第9話盗賊のお宝

 ポタッポタッと、洞窟から水滴が、滴り顔に落ちてきて――。

――意識を取り戻す。


「知らない天井だ……」


これ言ってみたかったんだよね!

床が、何故か冷たい。

どうやら冷たい地肌に、直に寝ていたようだ。


「ようやく起きたか」


クロの声が洞窟の更に奥から聞こえてきた。

凄いな、この暗さと距離で俺の状態とか分るのか?


「あたり前じゃ――。コータとはリンクしていると言っただろうが」


あっ、そうでした。


「で……なんで俺はこんな冷たい地べたに、直に寝ているんだ?」

「まだ寝惚けているようじゃの」


――呆れた口調で説明してくれた。


「だって面白かったんだから、仕方ないだろう?」

「コータはもう少し人の感情に、機敏になった方が良いようじゃの!」


 俺ぐらいの子供達は、大抵自分の感情で精一杯だと思うけどね――。

こんな子供のうちから相手の気持ちとか、

考えたりしていたら、禿げちゃうんじゃないだろうか……。

同じ研究会のだいちゃんは、頭に10円玉位の禿げがあったな。

だいちゃんは人の感情に、機敏だったのだろうか?

そんなどうでもいい、言い訳を喋っていると――。

右奥の穴からアルテッザとイアンの声が聞こえた。


「クロ様、こっちは盗賊の武器庫の様です」


ちょっとアニメ声の可愛い声はイアンだ。


「あまり高そうなのは無いですね」


 そう言ったのは商会の娘のアルテッザだ。

実家が商いをしているだけあって、物を見る目は有る様だ――。

更に左の穴からはポチの声が聞こえた。

ポチは語尾に゛だに゛を付けるので個性的だ。――犬なのに。


「クロ様、こっちは食料の様だに!」

「主にオーク肉の干し肉と小麦ですね。思ったより肉が少ないです!」


肉に執着でもあるのか?

肉の報告をしてきたのは狼獣人のホロウだ。


「ひとまず中央に集めてくれ、旅には武器も必要だからのぉ。こっちは袋から金の匂いがするぞ」


 金の匂いまで分かるのか?

そう思っていると、クロに呼ばれた。

袋の中身を確認させたいらしい。

さすがのクロでも、閉じてある袋を壊さず開ける事は出来無かったらしい。


「すげー!何この金貨の数?――そういえばイアンの報酬が金貨5枚って話だったから30人x5枚で150枚!」


日本円にしていくらだ。

えっと……10万x150で――1500万円!

家が建つよ!

ネットの動画で見た、国産最高級のスポーツカーGORの新車も買える!


あ、俺免許すらなかったわ。


「ほう……中々面白い物が見つかったぞ!」


 どれどれ、興味を惹かれて、見てみると、ただの革のバッグだった――。

しかもポシェットって、お洒落な若者は付けて歩かないよ。

コータには分からん様だな、ふふ。

馬鹿にした様にクロが言う――。


「何か隠された秘密でもあるの?」

「うむ、これは魔法の収納バッグだな。このバッグから感じる魔力では恐らく、2立方メートルは収納出来そうじゃ」


確かにポシェットに、それだけの物が収納できるのは凄いけど……。

なんかゲームと違ってしょぼい。


「つくづくコータは、げいむに毒されておるのぉ」


嘆かわしいと呟きながら、次々とポシェットにお宝を詰めていく。


「ふむ、こんなものか――」


 結局、盗賊のお宝は金貨150枚、銀貨130枚、銅貨200枚、宝石やアクセサリーが両手に山盛り――。魔法のバッグ、なんだか分らないビー玉?みたいな色違いのものが多数あった。


クロによればビー玉は魔獣の魔石らしい。


魔獣は獣とは違って、獣が濃い魔素溜まりの影響で突然変異した生物で一般的に魔石があるのが魔獣――。魔石が無いのが獣(動物)の扱いになるらしい。尚、獣人には魔石は無く魔石が有ったとしたらそれは魔族の扱いになるらしい。


皆でひとまず集まって、今後の行動を決める事にした。


食料や武器、お宝は全て――。

ポシェットに入った為に、俺が管理する事になった。

まさかこんな裕福そうでもない少年が……。

大金など持って歩いているとは、思われないかららしい。


そんなに貧乏臭く見えるのだろうか?


 4人の娘達に大金を持たせられない理由でないのは――。

恐らく心情を慮ったからだと思いたい。

少なくとも、賢者クラスの魔法師じゃなければ、

マジックバッグとは気づかれないだろうって――クロが言っていた。


 そうそう、お宝の中にあった宝石やアクセサリーの中に、アルテッザの家の紋章が入った宝石を散りばめた短剣、指輪があったので、自己申告ではあるが本人に返しておいた。


イアンの時に散々嘘をついても、クロにはバレるって知られている。

クロも何も言わずに渡したから――きっと申告どおりだったのだろう。


洞窟の外に出て焚き火を起こし、

夕飯の支度を4人娘達がやってくれている。


竜であるクロの保護を受け、これから安全な旅を送れるので食事の支度は当番製で女性人が受け持つ事になった。


俺ですか――。炊事、洗濯、家事全般、母さんに甘えきっていた俺にそんな甲斐性あるとでも?


あ、でも盗賊の食料は殆んどが、保存食だったので……。

新鮮な食材をクロが集め。俺が、縄で縛る程度の仕事はしたよ!


俺だってやる時はやるんだから!


 これからの指針がはっきりした為か……。

皆の表情も昨晩よりは、幾分かはましになった気がする。

普段はこの山は、竜が住んでいるとの噂から普通の人は寄り付かない。


 オワルスター伯爵の様に他家の貴族よりも目立ちたい――。

優位に立つ道具としてピクシードラゴンを捕獲して王家に取り入ろう。

そんな輩とかが軍隊を入山させる位らしい。


 ちなみに過去において……。

ピクシードラゴンの捕獲に成功したのは

初代アルステッド1世のみらしい。

今の国王が13世なので在位期間の長い王家でも実に300年前の話らしい。

一伯爵尉であったアルステッド王の娘が、庭先で捕まえたのだとか。


 当時は各国の治安も悪く――。

悪政を強いていた当時の王にアルステッド王が反旗を翻し。

ピクシードラゴンのモチーフを旗印に……。

王家の悪政に不満を持つ市民、農民、商人、他家貴族をまとめあげた。

そうして見事にクーデターを成功させたのだとか。

今でもその名残として、王家の紋章はピクシードラゴンなのだとか――。


 そんな王家にオワルスター伯爵が取り入る為――。

ピクシードラゴンを捕獲?

なんか、しっくりこなかったので聞いてみた。

すると――。

現在の王家は過去の栄光に縋るだけで、民衆の支持も翳っているらしい。

恐らく伯爵が目論んだのは……。

初代王と同じクーデターでは無いのだろうか?


それが皆で話した今回の事件の見解だ。


 元々人望があった初代王家もといアルステッド伯爵――。

それに対し、後ろ暗いオワルスター伯爵。

万が一ピクシードラゴンを捕まえても初代の様にはいかないだろうに。

それともピクシードラゴンに、何か力があったのか?

そう思ったのだが……。

クロによればあれは元々竜の吐く魔素によって生まれた妖精で――。

力は無く愛玩用のペットにしかなら無いらしい。


うちのペットなんか最初は鳴かず飛ばずで、可愛げの無いオウムだったけどな!


そんな事を思ったら、翼でバシバシ叩かれた。

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