第63話 イネちゃんと追悼と供養
「よし、見えてきた……と、違うな。ひゃぁ!帰ってきたぜぇ!」
コーザさんがヌーカベと併走する形で馬に乗り、案内をしていたんだけどいきなり初対面のときのノリに戻って叫んだ。
「ひゃぁ!子供達!」
「ひゃぁ!元気だったか!」
と他のヒャッハーさんたちも続いた。
ティラーさんはやらない辺り、そのへんの役割分担とかしているのかな。
「ぬらぬらひょんだ!……ヌーカベもいる!」
と丁度外で遊んでいたのか、子供の声が聞こえてきた。
「ひゃぁ!色々あって!」
「ひゃぁ!一緒になったんで!」
「ひゃぁ!ついてきてもらったんだぜ!」
その会話の仕方でずっと行くのかな……ちょっとくどい気もするんだけど。
「ねぇティラーさん、あのテンションは一体なんなのかな……」
流石に口説くかんじちゃったイネちゃんが聞くと。
「あぁあれはな、子供達に一番受けのいいものを模索した結果だ。子供達が飽きたら変わるぞ」
あ、変わるんだ。
じゃああれって鉄板のギャグみたいなものなのか、なる程。
「アレ、ぬらぬらひょんの人たち……少ないような」
と子供の消え入りそうな声が聞こえたところでティラーさんが。
「おっと、すまん。あぁいうのに答えるのが副団長としての俺の役割なんだ」
「それって貧乏くじじゃ……」
「傭兵団だって立派な組織だからな、憎まれ役とかが必要なんだよ。団長は好かれるカリスマしておいてもらわないといけないしな」
役割分担なんだろうし、本人が納得付くであるのならイネちゃんがこれ以上突っ込むのは違うか……。とりあえず流れを見守ろう。
「いやぁ貧乏くじッスねぇ、私はやれそうも無いッス」
おいそこの猛禽類、こういうのは突っ込み過ぎないのが礼儀なんだから。
「ははは、ハルピーのお嬢さんは色々軽そうだもんな」
ティラーさんは大人だなぁ、そこで皮肉を返せるのは余裕があるのは羨ましい。
「ふわふわーって軽いッスよ!」
しかしキュミラさんは皮肉を理解できるおつむがなかった!
万に1つでも理解した上で言ってて欲しいとは思うけど、ちょっと期待できない要素のほうが多くて悲しくなるね。
「じゃあ俺は子供たちと村の人たちに説明をしてくる。お嬢さんたちはひとまず動物を降ろしてくれ。置き場所に関しては団長に聞いてくれればいい」
ティラーさんはそう言ってから子供たちのところに走っていった。
「それじゃあイネさん、とりあえず狼は私が降ろせばいいッスかね」
「いや、まず重い熊で……」
とキュミラさんにツッコミを入れるタイミングで、子供たちが大きな声で泣き出した。
「あいつらは最後まで皆のことを思っていた、だから忘れないでやってくれ」
ティラーさんの言葉が聞こえたと同時に子供たちの鳴き声が更に大きくなった。
するとリリアさんがヌーカベから降り、駆け寄ってきて。
「あ、イネさん。私はあの子たちの相手をしたいから……ごめん」
「いや、謝る必要は無いって。リリアさんはヌーリエ教会の神官さんだし……それ以上に子供が泣いているのが許せないんでしょ?」
「許せないっていうのは違うけど、放っておけないかな」
リリアさんのこれは気質なんだろうなぁ、優しいタタラさんとお節介なササヤさんの教育の賜物なんだろうけど。
「じゃあキュミラさん、荷下ろしは私たちでやるよ。ご遺体のほうは……ティラーさんとリリアさんに任せてもいいよね?」
子供のところに向かう寸前だったリリアさんが振り向いて。
「うん、もしかしたらこの村特有の弔い方があるかもしれないし……熊と狼の荷下ろしと怪我人のほうをお願い」
そう言って子供たちのところへ走って行くのを見送ってから、キュミラさんと一緒に荷下ろしを始めた。
「積み込みの時も思ったけど、こんなに狼さんや熊さんが一斉に街道に出て来るなんていうのは異常だよなぁ」
つい独り言っぽく思ったことを呟くと、リリアさんの治癒魔法を受けてぐったりしているぬらぬらひょんの人が答えてくれた。
「開拓中の町でゴブリン災害があったって聞いて、俺たちも最初はそっから逃げてきたんだと思ってたんだが、予想以上に群れの数が多い上に熊まで混ざっていたからな、この村は地図にも載らないような小さな村だ。ヌーリエ教会は建ってはいるが常駐の神官様は居ないレベルで……団長と副団長が俺たちが守るって決めてな」
「漢ッスねぇ……」
必要のない情報まであった上に、キュミラさんがなんだか相槌を打っていたのでイネちゃんはとりあえず頷きつつ、作業の手を止めずに耳は空けておく。
「あぁ団長と副団長は毛色は違うがどっちも俺たちの尊敬する兄貴たちだ……俺たちもここの子供たちに気に入られていたし、大人たちも俺たちを必要としてくれたからな、皆骨を埋める覚悟でいたんだが……仲間が死ぬのはやっぱ慣れないもんだな」
「壮絶な経緯があったんッスねぇ……」
「とりあえずキュミラさんは翼と足を動かそうか、お話を聞くのは作業しながらでも出来るよね?」
「イネさ……はい。わかりましたッス」
ぬらぬらひょんさんたちの身の上話自体はイネちゃんも興味はあるけれど、作業を完全に止めるのだけはやめてね?
「お嬢さん、少し気が立っているのか?」
「ん、イネちゃん?……ん~確かに少しイライラしてるかも」
自分の未熟さ、不甲斐なさっていうのを再実感させられたって感じで少し余裕が無くなっている気はしている。
ただそうやって余裕がなくなると、もっとひどいポカをやらかしかねなくなるっていう知識もあるから、余裕の無いイネちゃん自身に対してイライラする感じ。
もしかしたらキュミラさんにきつく当たっちゃうのも、そこからかも。普段ならもう少し優しく出来そうな気はしなくもないから、
「そうか、理由はわからないからなんとも言えないが、少しゆっくりするのもいいんじゃないか」
「ゆっくりかぁ、確かに割と凝縮した日常だったから少しゆっくりするのはいいかも。まぁ護衛依頼中だからそうもいかないけれど」
ぬらぬらひょんのお兄さんに気遣われるくらいに表情とかに出てたのかな……ともあれここで苦笑とはいえ笑顔が作れる程度にはまだ大丈夫かな。
「イネさん、狼は降ろせたッスよ!次は怪我人の搬送するッスか!」
「うん、熊さんからって言ったよね。……まぁもうやっちゃったんならいいか、うん、怪我人の搬送。ご遺体はリリアさんたちが対応するらしいからまだ安置しておいてね」
「了解ッス!じゃあそこのお兄さん、行くッスよ」
キュミラさんが今話していたお兄さんを足で掴む。
「強く掴み過ぎないでくれよ……こう食い込みそうで怖い」
「力はあまり入れないから大丈夫ッス!必要以上に重くなければッスけど……」
「あ、昨日ちょっと食べ過ぎたからやっぱ後で……あ、痛い痛い!爪が!」
バッサバッサとお兄さんが運ばれている絵はとてもシュールではあるね、うん。
キュミラさんとお兄さんが馬車から出て行くのを見送ってから、馬車の中にご遺体と共に寝かせておいた、ある程度解体をしておいた熊さんを、馬車の外に運んでいるとリリアさんとコーザさんが外から覗くような形で話しかけてきた。
「お墓の穴が掘れたから、ご遺体を運ぶよ。イネさん手伝ってもらっていいかな」
リリアさんの言葉にイネちゃんは少し周囲を見渡すけど、中にはイネちゃんしか居ないわけで……。
「手伝えるのはイネちゃんだけっぽいから、うん。誰から運ぶとかはあるの?」
「いや、誰からでもいい。順番に関してはお嬢さんに任せる」
割と困る回答が来ちゃった。
こっちの世界に戻ってくる前に今晩のご飯なんでもいいとか毎日のように言っててごめんなさい、ジェシカお母さん。
なんて考えている時じゃないか、とりあえず一番近いご遺体を抱きかかえてコーザさんに渡す。
「動けるやつはお嬢さんに手伝ってもらって運ぶぞ」
ティラーさんの号令に合わせてぬらぬらひょんの人たちが代わる代わる馬車の中に顔をだしてご遺体を受け取っていく。
損傷の激しいご遺体も、馬車に積み込む時に処置をしているから色々と大変なことにはならないので、特に手を止めることもなく馬車に積み込んでいたご遺体は全部ぬらぬらひょんの人に渡せたのはよかったかも。
そしてそこで少しイネちゃんは気づいたことを呟く感じに独り言って形で漏らした。
「そういえば、こっちの世界のお葬式ってイネちゃん見たことが無いんだよなぁ」
「それなら埋葬後の祈りを見ていかれたらどうですか。まぁ私がやるんですけど」
イネちゃんの独り言にリリアが答えてきて、ビクッってしたけど興味はあるし見学させてもらおうかな……まぁどの道見てたとは思うけど、許可の有無は大きいしね。
「わ、私も見学、いい……ッスか……」
「キュミラさんどうしたんですか、そんなに疲れ果てて……」
「いやぁ怪我人なのに暴れちゃって、爪を立てずに掴むのって大変なんッスけどなかなか分かってもらえなくて辛いッス」
「埋葬と供養は私の仕事ですし、おふたりは休みながら見学して下さればいいですよ」
「うん、わかった。確かにそのへんはイネちゃんたちにできることは無いから、お言葉に甘えさせてもらうね」
リリアさんはイネちゃんの言葉を聞いてから、少し照れたような笑みを浮かべてからぬらぬらひょんの人たちがお墓を作っている場所に歩いて行って、何かの種をお墓に埋めて、祈りを口にする。
「この方々は今生を終え、魂は次なる世界へと旅立ちます。肉体は次なる命へと繋がり、その御霊の旅路にヌーリエ様のご加護がありますよう、皆様も黙祷をお願いいたします」
リリアさんの言葉に合わせて、そこに居た全員が手を組んで祈りを捧げる仕草で目をつむり、それを確認したリリアさんが更に続ける。
「命は更なる命に繋がり、全ての命と共にその旅路に幸多からんことを……」
その一文を、祈りを捧げていた人たちが復唱したところで、祈りは終わった。
今の祈りの言葉から察するに、輪廻転生とかそういう価値観に近しいのかもしれないね。
そして祈りを終えた皆がそれぞれ立ち上がろうとしたところで静かで厳かな雰囲気に似つかわしくない、大きな声が街道の方向から聞こえてきた。
「こんなところに村があると思い立ち寄ってみれば何やら辛気臭いのぉ」
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