第111話 イネちゃんと大立ち回り
部屋の中が膠着状態に陥ったところで、最初のぶつかり合いの際に出た大きな音に反応して看護師さんが慌てた感じに部屋を開けたところで事態は動いた。
叫び声をあげちゃった看護師さんを合図に特殊部隊の人たちが窓から飛び出そうとしたので、イネちゃんとココロさんが飛びかかるようにして捕まえようとしたところココロさんがミルノちゃんを捕まえていた人を、何もない空間から出した棒で顔を叩いて昏倒させたけれど、ティラーさんは押し負けて逃してしまい、イネちゃんも流石に窓から飛び出すことができなかったので合計5人のうち2人に逃げられてしまった。
最初に顔を打った人も逃げようとしたみたいだけれど、流石にタイピングをやめたステフお姉ちゃんが看護師さんに向かって走り出そうとしたところを、顔面を蹴り飛ばして止めていたらしい。流石にイネちゃんそこまで見てられなかったよ。
ちなみに操られていたウルシィさんはミルノちゃんにやったのと同じ感じにして魔力回路を燃やして元に戻しました。まる。
「ミルノさんも不自然に昏倒致しましたし、念のためやりますか。アクティベートした状態ならわかりますよね、ヒヒノ」
とミルノちゃんのほうもきっちり処置を施しているところ、イネちゃんは特殊部隊の人を拘束するお仕事をしていたのであった。
まぁ結束バンドを輪ゴムで両手両足の親指同士を繋いだだけだけどね、実際これだけで漫画みたいな人たちじゃなきゃ動きが制限される。ってムツキお父さんとルースお父さんから聞いた。
ちなみにイネちゃんは指の関節を外して抜けれたりする、訓練次第でできるもんなんだなぁって思いつつの訓練だったけれど、この人たちも似たことができないとも限らないけれどね。
ただ病院の備品を使うわけにもいかないし、今できるのはこの程度なので今はこれで良しとする、捕まえたのが無駄に多いのがちょっと面倒だなぁ、死なれても困るし口にタオル噛ませておくけど。タオルなら水をタオルに浸透させれば水を取らせることができるとかムツキお父さんから聞いたんだよね、その時コーイチお父さんとルースお父さんがドン引きしてたけど。
「さて、拘束し終えたなら……イネさんもついてきてもらっていいでしょうか」
イネちゃんが捕まえた人たちの処置を一通り終えたのを見たココロさんがイネちゃんをご指名してきた。
「え、別にいいけど……何かあるんです?」
「いえ、少々あれを追いかけようと思いまして」
「もう逃げてから結構時間が経ってるんですが……」
「そうですね、ですが微かに魔力の残滓も確認できますし……何より彼らには遠方の味方と意思の疎通ができるものがあるのでしょう、そこから魔力で探知しますよ」
正直それだけだと途方にくれちゃうかなぁ……それこそリソースを割ける組織に任せたほうがいい気がするんだけれども。
「あぁそれと」
イネちゃんがそんなことを考えたところでココロさんは説明を続けた。
「おそらく、まだこの建物の屋上にいますよ。そんな予感がしますので」
「予感かぁ……ちょっと行動するには弱くないです?」
「イネさんのおっしゃるとおりではあるのですが、私のこの予感、師匠にも驚かれるほど当たりますので、騙されたと思って少々御足労をお願いいたします」
むーこれは行かないとココロさんは満足しないかな。
イネちゃんとしてはミルノちゃんたちが心配ではあるけれど、そこはティラーさんとステフお姉ちゃんに任せればいいし捕まえた人はヒヒノさんが見ておくって感じのサインを送ってきてるから、自由に動けるのがココロさんとイネちゃんの2人になるように外堀埋められた感じになってる以上、断る理由も今言ったような直感とかの動機が弱い程度しかないわけだしね。
「はぁ、わかりました……でもちゃんとこの人たち監視しててくださいねヒヒノさん。あとミルノちゃんたちはステフお姉ちゃん頼めるよね?」
「はーい、逃げようとしたらちょっと炙るくらいはしていいよね」
「わかったわかった、でもちょっともふもふしても怒られないよね」
どうしよう、かなり不安だ。
不安ならがもこの2人ならあまりにもな目も当てられないような状況にはならないだろうとも思うので、ここは不安を飲み込んでココロさんと一緒に屋上に行くことにした。
とは言え流石に屋上に出るにはナースステーションにいる看護師さんたちでは許可が出せないので、少し面倒な手続きをイネちゃんが病院1階の受付で少々面倒な手続きをさせられることになったのだけれど、それはまぁいいんだけれど……。
「エレベーターという機械は使えないのですか」
「まぁ日常的に足を向ける場所でもないからねぇ、乾燥機とかを回すからお洗濯物も干さないらしいからねぇ」
となると機械關係の業者さんとか窓ふきの業者さんくらいしか入らないわけで、それならエレベーターが必要無いということになるわけで緊急用の階段しか無いらしい。
まぁ本当に緊急、特に災害時に患者さんを逃がすための完全独立動力のものがあるらしいけれど、それこそ業者さんの定期点検以外では動かさないものらしいので使用許可までは降りなかったのだ。
「個人的にはこれだけの高層建造物の階段ダッシュはやってみたいところですがここは医療機関ですからね、流石に遠慮しなければですね」
「むしろ大丈夫ならやったんですか」
「シックで師匠に鍛えられていたときは毎日2度、地下から最上階まで3往復をやらされていましたからね。実際のところ足腰と体力だけのものですので今となってはあまり必要ないものとは思いますが、私の場合日課のようになってしまいまして……」
そういえばこっちの世界で合流してからはココロさん、朝と夕方の2回ジョギングしてたっけ、正直ジョギングって速度じゃなかったけれどココロさんの足腰の強さだけはなんとなくそれで察していた。
そんな雑談をしていたところで屋上までたどり着くと、外へと出る鉄扉をはさんで気配を感じた。
(何かいますね、少なくとも人と思わしき大きさのものが)
ココロさんが声を殺す感じの音量でイネちゃんの動きを止める形に知らせてきた。
イネちゃんも気づいては居たけれど、どうやらココロさんには数や位置が把握とはいかないものの、ある程度わかっているらしいのでここは従う。
(扉の鍵、正規の方法以外で開けられていないか確認をお願いいたします。この辺の技能は私たちの中ではイネさんしか有していませんので……)
なるほど、ヒヒノさんを残してイネちゃんをご指名した理由はこれか。
ってことはココロさん、始めっからここに誰かいるって確信を持っていたのでは。いや流石にイネちゃんの考えすぎかな、うん。
とりあえず鍵穴を調べて見ると、なるほど確かに、明らかに正規の鍵ではないものが使われた痕跡がそこにはあった、しかも金属が擦れたためにできた金属くずが真新しい感じ、サビもくすみもしていないものがついていた。
(キーピックの跡がある。ついでに鍵はかかってるから鍵を開ける音で気づけるようにしてる)
(そうですか、イネさん、音を立てずに鍵を開けることは?)
(ちょっと難しいかも、結構古い鍵だし全体的な立て付けでどうしても音は出ると思うよ)
この鉄扉が作られた時期にもよるけれど、ドアが防腐加工されていなかった場合錆び付いて、いちいちどこかが動くたびに軋みをあげることが考えられる。
幸いドア自体にはそれらしいサビが見えないから大丈夫だろうけれど、ドアノブ辺と建物側のほうがそうでないとも言えないので流石にできると自信満々に言うことはできなかった。
(なるほど、ならできる限り音が小さくなるようお願いします)
それならできる。
一度キーピックで開けられているとは言え、手際自体はそこそこだったためか内部構造まで損傷はしていないようだったので正規の鍵ならゆっくり回すことで消音を頑張ることはできる。
鍵穴に鍵を挿すのもゆっくりとして鍵穴をもっと慎重にゆっくりと回すと少しギギギって感じの音が出る。
どうやら多少のサビがあるようでこれを完全に消すのは不可能……と思ったところでココロさんが。
(
だったら最初からとも思ったけれど、戦闘時に棒をブンブン回している時よりもすごい汗をかいているのが見えたので本当にきついんだろうと思い言葉を飲み込んで鍵を開けてドアも開けると、人影が数人分確認できた。
(確認しましたね、ここから影が見えないのは私が対処しますので、イネさんは影の見える2・3名の無力化をお願いいたします)
それだけ言うとココロさんは飛び出してしまいイネちゃんは少し遅れて飛び出す。
普段使われていない場所だけあって足場が悪い感じではあるけれど、ココロさんはむしろあらゆる物を利用して移動し、むしろ速くなっているんじゃないかって速度でまっすぐ進んでいる。
イネちゃんはあんな大道芸や曲芸みたいなことはできないので室外機とかを遮蔽物として利用しつつ速度を意識して移動し、ココロさんには悪いけど囮として利用する形で近づいてココロさんに合わせるために潜伏する。
まぁ既にココロさんが派手に突入してるので合わせるもなにもあったもんじゃないんだけれど、この人たちが銃でも抜いたらそこから無力化していく方針で。
『なんだこいつ!』
『ぐぇ』
『くそ!撃て!』
と英語で叫ぶ辺り、さっきイネちゃんがあの隊長だったろう人に言った言葉を思い出してつつ、普段から英語を使っているのかもしれないと考えながら銃を構えようとした人から足を崩して投げ飛ばす。
正直今の状況で頭から落ないように気を遣うのは無理だから、まぁ最悪トマトが潰れた感じの屋上になるけれどそこは清掃業者さんごめんなさいだね。
そして状況的に、ココロさんはイネちゃんのところにいる後2人に対しては見向きもしない感じで、その2人は1人はイネちゃんに驚きながらも反撃してきて、もう1人はイネちゃんに見向きもしないでココロさんを撃とうとしているため、イネちゃんには選択肢が生まれてしまった。
イネちゃんの身を守るか、ココロさんの無事を優先するか。
ココロさんなら案外何とかしてしまいそうという思いもあるけれど、ココロさんはイネちゃんにこの人たちの対処を任せてくれたわけで、それに応えたいという気持ちが強いのも確かで……。
『なら迷う必要はないよ、私ならできる。ココロさんの分も奪うくらいでいこう!』
久しぶりにイーアの声が頭に響く。
「確かに、私なら行ける……はず!」
小さく呟くようにイーアに返事をすると私はココロさんを狙っている人の股下を抜けて勢いで逆立ちするような形でココロさんを狙っている人の顎を蹴り上げて、腕の力で地面から跳び、蹴り上げた人の頭を足で挟むように体を起こしながらファイブセブンを抜いて、イネちゃんを狙っていた人を視界に入れると同時に構えている銃を握っている手に向かって発砲。
『シット!』
撃たれた人がそんな感じにわかりやすい反応をしたけれど、構わず追撃で両肩を撃っておく、流石に目と鼻の先だから外しはしないし。
ファイブセブンさんから銃声が2つ、肩口も撃たれた人はなにも言えないくらいの痛みだったらしくその場でうずくまったのを確認すると、イネちゃんの股に顔を挟まれた人を後ろに倒れる勢いで倒そうとしたけれど……。
『ガキが!』
そう叫んで逆にイネちゃんを地面に叩きつけようとしてきた。
まぁ、マウントとってるのはイネちゃんなので、落ち着いてナイフを抜いて首の後ろにナイフの腹をつけて。
『動くな』
と言ってから、後ろに倒れるようにして、投げた。
「おっと、そこは危ないですよ」
ココロさんがそう言うと同時に野太い声が2つ聞こえて。
「ほら、危なかったでしょう?」
いつもと同じような口調で棒で地面を突く音を響かせて。
「まだ、抵抗なさいますか?」
ココロさんのその言葉に反応できる人は、既にいなかった。
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