第244話 イネちゃんとビーム兵器

 大聖堂に叩きつけられる瞬間、イーアが大聖堂側の強度を操作してくれたのか、幸いにもそのまま大聖堂内部に入って追撃を逃れる形に……って私が叩きつけられた部分もイーア、修復と強化をしてくれたのか、ありがと。

『もうこっちは任せてもらっていいから、イネはさっさと完成させて!』

「わかった、じゃあちょっと体の動きもイーアに任せる。完成と同時にあいつを撃てる位置まで移動してもらっていいかな」

『わかったから、ほら集中!そういう架空兵器に関してはイネのほうが好きだったんだから!』

 そう言ってイーアは私の体を動かして……っていうのも変だけれど、普段は私が主導権を持っているので便宜上こう表現する。

 趣味趣向の方向は似ている感じではあるけれど今イーアの言った通り少しばかり違っていたりするんだよね、私はコーイチお父さんの持ってた創作物に興味を抱いて、イーアはステフお姉ちゃんの持っていた論文とかに興味を抱いた。

 まぁおかげで両方の知識が蓄えられたのだけれど……って今はそんなこと関係ないって、重要なのはこのビーム兵器をまともに完成させられるだろうは私のほうだってことだけ。

 普段とは立場が逆な形ではあるけれどイーアと自由にやり取りできるようになってからはいつでも交代できるように練習してたのが役に立つ時が来たってわけだ。……実際にやるときが来るとは思っていなかったんだけどさ。

「ともかく外が見える場所に移動する……それとあちらさんが攻撃しにくい場所!」

 あ、これはイーアの発言。

 体の主導権を交代してると外と会話できるのも変わっちゃうんだよねぇ、まぁお互い他の人と会話するときは同じ感じになるからよほどじゃないと気づかれないんだけどさ、リリアとかみたいに頭の中見れるって人は例外だけど。

 ともかくイーアが体を動かしている間、私は武器の生成に集中する。

 大部分は既に完成してはいるものの吹っ飛ばされたときにせっかく作った弾薬カートリッジが外に残ったままなんだよね、改めて作らないといけないけれどある意味1番時間がかかる奴だから大変。

 いつもならコピペでいいのに架空武器だからかコピペがうまくいかないんだよなぁ、なんでだろう。

『物理法則が違うものですからね、そこは難しいんです』

 あ、ヌーリエ様説明ありがとうございます。

『ですけれど再現はできますので……本来ならその物理法則の世界とアクセスすればイネちゃんが楽できるのですけど、少々特殊な世界ですしごめんなさいです』

 いやまぁビーム兵器が量産できちゃう世界だろうし迂闊に繋げるのって危険しかないと思うから別にいいです。現状で再現できるんだし私しか使えないっていうのならセーフティとしても最高レベルだから奪われても平気ですしね。

『そう言っていただいてありがとうございます』

 でもまぁ楽ができるっていうのは勇者の力を使ってると感覚でなんとなくわかるんだけど、どうも物理法則も吸収適合させて大陸に合わせて調整されるっぽい。

 そうなるとコピペが楽になるんだけど同時に大陸と日本みたいにゲートが開きやすくなっちゃうみたいで……流石にビーム兵器で攻めてこられたら勇者とササヤさんしか対応できなくなっちゃうからね……あぁ後夢魔の人たちか。

「イネ、集中して!」

 怒られてしまった。

 一応1度作ったから生成に時間がかかるだけで、会話程度なら問題ないよ。

「うぅ……前練習で交代したときよりも体の反応が敏感で……うっかりすると壁に激突しちゃいそうで私は怖いんだよ……」

 そこはまぁ、いっそぶつかってもいいやと思えば大丈夫だよ。

「こんなことなら私も運動しておけばよかった……」

 いやお父さんたちの訓練の時は交代できなかったし仕方ないよ、ゴブリンに襲われる前は本を読むほうが好きだったわけだし、イネちゃんも運動は嫌いじゃない程度だしね。

 ゴブリン憎しで訓練に耐えられたところは少なくないわけで……いやまぁそれがあったからこそお父さんたちの持ってる技術の基礎はあらかた吸収できたんだけどさ。

「イネ、あそこから撃ち下ろす形でいくよ!」

 イーアがそう言った場所は、以前私がシックに運ばれて眠っていた場所……よくよく思えばあの時は勇者の力はそんなに使えなくって、イーアとの連携もあまりうまくできなかったんだよなぁ、体の限界を超えて動くし、脳のほうも割と無理してたから。

 それが今ではイーアと交代しながら超常の力まで行使しているまでになっている。

「イネ、着いた!交代するよ!」

 イーアの言葉と同時に体の主導権は私に戻される。

「うん、ちょっと感慨に浸りたいところだけれども……今はアレを消し飛ばすのが最優先だよね」

『弾は?』

「できてる。一応予備も5発」

 既に完成していた本体にカートリッジを填めると、ほぼ真下で大聖堂の壁を叩いているゴブリンに銃口を向ける。

『イネ、やっちゃえ!』

「ゴブリン……絶対に落とす!」

 引き金を引くと銃口の少し前の部分で重金属粒子が縮退を始め、その直後に発射される。

 放たれたビームは加速してゴブリンを頭に直撃し、そのまま貫通して地面まで止まることなく突き進んで、地面に当たったところで衝撃となって周囲の麦を燃やした。

 ちなみに縮退に関しては勇者の力で無理やり金属を超高密度圧縮して熱を発生させ、縮退させたんだけど……本当にこんなやり方で再現できてしまった。

『私がそうなるようにちょっとお手伝いしましたので……』

 ヌーリエ様の仕業じゃった。

 ともあれまだゴブリンの残骸が確認できているし、残った部分が集まっているのがここからでも確認できているからカートリッジを交換して次弾を発射する。

 1度コツを掴んでしまえば使用に関しては楽だなぁ……カートリッジの生成に関しては時間がかかるけれども予め作っておけば周囲への影響を考えなければ間違いなく今まで私が保有していたどの武器よりも強力と言えるかもしれない。

 まぁ直前にデイビークロケット使っておいて何言ってんだっていろんな人に言われるかもしれないけれど、武器の使用用途が違うからこれに関しては一概には言えないけれども周囲への影響度合いと合わせて比較的気軽に使えるという点から、このビーム兵器はかなり強力なんだよね、核と違って影響少なめだし。

「念のためもう1発……っと」

 3発目のビームをゴブリンだったものに向かって撃つと、地面に着弾と同時に先ほどのものとは比べ物にならないほどの爆発が起きた。

『吹き飛ばされたときに落としたカートリッジに当たったのかな……』

「いや当たっても流石にこんな爆発になるわけがないはずなんだけど……縮退しないし……」

「私だよ!」

 とベランダの欄干……ここベランダでよかったよね?結構な高層にいるのに真横から超えが聞こえてきたんだけれど……。

 声がした方向へと視線を移すと、そこにはラスボス風味な衣装に身をまとったヒヒノさんが空中に浮いていた。

「お待たせ、市街地のほうが思ったよりも時間かかっちゃったよ」

「一体どういう攻撃したんですか、かなり派手に爆発したみたいなんですけど」

「あのゴブリンの存在概念を特定して固定化して焼失させただけだよ、その炎がちょっと派手に見えるだけ」

 ……概念燃やすとか私の火力なんて目じゃなかった。

「私だってココロおねぇちゃんの力がないとこんなピンポイントになんてできないからね」

「いやなにも言ってないですって……それよりも市街地からすぐこっちに?」

 ヒヒノさんは首を横に振って。

「ううんイネちゃんのところが最後。でもあの攻撃すごかったねぇ、もしかしたら私の援護はいらなかったかな」

「これでも1度吹き飛ばされて大聖堂の中に入っちゃってますから……むしろ1人だと色々と守れなかったかも」

 ヌーリエ様におんぶに抱っこだったからなぁ、今回。

 よもや架空兵器であるビーム兵器まで持ち出すハメになるとは思っていなかったし、核兵器まで使ったのに倒しきれなかったっていうのは完全に想定外だったんだよね……伊達に最終兵器を名乗ってなかったってことなのかなぁ。

「ともかく相手はあのゴブリンが倒されたことで大半が戦意を喪失したから、停戦の勧告をササヤおばちゃんが今やってくれてるよ」

「単独でアレと戦える人が歩いてきたら相手ビビりそうだけど……」

 でもそうか、この訳も分からず始まった戦いが終わるのなら私としては相手がビビったとしてもどうでもいいことだし、これ以上人が傷つけられないのならどちらにしてもいいことだもんね。

「それでイネちゃんにも事後処理ちょっと手伝ってもらいたいんだけどさ、ほら、まだ戦う気でいる人もいたりするし」

「事後処理ってそういう使い方じゃ……まぁいいですけど」

 こうして、唐突に始まった気がするシックでの防衛戦は一応の終わりを見せた。

 まぁ、1番面倒な部分が残ってはいるけれども、そこはイネちゃんが対応しない部分だし区切りがついたことで、今後ゴブリンの数が減ったりしてくれるのかな。

 そんな期待を抱きながら、ヒヒノさんに運ばれる形で地上へと下りたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る