第128話 イネちゃんと魔法兵と軍隊
調査している人たちとムーンラビットさんが同時に通信してきて、同時に緊急事態ということを告げてきたため、ここはと思い調査している人のほうをイネちゃんの家に出向いてくれるように頼んで、全員でセフィロトからホログラムのように浮き出てるムーンラビットさんを囲んでいた。
いやぁどういうことか説明を求められたところに、ムーンラビットさんからも通信があったことを告げて、ムーンラビットさんの声を聞かせたら結構早く息を切らせながら来てくれたから楽だったよ。
「それではまずこちらの事態を説明させていただいて構わないでしょうか」
プチ会議みたいな状態になったから、いっそのこと双方の世界での出来事を報告しあい、お互いのことを聞いてから対応を決めるってことになったところで、調査している人の代表……ではなく伝令だけしに来た人がそう会話を始めた。
「構わんのよー、どうぞー」
ムーンラビットさんは相変わらずの軽さで、緊急事態と告げてきた割りにはあまり緊急性を感じない。
「病院で調査を行っている最中に襲撃にあいました。敵はこちらの世界のどの技術体系では不可能な攻撃、つまりそちらの世界の魔法で攻撃してきました」
魔法使いが襲撃してきたってことか、でもこういう感じに事態を告げるために人をよこす辺り、撃退ないし殲滅はできたのかな。緊急の事態には変わりないけど。
「なる程、そっちも似たようなもんなんか。こっちにはそっちの武器。まぁ銃を持って同じ服装をした連中が大型兵器も持って襲撃してきたんよー、まぁササヤがちょうど開拓町に戻ろうとしたタイミングで正面から鉢合わせたんで事なきを得たけどな」
……なんかそれは襲撃者が気の毒な。
いやそういうことじゃない、あの周辺だと異世界間ゲートは全部異世界対策庁とヌーリエ教会の管理下に置かれてるから、物理的に運搬する必要のあるこっちの大型兵器とか持ち込むことは実質不可能なのに居たってことだよね。なる程こっちも緊急事態だ。
「となると敵の目的は教会と日本政府が反目することを狙った工作活動と考えたほうが良さそうやね。どうにもこっちもそっちも水面下で争いを広げようとするのがいるみたいやし、お互いに調査可能な人材を派遣し合うってのもありかもしれんな。あ、そういやタケル……うちの司祭長の派遣はできそうなんで存分にこき使ってやってな」
最高幹部をこきつかえというムーンラビットさん。
伊達に文字通りの生き字引……ってムーンラビットさんはヌーリエ様にあったことがあるんだっけか。そういうことならこの辺の態度もわかるかな。
「それは本当の情報ですか?」
明らかに疑っている感じの口調……というか表情にも漏れてるよこの人、元々外交とかしない人なんだろうけれど、ちょっと露骨すぎて色々まずい感じがイネちゃんにはするんですけどー。
「別にあんたは信じなくてもええんよー、少なくともそっちは結構な人数の民間人被害者が出ているのに、現時点で協力的な調査の可能な相手を切り捨てる判断は、あんたの上司や政府はしないと思うかんな。私はただ今のあんたの言動を覚えておくだけに留めるだけよー」
ほらームーンラビットさんってそのへんの対応し続けて来た人だから、完全に武器にする気マンマンだよ。
「それでもそちらの世界の人間の犯行である可能性が極めて高い状態ですので、例え身内でも疑うのは悪いことでしょうか」
「いや悪くないっていうか当然やねぇ、ただそれは話し合いの場とかで表に出さないほうがええんよ、悪手どころか最悪すぎて私もこれ武器にしていいのか悩むレベルやし。もしかして被害者にあんたの家族か恋人がいたりしたんか?」
伝令さんが黙る。
もしかしてムーンラビットさんの言うとおりにあの時病院に身内がいたのかな、この人。
「まぁ今はそんなことを言ってる場合じゃないし、本題のほうを進めるけどええよな」
「家族が被害に合うことはそんなことですか」
「そんなことよ、いつ誰に起きてもおかしくないことを殊更特別扱いしすぎると事態の解決が遠ざかるだけやからな、足元掬われて全部敵にかっさわれるだけ。だから本題に話しを戻すんよ」
「被害者家族にとっては!」
「特別なのはわかってるんよ、でもあんたは今、全体の解決のためにそこにいるんじゃないん?あんた1人の感情と力で今回の件が解決できるなら私はこれ以上言わないけど?」
「……1つ聞かせてください、あなたはそうやって多くを切り捨てて来たわけですか」
「大を生かすために小を捨てたことは、まぁ大規模組織の権力を持ってる存在やし、私は長生きなんで累計すれば多くを切り捨ててるわな。でもそれは権力を持った奴のお仕事に含まれるんよ、恨まれるっていうお仕事な。だから私は謝らないし、許してくれとも言わんよ」
割ときっつい怒気を含んだ伝令さんに対して、あくまでいつもの調子で答えるムーンラビットさん。
その結果もあってか伝令さんは黙ってしまい、ムーンラビットさんは慣れてるって感じの顔して返事を待っている辺り、完全に力関係ができてしまってるなぁ。
「……申し訳ありませんでした、お話を続けてください」
まだ納得しきれていないっぽい感じだけれど、頭のほうで割り切ったようでお話を進めるように促した。
「ほい、んじゃまずは勇者2人の扱いだけどー……事態がどう動くのか流石に読めないんで、どっちの世界にも動きやすいイネ嬢ちゃんの家を拠点として待機、お願いできるかね。イネ嬢ちゃんや」
「って急にお話振られた!……いやまぁイネちゃんとしては構わないとは思うんだけど、家主はコーイチお父さんだからなぁ。ちょっと呼んできますねー」
そう言ってからイネちゃんはコーイチお父さんのいるお店の方へと向かうと、ちょうどトイレからコーイチお父さんが出てくるところだった、ちゃんとタオルで手を拭いてるっていうテンプレみたいな絵面はいつも思うけどなんでなんだろう。
「ん、イネどうした?」
「いやぁ今病院の件を調査してる人が来てて、ムーンラビットさんと通信会議してるじゃない?」
「そうだな、お茶でも出すか?」
「あぁいやね、その流れでココロさんとヒヒノさんの待機場所としてムーンラビットさんはうちを指定してるんだけど」
「そうか、別に部屋はあるし大丈夫だろ。って家主は俺だからイネが来たのか。別にいいぞ」
コーイチお父さん、地味に自分が家主だとかそういう意識低いんだよなぁ、流石に店主っていう意識はなくさないけど。
「襲撃があるにしてもあの2人なら対応は楽だろうしな、店が壊れてもヌーリエ教会に請求できそうだし、問題無いどころか豪華にできそうだ」
「コーイチお父さん、むしろ襲撃望んでない?」
「流石に望んではいないぞー、万が一そうなってもそれほど損はしないってだけだからな、あえて挙げるなら客足が少し離れるかもってところか。まぁそれならパン屋始めた頃ほどひどくはならないだろうからな、なったとしても同じように信頼を積み上げてくだけだ」
やだ、聞いてないことを語り始めたのにちょっとカッコイイと思っちゃった。しかも内容としてはあまりかっこよくもないのに、すごいとは思うけど。
「じゃあそういうことで、ムーンラビットさんには伝えていいよね」
「おう、じゃあ俺は店に戻るから。ルースの奴連日店番でストレス溜まってるみたいだから、少し配達でもさせて発散させる必要もあるしな」
やだそれも聞いてない情報。
まぁ確かにルースお父さんはここ最近ずっとお店にいたからなぁ、配達も全部コーイチお父さんがやってたらしいし、おとなしくしてるのがあまり得意じゃないルースお父さんには辛いか。
「はーい、ルースお父さんにはあまり遊び過ぎないようにってイネちゃんが言ってたって伝えてねー」
そう言ってイネちゃんがリビングに戻ろうとすると……。
「聞こえてるぞイネ!流石に配達で遊ばねぇって!」
あ、ルースお父さんにも聞こえていたみたい、でも近所の男の子とサッカーとかバスケやってた前科があるから、仕方ないって、うん。
そうこうしてコーイチお父さんからココロさんとヒヒノさんの件について許可をもらったイネちゃんがリビングに戻ってくると……。
「ぐぁ……やられた」
「ふふん、これが完全な対戦だってわかればこんなもの……ってこれ人じゃないのに攻撃してきたぁ!」
「ふ、コンピュータにやられるとは……ってこっちくんな!」
ステフお姉ちゃんとヒヒノさんがまたあのゲームで盛り上がっていた。いやまぁいいんだけどさ、一応お客さんという名の伝令さんがいるんだから少しは控えよ?
「お、話題が切れたところにイネ嬢ちゃんが戻ってきたな、で、どうだったん」
イネちゃんに最初に気づいたのがこの場に居ないムーンラビットさんっていう、まぁちょうど出入り口を通信中のムーンラビットさんが見るような形でセフィロトが置かれていたからだろうけれど、伝令さんがなんとも居づらそうにしているからね。
「うん、大丈夫だって。部屋も余ってるからそっちを使ってーって具体的に。襲撃とか受けてもヌーリエ教会が補償してくれるだろうし問題無いとも言ってたけど」
「使わせてもらうならそこは当然やからこっちも問題ないんよー、というわけでこっちの動きを改めて言うけど、勇者2人はこのまま待機で、司祭長をそっちに。そっちの動きはまぁ決まったらでいいかんな、ちゃんと伝えてくれたら嬉しいんよー」
ムーンラビットさんはイネちゃんの答えを聞いてすぐに伝令さんにそう言うと。
「わかりました、それではこちらのことは決まり次第こちらから連絡をさせて頂きます。どうもお邪魔しました」
伝令さんはそう言ってイネちゃんに一礼してから病院のほうに戻っていった。
それをいつもの笑顔で見守っていたムーンラビットさんは、伝令さんの気配がなくなったのを確認して。
「さて、じゃあ本題に入る前にあの子が居た場所をイネ嬢ちゃん、ちょいと調べてくれな」
そう言い出した。
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