第299話 イネちゃんと地球の情勢

「たっだいまーお土産あるよー」

 オワリの町でケイティお姉さんに案内されて、イネちゃんの作っておいたお墓の場所に慰霊碑が作られていたので、そこで村の皆に報告を終わらせた後、ケイティお姉さんの計らいでイネちゃんの生家はギルド管理にしておいてくれたらしく、建物自身の補強はされていたものの殆ど家具とかのレイアウトが変わっていなかったのは、ちょっと嬉しかった……まぁ思い出の品の大半は既にコーイチお父さんの家のイネちゃんの部屋に運び込んでいるのでそのまま慰霊碑の周辺を広場にしてくれてもよかったんだけどね、それは言わないのがお約束と思ったので言わなかったけど。

 まぁともかく村の皆への報告を手早く終わらせて、まだ営業中の店舗部分を避けて、普段からあまり人が入っていないボブお父さんの家の方に帰宅してみたのだけれど……。

「イネ?どうしたんだ、急に連絡もなしで。寂しくなったのか?」

 ムツキお父さんが丁度おトイレから出てきたところに出くわして開口一番ただいまではなくそんなことを言われてしまった。

「新しい異世界で活動してたけど、教会側のミスで更新手続きをしてなかったから、その更新手続き含めて色々やるからって1週間おやすみになったんだよ」

 手続きのミスが直前に判明したからね、ムータリアスから地球に連絡するのも結構大変だし。

「あぁそうか、そういえばそうだったな……その世界ってどんな世界なのか話しても大丈夫なら、お茶でも飲みながら聞いてもいいか」

「うーん、それなら晩ご飯の時に全員揃ってからでいい?」

「長くなりそうなのか……まぁそれならそれでいいな。じゃあ知らせてくるから、イネは荷物降ろして休んでおけ」

 そう言うとムツキお父さんはそそくさとパン屋の方へと駆け足していった。

 さて……イネちゃんも荷物降ろしてちょっと身軽になってからお部屋のお掃除しないといけないし、せっかくの地球なんだからお買い物だってしたいしでやることいっぱい……あれ、肉体的に休めてない気がする。

 まぁ今回は精神的に休養するのが目的ではあるし、色々警戒しなくていい生活は貴重だからそっちを満喫しようかな。

「イネぇぇぇぇぇぇ!おかえりぃぃぃぃぃぃ!」

 マントを外して外套掛けにかけた直後に、まだお店で接客しているはずのコーイチお父さんが抱きついてきた。

「コーイチお父さん、ちょっと……仕事は?」

「時間的に丁度客が引く時間だから問題ない!仕込みももう終わってるからなあぁ久しぶりのイネ分補給だぁぁぁ」

 むぅ以前は他に人がいたから我慢してたのだろうか、その反動ですっごく抱きついてくる……懐かしいけれどこれはちょっとイネちゃんまともに休めないので心苦しいけれどクリティカルな一言をコーイチお父さんに言わなければいけないな。

「コーイチお父さん、ちょっと離れて、うざい」

 大変心苦しくなるものの、この一言はお父さんたちには大変有効なのである。

 まぁ……このあとの展開もそれはそれで面倒ではあるのだけれど、そっちのほうはいつでもやってあげれるのでごめんね、コーイチお父さん。

「い、イネが……うざいって……」

 あ、これ予想以上にクリティカルしちゃった。

 うーん、ここまでクリティカルするとリカバリーするのに結構時間が必要になっちゃうんだよなぁ、一応1つ手段がないわけでもないけど……イネちゃんの年齢でそれをするのはちょっと抵抗感があるわけでね、うん。

「えっと……今日、一緒に寝ても……いい?」

 流石にお風呂はダメだと思ったので添い寝のほうで。

 正直これでも結構なことだと思うんだよなぁ……義理の18歳の娘と添い寝しないと落ち込みすぎる四十路の男っていうのも大概だよねぇ、ちなみにコーイチお父さんたちはムーンラビットさんが好きそうなそういう流れは全力で否定するし、昔1度聞いてみたところ声を揃えて『それはない』とハモられたのでそっちの心配はない。というかあったらこんな提案してない。

「……やったぁぁぁぁぁぁ!よーし、お父さんお仕事頑張ってくる!」

 本当現金だなぁ。

 でもまぁ、それだけイネちゃんを大事にしてくれてるってことだし、たまには育ての親孝行もしないといけないね。

「なんだありゃ……それはそうとイネ、おかえり」

「ただいまボブお父さん。こっちは相変わらず平和?」

「あー……どうなんだろうな、既に退役して予備役の俺とルースはいいが、ムツキの奴は久しぶりの休暇みたいだし、結構慌ただしくなってる気がするぞ」

 ん、なんでボブお父さん予備役とか持ち出してたりムツキお父さんがあまりに忙しいって言ってるんだろう……。

「もしかして色々情勢不安定?」

「ニュースを見ればわかるさ、落ち着くついでに見ればいい」

 ボブお父さんはそう言ってテレビのあるリビングに向かってテレビをつけた。

 時間的には確かに、お昼のワイドショーの流れからの夕方ニュースの時間に差し掛かる頃だけれど……こんな時間にやってるのかな?

 イネちゃんはそう思いつつもマントをかけてから中に着込んでいた防具も外してからリビングに入ると、緊急番組とかでお馴染みのL字の情報テロップが表示されていてテレビの映像には破壊された建物と銃声、そして獣のような咆哮が流れていた。

 まぁ流れていたとは言っても、日本だと色々あって現場の映像はモザイクがかかったり、そもそもそこから距離のある場所でしか撮影できないからショッキングな映像とは言い難いものだったけれど、それは十二分に非日常を伝える役割を果たしていた。

『現地ワシントンには未だ戒厳令が敷かれており、アメリカ軍が出動して事態の収拾にあたって……』

 は?ワシントン?ワシントンの建造物がなんでこんなボロボロなの?

『突如世界中に化物が現れてから1週間、この混乱は広がりを見せる一方で一向に収まる気配を見せておりません』

「まぁ、こんな調子だ。幸い日本には現れていないから俺たちは無事なんだが……」

「いや世界的な危機じゃないのこれ?」

「そうだが、まだ国籍を変えてなかったルースにすら軍への復帰要請が来てないからな、動きようがない。ムツキが一番情報を持っているんだろうが、機密範囲だろうからな」

 1週間前からってことだし、全体的にまだ情報がわかってなくて当然だと思うけれど……これはお買い物とかやってる状況じゃないかな。

『ここ1週間で化物が現れていない国も既に難民を受け入れるにも限界が見えつつあり、混乱は更に大きくなりそうですが……でも不思議ですよね、ここまではっきりと化物が現れた国とそうでない国が分かれているのは』

 そう言ってアナウンサーの女の人がフリップを出すと、化物が出現した国とそうでない国がひと目でわかるようにされたもので、大陸と繋がるまでのあいだ大国と呼ばれていた国には基本的に現れているのだけれど、どうにもその大陸と国交のある国には出現していないようにイネちゃんには思える。

『異世界との交流のある国には出現していないことから、あちらからの攻撃ではないかという人たちもいますが……』

『それなら繋がった直後、あちらを攻めた国が既に国際の場で散々痛めつけられましたから可能性としては低いと思いますね、そして有識者の1人として交渉の場に参加させていただいた時に感じた印象では、むしろ今回のような奇襲を行う人達ではなく専守防衛である点と、降りかかる火の粉に関しては全力で反撃をするということも明言なさっていましたからね』

『ですが、全ての人がそうではないのでは?』

『当然ではありますが、それならそれで彼ら全体をそれだと断じることもできませんからね』

「まぁ、ここのところテレビはずっとこれだ。コーイチが言うにはネットのほうもお祭り騒ぎというか、色々錯綜していて正確な情報を掴むのは実質不可能って感じらしいがな」

「いや落ち着いている場合じゃないよね……普通に世界的混乱で戦時みたいな感じなんだけど」

「むしろこういう時だから現れていない国の連中は落ち着く必要があるんだよ。でなきゃ難民の受け入れのようなことはできないからな」

 帰ってきて早々にとんでもない情報を仕入れてしまったイネちゃんとしては、割と落ち着けるのか不安になってきたのですが……。

「ま、物流に関しては確かに悪くなってるし、物価も上がってるが今日から緊急処置で色々対応できてるらしいから安心しとけ。それに衣食に関しては大陸に頼れるからそっちが崩壊する心配もないしで案外落ち着いているもんだぞ」

「あぁそれなら確かに安心……でもない!お買い物しようと思ってたのに!」

 これじゃあリリアが来ても満足にお買い物とかできないのは本当に辛い……。

 大陸は一次産業部分と一部の資源に関しては取引材料にしてるらしいから、こういう事態になると取引しているってだけで干からびる心配がなくなるというのは大変強いよね。

 もしかして難民、大陸に流されてたりとか……日本の土地を考えたら有り得ない話しではないと思うのだけれど、そういう結構重要そうな取り決めってムーンラビットさんがやるだろうし流石にないかな!……ないよね?

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