18年3月11日 封鬼刀

一日一作@ととり

第1話

俺は刀が作りたかった。幼いころから父の作る刀に夢中だったからだ。父の作る刀は名刀の誉れ高く、俺はそんな父が誇らしかった。そんな父の子どもであることが俺は誇らしかった。だから、父の後を継ぐのは俺しかいないと幼い時から思っていた。


「女は入ってはいかん」ある日、鍛冶場に入ろうとしたとき、父にきつくいわれた時のことは今でもよく覚えている。10歳かそのくらいのときだ。それ以来、俺は鍛冶場の敷居をまたぐことができなくなった。


父の弟子に雷平太という男がいる。年齢は俺と同じくらい、奴は自分のほうが上だといっているが、本当のところはわからない。雷平太は住み込みで父の元で働いている。こいつも腕のいい刀鍛冶だ。父の元で働いてるのだから、当たり前だ。


雷平太はある日いった。「封鬼刀の伝説を知っているか?」「ある神社に刀を納めるとなんでも願いが叶うというのだ」「でもただの刀じゃない。鬼を封じた刀、封鬼刀だ」「それも99本」「そうすれば、なんでも願いが叶うというのだ」


「封鬼刀……。」俺は繰り返した。「だが、今までそれを達成した者はいないという。ただの伝説だ」その日から俺は、その話が忘れられなくなった。「なんでも願いが叶うのなら」「俺も男になれるかもしれない」


俺は父の作りそこなった刀をもらい受けた。封鬼刀というものを作って見ようと思う。村で鬼の話を聞いてはその場に行き、鬼を切り殺した。鬼はどこにでもいる。小さな角が生えて青や赤い肌をしている、犬くらいの大きさの動物だ。それは猿以上に知恵があり、人間に悪さをしている。奴らは山奥に小さな村を作っていて、集団で暮らしている。


だから、殺しても喜ばれこそすれ、止める者は居なかった。雷平太をのぞいて。「鬼姫(俺の名前は鬼姫という)最近、お前は鬼を殺してるそうだな」「ああ。封鬼刀を作ってるんだ」「あの話か、あれは伝説だぞ」「伝説じゃないかもしれない」「願いは何だ?」「どうしてお前に言わなくてはならないんだ?」「叶えられることなら叶えてやる。封鬼刀はあきらめろ」「お前に俺の願いを叶えるのは無理だ」「どうしてわかる?」俺は息を吸い込んでいった。


「俺は男になりたい。男になって父のあとを継ぎたい。お前には叶えられない望みだ」


雷平太は黙った。沈黙の後ぽつりといった「師匠のあとはオレが継ぐ」「オレでは不安なのか?」俺は黙った。雷平太があとを継ぐのは不安ではない。ただ、自分は刀が作りたいのだ。「とにかく、鬼を切るのはやめろ。あれは刀の神のお使いなんだぞ」


雷平太の忠告は、遅かった。俺は翌日、お使いで隣の村に行った。お供に雷平太も着いてきた「嫌な予感がするんだ」天気は曇りだった。雨が今にも降りそうな、嫌な天気だ。「お前は留守番しててもいいんだぞ」俺はそういうと、さっさと歩きだした。後から雷平太がしぶしぶという感じで着いてくる。


村はずれにある地蔵のそばを通った時、地蔵から声がした「鬼姫」「鬼姫」俺は地蔵を見た。地蔵の後ろに何かいる。俺は雷平太の持っていた刀を抜くと、構えた。


地蔵の周りから、黑いもやが漂い始めた。「鬼姫、まずいぞ!」雷平太が慌てていった。「鬼の大将だ」俺はもやに切りつけた。「大将か、それは立派な封鬼刀ができる」俺が笑うと、もやは形になった。見上げるほど巨大な、赤鬼が鎧兜を着て俺たちの前に立つ。「鬼姫、私の部下をずいぶん殺したようだな」「殺したよ。それがどうした?」「ゆるせん」鬼はそういうと腰の刀を抜いた、ずいぶん長い刀だ。それを振り回す。「雷平太!避けてろ!」そういうと俺は大太刀をかわし、鬼の横に回り込んだ。なりはデカいが、隙だらけだ。「成敗!」俺は鬼の脇腹を真一文字に切り裂いた。


地獄からの響きのような鬼の咆哮が耳を突く。鬼は真っ赤な血を流して、もとの黑いもやに変わっていった。そして、もやも刀に吸い込まれていった。


「封鬼刀のいっちょ上がりだ」俺は満足だった。「伝説は本当だったんだな」雷平太は感心していった。「鬼姫、だがここらが引き際だ」「お前は鬼たちの敵に回ろうとしている、いろんな鬼がお前を殺しに来るのも時間の問題だ」「ふふふ、望むところだ片端から封鬼刀にしてやる」「オレはお前に死んでほしくない」雷平太は鬼姫の腕をつかんだ。「封鬼刀から手を引け!引かなければ力づくで止める!」


「力づくで?どうするつもりだ?」鬼姫は雷平太の腕を振りほどこうとした。だが雷平太の力が勝っている。「封鬼刀というのは穢れのない人間が作れるものなんだ」「オレがお前を汚せばお前は封鬼刀を作れなくなる」鬼姫の顔が蒼白になった。「嫌だ、俺は男になるんだ」雷平太は鬼姫を引き寄せながら続ける。「もう、あきらめろといってるんだ」「嫌だ!変なことしてみろ、俺はお前を一生恨むぞ」鬼姫は雷平太の腕に噛みついた。雷平太はすかさず鬼姫の身体を抱きしめた。そして首に腕をかけると締め上げた。首の骨が折れたかと思うような痛みで、鬼姫は暴れる。だがそれも虚しく、意識が途切れた。


気づいた時、寝具に鬼姫は寝かされていた。家に帰っている。枕元に雷平太が居た。鬼姫は雷平太につかみかかった。「お前……!!俺はお前を一生許さないからな!」雷平太は冷静にいった。「何もしてねえよ」


「話は聞いた」鬼姫の父、山鬼(サンキ)はいった「今さら、やめろといっても聞くまいな」山鬼は悟ったようにいうと「鬼姫、封鬼刀を作るがいい」と、許した。「そのかわり」「雷平太を連れていけ」そういうと、鬼姫に刀を渡した。


鬼姫はいった「お父様、俺は一人でも平気です」山鬼はいう。「駄目だ、雷平太を連れて行くんだ」「封鬼刀を作るのは非常に危険だ、だがお前は一人で突っ走りすぎる」「雷平太に止めてもらえ」


鬼姫は雷平太を見ると、連れていくことを、いまいましげに承諾した。


(2018年3月11日)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る