第22話暗躍する輩
ここはアルステッド国の王都から西に150キロル行った――。
オワルスター伯爵のおわすオワレスの町。
「まだザックから連絡は入らないのか!」
如何にも裕福で贅をこらした室内で――。
でっぷり太った様子の男が執事らしい初老の男性を怒鳴り飛ばす。
「処刑寸前だったあのゴミを救ってやった恩を忘れてまさか逃げ出したのでは無いだろうな!」
「まさか、このアルステッド国西方を支配されるオワルスター様を、裏切る様な真似――」
「出来ぬと申すか!では何故、もう2週間も連絡が無いのだ!陛下が亡くなってしまっては計画が全て台無しではないか!」
「最悪の場合はこの城の兵士を使ってでも構わん!何としてもピクシードラゴンを捕まえてくるのだ!」
初老の男性執事は額に垂れた汗をハンカチで拭いながら、いそいそと部屋を退室していった。
30人の盗賊団だけでも過剰であったのに……。
魔法師が一味に居ないなどほざきおって。
わしの口利きで有能な魔法師を用意してやったと言うのになんたるザマだ!
わしの管理する領内で2件の強盗事件を起こし、生贄の娘も3人用意したと息巻いていたザマがこれか!
事件をもみ消し証拠を隠匿するのに、どれだけの手間がかかったと思っておるのだ――!
実際に骨を折ったのも、汗水流して手配したのもすべて初老の執事である。
オワルスター伯爵は顔を真っ赤にさせ怒りに震えていた。
先代父より、この伯爵位を受け継いで10年――。
5年前に父が他界しようやく好き勝手出来ると、
溜め込んであった財宝を極つぶし、女に酒に豪華な美術品にとまさに贅の限りを尽くしてきた。
このままでは伯爵家の財も滅失してしまう。
そんな時に父の書斎で金目の物を探していて見つけたのが――。
アルステッド国一代記。
今のオワルスターと同じ伯爵位から国王にまで上り詰めた伝説の成上がりの物語。
資料を読み解けば、その初代が当時統治していたのもこのオワレスの街。
そして伝記に記されている通りに……。
現在の王家も、民衆の支持を失い衰退の一歩手前であった。
現国王が、病気療養中の今がチャンスなのだ。
国民の支持を失った原因を作った現国王の在位中に……。
クーデターを成功させれば俺が王に成れる!
これで万が一にでも、国民に支持されておる勇者候補の第一王子なんぞに継承されたら、王家は一気に盛り返すだろう。
そうなる前になんとしてもピクシードラゴンを捕獲し神輿に担ぎあげねば……。
コータ達の推察した通りであった。
「伯爵様、兵達の用意が整って御座います、あのような下賎な盗賊より西部最強を誇る部隊にお任せくだされ!」
「それで生贄は用意したのか?」
「はい、噂通りのまだ年端も行かぬ少女達を3人用意致しました」
「近い内に必ずやピクシードラゴンを捕獲出来る事でしょう!」
「では出立するがよい!今度はおぬし自ら監督するのだぞ!」
「はっ!畏まりましてございます」
そう言って初老の執事とオワレスの城の兵隊100人が、
オルゴナーラ山脈のあの湖――。
正確には、昔1度だけ目撃情報のあったあの洞窟へと旅立ったのであった。
今回は生贄のうら若き幼女を3人連れて。
まさかその中にコータ達の探しているタマが居る事など、誰にも予想も出来なかっただろう。
「行きはよいよい、帰りはもっと早い!」
うはっ。フロスト飛ばしすぎだから――。
馬車の中は柔らかいソファーだけど、
御者台はそこまで柔らかくないんだから!
コータは急いでポチの故郷へ向うぞと……。
フロストへ檄を飛ばした3時間前の自分を後悔していた。
これ……皆で戻らなくても俺とポチでクロに乗って戻った方早いんじゃね?
そんな事を思うも後の祭り……。
いつもの速度ならここまで振動が来る事は無い。
さすが高級馬車である。
だが普通の速度の3~5倍となれば話は別であった。
少しの段差でも体が宙に浮く――。
酷い時には、雨避けの木製オーニングに頭をぶつける事もあった。
コータは早く陽が沈まないかな……。
――と淡い期待を込めて太陽を見るが、
出発したのが昼過ぎだったので。
西の空に傾いてはいるが、いまだ太陽は上方だった。
山脈からトーマズの街までは、クロの翼で半日だったが今回は馬車だ。
トーマズの街から引き返した地点まででも、既に1週間以上は走っていた。
途中で休日を入れていたが。
それでも行きの速度の5倍弱で引き返せば、
トーマズの街には明日の昼には到着出来るだろう。
もっとも今回は真っ直ぐオルカナの村跡地まで向うので……。
3日程度はかかると思われるが。
オルカナの村はアルステッド国でも、最も西にあり。
農家や蚕の養殖が盛んだった。
オワルスター伯爵がオルカナの村の収穫物を安く買い取り王都へ高く売る。
まさにオワルスターにしてみれば金の成る木だったのだが。
それを理解していなかった盗賊によって滅ぼされてしまった。
その時からオワルスターの命運は決っていたのかも知れない――。
一方、オワレスの街を出立した軍兵士一行は補給部隊や調査隊、
兵の混成部隊だった為に足取りは遅かった。
行きに1週間をみている事からわかる様に。
コータ達と比べればまさに……。
ウサギと亀の如しであった。
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