第36話王都南街道後編


「それでね、Cランクに上がるのになんで審査があるか聞いたんだけど、その試験が盗賊退治なんだって。」

「つまり言葉は悪いけど人を殺せるかどうか、判断するってことね。」


PK集団と戦った後僕らは少し休んで先に進んだ。


今日早めようか、という案もあったが僕は大丈夫だから先に進みたいといった。

女性4人に心配されて帰るなど僕のプライドが許さなかったからだ。


4人は他のゲームで対人戦を経験していたためゲームと割り切りPVPが行えるとのこと。


僕はリアルでジイジに鍛えてもらったため対人戦は初めてではないが、人に剣をさし、妹が火の玉に吹き飛ばされるなど初めての経験だった。


・・・当たり前か。リアルでやったら新聞の一面記事に書かれるだろう。


この世界の現地人からしたら彼らが対人戦をするとそれはただの殺し合いだ。現地人は死んだらそれで終わり。もうそのキャラクターは二度と出てこない。その人がクエストの関係者だった場合どうなるのかという検証はされていない。

なのでギルドランクの話になる。プレイヤーでも人を傷つけることが苦手な人はたくさんいるだろう。

そしてこちらの人にとってはそれは大切な問題だ。

なので審査があるのだろう。

できるか、できないか、を判断するために。



僕の記憶がない時、僕はすごい勢いで敵を切り殴り、蹴ったそうだ。

剣で切られても魔法を打たれてもやめなかったそうだ。


途中でエリーゼはヒールを飛ばしていなかったら死に戻りしていたはずだ。


みんなには謝り許してもらった。だが罰としてアイリスを肩車している。

ゲーム内で力が強いのでそんなに疲れないが背中に左右に振られるしっぽが当たりくすぐったい。


先ほどエリーゼがそのしっぽをにぎり怒られていた。

アイリスはなぜかしっぽをつかむと「ニャァァァァ!!」という。なりきっているのか何なのか。


VR内の性格はリアルに影響される。これは証明されていることだ。

ゲームだからって悪いことを繰り返すプレイヤーはリアルでも我慢できず犯罪を犯すものがいる。

そこまでして悪者プレイをして楽しむことは僕には理解できなかった。


とにかく僕は初めての対人戦を経験した。

そしてやらなきゃ大事な人たちが傷つけられることを知った。

もう油断なんてしないし家族は傷つけさせない。

僕は心に誓った。

強くなろう、と。



この世界で生きるってことは難しい。肉を食べる為に戦い、身を守る為に戦う。弱ければ生きる事は困難になる。弱肉強食の世界だ。だが動物としてはこれが正しい姿なのかもしれない。食物連鎖的に言えば。実際僕はこの世界で生きているという実感が強く胸に感じている。もしかしたらじいちゃんはこれを感じさせたかったのかもしれない。

人生とは生きる事だと。

当たり前の事だけど、実感して生きているのと、実感せずただ時の流れに身を任せているのは同じようで違う。1秒1秒しっかり地に足つけて生きてる人は強い。そして大事なものを見逃さない。

そんな気がする。



「あっ、あれ!!」

アイリスが叫び、肩から飛び降りる。


危なっ!?

リアルだったら腰グキっていってたよお兄ちゃんは。

腰グキお兄ちゃんだよ?

そんなお兄ちゃん嫌でしょ?


といった目でアイリスを睨むがアイリスは気付かず正面を指差す。


そこには一匹の茶色い狼が寝ていた。

が、僕らに気づきゆっくり立ち上がりこちらを見つめる。


ぼくらは即座に戦闘態勢をとる。


「アォォォォォン!!」

狼の遠吠え。

すると付いて来いと言わんばかりにゆっくりと振り返りたまにこちらをみながら歩き出す。


僕らは顔を見合わせ進む。


2.3分歩いた時突然周りの世界が歪む。

これは知っている。


森のクマさんと戦う前に起こる現象。

つまりエリアボスフィールドに入ったのだ。

周りは膝あたりまではえた草がある草原。いつの間にか道は消えていた。

そして先ほどまでなかった1mほどの岩がごろごろとそこらへんに転がっていた。


そして・・・

「ちょっと多すぎないかなぁ。」

「そうね初めは強いモンスター1体との戦闘。そして今度は集団との戦闘訓練ってことかしら。

「ん。奥に大きいのがいる。」

「あれがブラックウルフね。」


グレーウルフLV12が80匹ほどいる後ろにひと際大きいオオカミがいた。

ブラックウルフLV25


ずば抜けて強いわけではなさそうだ。

だが数が数だ。油断はできない。


ーーーーーーーーーーーーー

王都南街道、ボスエリアに入りました。


エリアボス「ブラックウルフ」との戦闘を開始します。


尚ボスを倒すか、死亡するまでこのフィールドからは出られません。

ーーーーーーーーーーーーーー

「始まりますねぇ」

「そうね準備はいい?」

「もちろん」

「ん。いつでも行ける」

「そういえばブラックウルフって初めてまともな名前ね。」


確かに。クマさんだのモブだのが多かったからな・・・。カバうさぎとかもいたし。


そう考えてる間にエリーセが全員にアタックブースト、ガードブースト、スピードブーストをかけていき、クリスとエリザベスはチャージをする。


「「「「「アォォォォォォォォォンン!!」」」」」


ウルフの集団の遠吠えは大気を震わせこちらまで届く。

リアルだったら、家族がいなかったら逃げるな、と苦笑しつつ剣を構える。


「さぁ行くぞ。」

そう自分に言い聞かせる。


初めは小手調べなのか10体ほどのグレーウルフが散らばりながらこちらに来る。

洞窟の時とは違い今度は逃げ場がなく四方からくる。

試しにクリスとエリザベスがボスに向かって矢と魔法を放つ。

チャージで強化され加速した攻撃だったが集団の前のウルフが4匹飛び身代わりになり消える。

攻撃は届かなかったが防御力は低いことが分かった。


4.3.3のフォーメイションでウルフたちは走っている。

僕が正面の4匹、アイリスが右の3匹、クリスとエリザベスが左の3匹、エリーゼがサポート。

アイリスがフォーメイションを叫ばない。

集中しきっているのだろう。そうせざるおえないほどウルフは早い。


「っッッシッッ!!」

正面から飛び掛かってくる2匹のウルフを剛力とスラッシュで横一線で切り消し去り次に斜めから同時に飛び掛かってくるウルフをあえて正面に出て間に入り剛力と早斬で回転するように切る。

無事二匹とも消えた。

振り返ると3人は苦戦していた。

アイリスの大剣はスピードタイプには相性が悪く、クリスとエリザベスの攻撃は素早くかわされていた。

クリスはまずいと思ったのか腰に括り付けていたナイフを取り出し前衛に、エリザベスも杖で刺し至近距離からからの魔法攻撃に切り替えたようだ。


助けるならアイリスか。と思ったが踏みとどまる。


もし次が大群できたら?

確実に突破されエリーゼがやられてしまう。手を打つなら今のうちだ!


僕は近くの岩に近寄り、刃の部分では刃こぼれが怖かったので剛力と魔力剣でパワーと剣のサポートし柄の部分で岩を砕く。2.3度やると岩は簡単に砕けた。


剣を鞘にしまい小さい石から順番に大群に向かって投げていく。


「お兄ちゃん何を・・・・あっ、そうか!フォーメイションOTRね!!」


さすがは妹。OTORIで正解だ。

石を投げても大したダメージにはならないが、大勢のウルフはこちらをにらんでいる。気がする。


こうしてヘイトを稼ぎ攻撃対象を自分たちに向けないとまずいことになる。

絶対にここは抜かせない!!

アイリスと石を投げ続けていると、クリスたちのウルフが消える。その瞬間ウルフの遠吠えとともに今度は20匹ほどこちらに向かってくる。散開することなく。


うわーキッツいなぁこれは。

作戦成功したが少し後悔もした自分に苦笑し気合を入れなおす。

さぁこい!

来てほしくないが!!

先ほどと同じように剛力とスラッシュで初めの一匹を切り次の二匹を片方の正面に立ち早斬で切りVの字を描くように二匹目も切る。その勢いで剣を振り下ろし一匹を切ったところでその後ろから飛び掛かってきたウルフに気づかず腕をかまれる。

「いってぇ・・・」

何とか倒れないように踏みとどまるが今度は足をかまれる。


「くそっ!・・・あっ」

そのすきに二匹のウルフが横をすり抜けてしまった。

「しまっっっ!?」

焦って振り向いた瞬間2匹のウルフに矢と魔法が当たり消えていく。

クリスとエリザベスが微笑みながらうなずいてくる。

「後ろは任せろ」そういってる気がした。

・・・全く頼りになるお姉さん方だ。


手足についたウルフを魔力拳と魔力脚て振りほどく。すると一体が運良く後に来た一体に当たる。二体は転がりそこに矢と魔法が当たり消える。

こちらに飛びかかってきていたウルフを切り、先ほど飛ばしたウルフともう一体を出来るだけ腰を低くしながら切りつけ消す。横を見るとアイリスに三体のウルフが向かっていたので近くの石を拾い投げつける。

予期せぬ攻撃に一体は当たり足がもつれもう一体を巻き込み転がる。


「ッナイスッッ!!」

そう叫びアイリスは大剣を振るい横を魔法と矢が飛ぶ。


その間、エリーゼはエリアヒールに、各種ブースト、マナポーションを絶え間なく掛けてくれる。


その間僕は石を大軍に投げる。


その後も二十匹のウルフが飛び出してきて、それを対処すしそれが続く。



「ハァハァハァ」

「ハァハァお兄ちゃん、ハァ、へばってない?」

「そっちこそ、ハァハァ。息絶え絶えじゃねぇか。」


VRなので体は疲れないはずだが、精神的には疲れる。


精神が疲れると身体は重く感じ怠くなる。

心なしかお腹も減ってきた。

あ、空腹度があるからお腹減るのか。


胃に優しいものが食べたいな。


「お兄ちゃん、ハァ、これが終わったら始めてもらってね。」

「ハァハァハァ。あら、それはいいわね。乗ったわ。」

「ふふっ。ハァハァハァ。私も。」

「ハァハァ。私は今でもいいよ?」


「集中しなさい集中を。」


下らないこと言われたが、何となく活力が戻ってきた。


「アォォォォォン!!」

一際大きな遠吠えが聞こえ、ラスト十匹とボスが飛び出してきた。

さて、ラストダンスと行こうか。


今自分で言ってて少し恥ずかしくなる。


ラストダンスはないな。


ダサすぎる。


「お兄ちゃんはボスを!!後は任せて!」


あっ、こいつ押し付けてやがった。


親指立てて「グッ」じゃねぇよ。

ニヤニヤすんな。


だが可愛い妹の頼みだ。

気張るか。


僕は走りアイリス達と距離を取りボスが他を攻撃しない様にする。

他のウルフ達は僕に見向きもせず僕を通り過ぎる。

ボス一匹で充分って事か。

なめやがって。


ボスウルフが飛びかかってくる。


3mくらいあるウルフが。


まじ怖えぇ。



だがクマの飛び蹴りと対処は同じだと咄嗟に膝が地面につくくらい態勢を低くし足を前後に広げて踏ん張りをきくようにし腹を縦に切り裂く。

「グァァ」と苦しそうな声を上げながらも綺麗に着地しこちらに振り向く。


もっと痛がれや。


ブラックウルフの奥で皆んなが戦っている。

僕も負けてられないな。


ブラックウルフはゆっくり円を描くように歩き僕も対角に立ち歩き円を描く。


ブラックウルフはまた飛びかかってくる。

ノーモーションて飛びかかってきたため焦るが先ほどと同じ要領で対処する。

振り返るとウルフHPは3本あったのが二本になった。攻撃パターンも変わって来るはずだ。

クマさんとおなじなら。



再び一人と一匹は円を描く。


実際は10秒ほどなんだろうが僕には数分はそうしてたように感じた。


突然ウルフが手首を振るった。

嫌な予感がして横に飛びのくと後ろにあった岩に切れ目が入る。


飛ぶ斬撃かよ!?と思った瞬間目の前にウルフが来ていた。

思わず転がるように避けるが足が肩に擦りダメージを負う。


「イッテーー。」


痛みはシステムにより軽減されているが痛いものは痛い。


帰りたい。


だが妹に頼まれたんだ。

ここで答えなきゃお兄ちゃんじゃねぇ!(?)


再び円を描く。


回復している暇は無い。

僕の残りHPは7割。


攻撃は飛ぶ斬撃の後飛びかかってくる。


初手を見逃さないように集中する。


剛力と魔力剣それに観察を発動させておく。

それにウルフがピクッと反応するがまた描くを描き出す。


右足が地から離れる。


来るっ


ウルフが足を振るった瞬間魔力による斬撃がしっかりと見える。


が、見えるからと言って避けられるとは限らない。

斬撃を剣で弾くが態勢が崩される。

そこへウルフが飛びかかってくる。


やばっ!!


と思い、思わず剣を振りながら後ろに倒れこむ。


するとたまたま剣がウルフの鼻に深く突き刺さり、嫌がって顔を見て振るった瞬間、剣が抜ける。

急いで立ち上がり振り返るとウルフのHPは残り一本を下回り、頭の上にはクリティカルの文字。


「グルルルル」唸るウルフは赤いオーラを出し表情は怖い。


めっちゃ怒ってますやん。

やっぱ鼻はまずいよね?

ってか鼻さしたのに生きてるって何故?



再び円を描く。


好っきやなーこれ


というかめちゃくちゃ怖いんですけど。


ウルフは飛ばすに左右にフェイントを入れるとそのままかけて来て右手を振るう。

剣で受け止めるが後ろに飛ばされる。

そのままウルフはかけて来て膝をついてる僕に再び右手を振るう。

すかさず左に避け足を切りながら離れる。

が、ウルフは素早くターンして攻撃してくるが、左足を切ったため態勢を崩しながら突っ込んでくる。


思わずジャンプしてかわすが3mもあるウルフを飛び越えられず背中に捕まり乗ってしまった。


ウルフは当たりをキョロキョロして僕をさがすがすぐに見つかり振り落とそうと左右に飛ぶ。

が僕は必死に捕まる。


これほんとどうしよう。

降りるタイミングを見失った。


このまま飛び降りれば確実にやられる。

かといって攻撃する余裕はない。捕まるのに必死だ。


ウルフは次に尻尾を追いかけるようにクルクル回るが口が僕に届かない。


やめてやめて!!

気持ち悪い気持ち悪い!!!!


しばらくするとウルフは立ち止まりハァハァしながら頭を左右にふる。


お前も気持ち悪くなったんかい!!


しばらく一匹と一体は休憩する。


ウルフは気を取り直しこちらをキッと睨む。


今更睨まれてもなんかもう怖くないが。

だが僕はまだ気持ち悪く降りられそうにない。

もう少し待って?

そう言いそうになった時、ウルフの目に矢が刺さりその後もファイアーアローがクビにに刺さる。


ウルフは思わず体を左右に振って唸る。


やめてやめて!!

気持ち悪い気持ち悪い!!!!


その後いつの間にか現れたアイリスが首元に大剣を振り下ろしそのまま振り上げる。


クリティカルの文字。


ウルフのHPはゼロになりゆっくり消えていく。


僕はその光を見つめたまま地面に落ちた。



こうしてカッコ悪い姿の僕を残したままエリアボスを倒したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る