第10話山下家にて

「「「今晩は」」」


「あらいらっしゃい。もうご飯できてるから手洗ってらっしゃい。」


日曜日午後6時30分


僕達は山下家を訪れていた。

と言ってもとなりだが。


今日はAOL稼働前に千紗の父、つまり山下グループの社長である山下哲郎さんがゆっくり家にいられる日という事で僕達も夕食にお呼ばれしていた。


「おお、来たか!みんな久しぶりだな。」


「おじさん久しぶり〜!あぁ!もう出来上がってるね?」

「今晩はおじさん。お久しぶりね。」

「今晩は。おじさん久しぶり。少し痩せた?」

「本当にパパ飲み過ぎよ。パパったら朝から呑んでるのよ」

「いいじゃないか久しぶりなんだから。香織は母さんに似て来たな。」

「あっ、弥生いらっしゃい。あと2人も」

「千紗も手洗ってらっしゃい。後あなたも本当に飲み過ぎよ。久しぶりにみんな揃って嬉しいのは分かるけど。」


豪華な食事が揃うテーブルをみんなで囲い食事が始まる。


山下家は庶民からしたら大きな家だが特別大きいわけではない。代々お金は会社に使うと言う方針なので家にはそこまでつぎ込まないそうだ。

それでも十分大きいしセキュリティは万全だ。


「そうだおじさん。改めて家族、友人共々ヘッドギアを頂き有難うございました。」

「「有難うございます」」

「はっはっはっ。構わんよそのくらい。いつも娘達が世話になっているからな。特に弥生は未来の息子になるだろうからな。先行投資とでも思ってくれ。なぁ千紗。」

「うん。逃がさないから大丈夫。」

あらあらとおばさんと笑うおじさん。

香織さんはマイペースに食事を進め、千紗を睨むユイと姉さん。

うん。いつもの光景だ。


「山下家は代々女性が強いからなぁ。弥生はもう諦めた方が良いぞ。勿論ユイちゃんと美和ちゃんも囲ってしまえ!」

おじさんは笑いながら話す。



今の日本は重婚が認められている。

と言っても実際にしてるのは一部の富裕層のみだ。


日本が重婚が認めらたのにはこんな歴史の為だ。

昔二度目の東京オリンピックの時。

日本経済は潤い、沢山の外国人が訪れた。

その頃の日本は浮気、離婚の罪が軽く、裁判も余り活用していなかった。

そして女性の7割は浮気経験があると言う異常な時代だった。


そんな時のオリンピック。

人々は浮かれ、様々な所で肌を重ね合い愛し合った。

その結果誰の親かわからない子供が数え切れないほど増えた。

元々家族がいる人、いない人関係無く。

そしてオリンピックが終わりオリンピックバブルの終了。

昭和時代に一度経験したにもかかわらず人間は罪を繰り返す生き物のようだ。

日本は不景気に入り、子供を育てられない家族が増えた。

子供を捨てる人、離婚し押し付ける人、殺してしまう人。

様々な理由でリストラ、離婚、捨て子、死傷者数は過去最大のものとなった。


そんな大人達の身勝手な欲望の為辛い幼少時代を過ごした子供達は結婚、そして浮気、離婚に対し大きなトラウマと嫌悪感を抱き、それらに対する罪を重くする法を定めた。

辛い過去、重い法により、結婚、そして出生率が過去最低のものとなり少子化問題が深刻になった。


それを回避する為重婚を認め、お金に余裕がある人々は複数の相手と一緒になったが、女性は嫉妬深いもの。自分だけを見て欲しいと言う理由や体を合わせるだけで、結婚したら全く相手にしない男に不満が募り離婚が増え、沢山の富裕層が借金まみれになると言う事件が多発、国際問題に。


話が長くなってしまったがそんな理由から重婚すると不幸になると話が広がり、結局一部しか上手くいかなかった。


それから数百年、今でも少子化問題はあるがだいぶ改善された。




「私も一時期は考えたものだよ重婚は。しかし母さんが怖くてなぁ。他の女性に手を出そうとすればナイフで、イッタァ!!母さん痛い痛い!!」

どうやらおばさんはおじさんの足を踏んでいるようだ。満面の笑顔で。


ナイフで、の先は聞きたいが怖くて聞けない。


「そういえばおじさん休んで平気なの?今一番忙しいんじゃない?」

と助け舟を出す。

「あ、ああ、いや。経営者としてやれる事はもうほとんどないよ。後はエンジニア達がセキュリティ面の管理をするだけで済むし工場も順調に回って生産も安定してる。会社としては後は問題がないように見守るだけさ。あれから半年。ようやく落ち着いたよ」


半年前のクリスマス。

山下グループ会長、山下哲二が亡くなった日だ。

哲二は僕達の事も本当の孫のように扱ってくれた。その為僕らも爺さんと呼べと言ってきた。そしてジィジの親友でもある。


そしてユイや姉さんが越して来てすぐに千紗が誘拐されそうになると言う事件があり、香織さん、ユイ、姉さんも一緒にいて、そこを僕が助けた。その時犯人の持っていたナイフで僕は背中を切られその傷は今もなおある。

元々仲が良かった僕に、その頃から香織さん以外は僕と結婚すると言い続けている。

因みに犯人はすぐに捕まった。

目的は身代金。犯人グループは皆浮気による慰謝料で借金まみれだったと言う。


僕は三人の気持ちは嬉しいがその事があり、 若い時に好きでも大人になったら愛想つかされ浮気とかされて捨てられるのが怖いと感じてしまっている。

まぁ要するにチキンなのだ。僕は。


話を戻すがおじさん達は親友の孫でもあり恩人の僕ならと、結婚に賛成している。


そして僕も山下家の一員になるかもしれないと心の中にはある為、恥ずかしくないよう勉強に励んでいるわけだ。


「まぁこれでやっと肩の荷が降りたよ。昔からの山下家の夢がようやく叶うんだ。いっそ香織も弥生と結婚して跡を継いでくれたらもう思い残す事ないんだがな。」

「それは最終手段としてとっとくわ。確かに弥生となら結婚しても良いし弥生以外の男に興味はないけど、私、妹の恋路を邪魔したくないし、ちーちゃんにはちゃんと幸せになってもらいたいからね。」


可能性あんのかいっ。


「まぁ弥生の事は好きだからちーちゃんが結婚してちゃんと幸せになって、その時に他にも好きな人ができなかったらお願いしようかしら。」


「ん。おねーちゃんが一緒なのは嬉しいかも。」

「だめだよ!香織さんがいると私達に勝ち目がなくなっちゃうよ。」

「悔しいけどその通りよ。それに香織は独占欲強いから弥生を絶対離さないでしょ。千紗だって独占欲強いから苦労してんのに。」


おばさんは、あらあらと笑い、おじさんは若いなと笑った。


しかし僕は爺さんの事を考えていた。


「ねぇ、おじさん達はAOLやらないの?」

「ん?残念ながらやらないな。流石に社長自らやるわけにはいかんだろ。チートだと言われてしまうよ。」


それもそうか。


楽しい食事を終えた後、別室にある爺さんの仏壇に手を合わせ帰ろうとしたがおじさんにとめられる。

「言い忘れた事があった。君たちや娘達、そして君の友人4人に渡したヘッドギアは少し特殊な仕様になっている。知っての通りゲーム内でトラブルがあった場合GMコールつまりAIではなく運営担当者がトラブルに対処する。しかし君たちの場合はGMコールするとalo運営室長クラスの人間又は幹部クラス、もしくは私に繋がり、いち早く、そして出来るだけ君たちが快適にプレイできるように対処する。だから何かあったらすぐに連絡しなさい。」


「分かりました。ありがとうございます。」


全く心配性だなと思いつつ家に帰った

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