第17話それは突然やってきた

 トーマズの街を旅立って今日で3日目……。

そろそろ山脈から続く森が見えて来た頃だった。


 それにしてもこの馬車すげーな。

夜は温水シャワーで体を洗えるし、

寝床は室内でふかふかしたソファーで眠れ、

さすがに調理は外でないと出来ないが。


 キャンピングカーに乗った事は無いけどきっとこんな感じなんだろう。

などと、のどかな風景を眺めながら考えていた。

御車席から操る手綱は手を放してもちゃんとフロストが道に沿って引っ張ってくれている為に実際はただ触っているだけだ。


知らない人に見られたら変に思われちゃうからね。


 すれ違う馬車もあったが皆、道の端に馬車を寄せ先に通してくれている。

どこかの貴族様と勘違いしているみたいだ。


そんな風に気も緩みきった頃にそれはやって来た。

急にフロストが止まったから何事か?と周りを見回したが何も無い。

次にクロが警戒の指示を出す――。


 「コータ、上じゃ!我は上空からヤツを叩き落す。落ちて我が抑えている内に武器をもって皆で攻撃するのじゃ!」


 何を……と思いながらも上を見上げると太陽の日差しを背に隠れるように馬車に向って突っ込んでくる物体が2体……。

俺は慌てて馬車内の皆にさっきのクロからの指示を伝える。

イアン以外はちょっとおどおどしながら馬車から降りてくる……。

上空では光学迷彩を解除したピクシーサイズのクロが丁度1体目に体当たりをかました所だった。


周囲には他に人は居ない。

明らかにこの馬車を狙って襲撃してきたと思われた。


 『ドスン』という大音響が鳴り響いたかと思ったら……。

最初にクロに体当たりをされたワイバーン?東洋の龍の様な生き物が勢いよく地面に叩き付けられた所だった。

さらにもう1体、今度も先程と同じに馬車の左舷前方に墜落してきた。

2体のワイバーンの落ちた周辺から土煙がたちこめる。


「コータはフロストの金具を外せ!外したら皆で武器をもって我の抑えている蛇を攻撃するのだ!」


 フロストの金具を外し自由にし――。

俺は皆と武器を持ってワイバーンに殴りかかった。

『キーン』予想外に鱗が硬く普通の短剣では刃が通らない。


「援護します!」


 イアンがそう言って炎の魔法を解き放つ。

炎が着弾すると『ギャァォ』とワイバーンが悲鳴を上げるが、思った以上に鱗が硬く――。まだ鱗の壁は越えては居ない様だ。

他の3人もそれぞれ槍を持って差し込むが全て俺と同じく弾かれていた。


「まだお主等にこの相手は無理か……ならばこれならどうじゃ?」


クロがそう言い、小竜に変化し抑えながら爪でワイバーンの鱗を剥がし始めた。

『グワーグワー』と一際大声でワイバーンが鳴く。


「コータよ、鱗の剥がれた柔らかい場所に槍を突き刺せ!」


 若干、腰が引け気味になりながらも――。


「やぁぁぁー!」


 掛け声だけは勇ましく突き刺した。

『ドスン』――今度はちゃんと突き刺さったが、再度刺そうにも硬い肉に刺さった刃が外れない。

両足で踏ん張りながら槍を外し……。

他の皆にも声を掛け、それぞれ同じ場所に突き刺していった。


 最初は少しだけだった流血も2度、3度と繰り返し同じ場所に槍を突き刺している間に周囲は血の海になっていった。

何度目か分からなくなるくらい、必死に突き刺し抜くだけの行為を繰り返した所で――ワイバーンが痙攣し始めた。


 全身をクロに押さえつけられ、コータ達にひたすら槍を突き刺されたワイバーンもさすがに大量に血を失いす過ぎた。


最後には、恨み言ともとれる呻き声をあげながら完全に動きが止まった。

俺達が皆で倒した――感動に呆然と佇んでいると……。


「何をボケーッとしておる、まだ残っておろう!」


そうだ……ワイバーンは2体いた!


 もう1体の方を見るとフロストの吐いた冷気で下半身と地面を凍り付けされていたワイバーンがブルブル震えていた。

よく見ると、ワイバーンの右腕が千切れていて流血していた。

すげー、落下させたのはクロだけどそこから1体でここまでやったのか。


「何をやっておる、フロストはお主の為に止めを刺してはおらなんだぞ!はやく始末せんか!」


 クロに急かされ、再度両手に槍を掴んで腕のあった場所に突き刺す。

さっきのワイバーンを倒した時に――。

何か強力な風圧の様なものが自分の中に突き刺さった様な気がしたが……。


今の一撃で、あれがレベルアップの感触なのか……と思い至った。


 前回は槍を20回は一人で突き刺しても刃が埋まるほどの威力は無かった。

だが、今の一撃はあっさり千切れた部分に突き刺さったからだ――。


『ギャオーン』と最後の断末魔をあげ2体目のワイバーンも動かなくなった。

ピクシーサイズの竜に戻ったクロが肩に乗っかり翼で頭を軽く叩く。


「良くやった。出来たでは無いか――。我とフロストのお陰だがな!」


 ガハハと笑いながらフロストにも何か声を掛けていた。

2体目のワイバーンを退治した時にも体を突風が吹き抜けたから――。

またレベルが上がったのだろう。

最初は少し重かった、手に持つ槍も――。

今は小枝でも握っている様に感じる程軽い。


「みんなもレベルが上がったの分った?」

「何度かレベルアップの経験は有りましたから今度のもすぐ分りました」


アニメ声で応えたのが、俺達の中では唯一の魔法師のイアンだ。


「何かごわーって体に風が当っただに!」


――と体で表現しているのが犬獣人のポチだ。

レベルアップで胸も大きくなるのだろうか?


「何か倒した瞬間に寒気が走りました」


そう言うのは狼獣人のホロウだ。

人によって受ける感覚が違うのだろうか?


最後に数日前に両親の元を離れ改めて――。

改めて、この旅の仲間に加わったアルテッザだ。


「何故か体の関節が痛むのですが……」


なぬ?攻撃でも当たったのだろうか?と心配していると……。


「魔法耐性の低い者が、急激なレベルアップをすると関節痛を煩う事があると言うのぉ。それだけ一気にレベルが上がったと云う事なんじゃがな!」


 そうクロが説明してくれる。

一気にと言っても、数値にしたら何レベル上がったんだろう?

そう考えていると――。


 「大体にしてワイバーンは普通の人間には倒せん。倒しているのを見た事があるが、軍の兵器を使い1000人位の弓兵で漸く1体倒せるかどうか?という感じじゃな!」


 とても5人で相手していいモンスターじゃ無いじゃねーか!

何やらせてんだ……この竜神様は。


「出発前に皆も賛成しておったではないか?ぱわーれべりんぐ!?楽しみだってのぉ」


 いや、確かに言ったけどさ……。

普通はこうゴブリンからとか……。

スライムからとか――。

オークとかいるじゃん!


「そんな雑魚相手にしとったら、強くなる前に寿命がきてしまうぞ?」


 あーなんか嫌だ。

いったい何処に向かっているんでしょうね。

――この竜神様は。


「まぁ、これで雑魚相手なら素手で相手しても死なん様にはなっただろう」


 良かったなと……恐ろしい事を言ってくれている。

所でこの倒したワイバーンはどうするの?

鱗とか高く売れるんじゃね?


「ほう、こんな蛇の鱗が高価なのか。じゃ次はもっと強いのを倒させてみるか……」


 クロが何か言っているが――。

もう気にしない事にした。


 俺のポシェットは旅の物資と武器でいっぱいだよ……。

ゲームの中でなら収納魔法が使えて、こうやれば収納出来るんだけど……。

何気なくワイバーンを掴んで目の前の空間をイメージして放り込むしぐさをしたら――見事にワイバーンが消えていた。


「むむ、コータ何をやったんじゃ?」

「いやゲームではね、倒したモンスターは収納魔法が使える魔法師がああいうしぐさをすると虚空倉庫にアイテムを収納出来たんだよ――。それをイメージしたらワイバーン消えちゃった」

「消したものはさっきと逆のイメージで出せるのではないのか?」


 やってみるねと言いさっきと逆の動きをしてみたが出なかった。

あれ?イメージして無かったからか?

今度はイメージして出す動作をしてみる。


 「おおーー!出た!出たよ――」

「さっきの蛇を倒して上がったレベルで、どうやらその空間魔法を取得したみたいだな。こんなに早く魔法を覚えるとは先が楽しみじゃ」


 いや俺も嬉しいよ――。

だって魔法だよ?日本人の俺が……。

非科学的な現象だよ?

日本に帰ったら一躍有名人間違い無しじゃん!


もう帰れないけど……。


俺が魔法を覚えたのに感化されたのか、他の娘達も何やら試し始めた。


 ちょうど昼時に差し掛かったので――。

血の臭いがしない場所まで移動し、

昼食を食べ始めるまで練習していたが……。

イアン以外では、特に魔法が使える様な事は無かった。

イアンは元々魔法師で呪文も覚えていた為か?

今までは使え無かった上級魔法のインフェルノが使える様に成っていた。

ちなみに試しに打たせてみたら――。

青い炎で半径5m位が火の海になって土が溶け出した。


土が溶ける温度って凄くやばいんじゃ?


 そんな感じで初のパワーレベリングが終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る