第176話 イネちゃんとゴブリンの出生

「えー……身内と重要なポジションについている人たちに集まってもらったのは他でもなく、ゴブリンについてのお話で新しいことがわかったためです。残念なことにこの停滞した状況を突破するものではないけれども、世界的にみれば状況はかなり進展しそうな内容です」

 カカラちゃんが落ち着いて、ロロさんに頼んでギルド長さんにリリア、トーリスさんとウェルミスさんを起こして来てもらって、皆が集まったところでイネちゃんは話しを始めた。

「かなり重要そうなのは分かるが、その情報を伝えたところで俺たちは目の前の問題を解決しないと助からないんじゃないか?」

「いや助かるだけなら問題ないと思うよ、イネちゃんが殿になって皆で転送陣を使ってシックに行けばいいだけだから。ただそれは町を捨てるということにほかならないから、選択肢から除外してるだけで……」

「トーリスのことはいいので勇者様、続きをお願いします」

 ウェルミスさんがそう言って話しの続きをと促してきた。

 うん、話が早いのはすごく助かるよね。

「それはゴブリンが異世界の人工物で、大陸に廃棄されていた。ということがわかったんだよね、ただまぁ確証ではないから、今後はムーンラビットさんに調査してもらうことになるとは思うけれど。今はあっちの……異世界あ2つでちょっとややこしくなるからゲートで繋がってるほうは日本って呼ぶね、ムーンラビットさんは日本に行ってるから、通信魔法でシックやギルド全体に伝えてもあまり進まないのも事実ではあるけど」

 不確定な情報ではあるのだけれど、大陸の常識を知らず、日本の人間でもないカカラさんの情報である点がイネちゃんとしては重要度が高いとした理由でもある。

 まぁそこを説明し忘れてるから当然……。

「その情報の出処と信じた根拠を教えてくれ、それがわからにゃ大量にある適当な説の1つと思うしかないぞ」

 ギルド長さんの言葉にリリア……だけじゃなくさっきカカラちゃんの口から直接聞いていたロロさん以外の人が全員首を縦に振っていた。

 気持ちは大変よくわかる、イネちゃんが説明不足だっただけだしね。

「ロロ、同じ……カカラから、聞いた」

 ロロさんがイネちゃんと同調したことでトーリスさんとウェルミスさんは驚きの表情を浮かべる。

 そして同時に皆の視線がカカラさんに移り……。

「え、えっと……」

「うん、ちょっとカカラちゃんにもリリアにも悪いけれど……リリア、少しお願いできるかな、その……思考を……」

 イネちゃんのその言葉だけで理解したのか、リリアは静かに頷いて瞳を赤く輝かせる。本当ならササヤさんにお願いしたかったのだけれど、ササヤさんはまだ帰ってきていなかったから仕方がない。

「うん、カカラちゃんいいよ、話して」

 イネちゃんがリリアが力を発動したのを確認してから促すと、カカラちゃんも静かに頷いて先ほどイネちゃんとロロさんに話した内容と、イネちゃんの憶測を皆に説明した。

 リリアに思考を読んでもらったのは、この嘘っぽい内容に関して嘘がないと証明する為。

 少なくともここにいる人たちはムーンラビットさんのことも、ササヤさんのことも知っていて、リリアがその2人の血を引いている人間であることを疑わない人たち。そもそもササヤさんがギルド長さんに対してリリアのことを娘だって伝えていたのを聞いていたらしいトーリスさんとウェルミスさんも呼んでみた。

 トーリスさんとウェルミスさんに関しては、ギルドトップランカーということもあって傭兵さんや冒険者さんの間では嘘っぽいお話でもある程度信用が出るからであって、ついでではない。本当だよ?

「と、いうことなのですが……」

 カカラちゃんが一通り説明し終わったところで、嘘だのなんだの罵られる可能性に対して身構えたところでリリアが。

「……うん、嘘は言ってないと思う。ばあちゃんならもっとはっきり言えるんだろうけれど、私だと表面ともう少し踏み込んだところが限界だから、少し曖昧になっちゃう……ごめんね」

「うん、少なくとも無意識とか深層心理のところ以外ではカカラちゃんは嘘をついていないってことだから、それで問題ないよ」

「あぁいや、無意識かどうかは私でも判断できるよ。ばあちゃんが言うには夢魔の血、魔力で思考を読む場合むしろ表層とかよりも無意識が把握しやすいらしいから……本当なら深層心理も楽だとか言われたけれど、私はその辺はあまり練習してなかったから……」

 なるほど、流石淫魔の血というか……ムーンラビットさんがナチュラルにそっち方面の裏をかくのはその辺からってことか、その上で最上級魔法のような最初級魔法で殲滅できるんだから、ムーンラビットさんは自己評価が低すぎるんだとイネちゃん思うな!

「……なるほど、このお嬢さんが異世界から来て、その……魔術師?魔道士?まぁどっちでもいいが、それが錬金術師だってことなのか?」

「まぁ、そうだね。それでゴブリンはカカラちゃんの世界で治療薬を作るときに1割程度の確率で生まれる失敗作から生まれる人工生命で、錬金術師が世界間転移魔法で大陸に廃棄していた。カカラちゃんは異世界での治安維持組織の一員で調査をしようとしたところでゴブリンと一緒に……ってところかな」

「……ってことはだ、今のが本当なら俺たちはそのお嬢さんの世界の尻拭いをさせられてるってわけだな」

「トーリス!」

 トーリスさんがそう言うとカカラちゃんが申し訳なさそうに俯いてしまった。

「だが事実は事実だろうに、世界間の問題で個人でやったっていう証拠が俺たちに渡されていない以上は俺が言ったような考えをする奴のほうが多いんじゃねぇか?」

「でもまぁ、この子は関係ない可能性が極めて高いのは教会が保証するよ」

 リリアはそう言いながらカカラちゃんの方を持って笑顔を見せた。

「俺だってお嬢さんの世界の住人は全員重罪だ!なんて言う気はないがな……」

 トーリスさんは煮え切らない感じにロロさんの顔を見て、イネちゃんの顔も伺う。

 なるほど、ゴブリン被害者の感情の問題と言いたいわけか。

「ロロ、気にしない……よ?」

「イネちゃんも根本からゴブリン問題を解決できるのならそれはそれで。まぁ一度誰かカカラちゃんの世界に行かないといけないだろうけどさ」

 ゴブリン被害者であるロロさんとイネちゃんが問題の根っこを解決するためにカカラさんを信用するような発言をするとトーリスさんはため息を1つついて。

「あぁうんわかった。俺が無駄に気を使いすぎただけだったようだ。しかし、だ。それをするにしても今のトナの状況を打開しなきゃいけないことには変わらないし、そっちのほうはどうするんだ?」

「それはササヤさんが帰ってきてから……」

 相談しよう。と続けようとしたところで。

「あら、私待ちだったのかしら」

 丁度ササヤさんが帰ってきた。

 うーん、もうちょっとかかると思ってたからゴブリンのことも皆に伝えたけれど、ここでササヤさんに教えないといけないわけか……二度手間ぁ……。

「とりあえず、ササヤさんが戻ってくる前に話していた内容なんですけれど……ゴブリンの出身はどうやらカカラちゃんの元の世界だったみたいで」

「ふむ……確かに興味深い内容ね、でも今はちょっと門扉の工事を手伝ってもらいたいのだけれども……防備が整ってからのほうが腰を据えたお話はしやすいでしょう」

 そう言ってギルドの外のほうへと振り向くことなく指をさした。

 まぁ確かに、ササヤさんは防壁の門を取りに行っていたわけだから今はそれを閉じるほうが最優先か、町の外の掃除もできてないからなぁ、正直ちょっと生臭い匂いが漂ってきてたしね、血の。

「うん、じゃあ門の作業の間に今話した内容をイネちゃんが話すってことで……門の作業が終わるまではそれぞれのお仕事をしつつ、終わったら今後のお話をするってことで」

「そうね、申し訳ないけどそうしてくれるとありがたいわ。シックでトナの状況を伝えた感じだとやはり人を動かすのに時間が必要みたいだから、門をつけた後もしばらくは時間がかかるのは確定なのよ、これに関しては教会の人員配備の不備だから本当申し訳ないわね」

 ササヤさんはそう言って一度頭を下げる。

 うーん、そういえばイネちゃん、何か忘れているような……。

 まぁ今この状況で思い出せないってことはそれほど重要なことじゃないと思うし、大丈夫か。

「母さん、食事の用意は終わってるんだけど私はどうしようか」

「そうね……神官長が不在な状態だし教会で怪我人のお世話をしてて、カカラさんもリリアの手伝いをお願いできないかしら」

「え、あ、は、はい!」

「後は冒険者の中から教会の護衛を数人……あぁキュミラさんとティラーさんは教会の護衛をお願いできないかしら」

 そこでイネちゃんは思い出した。

 なるほど、お話している間にキュミラさんのことを忘れていたんだ、というかずっとタコをくっちゃくっちゃ音だして食べてるから無意識的に思考から外していたのかって納得しているイネちゃんがいる……。

「それじゃあイネさん、行きましょうか」

 そう言ってササヤさんはギルドを出て行ったので、イネちゃんは慌てて追いかけたのだった。うーん、あれくらいの強引さが必要な場面だったのかなぁ。

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