第165話 イネちゃんとご挨拶
「おいおい、勇者って聞いたから来てやったのにココロじゃねぇのかよ。せっかく決着がつけれると思ったのに肩透かしだぜ」
翌日、ギルド長さんが本部に連絡を入れて今のギルドトップの冒険者さんが来たわけだけど、ギルド長さんからイネちゃんを紹介されたと同時に出た言葉がこれである。
「いやあんた全敗じゃないの、何ライバルみたいに言ってるのよ……あの女帝の弟子で勇者なんだからこの世界でも頂点と考えるべきなのに本当自信過剰」
相棒と思われる女性が木製のメイス……名前なんだっけ、確かコーイチお父さんのゲームで女性キャラが使ってたような気がするんだけど、まぁ今は別にいいか。
「だけどよ、最近は手ごわくなったとか言われたんだぜ?」
「お世辞とかそんなところでしょうが……ごめんなさい、私はウェルミス。これでも空神官なの……まぁヌーリエ様の加護が薄かったのはなんでだろうと思って調べているうちになってただけなんだけどね」
「俺は重剣、トーリスだ。で勇者様はなんて言うんだ?」
「一ノ瀬イネ、こっちの生まれだけどあっちの世界育ち……まぁかなり特殊な家庭環境ではあったけどね……ところで後ろの2人は仲間?」
この2人がグイグイ前に出てきてたから後ろで小さく……なってはいたけど明らかに異質って感じの存在感を放っているから隠れられてないね。
「……ロロ」
「私は
「うん、勇者は勇者だけど、まだ正式な洗礼は受けてない準だけどよろしくね」
「だから……覇気が……弱い、の?」
覇気?覇気ってなんだ。
振り向いてリリアたちに聞こうとするけど……。
「いや私もわからないから大丈夫だよイネ」
察したのか目があうと同時に答えてくれた。
「覇気、強者が……出す、でも、強すぎると……隠す人も、いる」
「まぁ最初から覇気に慣れていてなくてもいいとか環境でも変わりますね、まぁゴブリンの巣を攻略する時には邪魔でしかありませんし、隠せるようになってからが本当の強者ですよ」
いや効果じゃなくて覇気って何!?いやまぁ効果の説明が覇気の説明になるんだろうけれどわからないよこれ!
「ん、竜騎士と歌姫はどうした。滞在中の上位が来るって聞いてたんだが……あいつら基本的に本部から動かねぇだろ」
まだ他にもいるのか……まぁ今回は来てないみたいだけど、竜騎士と歌姫ってむしろ重剣とかよりもイネちゃん的には圧倒的に興味がある件について。
「竜騎士はゴブリンの巣では役に立たないってよ、歌姫のほうはコンサートがあるからパスってことだ。まったく、巣穴の中にブレスしてくれるだけでも全然違うってのになぁ」
「万が一にも攫われている人がいた場合のことを考えなさい!」
バシン!
結構な音量が出る叩き方してるなぁ、お父さんたちはお笑いでこういう音は大きい方が痛くないとか言ってたけど、こういうツッコミに関してはどうなんだろう。
「いてぇな……だからと言って救助する側が全滅したら元も子もねぇだろ」
「それはそうだけど、ロロの前なのよ?」
「ロロ、気にしない……ゴブリンは、ちゃんと、お掃除……しないと」
うん?この流れは……多分ロロさんの生い立ちはイネちゃんみたいに……。
「うーむ、ロロさんはイネちゃんと同じ経験があるってことでいいのかな?」
今のイネちゃんの言葉に、初対面の冒険者4人の動きが止まる。
「同じ……?」
「ゴブリンに家族を殺されてる経験……違うかな?」
「マジかよ……。でもロロのほうは……」
「村ごと……ロロ、隠し戸……助かった……」
なるほど、そういうケースか……家ごと燃やすケースも結構あるけど、概ね半々くらいらしいし運がよかったのかな。
「不幸自慢はあまり建設的でもないし、この辺で切り上げとこっか。それよりも今はゴブリン対策のためのチーム分けとか作戦を決めないと」
「そんなこと……?貴女勇者だからって!」
「はいストップ。ちょっとイネが勘違いされるのは私が面白くないから……教えていいよね、イネ」
ウェルミスさんがずいっと前に出ようとしたところでリリアが間に入った。
まぁ、イネちゃんの今の言い方だとロロちゃんの被害は大したことがないって捉えられても仕方ないし、イネちゃんはそのへん覚悟完了済みで進めたから別によかったんだけども……チラっと見えるロロさんの目も別に問題ないって感じがしてるし。
でも不信感とかそういうの残ってると作戦で支障が出ちゃうかな……それだと余計に大変になるしここはリリアに甘えておこう。
「まぁいいけど……あまり面白いものでもないから避けたかったんだよなぁ」
「でもこのままだとイネのことがゴブリン被害に対して真摯じゃないとか思われたままじゃない。むしろ真逆なのに……」
「真逆?先ほどの態度がですか?」
ウェルミスさんは今のやり取りでもそのままかぁ、思い切ったら突っ走っちゃうタイプっぽいね。
「すまん、多分こいつあの日……わかった黙ってる」
トーリスさん、今の割り込みはあかんよデリケートな問題だし。
「イネは村でゴブリンに襲われた後巣に連れ込まれて、1週間後に救出されたんだよ。その時、生きてたのはイネだけで……」
「ロロより、酷い……場合、よっては、救出後……殺される」
リリアとロロさんの会話形式の流れでウェルミスさんの顔が青ざめてる。
「ロロは、他に、3人……助かった、から……」
「ご、ごめんなさい……私なんて謝ったら……」
うんまぁ、こうなるよね、イネちゃんとしてはこの流れが一番面倒だし、ゴブリン対策を早く進めないといけないのは本当のところだから話しを切り上げたんだよなぁ。
「別にいいよ、イネちゃんとしてはもう踏ん切りついてるし。助けてくれた大人が皆いい人ばかりでその後が恵まれてたのは確かだからね」
というか両方の世界で唯一って感じの存在になっただけじゃなく、今じゃ準だけど勇者だもんなぁ。
「まぁ当人がそういうなら問題ないんだろ、勇者様の言うとおり今はゴブリン対策が急務なんだからお前の自己処罰感情はそのへんに放っておけ。ですよね?」
トーリスさん、うん、割り込むタイミングはこういう感じでいいんだよ、さっきのは完全に失策だったからね。
イネちゃんは渡りに船で首を縦に振ってから改めて答える。
「ともかくゴブリン対策を取らないとね、大王タコで元々トナにいた冒険者さんのうち半分くらいはそっちに対応しなきゃいけないから、こっちは少数精鋭みたいな感じになるよ……まぁ増えるアテはなくはないけど、確定じゃないから覚悟しておいてね」
「増えるアテ?最悪10人程度まで想定してたからありがたいですが、どのくらい増える予定なのでしょうか」
クライブさんが質問役になってくれる、質問役がいるといないとだとかなり説明の伝わり具合が変わるからすごくありがたい。
「渡りハルピーにお手伝いを頼む予定なんだよ、そこにいるハルピー、キュミラさんが感知した限りだと総勢1万くらいらしくって、その上で渡りハルピーさんはトナの森がお気に入りらしいから手伝ってもらえる可能性はあるかなって」
「渡りハルピー、体躯が殆ど人種の子供程度ですが、大丈夫なのですか」
「スカウト役に徹してくれればむしろこれ以上ないくらいかなとは思ってる、巣にどれだけ出入り口があるのかとかそういう探索は、イネちゃんたち人種よりも遥かに得意だろうからね」
「なるほど、人種が調査すると短くて半月はかかりますから、適材適所ですね」
「でも戦闘はどうするんだ?こっちは少数精鋭としてもゴブリンの規模がわからないと無謀もいいところだろ」
聞き役がクライブさんからトーリスさんに移る。
既に決定済みのことを話すだけだから問題はないんだけれど、これは下手すると二度手間になりそうだなぁ……。
「渡りハルピーの人たちに上空から投石してもらう予定だよ、そうすればゴブリン側は陣形が乱れざるをえないし、乱れなくても戦力を削ることができるから」
「それは渡りハルピーの協力者が数揃った場合だろ?最低限度しか協力を得られなかった場合の話しだよ」
「まぁまだそこは決まっていないよ、今トナ在住の引退した冒険者さんや傭兵さんに招集をかけてて、ギルドに集まる予定だからこのあと話し合う予定」
「まるっきり白紙じゃないなら別にいいか、何より引退者にベテランが居ればその情報だけで貴重だ、それこそ金が発生するほどに……それがタダで聞けるってことだろ?」
「今回は緊急事態だからね、請求してきてもギルドとヌーリエ教会で支払うから大丈夫だよ」
これは副産物で、本来のゴブリンの巣駆除に関しては冒険者としては破格の報酬が約束されてる。
というのもリスクが極めて高いし難易度が高い、一度被害が出たらねずみ算みたいに拡大するし下手に対応したら学習させてしまうから、ギルドなり教会の指揮下に入ってもらうことになるしで冒険者側のデメリットが大きい以上はヌーリエ教会のお財布から結構出されるらしい。
こっちの世界の硬貨……金銭事情は信用度の高い、基軸通貨に当たるのは教会の発行してる金貨と、ギルドの発行してる銀貨と銅貨になる。
王侯貴族も出してはいるものの、領土争いやら権力闘争が頻繁に起きてしょっちゅう版図が変わっちゃうもんで金属としての価値以上にはならないんだよね、お金に関しては安定安全安心が必要だからね、こればかりは仕方ない。
ちなみにギルドを中心として商人組合があっちの世界を参考に銀行業務を行うようになってきたらしいから、そのうち紙幣も生まれるとは思う。まぁまだ借用書というか証券というか、そのへんの受け渡しで取引する段階みたいだから時間かかりそうだけどね。
「うし、じゃあ作戦の話し合いに向かおうぜ」
いつの間にやらトーリスさんが仕切る形でギルドに向かうこととなった。
イネちゃんとしては楽でいいけれども……ギルドランキング上位の人たち、癖強いなぁ……。
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