第12話 イネちゃんとお手伝いの意思表明

 さて、どうキャリーさんたちにお手伝いするって切り出そう。

 イネちゃんはそんなことを考えながら、寝室のベッドの上で薬莢に炸薬を詰めていた。

「……イネさん、何をなさっているんですか?」

 キャリーさんが興味津々な感じに聞いてきた。

「これは薬莢っていう筒に炸薬を詰めて、弾にしているんだよ。まぁイネちゃんの場合簡易ツールを使って少し楽してるんだけど」

「えっと……ごめんなさい、言ってることがわからないです」

 うん、そうだよね。こっちの世界には無いもんね。

「こっちの世界に直して例えるなら、魔法を使うための触媒を用意している感じかな。ただこっちは特定の現象しか起こせないから、構造も単純だし器具を使えば最低限の知識でできるってだけだよ」

「しょ、触媒を自分で……凄すぎますよ!」

 うん、こっちの世界の人間は触媒無しじゃ魔法は無理だもんね。

 しかも触媒自体が特殊技能で生み出されるか、ミミルさんのようなエルフさんみたいな人が作り出さないといけないから、この例えだと超特殊技能を保有してるみたいだもんね。

 ちなみにイネちゃんの魔法の知識は、生まれた世界のことも学んだほうがいいっていうお父さんたちの方針で、定期的にご本を買ってきて勉強してたから知っているだけで、使うことはできない。使えても触媒自体が高価すぎるらしいから仕方ないよね。

「まぁ実際は別物だし、こっちの世界でも似たようなものは作れるとは思うよ。実際火薬はこっちの世界にもあるし、鉱山とかの採掘の時に使われるでしょう?あっちの世界でもそういうところから発達してるからねー」

「そうなのですか?」

「うん、そうだよー」

 そんな感じに軽い感じにお話しをしている間に薬莢に炸薬を詰め終えて、リロードツールで弾頭部をつける。これで炸薬量もちゃんと測ったから本当大活躍。

「ところでさ、ご飯を食べてた時にヨシュアさんがケイティお姉さんに聞いてたのって、キャリーさんに関わることなんでしょう」

 と雑談の流れで、さらっと聞いてみる。

 こういうのは面と向かって切り出そうとすると大抵失敗するから、軽い感じのほうが聞きやすいよね。

 ただ聞かれるほうは不意打ちの形になるから、それはねーと軽い感じにはならないのが世の常なんだよね。今まさにキャリーさんの表情どころか、全体的にテンション下がってるのが伝わってくる落ち込み方してるし。

「小声だったけど、キャリーさんが『あの子』って口にしたのが聞こえちゃって。聞いちゃいけないことだったのなら謝るけど、問題無いことだったら教えてくれないかな」

 まぁ一度話題を切り出したんだから、終わらせ方を提示するのは必要だよね。

 キャリーさんが拒否したらイネちゃんは他の皆からも聞く気はないし、話してくれるなら他の皆が止めても手伝おうと思う。それがイネちゃんの生きる道なのだ。

 そして悩んでいたキャリーさんも真剣な表情のお顔をあげて、イネちゃんの目を見て話してくれた。

「えっと、私は元は小さい領土を統治していた貴族の娘なんです」

 おっと、この段階でなんとなく予想ができてしまう。でも話してくれるんだからちゃんと聞かないと失礼だから、イネちゃんも真剣に聞かないと。

「質素ながらも両親と多くの兄妹や執事と暮らしていたのですが、ある日突然領民の一部が覚えのない弾圧を叫びだして、多少の不満も持っていた領民も呼応して……」

 うん、それはなんとなく予想がついてた。キャリーさんの性格を考えるとご両親も変なことする人じゃなかっただろうしねぇ。というか変なことしてたら質素な暮らしとかじゃないよね。

 貴族さんの質素はたまーにおかしなことあるけど、キャリーさんが今の生活に耐える様子どころか、違和感なく馴染んでることを考えると相当だったと思う。

「彼らが叫んでいた弾圧の内容も、領主が税金を多めに取って溜め込んでいるというものでした。館の庭に畑を作って、いつも領民の皆さんと同じ食事になるようにと領地で採れたものから備蓄に回さない分のみで過ごしていたのに……お金だって館には有事に備えるためのお金しかなかったんです。使用人にお給金が払えないから雇わない方向で……でもずっと家に仕えてきてくれていた執事はいてくれたんです」

 こういうのをあれだ、テンプレート。

 この次はきっと、決起を叫んだ人の裏に隣の領主とかが絡んでたとかそういうのだよ多分。

「日に日に厳しくなる情勢に、まずは妹をギルドを通して領地の外に逃がして、その次に私をというところで……領民の皆さんが決起して……隣の領主が力を貸してくれると叫びながら館に……」

 ほらね、やっぱり。野心たっぷりの隣人を持つとこうなっちゃうよね。

「両親と兄は、その時に領民の皆さんに処刑されました。姉は……遠縁に当たる他の貴族様に嫁いでいて大丈夫だったのですが、私は奴隷として売ってやると言って捕らえられました……」

 んーこれその隣の領主さんも国から叩かれたんじゃないかな、まともに穀倉地帯の領土を統治していた人をサックリやっちゃってだし。少なくとも扇動された領民さんは処罰されてるよね。

「それで、奴隷商に売られるというところで、ヨシュア様に助けて頂いたのです」

 あぁ、そういう流れなら惚れちゃうのか。仕方ないよね。

「助けて頂いた直後は、私も状況の変化に耐えられなくてヨシュア様には大変なご迷惑をおかけしたのですが、次第に落ち着いてきた時にふと、先に逃げた妹のことが気になったのです」

 なるほど、あの子というのは妹ちゃんのことだね。

「ギルドを通していたので、安全は確保出来たと思うのですが行き先だけは分からず……ヨシュア様が事情を知ると一緒に探して下さると」

「それでケイティお姉さんとのお話しに繋がるんだね」

 キャリーさんは首を縦に振る。名前が判ればーっていうのもキャリーさんの妹ちゃんなんだからだもんね。

「うん、わかった。辛いことを思い出させてごめんね」

「いいえ、イネさんも本当のご両親を亡くされてるではないですか」

 あぁだからあの時涙目になってまでキャリーさんは怒ってくれたのか。

「イネちゃんは10年前のことだから。これでも最初の頃は落ち込んでたし……ところで妹ちゃんの名前、よかったら教えてくれないかな」

「ミルノです。姓はヴェルニア。ミルノ・ヴェルニア」

 ミルノちゃんか、というか姓があったんだね……元が貴族だったのなら当然だけど。

 だけど決まった、イネちゃんは協力するよ!できる範囲で!

「よし、イネちゃんも妹ちゃんを探すの手伝うよ」

「えっ!?」

 え、なんで驚くの!?

「だって、ケイティお姉さんが異世界……イネちゃんが10年間過ごしていた世界に行ったのか、知りたかったんだよね。ヨシュアさんのあの会話と態度から誰かを探しているのはわかったし。こっちの世界でハードルが高いのなら、あっちの世界からのアプローチが試みれるイネちゃんがお手伝いするっていうのは理にかなってるでしょ?」

 キャリーさんはまだ驚いた顔をしている。でもイネちゃんは引かないぞー。

「イネちゃんじゃどうすればいいのかはよくわからないけど、お父さんたちを頼ればまだできるし、検問所のお兄さんたちに聞いてみてもいいしね」

「で、でも機密だったりするんじゃ!」

「あっちの世界では、こっちの世界のことはもう皆知ってることだからなぁ。異世界から保護された子の情報は確かに機密だったけど、生き別れた肉親とか血縁で、それが証明できるなら教えてもらえる可能性は、多分こっちの世界よりは高いと思うよ」

 こっちではできない、血液からのDNA検査ーとかが定番だからねぇ。

「まぁ、ちょっと血を取って検査する必要があるとは思うけど」

「血!?」

 あぁうん、医療技術格差って奴と文明文化の差だよね。

 多分今のでヴァンパイアさんとかにテイスティングしてもらうとか想像してそう。

「あっちの世界では専用の器具で血を採取して、それを検査することでいろんなことがわかるんだよ。体のどこか悪くなってないかーとか、本当に肉親なのかーとか」

 今度は技術格差で開いた口がふさがらない感じになっちゃった。

「そ、そんな王族でも限られた方々しか利用できないような魔法効果なんて……恐れ多いです」

 あぁそっち、一応魔法であるんだね血液検査とかDNA検査みたいなの。

「あっちの世界だと民間人でも可能な程度には安価なんだよ。特に前者のは病院、こっちで言うなら教会の医療院に行くとすぐにできちゃうくらいに」

 また開いた口が塞がらなくなったみたい。

 多分今度は、そんなに技術文明の差が開いているのになんで侵略してこないんだーとかそんなところかな。

「あっちの世界でも色々あったらしいけど、いろんな国がお互いを監視し合う形で国際機関の許可が降りた人以外は来れないようにするってことで争わない形にしたらしいから、大規模な侵略とかは無いと思うよ。勿論、許可が降りた人もこっちの世界の社会体制を変更するような大暴れはしちゃダメだよーって釘を刺されてるからね」

「そう……なんですか?」

 あ、納得してない感じ。

 まぁ文化的にはこっちの世界、まだ領土問題で色々あるらしいってお父さんたちだけじゃなくって、お役所の人からも注意されたし価値観の違いなんだろうなぁ。

「まだそのことに文句を言ってる国もあるにはあるけど、イネちゃんみたいな色んな国の傭兵さんが定期的に出来事を報告することでわかるようになってるんだよ。それで相互監視の形にしてる……らしいよ」

 イネちゃんの説明でもちょっとわかりにくいと思うんだよなぁ、だってイネちゃんだって完全に理解できてないもの。

「まぁともかく明日またイネちゃんが補給したあそこに行って、聞いてみよ?」

 イネちゃんはキャリーさんにそう言ってから、作った弾を空マガジンに込め始める。折角作ったのにリロードし忘れとか泣くに泣けないしね。

 キャリーさんも今度は納得した感じで……というより明日手がかりが得られるかもっていう期待の顔っぽいなぁ、確実じゃないし検査で日数がかかるだろうからがっかりさせちゃいそうなのが心配かも。

 そんなことを思いつつ、リロード作業を終えたイネちゃんはおふとんの中で眠るのだった。

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