第40話 イネちゃんと報告会
ともあれコーイチお父さんの持っていたゲームのラスボスさんの断末魔みたいな叫び声が聞こえてきてからは、驚く程簡単に事態が進んでいった。
最初に正面から館に向かっていったココロさんとヒヒノさんは、数匹のオーガと戦ったらしい。まぁ秒で倒してずっと兵士さんと問答していたらしいから、流石勇者様って感じだったけど。
そしてヨシュアさんたちのほうは、イネちゃんたちみたいにバレることなく目的地である領主の執務室までちゃんと到着できたらしい。
なんでもキャリーさんとミルノちゃんのお父さんを陥れた貴族さんである、キリー・アニムスがこれでもかってくらいベタな感じで待ち構えていたって、今旧ヴェルニアの館の応接室でお話を聞いている。あ、ギルドのお兄さんもこっちに来てもらって第三者の書記係を務めてもらってるから、公式的な報告会って形はとってるけどね。
「キリーはどうやら死体を操ることができる錬金術師を雇っていたらしくてね、自分の手で処刑していたヴェルニア家の……キャリーの両親を僕たちの前に出して攻撃してきたんだ、多少の問答はしたけど最初からキャリーと僕たちを消すつもりだったよ」
ヨシュアさんたちのほうは、精神攻撃されてたんだねぇ、そっちもそっちで大変そうだなぁ。
「でもキャリーが両親に語りかけることで、多少の自我が残っていたらしく動きを止めて、その……」
「私がお父様とお母様を、炎の魔法で焼いたのです……」
王道ってレベルの展開してたんだね、そっち。
でも流れ的にはキャリーさんのメンタルが心配になるね、死んだと思っていた両親に襲いかかられて、自分の声で目覚めた直後に望まれたとはいえ火葬したってことだもん。
「その流れに狼狽えたキリーを気絶させて、手足を縛って捕縛しました。オーサ騎士団が来た際に今の流れを説明して、キリー本人を差し出せば問題ないと思います」
「なるほど、ヨシュアさんのほうはそういう流れだったのですね。ではミルノさんたち隠密部隊はその時何をしていたのですか」
うん、その言い方はちょっとトゲを感じるかなココロさん。
「隠し通路を抜けて館に入る場所、穀物倉庫だった場所が別の用途で使われていて、そこに2人ほど人がいたのです」
とミルノちゃんが説明を始める。
チームリーダーとしては一応ミルノちゃんだったから当然ではあるけど、その後の展開ってイネちゃんかジャクリーンさんのほうが良さそうな気がする。
「別の用途?」
まぁ、それが主情報だもんね。イネちゃんたちを呼びに来たのはウルシィさんだったし、見てない人ならその質問だよね。
「ヨシュアさんの報告にも出てきていましたが、恐らく錬金術師と、キリーとの連絡役として雇われた人間の2人が居て、死体に対し何やら行おうとしたところ、イネさんとジャクリーンさんが突入して2人を押さえ込んだのですが……」
「なるほど、ヒヒノ、一応確認してきてください。ちゃんと念写スクロールを用いて部屋の状況を保存してくださいね」
「あ、じゃあ私が道案内役に……」
ココロさんの現場保存指示に、ジャクリーンさんが道案内を名乗りでる。
そしてココロさんは、ジャクリーンさんを見つめながら少し考え。
「そうですね、私とヒヒノは館の内部構造はわからないですしお願いします。二人共気をつけつつも迅速にお願いいたしますね」
「はーい、行ってきまーす」
すごい軽いノリでヒヒノさんが部屋を後にすると、割とボロボロになっていたジャクリーンさんもその後を追っていった。ジャクリーンさんは見た目ほど傷は負っていなかったみたいだから心配ないけどね。
「それではイネさん、その部屋を確保して置かなかった理由を聞いても?」
うん、それ聞かれるよね。
「イネは怪我してたんだから!早く治療しないといけなかったんだよ!」
とウルシィさんが割って入ってきた。
「具体的に、どのような怪我でしたか」
「街の外で戦ったアレにやられたみたいだった、ほらジャクリーンが負った感じの」
ウルシィさん説明ありがとう。
ウルシィさんの言うように、イネちゃんは鎧の人を押さえ込んでいたときに触れていた箇所と、溶解液が少しかかったほうの足の甲が火傷っぽい感じになっていた。
まぁミミルさんの魔法で回復してもらったから、ギルドまでお兄さんを呼びに行っていたココロさんは見てないから、質問するのは仕方ないけどね。
「ということはイネさんたちは地下でアレと戦闘をしたということですか」
「うん、アレの正式名称はわからなかったけども、どうやら基本的には死体から生み出されているみたいだったかな、ちょっと音が小さいかもしれないけど録音したのがあるからどうぞ」
ココロさんに聞かれてから、イネちゃんは突入前に録音していたボイスレコーダーを差し出す。ちなみにココロさんがやたらイネちゃんを疑う感じの口調になっているのはこの会話を第三者が記録しているから、公的に意味のあるものにするためだったりする。
「聞いても?」
「勿論、証拠として有効になると思ったから録音したものだからね。……操作、しましょうか」
ボイスレコーダー全体を握る形で持とうとしたココロさんを止めて、イネちゃんが操作して録音した内容を流すと、突入直前に男2人が話し合っていた内容を聞いて皆が驚いた顔をしている。
「これが異世界の技術ですか……魔力が一切感じられないのにすごいですね」
あ、そっちで驚いていたんだね。
まぁともあれ突入以降の説明をする流れに戻してっと。
「一連の流れを聞いて、死体に対して何かしらのことが行われた場合厄介なことになると思い、イネちゃんとジャクリーンさんの2人で突入し、男2人を無力化することにしたんです」
「なるほど、それで突入した後の流れをお願い致します」
ココロさん主導での流れに従って、イネちゃんも話を続ける。
「元穀物倉庫だった部屋には2人の男だけで、1人は初老、もう1人は軽鎧を着た中年で、閃光珠のようなものを使って目と耳を封じてから突入したので、抵抗らしい抵抗を受けずに無力化自体はできました。ですがその後、初老の男が何やら口走ると軽鎧の男が正体不明の生物になり、それに驚いたイネちゃんたちの隙をついて初老の男が掻き消えるように姿を消しました」
そこでイネちゃんはひと呼吸。水を一口含んだのを確認してからココロさんが。
「続けてください」
完全に尋問とかそっちの雰囲気だね、公的効力のために致し方ない気がするから別にいいけど。
「その正体不明の生物はイネちゃんが担当し、戦闘音に気づいて現れる可能性がある兵士の警戒をジャクリーンさんにお願いして、非戦闘員であるミルノちゃんには侵入に使った通路に避難してもらってから、部屋をできるだけ傷つけないよう爆発系の武装を使わない形で戦闘を始めました」
「ただいまだよー」
と、このタイミングでヒヒノさんとジャクリーンさんが戻ってきた。
「確かに怪しい実験道具っぽい小瓶とかがあったねぇ、床が溶けている痕跡もあった。だけど街の外でであったアレ、アレの臭いはほぼなかったかな」
「お帰りなさいヒヒノ、イネさんから聞いている話ではその理由が予想できるので問題ではないです」
「りょうかーい」
その短い会話だけで、ヒヒノさんはなんの迷いもなく椅子に座る。これは勇者同士の信頼感というより、双子特有のなにかな気がする。
「ではイネさん、続けてください」
とココロさんの言葉でイネちゃんは慌てて続けようとする……けどどこまで話したっけ。
「戦闘開始」
ヨシュアさんが隣で耳打ちしてくれた。くれたのはいいけどイネちゃんそんなにわかりやすかったですかね。
「えっと、まずは大型の動物相手に使う攻撃をして、変異する前に着用していた軽鎧に弾かれた音がしたため、次は更に威力のある弾を使用した結果、貫通はしたものの今度は無力化に必要と思われる核の破壊ができなかったです」
イネちゃんは思い出しながら話すけど、多分目線がすごく左上になってる気がする。
「なぜ核があると、調査もしていないのですからわからないものなのですが」
「元が生物であるなら心臓みたいなものがあるかなーと。何度か戦った感じですと点より面で攻撃した時のほうが有効であったので体感的にそう思ったわけです」
あくまで予想だったけど、これそういう単語は使うべきじゃなかった感がすごい。イネちゃん失敗。うっかり系女子になってしまう。
「ではどうやって倒したのですか」
「ある程度の貫通力が必要で、数を撃つ必要があると思ったので、イネちゃんのメインウェポンであるP90を使って謎生物の全体に当てるように弾を撃ち込んだ結果、2マガジンを消費したところで動きが止まりました」
ともあれイネちゃんは思ったことを口にしてしまう素直な子なので、正直に全部報告するしかできないのだ。嘘は言ってないしなんとかなるでしょ。
「はい、わかりました。後は一部始終を見ていたミルノさんと、現場とを今の証言と照会して判断しますが……まぁ大丈夫でしょう、教会とギルドとしてもイネさんの身分保証はできますし、先ほどのちょっとした失言はまぁ、何とでもしましょう」
何とでもなる、ではなく何とでもしましょう。なんだね。
イネちゃんのうっかりでお手間をおかけしてごめんなさい。
「で、では公式な公文書の作成は一度中断します……。次は……」
ギルドのお兄さんはそう言ってから、部屋の隅っこで猿ぐつわ付きで拘束されているキリー・アニムスを見て。
「彼から、いくつか聞きたいこととかは、ありますでしょうか」
「いえ、ヨシュアさんとキャリーさんの証言分で十分です。元々シード・オーサは現状変更は望んでいなかった、ヴェルニアの子が生きているのなら任せると教会に言っていますからね」
「もしかして、ココロさんたちが少し強引気味だったのって……」
イネちゃんの言葉に、ココロさんは笑顔だけで返してきた。
うわ、そういうことか。そういうことなんだね。
ココロさんの笑顔に、割と最初から出来レースな茶番であったことをイネちゃんが感じていたところで、館の前が騒がしくなったのだった。
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