている。


いや、この状況だと全然うれしくないから・・・。

というか騒いでないで早くどいてくれ。


「しかし結構下まで来てしまったんじゃないか?」

「何私のお尻の下で冷静に分析してるのよ、もっとこのハプニングを喜びなさいよ。」

「いゃ、こんな状況で全然うれしくないから。早くどいてね。」

「もう!もっと喜びなさいよ!」


あぁ。最近の子はわからん。アイリスはまっすぐ育ってくれてよかった・・・。


「ところで全然モブ達来ないわね・・・。」

「ほんとだ~。ここは静かだね。」

「大きな広場のようね・・・。」

「見て!!壁がに鉱石がいっぱいある!!」


その広場の50mほどのドーム状の広場の壁にいっぱいに鉱石が埋まっていた。


「やったじゃない!!私のおかげ・・・・・・えっ?」


突然辺りがゆがむ・・・・。


この感じは・・・。


「エリアボスか・・・。」

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