どうしたの、カマキリくん

卯野ましろ

どうしたの、カマキリくん

「はあ~……」


 カマキリくんは、まどにはりつきながら、うっとりしていました。


「なんてかわいいんだ……」


 今、カマキリくんが外から見ているのは、虫かごの中の、ハナカマキリです。ピンクの体がかわいらしい女の子です。


「あの子となかよくなりたいなあ……」


 カマキリくんは、ためいきをつきました。ハナカマキリの女の子は、今カマキリくんがはりついているまどの家にすんでいます。そしてカマキリくんは、外で生活しています。


「ハナちゃーん」

「わっ、来た!」


 ハナカマキリの名前をよんだのは、そのハナちゃんのかいぬしである、人間の女の子でした。カマキリくんはびっくりして、まどからはなれていってしまいました。外にいて、人間の足にふまれそうになることがあるカマキリくんは、人間がこわいのです。


「また明日、行こう」


 カマキリくんはハナちゃんの家を見ながら帰っていきました。


「ハナちゃんっていうんだ、あの子……。すてきなお名前だなあ」




 その次の日、カマキリくんはまたまどからハナちゃんを見ていました。


「今日も、かわいいなあ」


 ずっと見ていると、ハナちゃんはカマキリくんに気づきました。ハナちゃんはにっこりと、カマキリくんを見ました。


「わあっ、わらってくれた!」


 うれしくなったカマキリくん。しあわせ気分です。するとそこに、


「あれ、カマキリだ」


 ハナちゃんのかいぬしが、やってきました。


「うわ、にげよう!」


 えがおのすてきな、ハナちゃんに見とれていたカマキリくんは、あわててまどからはなれようとしました。けれど、


「わっ!」


 もうカマキリくんは、ハナちゃんのかいぬしの手の中にいました。


 どうしよう……。


 カマキリくんは、ますますこわくなりました。


「ねえ、どうしたの?」

「えっ?」


 やさしくカマキリくんに声をかける、ハナちゃんのかいぬし。カマキリくんはびっくり。そしてホッとしました。


「なんで家のまどにいたの? 外から何を見ていたの?」

「そ、それは……」

「それは?」

「ぼ、ぼくはハナちゃんを見ていました! ハナちゃんのことが、すきです!」

「まあ!」


 ハナちゃんもかいぬしも、目を丸くしました。ハナちゃんの顔は、まっかっかです。




 そして、その後。


「ハナちゃん、カマキリくん! おさんぽしようよ!」


 カマキリくんはハナちゃんと、ハナちゃんのかいぬしとなかよくなり、いっしょにくらすことになりました。みんな、おさんぽが大すきです。カマキリくんは外にくわしいので、おさんぽ中にハナちゃんたちにいろいろなことをおしえています。ハナちゃんたちは、いつもそれが楽しみです。


 あのとき、ゆうきを出してよかった。ハナちゃん、みみちゃん、ありがとう!


 カマキリくんは、心からそう思いました。みみちゃんは、ハナちゃんのかいぬしのことです。

 みんなは今、なかよく楽しく、そしてしあわせにくらしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

どうしたの、カマキリくん 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ