第245話 イネちゃんと方針会議

「イネ!」

 防衛戦の翌日、まだ戦う意思を見せていた人たちを捕虜としてイネちゃんが作った急造の洞穴に押し込めてから大聖堂に向かったイネちゃんはリリアと再開した。

「あれ、まだ巡礼の途中だったんじゃ……」

「うん、でもなんかばあちゃんの部下の人がシックに来いって。私もちょっとわかってないんだよね」

「おーイネ嬢ちゃんも戻ってきたしちょっとだけ今後のお話するから2人とも会議室に来てくれなー」

 ちょうどそこにムーンラビットさんがイネちゃんとリリアを呼びに来た。

「ばあちゃん、私まだ巡礼の……」

「うん、そのことについても話すかんな、今回の件で情勢も色々変わったしその影響でな……ってこれは会議室で皆いる場所で続きな、そっちのが何度も説明しなくてええし」

 うーん、情勢が変わったのはわかるけれども、なんでリリアの巡礼とかに影響があるんだろう。

 それもついて行って会議室でお話を聞けばわかることかな、まぁその時になればでいいよね、今聞いても同じこと何度も聴くことになるだろうし。

 リリアも同じことを思ったようで、質問を途中で止められたにも関わらず黙ってムーンラビットさんの後ろについて行ってる。

 しかしまぁお話ってなんだろう、ヌーリエ教の巡礼を考えたら途中で切り上げっていうのはあまり考えにくいしなぁ復興や地域活性の意味もあるもの。

 それを切り上げてまで呼び出すだけの理由が、シックを直接攻めてきた異世界との間との話し合いであったとするのならイネちゃんにだって理解できるし納得もできるのだろうけれど……。

『今は考えても憶測でしかないと思うけどね、考えちゃう気持ちもわかるけど』

 イーアも似たような考えしてるのに……ともあれ実際なにもお話を聞かないうちはどうしても憶測にしかならないからしょうがない、なんの情報もないから考えちゃうっていうのも確かだし。

『いっそのこと今日のお昼ご飯とか考えたらどうかな』

「あ、それいいかも。リリアもシックにいるってことは美味しくて暖かいものが食べられる可能性が高いしすごく楽しみになってきた」

 昨日はトータで店屋物だったし、リリアのご飯を食べたのは一昨日ぶりなんだよね、昨日の起きた出来事が割と密度が濃かったせいでもっと長いあいだ食べてなかった感覚にはなってるけれども。

 あれも食べたいなーと思いながらムーンラビットさんの後をついて行って会議室に入るとそこには、ココロさんにヒヒノさん、それにササヤさんや教会のお偉いさん勢ぞろい、そして何故かロロさんとカカラちゃんまで席に座っていた。

「お待たせよー、イネ嬢ちゃんが連中の拘留を済ませたタイミングで一緒に連れて来たんよー」

「ムーンラビット様、何故このタイミングに全体会議を?」

 この質問はイネちゃんが知らない人、どうも大司祭さんであるタケルさん……で名前合ってたよね、それと奥さんは流石に事情を知っているのか当然みたいな表情で流れを見ている。

「単純なことよ、流石にここまでやられたのならあちらさんの世界まで誰か行かないといけないやろ、そのために誰がふさわしいのかっていうのを決める会議をする必要があるわけよ」

 あ、イネちゃんもうわかった。

 リリアが巡礼を切り上げてこの場に呼ばれてるってことは絶対リリアが行くってことだよね、うん。

「仰ることはわかりますが少々時期尚早では?」

「情報が足りないって言いたいんかい」

「はい、勇者2名が無事に帰還し、あちらの情勢などは多少なりにわかりましたが不明な点も多いすぎます。あのようなゴブリンを複数用意するような害意が存在するということでもありますのでリスクのほうが大きいと私は思います」

 おぉ、臆病というより慎重と思える意見だ。

「まぁそれは確かにな、私も流石にあれを御するにはちょい時間がかかりそうっていうかかかったわけやし、私の部下でもまぁリスクのが高くなるな」

「でしたら……」

「だからこそと言うことも、できるんよ?」

「……では誰が向かうと仰るのですか。それこそムーンラビット様本人か、タタラ様のようなお方でなければまともな活動すら難しいでしょう」

 そこでタタラさんの名前が出てくるあたり、タタラさんも大概おかしいレベルの能力を保有……してたか、ロロさんの故郷の食糧事情を半日で解決できる人だったわ。

「最低限の活動なら大丈夫だよ。ねぇココロおねぇちゃん」

「そうですね、あちらの修道会とは比較的友好的な関係にはなりましたので、今回私たちが戻ってくる際に使用したゲート付近の土地の利用の約束はしていますので、多少のリスクを飲めば村の規模ですが拠点を作れるとは思いますよ」

「そのお約束は信用できるので?」

「大陸に迷惑をかけたお詫びという形ですので、最悪でもゲートの管理はできるかと思いますよ」

「それは……本当に最低限ですね」

「まぁ私たちじゃムンラビおばあちゃんみたいに頭の中を見れるわけじゃなかったし、口約束だったのは確かだからわからないでもないけれど……その修道会の子をこっちが保護してるってのも忘れちゃだめじゃないかな」

 ヒヒノさんの言葉で会議室にいる人たちの視線が一斉にカカラちゃんに向けられる。

「え、え……?」

 いやまぁヌーリエ教会には珍しく堅苦しい雰囲気の場所で急に自分に視線が集まれば困惑するよね。

「カカラお嬢ちゃんに橋渡し役をしてもらうことで、多少はこっちの考えも理解してもらえると思うしな、まぁそのへんはココロとヒヒノが最低限は済ませてくれてるが、それでも反発は残っていたらしいかんな」

「わ、私にそんな大役を!?む、無理です!」

「無理もなにも、ゴブリン製造工場の監査を行うくらいには権限持ってたんやろ?へーきへーき」

「私は監査隊の1番下っ端の新人で……そんなの無理です!ちゃんと説明しましたよね、私!」

 あーカカラちゃん、かなり打ち解けてるなぁ……この状況じゃなかったらもっと笑い話とかできそうな感じはするねぇ。

『イネ……どこかおばあちゃんみたい……』

 いやでも感慨深くないかな、最初に助けた時と比べたらあれだけ声を荒らげて自分の意見をしっかり言えるようになってるんだよ?

『わからなくはないけどさ……』

「まぁ大陸からはちゃんと単独戦闘能力が高い人間を出すから安心してええんよ、何か処罰されそうになったらその子の後ろに隠れればええかんな」

 イーアとカカラさんのことで会話してたら何やらムーンラビットさんの会話の流れがイネちゃんにとってはちょっといやーな流れになってる気がする。

 いやだってさ、ココロさんとヒヒノさんは絶対長期間別れて行動しないしさ、ササヤさんは重鎮だし、ムーンラビットさんはもってのほか……となると私になりそうな気がするんだよなぁ、ムーンラビットさん教会じゃなく大陸って言ってるし。

「というわけでイネ嬢ちゃん、教会からの依頼って形でええからお願いできないかね」

「うん、まぁ文脈的に察していたけどさ、ムーンラビットさん、ヌーリエ教会じゃなく大陸って単語選んでたし」

「おぉ、ぼーっとしてた割にはちゃんとお話聞いてたんやねぇ。一応他にもヨシュア坊ちゃんにもお願いしてるから、行き来が自由にできるまでの期間の対応ってことでお願いしたいんよ」

 うーん、でも1度日本に帰りたい気もするんだよなぁ。

 少し前にジェシカお母さんのこと思い出して少しだけホームシックになってるし、少し政治系のお話になるだろうしで鋭気を養っておきたい気はするんだよねぇ。

「む、イネ嬢ちゃんお疲れか……」

「当然でしょばあちゃ……ムーンラビット様、イネはずっと私の巡礼に付き添ってくれていたし、戦闘の時は毎回最前線だったし……いくらダメージが殆どないって言っても精神的なものは磨り減っちゃうよ」

「と、いうわけでヌーリエ教会からはリリア、特使としてお願いできるかね。巡礼を切り上げた分、最終試験としてあちらの世界での拠点構築とするんよ」

 あ、リリアが空いた口がふさがらない感じで止まった。

 イネちゃんとしてはムーンラビットさんがイネちゃんを氏名した段階でちょっと予想してたから大丈夫だけど、リリアはそうじゃなかったっぽいね。

「修道会にも派閥があるようですが、まぁカカラさんがいるのでしたら大丈夫でしょうね。仲間意識は高い方達でしたので」

 ココロさんが情報をくれた。

 なるほど、だからこその選出かな、万が一の時はイネちゃん、通常時の交渉はリリア、橋渡し役としてカカラちゃんで、あっちの世界で生活していたヨシュアさんは全体サポートかな。

「まぁ他にも私の部下を1人付けるし、なんだったら今までの他の面々も自由に選出してええんよ。実質的に新規開拓と同じような労力が必要になるかんな、人数は少し多めくらいで問題ないと思うんよ」

 基本的なメンバーは既に決めていて、それ以外の人事は当事者任せなのか……。

「あ、予め言っておくが、私やココロとヒヒノは除外してな。できればササヤとタタラも除外してもらえるとありがたいんよ。まだあちらさんの敵対勢力がこっちに攻撃してこないとも限らんし、防衛戦力は多いに越したことはないかんな」

 そう言うとムーンラビットさんは言いたいことは言い切ったって感じに椅子に深く座った。

「ま、今すぐ出立しろとは言わんのよ、メンバーの選出に時間は必要やしな。ただまぁできるだけ早いほうがええっていうのも覚えておいてくれたら嬉しいんよ、この手のことは結構時間が勝負なところも、あるかんな」

 あぁうん、これはイネちゃん、一時的な帰省もちょっと難しいかなと思ったところで会議は一旦休憩をとることになった。

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