第302話 イネちゃんと基地で説明

「えー……なので錬金術師を名乗っている人間?は大陸の人間じゃないということです、はい」

 ということで翌日、イネちゃんはムツキお父さんに連れられて大陸とのゲートが存在しているこの街の基地のオフィス、応接室でお偉いさん数人を前に今までの経緯を、イネちゃんにわかる範囲で説明したのである。

 原稿もなにもあったわけじゃないので、その場で今までの出来事を思い出しながら説明していたため、結構しどろもどろになりつつ、しかも時系列が結構滅茶苦茶ではあったのだけれど必要な部分は説明できたと思う。

「なる程、それでは我々が次に君に言う言葉はわかってもらえるかな?」

「個人的な協力は流石に……というかイネちゃんの運用する武器は地球のものですし、戦うとなると必然的に持ち運ぶわけなので問題になりますよね。その上でイネちゃんのような第3国の、それどころか生まれた世界すら違う人間に介入されるのなんて相手さんが嫌うと思うのですけど……」

「はっはっは、なる程、君の言ったとおり突っ走り気味に勘違いする子だ。何、我々としては大陸側へ協力を要請する時の仲介役になってくれれば十分。この国の法律で言えば君はまだ未成年……いや、数年前に一応成人ではあるのか。ただそれでも私からしてみればまだ十分に子供だからね、子供に責任を押し付けるほど腐ってはいないよ」

 そう笑いながら言って白い髭を揉むような感じに触った。

 なんだ、そういうことならイネちゃんもやぶさかではないけれど……でも1つ、疑問が浮かんでくる。

「でも日本は直接ヌーリエ教会と交渉できますよね?なんでイネちゃんが仲介に入らないとダメなんです?」

「それはね、我々が要請するのは援軍、つまり軍隊を貸してくれという内容だからだよ。しかも派遣先は大陸が国交を持たない国々だから、場合によっては戦争行為とみなされて現地の軍隊から敵とみなされる可能性すらある内容だからだ。日本の同盟国であるのなら、かなり強引だが自衛隊の特殊部隊扱いにすることで回避できなくはないが、残念なことにそうでない国に派遣する可能性は極めて高いのが現状なのだ、となると我々の要求は理不尽なものであると思われて当然……」

「それならとりあえずアメリカを助けてっていう流れじゃダメなんです?」

 集団的自治権の範囲で、大陸と国交がないのはアメリカだけだったはずだし……というかそれで合ってるよね?イネちゃん地球の情勢に関してはあまり自信がないんだけど。

「でも先ほどの君の話しが事実であるのなら、地球の軍備でまともに対抗できる戦力は殆どない。倒せなくはないだろうが、それは対象の国に自分の国に向けて核を使えということと同意だからね」

「……本当に暴れてるのって、スライムみたいな巨大ゴブリンなんですか?」

「でなければ地球人類はここまで苦戦を強いられなかっただろうね、通常兵器で足止めがせいぜい、大国の中には核の使用も試みたが単発ではゴブリンの数が増えて、時間が経てばまた元通りというものだった。それに厄介なことに人間も同時に相手にしなければならない以上そう何度も使えるものではないし、発射位置を特定されてそのテロリストに核施設が襲撃される可能性は否定できないから、大国ほど戦力を割けないのが実情なんだよ」

 うわー……割と核保有国がジリ貧なんだなぁ。

 大陸は核兵器に対してそこまで悪い印象はないし、むしろただの強力な武器認識でしかないけれど、地球では違う以上そうおいそれと撃てる代物じゃないのはイネちゃんだってわかる。

 というかだからこそイネちゃんも大陸以外じゃよほどの状況でもない限りは使わないわけだしね、地球なら余計に使っちゃいけない武器であり、使うにしても確実に反撃を許さない状況で一撃で倒さないといけないわけで……。

 使った国はそれに失敗したことで、余計に他の国が使用を躊躇うっていうのはなんともまぁ……しかもテロリストとゴブリンの合同軍だから、迂闊にゴブリン側に戦力を割き過ぎてしまえばテロリストが核を……っていう堂々巡りをした結果の膠着状態なのか。

「でもアメリカって神の杖とかいう衛星兵器とか、レールガンを作ってませんでしたっけ?あの辺なら多分行けると思いますよ?それとナパーム兵器も多分有効です」

 イネちゃんのビーム兵器で焼き尽くせる感じだったからね、超高温の攻撃なら有効であるっていうのはイネちゃんがシックでの決戦の時に証明してるから、これは自信をもって言える、これくらいしか自信を持てないけど。

「実用にはなっていませんよお嬢さん。それに前者に至っては噂でしかありませんからね」

「そうなんだ……」

 となると取れるのは通常兵器による飽和攻撃で封じ込めて、核で小さくした後にナパームで焼却かなぁ。

 現代の核の威力を考えたらあのゴブリンも蒸発できる気がするけれど……それを自国で、本来人が住んでいた地域に使うっていうのは流石に問題が大きすぎるか。

 会話が少し途切れたところで、ムツキお父さんのスマホの着信音が部屋に鳴り響く。

「失礼」

「構わん、出たまえ」

「ありがとうございま……いえ、どうやら私用のようなので……」

「構わんと言ったのだよ、君の私用ということは恐らく元海兵隊の2人か、サイバーオタクの彼だろう?お嬢さんが帰ってきていて、その上仕事中だとわかっているのに連絡を入れてきているということは、何かしらあったのだろう。君の私用は少なくない割合で大陸が関わっている以上、現時点でその伝手は利用させてもらうだけだ、まだ理由が必要かね?」

「……わかりました、それではここで出ます」

 着信音を鳴らしたこと自体はいいんだ……。

 イネちゃんがそう思いつつも言葉にしないでいたら、ムツキお父さんが電話に出て少し話した後。

「スピーカーにします」

 そう言ってスマホをスピーカーモードにして机に置いてから1拍、無言の時間がすぎてから。

『え、これイネに繋がってるんですよね?』

 スマホからリリアの声が聞こえてきた。

 お昼にこっちに来るみたいなことをゲートを潜る前に聞いていたけれど、もうそんな時間だったのか……思った以上にイネちゃん説明に集中してたんだなぁ。

『あぁ、自衛隊のお偉いさんも一緒だろうが』

 これはボブお父さん。

 というかそんな言い方しても大丈夫なんだろうか……あぁでもイネちゃんが話していた時の印象で言えば、この人はかなり柔軟性があって優しい印象だから大丈夫かな?なんだかんだでメインっぽいのはリリアみたいだし。

「こんにちわ、君は大陸の人だね」

『え、えぇ!?誰……?』

「これは失礼したね。私は今こちらの世界で起きているゴブリン襲撃事件の日本の責任者をしている老人だよ」

 いちいち言い回しがアレだけど、今時地球でスマホを知らない年頃の女の子とかいないから大陸の人間だろうっていうのは推測楽だよね、少なくとも先進国ではないしね。

『あ、これは丁寧にどうもです……ってゴブリン!?』

 あーこれは情報量が多すぎて混乱してるなぁ。

「えっと、なんだったらリリア……電話先の彼女もこっちに?」

「そうですね……大陸の方にも多少なりにお話を聞いていただいたほうが良いでしょうな。迎えに行って差し上げなさい」

 陸将さんがそう言うと扉の近くに居た人が敬礼をしてから外に出ていった。

 ちなみに陸将さんだってわかったのは、今ようやくイネちゃんが階級章を見つめるだけの余裕が生まれただけのお話である。

 それと同時にそんな上の人とイネちゃん割とタメ口してたっていうのを考えなくはないけれど……この人にとって本当に言葉通りにイネちゃんは子供ってことなんだろうねぇ、例えどんな力を持っていたとしても。

「さて、そちらに迎えを向けたからもう少し待っていてもらってもいいかな」

『え、どういうことです?』

「あー……ちょっと地球でゴブリンが暴れている原因がイネちゃん達と少なからず因縁があったというか……そのへんの説明をしてくれるってことだよ」

『とりあえずイネは大丈夫なんだよね?』

「大丈夫だよ、というか来た理由がまずムツキお父さんにお願いされてだから大丈夫だよ」

『じゃあただの協力?』

 んー……協力というよりは。

「情報提供?」

『なんで疑問形なの?』

 イネちゃん自身にもちょっとわからない。

「まぁ、情報提供で間違いではないよ。我々はゴブリンという兵器についてあまりにも知識がなさすぎているからね、少しでもゴブリンのことを、その性質を知っている人に色々聞きたいんだよ」

 ……あぁ、陸将さんリリアを巻き込んでガッツリヌーリエ教会を関わらせるつもりだな。

 いやまぁムーンラビットさんはムータリアスで和平交渉の仲介役をやっている以上は地球に顔を出すのはできたとしてもかなり少ない回数になりそうだからなぁ、その分は多少なりに優秀な人は来てくれる……かな?

 イネちゃんのそんな心配は、実際にリリアが基地のこの部屋に入ってきた時に判明したのだった。

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