第218話 イネちゃんと戦争準備
「まぁ出て行く直前に聞こえていただろうがイネ嬢ちゃん、すまんが居残り組で頼むな。村人を一時避難させるためにちょっと転送陣組んで逃がすから耐えてて欲しいんよ」
使節団が帰っていくのを見送ってからムーンラビットさんがイネちゃんにそう言った。
「いやまぁ多分そうなんだろうなって思ってたけれど、まさかイネちゃん1人?」
「一応ルール決めとその周知のためにあちらさんが来るまでの時間を長引かせたけどな、そこは伊達にトップダウンの国じゃない感じで翌日とか言い出してな、集会場を避難所にして転送陣で逐次シックに逃がす予定やけど家財も守らないといけないのがヌーリエ教会の辛いところよな、一応思い出の品だけに限定しはしたけど悶着しそうやし……半日持たせてくれればええから」
「それってデッドオアアライブでいいの?」
「できればアライブオンリーでな、まぁ相手の出方次第では仕方なしよ」
うー、それでも結構ヘビーな内容だよねぇ。
いくらイネちゃんが相手の攻撃を全部無力化できるって言っても半日の間単騎で万の軍勢を相手にしなきゃいけないってことだもんね。
「正直悪いとは思ってるのよ、一応私の部下数人と、ギルド側から防衛要員出してくれることになってるんで、後ろは気にしなくてもいいし、半日時間を稼げば私が戻ってくるかんな、そこで1発で終わらせるんよ」
「うん、どのみちイネちゃんが半日粘らないといけないわけだけど……流石に村の全方位から来る大軍相手だと殆ど止められないよ?」
ササヤさんならできるかもしれないけれど、少なくともイネちゃんは少し難しいと思う。
いくら後方の防衛はしっかりしているとしても万単位の軍勢が抜けちゃったら守りきれないだろうし……かなり不安。
「そこは愚策ではあるものの、傭兵をヌーリエ教会名義で雇うことになったんで来れる奴から逐次援軍にって話しやな。まぁ今回は攻めじゃなく防衛やし逐次でもそこまでの愚策にはならんからな」
「むしろうまくローテーションできればいいかも……でもそれって大丈夫なのかな防衛に穴があいたりしそうだけど」
「そこは夢魔で対応するんよ。どうしても手が足りなくなりそうならやりたくない手段ではあるが敵さんを利用させてもらうかんな」
「利用って……あぁそういう」
そういえば夢魔の人たちってむしろそっちが本職なんだったっけか。
普段そっち系のはからかう感じの言動しか見てなかったから失念していた……いやまぁ先日リリアがその片鱗を見せた気もするけど、あの時夢魔のお姉さんも慌ててたくらいだから普段どれだけやらないのかってことだよね。
「ま、よほど相手さんが頭の悪い攻め方しなけりゃだな、さっき決めたルールでは村への直接転送は禁止としたが守るかどうか怪しいところやし。ルールを破った場合相手のお偉いさんが何を言ってもその件を武器にして交渉を進めさせてもらうんよ。それこそ相手が滅びる可能性がある内容だろうがな」
「でも実際滅びないようにはするんでしょ」
「一応そうしたいが、あくまで保護は民間人優先にする感じで実際1度滅びてもらうことも考えているんよ。命を大事にしない奴は死ねって奴やな」
「なんだかその矛盾っぽい言葉、どこかで聞いたような……まぁ戦争ってルール外の曲芸で勝負するってことが多いから、警戒には越したことないよね。その上で破った場合のあれこれとか」
破ったほうが得するルールって、勝てば官軍で皆破っていっちゃうからね、ムーンラビットさんの言ってることは理解できるけれど、イネちゃんとしてはやっぱりちょっとモヤモヤはする。
「イネ嬢ちゃんはあくまで正々堂々、1対3万をしてくれればええんよ。その際にどんな武器を用いるとかは禁止事項ないしな」
「いやイネちゃんそんな非人道的な武装とか……」
あぁMINIMIなら虐殺でXM109ならミンチより酷くなるか……それに焼夷グレネードとかも生きたまま燃やすとかも場合によって非人道になったりするっけ、火炎放射器とか基本的に禁止兵器だった気がするし。
「思い当たったようやね、今回は正直使うこと考えたほうがええかもな、流石に多勢に無勢にはならんとは思うが、それでもイネ嬢ちゃんの武器だと息切れするやろ」
「弾薬が必要だから、うん。だから斧とか剣で最終的には対応するつもりだけれど」
伐採する時に使っていたあの力を使えば刃こぼれとか人の油で劣化することはないだろうし、何よりイネちゃんの知りうる限り頑丈にしていけるからね。
実際分子構造とか分かれば創作上の物質もできそうだし。
『できますよ。ヒヒイロカネとオリハルコン、アダマンタイトの大まかなものをお教えしましょうか?』
いや神様が急に会話に混ざってきて神話物質を軽い感じに教えてくれるとかいろんな意味で怖いんですけど。
「あぁでもイネちゃん、分子配列とかよくわからないけどダイヤモンドとか鉄とか使えたんだけど、あれってどういうことだろ」
解説役になってくれるヌーリエ様がいるのなら丁度いいし聴いてみようと思い、聞いてみると。
『どんな性質を持っているのかが分かれば使えますよ。あまりに曖昧になりすぎたりすると使えませんが……それよりも今はあちらの世界の様子とココロちゃんたちとの連絡手段をなんとか作れたことを伝えにきたのです』
「お、ということはアレか。あれ、私も最近見てないんでちょい見たいなぁ」
「いや割と驚愕の事実を連続された上にムーンラビットさんは懐かしまないで?イネちゃんにはまったくわからないからね」
『あぁ私が遠くに連絡する際に用いる子機みたいなものですので、気にしないでも大丈夫ですよ』
神様の子機って……地球の神話とかで言えば天使とか天女とか、そんな感じを想像しちゃうなぁ。
「ま、そのうち見る機会もあるやろ……と、忘れる前にココロとヒヒノに伝えて欲しいのがあるんやけど……」
『はい、略奪者の人のことですね。ちゃんと伝えてますので安心してください。やりすぎないようにとも言っておきますけど』
あ、ココロさんたちは大丈夫どころか異世界の最強でも更新しちゃった感じの大暴れでもしてるのかな、今の言い方だと。
いやでも確かココロさんたちが大暴れしたから異世界の人たちが攻めてきたんだったっけ……うーん、卵が先か鶏が先か、まぁどっちにしろ貴族さんが悪いのは間違いないんだけどさ。
「じゃあとりあえず頼むんよ。相手の補給線を断つだけでもええし、可能なら1度戻ってくるようにって言っといてくれな」
『分かりました、それでは私は1度世界の壁を安定させるため少し頑張ってみます。もしかしたら子機をこの世界でもつくるかもしれませんね、イネちゃん少し楽しみにしてくれてもいいかもです』
「それは見るときには世界がちょっとまずいことになっているのでは……」
イネちゃんがそうツッコミを入れたところでヌーリエ様の気配は消えてしまった。
「はっはっは、それじゃ私は転送陣を組んでくるんで、イネ嬢ちゃんは戦闘準備しといてくれな」
ムーンラビットさんもそう言って集会場に戻っていってしまった。
「これは、うん。今後結構な面倒を押し付けられたというか今後なりそうというか……」
思わず独り言を漏らしてしまったけれど、文句を言うべき相手がもうこの場にいないしどのみちやらなきゃいけないので仕方なく準備を始める。
しかしながら出来るだけ生きたまま、状況次第でデッドオアアライブとなると最初から距離がある状態で使わないといけないMINIMIやXM109に関しては今回も使えそうにないかなぁ、どっちも分解してお掃除するから一通りの構造は理解しているけれど……今のイネちゃんの力の練度だと流石に再現は無理だよね。
今のイネちゃんではせいぜい伐採の時にやってた程度……あぁでもこれってもう後は応用なのかな、もしかしたらP90の弾頭の材質とか変えたりできるのかも。
伐採の時に斧の材質を鉄から鋼に変えてダイヤモンドを塗布してって感じだったからなぁ、まぁ力を止めたら元に戻っちゃったから、弾丸に関しては無理なのかもしれないけれど……試してみる価値はあるかな、弾の貫通力を高めるだけでも結構殲滅力上がるだろうし。
問題はその変更する材質って劣化ウラン弾になっちゃうだろうってことくらいか、被爆云々で非人道兵器認定されてるのに使っていいのだろうか……こういう時相手がゴブリンなら躊躇いなくやるのになぁ、今回は絶対人が来ちゃうだろうから使わないほうが無難だよね。
となるとイネちゃんにできる準備は殆どないなぁ、鹵獲を回避するために寝台車両から集会場に運んでおくくらいかな。
「イネ、何か手伝うことってあるかな。私は戦うことできないしそこ以外で何か手伝わせてよ」
丁度リリアが集会場から出てきてイネちゃんのことを手伝うと行ってきてくれた、弾薬ケースくらいはリリアでも運べるし、ここはお言葉に甘えておこう。
「うん、じゃあ鹵獲されないように寝台車両に乗ってるイネちゃんの装備、集会場に運ぶの手伝ってもらっていいかな」
イネちゃんがお願いするとリリアはとても嬉しそうな顔をして運ぶのを手伝ってくれた。
さて、今のこの慌ただしいけど平和だった時間、短かったけれどイネちゃんの頑張りでどれだけ守れるかだね、自信はないけれどもイネちゃんのできる範囲で復興しつつある村の人や建物はなるべく守らないと……。
このイネちゃんの決意は、相手の大軍を見たときに吹き飛んだのはまた後のお話。
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