第166話 イネちゃんとハルピー達

「すみません、受け入れ体制のほうが……」

「でもーぼくたちようやくやすめるとおもったんですよー」

 ギルドに入るとかなり騒がしい事態になっていた。

 キュミラさんとは違い、イネちゃんよりも小さく、翼も……まぁ体躯から考えれば大きいけれど、キュミラさんと比べたらかなり小さめのハルピーの人が数十人ギルドの中で受付さんと話していた。かわいい。

「しかし今近隣の森にゴブリンが発生してしまい」

「むーゴブリン……なるほどー、そういうことならまぁ……」

「そこでお願いしたいことがあるのですが、ゴブリンを早期に排除できればあなた方渡りハルピーの方々にも悪くはないかと思うのですが」

「んーぼくたちたたかえないよー」

「空からゴブリンに向かって石を落としたり、森の中の探索を行ってもらいたいのです。お恥ずかしいことに今トナでは人手不足でして、ゴブリンの巣の捜索すらままならず……」

 受付さんの説明に渡りハルピーの代表みたいに話していた子が。

「んーそのていどなら……いいよね、みんな」

 振り返ってギルドに居た他の渡りハルピーに対して聞くと「いいよー」と大合唱が……。

「いいよー」

 ギルドの外、空で飛んでた渡りハルピーの人たちが一斉に合唱した。これはうるさい。

 というか渡りハルピーさんは意識の共有とかできるのかな、それでも個体分けしてるってことは生存競争の関係なんだろうけれど……こっちの世界でそこまで生存競争が発生するってまだヌーリエ様の加護が小さかった時代、それこそ太古の昔とかからの進化なんだろうか。

「ぼくたちのもりでもあるからーゴブリンをおいだそー」

「おー」

「耳がいてぇ……が、人員の確保はできたみたいだな」

 トーリスさんが耳を抑えながら会話に入ると。

「ノオさまのしんかんさんだ!」

 渡りハルピーの人たちが一斉にウェルミスに向かって集まってきた。

「え、えぇ……神官と呼ばれるほど全然修行できてないけど」

「ノオさまのごかごー」

「えっと……わかりました、あまり影響はないとは思いますが頑張ってみますね」

 ウェルミスさんはそう言って、一番近く、目の前に居た渡りハルピーさんの腰を掴んで……。

「ご加護をー!をー!」

 気合の入った低い声で渡りハルピーさんを高い高いした。

 渡りハルピーさんのほうもキャッキャ喜んでいる姿はまるで保育園の保育士さんと子供にしか見えないけれど。

「……ノオ様は男性の神様ですので、このように大きな声でないといけないんですよ」

「いや別に聞いてないけど……」

 ウェルミスさんは恥ずかしさのあまり言い訳をしてきてしまった。

「ありがとです、しんかんさん」

「えぇ、どういたしまして」

 そのやり取りの後、渡りハルピーさんたちはギルドの外へと飛んでいった。

「他の子はいいのかな、やらないでも」

 イネちゃんがそんな疑問を口にしたところでキュミラさんが答えてくれる。

「渡りハルピーはツバ種だったんッスねぇ、ツバ種は1人は全体のために全体は1人のためにって感じで絶対に集団行動を取る種ッスから、1人やってもらえば群れ全体にやったのと同じって捉えるッスよ」

「なんだか超個体って感じ、でもまぁ小型動物だからってのもあるのかな。……それでキュミラさんはどうなの?」

「私ッスか?私はコドル種だから個体尊重の種ッスよ。でなきゃ私が今ここに居れるわけないじゃないッスか」

 なるほど、だからキュミラさんはフリーダムなんだね。

「ともあれツバちゃんたちへの連絡は私がやるッス、一応同じハルピーではあるッスからね……最初ちょっと怖がられるかもしれないッスけど」

 猛禽類と小鳥だもんなぁ、そういう関係性はあっちの世界の小鳥と猛禽類と一緒なのか。

 まぁこっちの世界で、しかもキュミラさんなら捕食者と被捕食者の関係には当たらないだろうし問題ないかな。

「それではキュミラに任せるとしようか、自分で言い出したんだから逃げたりはしないだろ。なぁ?」

「いやぁティラーさんは私に対して信用が足りないッスよ、正直言うと私の故郷も……まぁ人種の人基準だとそこそこ距離はあるッスけど、ハルピー的にはお隣さんみたいな感じなんで、ここでゴブリン駆除しておきたいってのはあるんッスよ」

「いや初耳なんだがそういう情報はさっさと出してくれ、頼むから」

「えー、謎多き女!とかかっこよくないッスか?」

「謎の種類によるわそんなもん……あぁいやでも出身地とかは該当したりするのか?」

「そうッスよ、ぷらぷらしーッス」

 プライバシーなのかプライベートなのか、キュミラさんのことだし両方なのかもわからないけれど、ティラーさんと仲のいい漫才みたいなことをしてからキュミラさんは渡りハルピーの人たちの後を追ってギルドから飛んで行った。

「不安だ……」

「不安なのはわかるけれど、ハルピーの指揮執れそうなのがキュミラさんしかいないのも事実だし任せるしかないよ。イネちゃんたちは人種の部隊編成とそれぞれの役割を決めないと」

「あぁそのことなんだがイネちゃん、トナの連中の総指揮は俺に任せてくれないか」

「言い出した理由次第かな、心理的理由なら生存率上げるために却下しなきゃだし」

「単純にトナを拠点にしてる連中は漁師上がりの奴が多いのもあって癖が強いからな、ぬらぬらひょんは一応ここでトップを張っていたし、こいつらも俺たちの実力は認めていた。指示を正しく伝える手間が省けると思ってな」

 うーん、確かに筋は通ってる。

 特にティラーさんはぬらぬらひょんの副団長だったこともあって指揮取りは慣れてるから個人能力のほうも悪くはない。

 本部から来た人たちは個人能力は高そうだけれど、大勢に対して指示を出したりという経験があるのかわからないし、ティラーさんなら今呼び出してる引退した人たちにも面識があると思うからそっちのほうで話を通しやすくなるっていうのはとても助かる、何も確執がない場合に限りって但し書きがつくけど。

「ぬらぬらひょん……俺は聞いたことがないんだが、トナのトップだったのか?」

 トーリスさんが疑問と質問……というよりも地域密着型傭兵集団ぬらぬらひょんのことを知らなかったから純粋な気持ちで聞いたのかな。

「まぁ、トナからヤナマルの街道を中心に活動していたから、本部に知られてなくても仕方ない。俺の評判はまぁ、そのへんの奴捕まえて聞けばいいさ」

 最近饒舌になりつつあるけれど、最初に出会った時は寡黙で真摯なモヒカンだったもんなぁティラーさん。モヒカンは今でもだけど、毎日セットに時間かけてて本人にしかわからないこだわりがあるんだろうね、きっと。

「そこは聞かなくても態度を見りゃわかるな、俺が質問したと同時に刺すような視線が飛んできたからな、ありゃ実力と信用がなきゃ飛んでこねぇ」

「実力だとあんたらには敵わないだろうが、トナの連中からの信頼はあるからな。ぬらぬらひょんは今は解散状態だが、大半がシックで修業中……再結成した後は本部にも名前は届くようになるだろうから覚悟しておいてくれ」

「……意気投合は、いいけど、今は」

 ロロさんが割り込んだところで皆の表情が変わる。

「ゴブリンだが、今日はまだ?」

 クライブさんが聞くとギルド長は首を横に振る。

 まぁ目撃情報があれば真っ先に言ってるだろうしあくまで確認ってところかな。

「それで勇者様が先日の襲撃を撃退したんだよな、その時の様子を教えてもらって構わないか」

「うん、時間が問題なければ」

「頼む、ゴブリンが来ればすぐに出られるようにはしておくからな」

「うん、お願い……」

 クライブさんとロロさんにお願いされてしまった、責任重大な感じがするなぁ。

「まず発見したのはキュミラさん、森の方から大規模なゴブリンの襲撃を確認、その後イネちゃんが最終防衛ラインになっている間に援軍を呼びに行ってもらったんですが……」

 うーん、その後が結構早かったからなぁ、勇者の力でささっとやった感じだし……まぁ細かく説明しよう、戦った内容も結構大事だしね。

「まずは粘性のある燃焼材をスリングで先頭のゴブリンにお見舞い、その次は火をつけた油弾……」

 あぁそうだ、この時ゴブリンにしては反応がよかった。

「イネちゃんがスリングを放とうとしたところで矢を射掛けてきた、数匹で射掛けてきたから射撃専門の奴がいたんだと思う」

「射掛けてって……勇者様は大丈夫だったのか?ココロと手合わせしたときに聞いたがあいつは攻撃を受けないようにしないといけないとかなんとか言ってたぞ」

 あ、そうか、ココロさんとヒヒノさんは防御方面は技量とか炎熱で防いでるんだったっけか。

「イネちゃんが受けた加護は守り特化だから、ここに矢が直撃したけど矢のほうが負けるくらいの防御力があるから大丈夫。むしろ服のほうの心配をする感じだし」

「勇者こえぇ……」

 眼球を指さしながら説明したら皆にドン引きされた、イネちゃん泣くぞ。

「まぁその後はさらっと説明したとは思うけど、ゴブリンは1匹足りともイネちゃんを無視してトナを目指さず、イネちゃんを攻撃してきた。まぁ矢を眼球に撃ち込まれて無傷だったわけでダメージ無しでゴブリンが集まったところで勇者の力でプチっとやったわけだけど、ゴブリンは仲間が潰されたのを確認したらすぐに撤退したってわけ」

 あれは本当に見事としか形容できない撤退だった。

 普通のゴブリンなら数匹をイネちゃんを引き付けるための囮として町を狙ったと思うし、何かしら普通とは違うゴブリンであるとイネちゃんは感じたわけである。

「……普通、じゃない。普通なら、そのまま、攻め込んでる」

「そうですね、ロロの言うとおりに少し異常さを感じます」

 ロロさんとウェルミスさんはそういい。

「歴史上では前例がないわけではないですが……先日の開拓町近辺での巣の駆除は人語を操る個体がいたとの報告もありますし、異常個体の発生頻度が少々高すぎますね。歴史が全てではありませんが従来ならば短くて50年ほど、そのような個体の出現はなかったですからね」

 クライブさんが丁寧に説明してくれた、聞いてもいないことを説明してくれるのはクライブさんの癖みたいなものなのかな、情報共有に知識の補足としては大変ありがたいけどさ。

「ともあれ俺たちは少数精鋭で戦うしかねぇんだ、お仕事はお仕事として失敗を恐れず、されど確実丁寧に成功させるってのが冒険者ってもんだからな」

 トーリスさんはカッコつけて言ってるけど、冒険者って良く言って何でも屋、悪く言えば無職だからね、うん。

 固定護衛とか害獣駆除を日課にしてるとかなら無職とは言えないけれど、遺跡探査専門とかだとね、うん……。

 情報を共有したところで話し合いが始まり、前日から招集していた引退冒険者の人たちが来てからは細かい班分けを行っていった。

 この時のイネちゃんたちは、ゴブリンたちのことを警戒していながらも本当の意味でリスクを想定できていなかったのは、振り返ってみても最悪だったと思ってしまうんだよね……。

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