第175話 イネちゃんと異世界のお話
とりあえずご飯を食べ終えたイネちゃんは、配膳を一通り終えたカカラちゃんをつかまえてお話を聞くことにした。
ゴブリンが襲撃してくる前にカカラちゃんが話しかけた、カカラちゃんの世界のゴブリンのことを聞きたかったのだ。
錬金術師の話した内容だと、ゴブリンが襲撃してきていたとき、トナには錬金術師と同じ世界の人間がいるということで、錬金術師はこの世界の人間なのか怪しい……という感じが強い。
まぁそうだとしたのならムーンラビットさんが錬金術師と対峙したときに把握していたとは思うけれど、あの時の錬金術師と今回の錬金術師が同一人物なのかもわからないので、ここはイネちゃん的に暫定として同一人物と考えるけれど、詳しいことは最低でもササヤさんが帰ってきてからということになる。
というわけでここはそのままカカラちゃんからお話の続きを聞こうとしたわけだけれど……。
「ゴブリン、話して」
「私はゴブリンではありませんが……」
ロロさんがカカラちゃんに詰め寄るような形でイネちゃんと一緒にお話を聞こうとしていた。
ロロさんの気持ちも分かるけれど、暴走しそうになったらイネちゃんが止めないといけないからちょっと聴きにくくなってるのも事実なんだよなぁ。
「ロロさん、ちょっと前のめりすぎだから……カカラちゃん、とりあえずカカラちゃんの世界のゴブリンのこと、騒ぎで聞けなかったけれどあの時生まれ方が特殊って言ってたじゃない。その特殊な部分とか、色々聞きたいんだけれど」
ここまで説明しないとカカラちゃんも困っちゃうからね、とりあえずこれでお話聞ければいいけどなぁ……ロロさんも前のめりからちょこんという音が聞こえそうなくらい可愛らしく座ってるけれど、まだその眼光が鋭いままなのがちょっと気になるんだよね、カカラちゃんの説明を止めないといいんだけれど……。
「なるほど、そういうことでしたか。ですが私も全てを知っているわけではないので、皆さんのお力になれるとは……」
「まぁ、イネちゃんたちが聞きたいだけだから、役に立つとかそういうのは考えなくていいよ」
「それでしたら……はい。ですがあまり面白いものではありませんよ」
カカラちゃんはそう断りを入れてからお話してくれた。
「まず、私の知っている私の世界のゴブリンに関しては、この世界のゴブリンと同じように何かを生産するようなことはせず、他者から奪い生活をしています。凶暴性に関しても追われたときにも感じましたので……およそ同じ程度だと思います」
「やはり、ゴブリン。どこでも、同じ」
相槌を打つロロさん。
まぁ相槌なら問題はないかな。
「そこで発生条件なのですが……こちらの世界でリリアさんから少し聞いたのですが自然発生だと聞いたのですが、私の世界では違うのです」
うん、イネちゃんが聞きたい本題はここからだね。
ロロさんも真剣な表情でカカラちゃんの言葉を待ってる、まぁ、興味はあるよね。
「私たちの世界では治癒魔法というものはあまり発展しておりません。また魔族と呼ばれる悪意の強い相手と、時には人間同士でも戦いを繰り返しているために治療に関しては薬を作って対応しているのですが……その治癒薬を作り出すときに必ず1割程度の頻度で失敗作が生まれるのですが、その失敗した治癒薬からゴブリンが生まれるのです」
……まさかの人工物。
いやまぁ制御もできない生物兵器とかゲームでも出来損ないだし、そもそも別のものを作ろうとした結果生まれるとか安定供給が期待できないから量産もできない。カカラちゃんの世界でもゴブリンは厄介者扱いされてそうだね。
「そしてここからは私も噂程度に聞いた話しになるのですが……」
バツの悪そうな表情でカカラちゃんがイネちゃんの顔を伺い、次にロロさんの顔も伺ってから続ける。
「その噂の中に、次元魔道士がゴブリンを他の世界に捨てている。という噂が……」
カカラちゃんがそこまで言ったところでロロさんが勢いよく立ち上がる。
「それ、本当?」
「え、いいえ……嘘とも本当ともわからない程度の噂ですが……」
「ロロさん落ち着いて。それに今のカカラちゃんのお話が本当、事実だったとしてもカカラちゃんは関わってないんじゃないかな」
「勇者、どうしてそう、思う」
「まず第一に、ゴブリンを操っているのならイネちゃんが初めて出会ったときの流れが演技ってことになるけれど、演技でゴブリンに襲われる、その上で割と深めの傷も負うなんてリスクは流石に考えにくいかな。そして第二に関わっているのならどうやって異世界間を移動したのか、ゲートが開いていない以上あちらの技術ではあるのだろうけれど、それならそれでいつでも帰れる状況が出ていないのに単独行動になるのはリスクが高すぎる」
「まだ、全て、演技……錬金術師、仲間」
「錬金術師の仲間かぁ……それこそ一緒に行動しない理由は?ってお話になるでしょ。カカラちゃん、イネちゃんって錬金術師の特徴について話したことってあったっけ?」
カカラちゃんは黙って首を横に振る。
というかカカラちゃんがこの世界に来てしまった理由が話されていないからこそ、ロロさんも疑ってかかっているんだと思う。
イネちゃんも錬金術師の言葉として『私たちの世界の同胞』みたいなことを言っていたから、仲間である可能性も否定できない……否定できないのだけれども、イネちゃんはこれこそカカラちゃんは錬金術師の仲間じゃない証左なんじゃないかなとも思うんだよね、むしろこの弱々しいのしか根拠がないわけなんだけどさ。
「い、いえ……そもそも錬金術師という人を私は知りませんし……」
なるほど、まぁ死んだと思ってたし聞かれなかったら普通に答えないような内容だから仕方ないか。とりあえず説明してみよう、ロロさんも細かい特徴までは知らないだろうし。
「えっとね、全身を包み込む大きいローブを着込んだ初老の男性……だったかな。うん、たしかそう」
「勇者、自信……ない、の?」
うぅ……そんなかわいそうなものを見る目はやめてぇ……。
「ローブに初老……それって、こういう感じの方でしょうか」
カカラちゃんはそう言ってテーブルに置いてあった、イネちゃんたちが作戦会議に使っていた紙をとって何かを描き始めた。どうやら人相書きっぽいけれども……。
「勇者、これ……ギルド、貼ってある」
ロロさんがそう言って指さした方向には確かに、今カカラちゃんが描いたものに似ている人相書きが張り出しされている。
「えっ!?って本当……うそ、なんで!?」
カカラちゃんは人相書きを見て必要以上に驚いている。
「こ、この人……私が修道会から調べるように言われた人です!ゴブリンの廃棄を担当していた人だったのに、その廃棄方法を指定された以外の方法を試したらしくて、私はその証拠を掴むためにこの人の研究所に立ち入って受付を済ませたところでこの世界に……」
なるほど確かに、今カカラちゃんが描いたものとギルドに張り出されている人相書きはかなり似ている。
「つまり、どういう……?」
ロロちゃんはピンとこないみたい。
まぁこの手のものってあっちの世界……というと割とややこしいかな、他にも異世界があるのなら日本と大陸、異世界って分けたほうがいいか。
こういうのって日本にある創作物とかみたいな、かなり素っ頓狂というかぶっ飛んだ内容になるからね、そういう価値観がないと混乱や困惑するのは当然のことだと思う。
「その魔道士が異世界、つまり大陸へと飛べる技術を持っていて、それを応用してカカラちゃんを大陸に飛ばした……ゴブリンと一緒に」
「え……イネさん、それって」
いやカカラちゃんが混乱しないで、カカラちゃんは調べていたんでしょ?
「まぁカカラちゃんを信じた上での想像だけれど、元々大陸にゴブリンを捨てる予定だったところに調査にきたカカラちゃんごと大陸に……」
「捨てた。でも、それ」
「うん、ロロさんの言うとおりただの想像、憶測。ともあれ今ある情報だとこれが精一杯じゃないかな」
それこそカカラちゃんの頭の中身を調べない限りは、だけど……リリアにそれをやってもらうのもイネちゃん的に避けたいというかやりたくないので、ここはササヤさんの帰りを待つしかないかな。
「そんな……私……もう、帰れないのでしょうか……」
イネちゃんの憶測を聞いてカカラちゃんが動転している。
まぁ……本来異世界転移とかそういった類が起こればこういう反応になるよね。
自分の常識が完全に通用しないし、そもそも社会体制が同じどころか似ている保証すらない。平均的な身体能力だって違うだろうし……そもそも文化や文明が違う場合食べ物や飲み物の問題だってあるから、まず間違いなく生き残ることすら困難という流れが普通だよね。
ただ2つ、イネちゃんが言えることは……カカラちゃんはかなり幸運だったということかな、自分の持つ奇跡を失って、ゴブリンに追いかけられて、そこにイネちゃんたちと出会えて、そして飛ばされた世界が大陸だったこと、大陸は異邦人に対してもまずは友好的に、相手が悪意を持って敵対意思を示さなければ敵対しない世界という点。
大陸だったから、衣食住はヌーリエ教会を頼れば保証されるし……これもイネちゃんの想像ではあるけれど、ムーンラビットさんは帰還方法を模索してくれる気がするからね、少なくとも人里にたどり着いて、言語が通じれば大丈夫……言語が通じなくても教会に……あぁでもトナの神官長さんはダメだったんだ、やっぱり大陸でも運が強く絡むなぁ……異世界怖い。
ともかくカカラちゃんからお話を聞くのは、泣き始めてしまったカカラちゃんが落ち着くまではもう無理かな。
その上で……イネちゃんたちも落ち着かないとね、イネちゃんだけじゃなくロロさんもだけれど、ゴブリンが不可抗力とはいえ人工物で、別の世界から捨てるという形で送り込まれていたなんて……これは大陸にとってセンセーショナルなニュースになるのは、間違いないからね。
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