第126話 イネちゃんと今後のこと

 ムツキお父さんが売店の利用を却下されて戻ってくるのとほぼ同時に、ミルノちゃんとウルシィさんが検査を終えて戻ってきたので、皆でお腹の虫で合唱しながらイネちゃんのお家、コーイチお父さんのパン屋さんへと徒歩で向かったのだった。

 病み上がりであるミルノちゃんとウルシィさんに関しては車でとの会話もあったものの、その車の調達が病院の敷地内、つまり大きい総合病院なら正面玄関前に大抵存在しているタクシー乗り場のタクシー運転手さんたちも例外じゃなかったらしく、銃声を聞いて慌てて逃げた人はよかったものの、正義感が強くって避難する患者さんたちを待っていた人も巻き込まれたらしく、車両だけ残っていてこれも利用することはできなかった。被害が結構大きいなぁ……。

「途中で何か買うにしても流石にちょっと人数が多いし、病み上がりのお嬢さんもいるから難しいかもな、屋外販売している店はこの区域にないしなぁ」

「メロンパン屋さんと唐揚げ屋さん、なかったっけ」

「あったっけか、まぁ目に留まれば買う程度でいいか、すまんな」

 いやまぁムツキお父さんが言うとおり今イネちゃんとステフお姉ちゃん、ティラーさんにムツキお父さん、勇者2人にミルノちゃんとウルシィさん、8人もいるから多少は仕方ないよね、コンビニなら割と大丈夫な気がしないでもないけれど。

 そこらへんはムツキお父さんの言うとおり、病み上がりであるミルノちゃんとウルシィさんい合わせる形にしたほうがいいし、大人数でコンビニって、体力が落ちてるのにウルシィさんは興奮しちゃいそうだし、そういう意味では避けたい気持ちはわからないでもないから、イネちゃんとしてもさっさと落ち着ける場所で1度ゆっくりさせてあげたいと思う。

 ただまぁイネちゃんのお家も現時点だと安心できるかどうかは怪しいんだけどさ、割と手段を選ばずに攻撃してきたわけだし、今回の病院での被害者って3桁か、下手したらもう1つ桁が上がるかもしれないほどだからね。

「ねぇねぇイネ、正直なところ銃でドンパチってさっきので終わりだと思う?」

 ステフお姉ちゃんが今頃心配になってきたようで、不安そうにイネちゃんに聞いてきた。

「正直にいえばわからないよ、ただ実行犯で捕らえた人たちは今回の病院の人間全員誘拐とか聞かされてなかったみたいで、後悔しているようだったからもしかしたらあの人の上、本国のほうも知らなかったっていう可能性は否定できないから、ない可能性も割とあったりするとイネちゃんは思ってる」

 全員白人で英語圏だからね、ヨーロッパのどこかって可能性が高いし、ムツキお父さんには心当たりがあるっぽいから先進国のほうだと思うし、あわよくば権益ゲットと軽い気持ちで錬金術師と協力したのかもしれないしね。

 そうなれば低くない確率でだんまりを決め込むために今回捕らえた人たちを切り捨てると思う。実際最初の襲撃者は切り捨てて口封じしようとしたわけだし、イネちゃんとしてはこの考えはあながち的外れじゃない気はしてるんだよね。

「流石に今回の件って報道されるよね」

「そこはされると思うよ、どれくらいかはわからないけれど」

 イネちゃんにはどうやったかわからないけれど、ヒヒノさんとココロさんが全力モードで結界を破壊して外部との連絡が取れるようになってから、病院の待合室で雑談をしながらスマホでSNSとかを確認したけれど、既に情報が漏れてたっぽいからね、特に報道のヘリとかも行方不明になったとかで結構重大事案として加熱してるっぽいし、政府が口を塞ごうとしてももう遅いって状態だったのを確認できた。

 こうなれば民間側が政府に止められる前にって感じでとりあえず起きたことを報道しちゃっててもおかしくない、まぁ公安が立ち入ってるから現場である病院には報道は入れないだろうけれど、イネちゃんとムツキお父さんが狙撃戦した駅の封鎖はされていないっぽいし少なくともそっちの報道はされると思う。

「そっか、そうだよね。いやまぁ聞いておいてなんだけれど、ニュースでイネがやったと思わしき駅とかビルの上での格闘とかの映像がちらっと流れてたからさ。駅のほうは流石に銃声が鳴ってるだけの映像だったけど」

 それは既に報道されてるっていうんだよステフお姉ちゃん。

 まぁ認識阻害の結界って病院の敷地だけっぽかったからね、あのビルの人たちは普通に生活してたし、銃声は聞こえていたみたいだからっていう主観からの予測でしかないけど。そこは聞いてみればいいか。

「ねぇねぇヒヒノさん、ヒヒノさんが壊したっていう結界って範囲とかどんなものだったか、わかります?」

「んーあれかぁ、結界って魔法の性質的に円球状に展開されるから厳密にはあの病院だけってわけではないと思うけど、あの人たちに聞かされた被害の規模的に病院を覆う形で他への被害はあまり出ない規模ではあったよ」

「それって音とかは外に漏れたりは……」

「するねぇ、でもあれ危機意識とかを本能部分で誤認させるタイプだから、魔法抵抗力が低い人は何か大きい音とかしてるなー程度の認識だったと思うよ。それでも根っこの部分で自分の命が危険になるって明確に認識できる行為に関してはちゃんと反応できるんだけどね」

 なる程、それなら外部の人が騒がずにSNSとかでも話題にされないけれど、病院のほうで悲鳴があがった理由も説明ができる。

「私とヒヒノはヌーリエ様の加護が強いので、基本不利になるものは効果がなくなりますが、イネさんのお姉さんのステフさんは影響を受けていたように見えますね」

「え、私受けてたの!?」

「えぇ、今の受け答えでもわかるように、あれだけの攻撃を受けていながらも認識として命の危機をあまり感じなかったでしょう。私とヒヒノが守っていたため直接的に命の危機を認識するようなものを見ていないため自分は安全であるという認識だったものかと思います」

「う、そう言われると確かに……特にお父さんが原因で銃声って割と身近だったから余計に影響受けてたのかも。イネどうしよう、お姉ちゃん今更不安になってきちゃった」

「いやまぁステフお姉ちゃんって一般人かって聞かれたら、イネちゃんなんとも言葉に詰まっちゃうからなぁ、銃撃戦に対しては確かに一般人って言えるだろうけど格闘戦になるとイネちゃんにも勝っちゃうし……格闘家?」

「それは期待してた答えと違うかな!」

「初めての実戦ってのはそういうものだよ」

 イネちゃんはニッコリ笑顔をステフお姉ちゃんに返すと。

「だからちがうー!」

 まぁ実際どんな感じに言ったところであまり効果はないからねぇ、こういうのって。

 イネちゃんはこう、ボブお父さんとルースお父さんのお友達と実弾使ったサバゲーに参加させられてたから、無駄に初実戦っていう感じのものはなかったんだけど、よくボブお父さんが新人さんに向かって似たような慰め方してたから、イネちゃんも真似してみた。

 ステフお姉ちゃんもなんとなく今のやり取りが誰が元凶なのかを把握したようで、小さい声で「帰ったら嫌がることしてやる」とか呟いてる、ボブお父さんごめ……割と自業自得なのかもしれない、イネちゃんに教えたのはボブお父さんだし。この場合って因果応報だっけ?ま、いいか。

「ところでこの後ご飯食べた後ってどうするのかな、ココロさんとヒヒノさんのお父さんがこっちに来れるかどうかもわからない状態だけど」

「今のところ待機以外にできませんね、調査自体も先ほどの方々に任せていいと思いますし、協力を要請されれば別ですが、それでも色々と制限がつくでしょうしね」

「じゃあ待機しかできないってことかな」

「私たちが好き勝手動いてしまっては調査に支障をきたす可能性は否定できませんからね、護衛と監視を行うにしても固まっていたほうが彼らもやりやすいでしょうし」

 ということは待機ってことだね、追加襲撃とかが起きなければ特別動く必要もないし、むしろ邪魔になりかねないっていうのはなんとも……こう、もやもやするね、実際邪魔になるとは思うんだけど、動いていたほうが落ち着くのはイネちゃんが今あまり疲れていないからなんだろうか。

 ココロさんとヒヒノさん、疲れているようにはぱっと見ではわからないけれど、今日は全力モードを使ったわけだしかなりの疲労が溜まっていてもおかしくないし、少し休みたいと思っててもおかしくないよね。

「ともかく今の私たちにできることはゆっくりと休息を取ることです。休息だって立派な役割であり仕事ですからね、特に私のように荒事が多い人間なら尚更です」

「魔力も結構使っちゃったしね、私もお休みできるなら全力でリラックスしたいよー」

 イネちゃんの心の声が聞こえたのか、ココロさんとヒヒノさんは休みたいと同じタイミングで言ってお互い笑い合った。本当仲がいいなぁ。

「魔力ってどうやって回復するんです?」

 ステフお姉ちゃんが気になったのか、メモ帳にペンを手に持って質問しだした。今休みたいって言ってた2人に対してよく聞けたね。

「別に特別何かする必要はないよ、何もしないでも常に回復するっていうか……体力と同じようなものだしね」

「じゃあゆっくり休んだり、食べたりするのは回復力を高める行為ってだけ?」

「普通ならそうかな」

「普通?」

 普通?ってステフお姉ちゃんも同じ疑問を持った。いやまぁ今の流れだと持たないほうが不自然な気がするけど。

「ヌーリエ様から特別な加護を受けた勇者やムンラビおばあちゃんみたいに常時どこかから吸収してたりすると、ほとんど無尽蔵って感じになるんだよね。まぁ私たちは流石に体力のほうは休まないといけないけど」

 ムーンラビットさんって休まずにずっと動いてそうだもんねぇ、寝てる姿は想像……はできるな、実際寝ているところ見たことあるし。あの人寝ているときは見た目通りの女の子って感じで可愛いんだ、最年長なのにずるい。

 ともあれイネちゃんたちの長い1日はこれでひと段落かな、と思いながら皆で帰路を歩いていった。結局買い食いはしなかったよ。

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