第8話 イネちゃんと宿探し

 えーと、イネちゃんたちの宿屋探しの結論から言いますと……。

「宿屋、安宿しか空いてなかったねぇ」

 イネちゃんの言葉に、皆がため息をついた。

 男女分けて部屋を取るわけだから二部屋都合よく空いてるなんてこと、流石にヨシュアさんのハーレム主人公属性でも無理だったみたいだね。

「まぁとりあえずギルドのほうに行こうよ、流石にあのレベルの安宿ならそうそう埋まらないと思うし」

「そうだね、イネの言うとおりギルドに行こう。もしかしたら僕たちが把握していない宿屋もあったりするかもしれないし」

 どうしても安宿は避けたいみたい、イネちゃんも気持ちはわかる、とってもわかる。

 だって受付カウンターの材木ですらボロボロで、呼び鈴に至っては錆びていた。

 客商売にしてはあまりにも看板になる受付がボロボロすぎるのは不安になるものね。

「この気持ちは肉で吹き飛ばす!行こう皆!」

 ウルシィさんが叫んで走り出す。

 人狼さんはやっぱりお肉大好きなのかな、ツナマヨは……お肉だよね、魚肉。美味しそうに食べてたからウルシィさんの中でもきっとお肉。

 ウルシィさんを追いかける形でギルドに到着したイネちゃんたちは、もう食べ始めているウルシィさんが食べ過ぎないようにキャリーさんが向かい、イネちゃんを含む三人で受付に向かう。

 とりあえず依頼を確認するとー……。

「んー結構町の建築手伝いとか、建材調達の護衛とか、そういうのが多いね。この町を拠点にしばらく活動できちゃいそう」

「そういえばまだ外壁とかなかったですわね、冒険者や傭兵になるべく多く滞在してもらうため細々した依頼も受け付けてるのかしら」

 イネちゃんとミミルさんが受付の横にある依頼掲示板を眺めていると、ヨシュアさんが受付のお姉さんと一緒にこっちに来る。

「そうですね、村とは反対の方向は概ね建造が終わっているのですが、町議会で村を含めて囲むべきかの議論がなかなか決まらなくて……外壁の建築自体は進んでいるんですが今建築中の分が全部完成しても半分だけなんですよ」

 受付のお姉さんがミミルさんの予想に答えながら依頼の紙を一枚追加する。

 張っているとき紙の見えてる内容だと、何かの討伐依頼なのかなーというのがなんとなくわかる。本当なんとなくだけど。

「うーん、イーアの村は元々そこそこ大きい農村だった記憶なんだよねぇ。今は荒れてると思うけど、最初から開墾するよりは楽だと思うけど、畑とかはどうなってるのお姉さん」

 イネちゃんが聞くとお姉さんは『イーア』という名前に対し少し悲しそうな顔をするけど、直ぐに答えてくれる。

「森とは逆のほうに一応あるのだけど、この町の産業にするほどではないかな。自給自足分の面積しか無いのよ。長かった交易路の中間地点として、交易自体でなんとかなるのだけど、産業が無いというのは他に交易路ができた時に町自体が無くなりかねないって私は言ってるんだけどね……」

 つまりお姉さんは町議会の議員さんもやっているらしい。

 そしてお姉さんは村も含めて農業を発展させて、交易路らしく地物料理を作ろうとか、それ自体を特産産業にしようと言っているんだと、イネちゃんは勝手に思う。

「それに、村まで囲めれば土地の問題はしばらく気にしなくていいし、村の慰霊碑も建てることができるもの」

 慰霊碑かぁ、お父さんやお母さん、友達が安心して眠れるならイネちゃんは賛成したいかな。たとえそこにイーアがいなかったとしても、覚えていてくれる人がいるのは幸せだよね。

「あ、そうだお姉さん、イネちゃん、イーアのお家からこれ、持ってきちゃったんだけど……よかったかな?」

 イネちゃんは思い出して、マントの中からうさちゃんのぬいぐるみと写真を取り出してお姉さんに見せる。

「……元々は貴女のものだから問題はないけど、次からは事前に言ってくれると嬉しいかな。一応ギルド管理にして野盗とかが荒らさないように管理もしているから」

 お姉さんはそこまでしてくれていたんだなぁ、ちょっと悪いことしちゃった。

「ごめんなさい、次からは気をつけます!」

 お父さんたち直伝の敬礼をしながらイネちゃんは謝る。謝れる人は強い人ってボブお父さんが言ってた。

「あぁそうだ、ケイティさん。荷物の安全が確保できる宿って、知らないですか」

 ヨシュアさんがお姉さんに宿屋さんのことを、今聞いた。

 イネちゃんはお姉さんがケイティという名前だったことにも驚いたけど、あの女性には積極的なヨシュアさんがまだ聞いていなかったことにも驚いた。

「あぁこの町は交易が中心なのに宿泊施設もまだ少ないのよね……そういう意味でも今の町と村の間に宿泊施設と自警団詰所を作って、中心街にできればと思うのだけど。と、話しがそれてごめんなさい、冒険者の方には簡易宿泊施設にはなるけどギルドの施設を開放しているから、そっちを使う?男の子と女の子が一緒の部屋というわけにもいかないでしょうし、部屋は別々になるけど」

 ケイティお姉さん、むしろイネちゃんたちはそれが目的だったのです。

「いえいえ門前宿では二部屋取れず、二部屋取れるのは安宿ばかりで困っていたんですよ、ギルドなら安全性も保証されますしむしろありがたいです」

「あら、それならよかった。じゃあ受付で手続きをしてから案内するわね」

 ケイティお姉さんは笑顔で両手を顔の前で合わせながら言うと、受付のほうへと小走りで走っていった。

 イネちゃんたちもその後を追って受付に行くと、ケイティお姉さんがもう書類を用意し終わったのか、数枚の紙を持って笑顔で立っていた。

「この書類は宿泊手続きので、こちらは荷物管理のものね。冒険者の人は自分の荷物は基本的にこっちに預けたりしないけど、預けてもいいものはギルドの貴重品倉庫に入れて厳重に保管させてもらうわよ。宿泊書類は二部屋で2枚、倉庫は人数分で4枚ね」

 まくし立てる感じにケイティお姉さんが説明をして、イネちゃんたちはウルシィさんが食事をしているところまで書類を持って行って皆で書類を埋めた。

 でもウルシィさん、ツナマヨパンを食べたのにお肉料理のお皿が5枚も空になっていたのは、やっぱり食いしん坊なのかな。

 書類を埋めたので、手続きを完了するために今度は全員で受付に行って書類をケイティお姉さんに渡した。

「えーっと、はい、一通り目を通して問題は無いわね。じゃあ部屋まで案内するわ」

 ケイティお姉さんは本当に書類を流す感じに見ただけでそう言うと、受付から出て2階に続く階段を上がっていった。

 イネちゃんたちを置いていく勢いであっけにとられたけど、イネちゃんたちは慌てて追いかけて2階に登ると、ケイティお姉さんが部屋の鍵を開けるところだった。

「はい、こことひとつ奥の部屋が宿泊施設。本当にベッドが置いてあるだけだけどそこはごめんなさい、我慢してね」

 そう言いながらヨシュアさんとイネちゃんに鍵を渡してくる。

「注意事項はうるさくしないことだけね、体を拭きたいのなら裏に井戸があるから自由に使って頂戴。それじゃああなたたち以外の担当の子達の相手をしてくるわ。昼間からお酒飲んでる手のかかる子達だからお尻叩いて依頼受けさせないと」

 ケイティお姉さんはそれだけ言ってギルド併設の酒場まで走っていった、忙しそうだけど楽しそうな感じでちょっと羨ましいかな。

「それじゃあ、一旦荷物を置いて改めて依頼を見てみようか。討伐依頼もあったみたいだし」

 ケイティお姉さんが貼った奴かな?

 ヨシュアさんがそう言うとイネちゃんたちと別れて手前の部屋に入った。

「じゃあイネちゃん達も荷物置いてこようか」

 さーて、イネちゃんとしては始めての依頼、楽しみだなー。

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