第100話 イネちゃんと捕縛
「まずは厄介なものを片付けさせてもらいましょう」
変身ヒーローのような漆黒の鎧の人はココロさんの声で炎で作られた棒をどこからともなく取り出すと、剣のように持ってマッドスライムに向かって振り下ろした。
それと同時にマッドスライムが縦に斬れて、更に追撃の形で前につき出す形で棒を突くと今度はマッドスライムに大きめの風穴が開く。
「斬れば剣、突けば槍、薙げば薙刀……棒術とはそういうものです、よっ」
あまり力がこもっていないような言葉と共に棒を薙ぐとマッドスライムは完全に炎に包まれて……。
「止めです、燃え尽きてください」
槍で言うところの石づき……でよかったっけか、そこで殴るようにして棒を振り上げるとその炎が更に勢いが強くなる。
『イネ、錬金術師!』
頭の中でイーアの声が響いて、慌てて錬金術師の居た場所を見ると多分ココロさんの攻撃の余波で吹き飛んだのかイネちゃんの結構近くに倒れていた。
とりあえずファイブセブンさんにセーフティーをかけてホルスターに戻してから、テーザー銃を両手で構えて、発射して錬金術師に直撃させてから電流を流す。
錬金術師は少しビクンビクンとして動きが止まるのを確認してから、テーザー銃の電流を止める。
……というかテーザー銃ってこれでいいんだっけ、ちょっとやりすぎたとか無いよね。
「錬金術師はどう?」
なんだかさっきより元気が足りないヒヒノさんがテーザー銃の操作をしているイネちゃんに近づいてきた。
「んーこれを使うのは初めてだから……動けなくはなったと思うけれど、ちょっとわからないんだよね」
「それ、感電させる武器なんだろうけれど、やっぱり非殺傷武器で無力化っていうのはこういう場面が1番の問題だよねー、本当に無力化できたのかがわからないっていう」
「でも、ひと目で無力化できてるってわかる状態って、大抵息してないよね」
ここで少し沈黙。
というかあのでっかいマッドスライムも炎に包まれてから見る見る小さくなっていて、既に普通の人のサイズにまでなっている。
勇者ぱわぁで特殊な倒し方したためか、このマッドスライムが特別なのかわからないけれど、今までのマッドスライムとは違って地面に溶けるように消えないで、塩をかけられたナメクジさんのように縮んでいっているという印象を抱く。
「そうですね、こちらのほうももう問題なさそうですし私が確かめましょう」
ココロさんがそう言いながら悠々と歩いて錬金術師に近づいていく。
全身漆黒の鎧で悠々と歩いていく姿は、迫られているほうからすれば結構な威圧感だろうなぁ、ココロさんの体型にフィットする感じだから全体的なボリュームは無いのだけれど、それでも背中にロボットのブースターみたいなものもあるし、鎧の肩の部分にもいくつか排気口のようなものが確認できる。
いろいろとギミックがそれほど観察しないでも見て取れる辺り、ココロさんはこのマッドスライム相手に全力は出していないんだろうってことがよくわかるね、まぁ抑止力として誕生する勇者様で、更にココロさんとヒヒノさんは戦闘特化らしいからこの程度ってことはありえないと思うんだけどね。
「さて、貴方はまだこちらの世界に迷惑をお掛けするつもりなのでしょうか、それをお聞きしたいのですが……意識はありますか、無いのでしたらある程度拘束させていただいた後に少々拷問と呼ばれるような行為も辞さないつもりですが」
勇者様が割とどぎついこと言ってるー!
というかえぇ……ヌーリエ教会って拷問とかオーケーなの?いやまぁ中世準拠の文化水準ならありえるかなぁとも思うけど、教義がかなりの博愛主義なヌーリエ教会でってなるとかなり驚く。
「ヌーリエ教会は基本的には救える者は救いますが、他者と共存できないもの、する気がない者を救うほど優しくはありません。そして貴方はどうなのでしょうか、今はまだ2度ですので機会をお与えするのですが、お話をしてくれる気はありませんか」
あぁ攻撃してくる相手やゴブリンには容赦しないって意味かな、それなら多少は……わからないでもないけどやっぱ怖いよ!
しかしながらも錬金術師はそのココロさんの言葉にも反応がなく、地面にうつぶせの形で倒れたまま動かない。まさか電圧間違えちゃったとかで……。
「魔力は感じるし大丈夫だと思うよ、となれば生きてはいるということなんだけれどもー……」
「いえ、聞こえていますよ。力の統合を私ベースにしておいて正解でしたね、私の調律の応用で対象の状態は概ね把握できるのですが、意識は覚醒状態、ところどころ消耗はしていますが会話は可能、身体で言えば脈拍は少々弱くなってはいますがそれほど異常という範疇ではありませんし呼吸も同様で……とりあえず四肢は切り落としますか」
ココロさんが説明ついでに割と非人道なことを言って棒を振りかざしたところで錬金術師の四肢が変化して……。
「まだ捕まるわけには……!」
四肢をマッドスライムに変化させた錬金術師はそう言って空に跳ねるようにして跳ぶものの。
「別に、直接斬る必要性はないのですよ」
そう言ってココロさんが棒を振り上げたところに。
「ちょっと待つんよー、そいつ殺したらあかーん!」
とムーンラビットさんが珍しく羽と尻尾を出し、その尻尾で錬金術師を捉えながら割り込んできた。
「ムーンラビット様、説明はしていただけるのですか?」
「ちょいと面倒やけど流石にせなあかんか、こいつ殺すとヴェルニアで誘拐されたのが助けられなくなるんよー、生体認証の結界の上こっちの世界だから概念破壊は条約上リスクが高いかんな」
ムーンラビットさんが簡易的な説明のようなことを言うと、ココロさんは振り上げていた棒を下げて。
「詳細は長くなりそうですね、もとより命を取る気はなかったのですが……スライム部の切り落としも止めた理由はありそうですしね」
「あぁうん、こっちの技術で指紋っちゅうもので認証するから腕が必須なんよな、その後静脈とかいろんなもので更に認証しないといけないみたいでな……」
……ムーンラビットさんってこんななにこっちの技術に詳しかったっけ?
ちょっとイネちゃんが疑う感じの思考をしたところで、ムーンラビットさんが降りてきて割と雑に錬金術師を地面に放り投げた。
「まぁ皆いろいろ言いたいことはあると思うんやけど、一旦飲み込んで欲しいんよ。割と急ぐ必要があるんでココロはそのままでお願いな」
そう言いつつもムーンラビットさん、魔力の鎖で錬金術師を簀巻きにしている辺り本当に何か見つけたりしたのかな。
「そうですか……調律のほうでもとりあえず本人で本心だと確認は取れますが、少々言動が先ほどより気になるので警戒はさせてくださいね」
「別にそれでええんよ、とにかくこっちなー」
そう言ってムーンラビットさんが先導、ココロさんが真後ろに付く形で交流センターのほうへと歩き始めた。
「あの状態だとココロおねぇちゃん、殺伐!って感じになっちゃうんだよねー、根っこはちゃんとおねぇちゃんだから大丈夫なんだけれど、力の制御のほうで結構大変らしいんだ。ササヤおばちゃんからはそのへんがまだ未熟って怒られたりするんだけどねー」
ヒヒノさんがそう言って後を追う。
イネちゃんは……。
「あ、テーザー銃の回収……ってこれもう無理だよなぁ線が切れちゃってる。それと田中さんたちに連絡しておこっと……」
ヒヒノさんの後ろに遅れないようにしつつ、通信機を起動して田中さんたちに今の出来事を伝えると……。
『なんというか……展開が多い上早すぎて困りますね、ともかくそちらに向かいますので、ムーンラビット様の向かう場所……建物であるのなら報告を入れていただけますでしょうか』
「うん、わかったけど……どうにも交流センターの方に向かってるんだよね」
『交流センターですか?あそこは事務的なものしか中に入っていなかったはずですが……』
それはイネちゃんもあっちの世界で傭兵さんや冒険者さんをやるためにいろいろ手続きしに行ったことがあるから知ってる。
それ以外でも武器弾薬のお取り寄せ手続きで、テスト中のものだと交流センターで手続きしないといけないんだよね、イネちゃんの場合はお父さんたちが頼んでいないのにいろいろやってくれるけど。
『ともかく向かいます、あまり先走らないように伝えておいてください』
田中さんはそれだけ言って通信を切った。
先走らないように伝えてって言われても、ムーンラビットさんはそそくさと錬金術師を引きずりながら結構な速度で進むし、ココロさんはなんだか近寄りがたい雰囲気だしでイネちゃんどうしたらいいのかな……。
「ムンラビおばあちゃーん、ココロおねぇちゃーん、田中さんたちも来るらしいから、もうちょっとゆっくりしてー」
と通信が聞こえていたのかイネちゃんの前を進んでいたヒヒノさんが声をかけてくれた、ヒヒノさんの物怖じしない性格ってこういう時凄く頼りになるよね、凄くありがたい。
「んー……急ぐ必要はあるが、万一もあるか。仕方ない、ちょっと速度落とすんよ」
「そうですね、私としてもやりすぎないようにしたいところですし」
口では納得した感じなのに速度がほとんど変わらないんですけどー!
イネちゃんはちょっと涙目になりつつ、ヒヒノさんは苦笑いで2人の後に追うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます