scene87*「指先」
想像すると、あたしの体は熱を打ったようにカァッと熱くなった。
【87:指先 】
「あ、やべ、手についちった」
そう言って彼は指についたチョコレートのアイスクリームを、猫みたいにペロッと舐めた。
ほんの一瞬、たったそれだけのことなのに、昨日した行為をたやすく思い出してしまうほどにその舌は艶めかしかった。
彼がタバコを買いに行ったついでに買ってきてくれたコンビニのソフトクリームアイス。ただのアイスなのに……ばか。あたしは何を考えてんのよ。
「どうした?顔赤いけど」
「なんでもない」
きょとんと訊ねるその目は実に無邪気で、あたしは罪悪感からか目を合わせないようにしてイチゴのソフトクリームを舐めた。
「俺もそっち食べてみたい。一口くれ」
「ん、いいよ」
彼は迷わずに目の前に差されたアイスをペロッと舐める。
形の良い唇からわずかにのぞいた赤い舌。
いや、もともと人間の必要器官として誰しも備わっているそれに、いやらしく感じるなんて普通はないのかもしれない。
と、いうことはあたしの思考がいやらしいわけで……顔が赤く、熱を持ってるのが分かる。
「ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
「なぁ」
「何?」
「想像してたろ。昨日のこと」
「えぇっ!!!!???」
顔を見たらニヤニヤしてくれちゃって、図星をさされたあたしは顔が赤くなってるもんだから言い訳のしようがない。
「最初、指舐めた時点で、思ったろ」
「知らない!」
図星すぎて思わず腹が立ってしまった私は、ソフトクリームを舐める事に意識を集中させた。
すると彼は私の傍に寄ってきて、どうせ部屋に二人きりで誰も周りにいないのにわざわざそっと耳打ちした。
「じゃ、思い出してたの俺だけ?」
吐息まじりに囁かれて、ますます思い出さないわけがない。
そうしてあたしの唇をなぞるように触れる指先。
唇なのにくすぐったくて身をよじると
「アイスがついてただけだけど?」と意地悪く微笑む。そんなはずないのに。
あたしのカレシは一体いつからこんなセクハラ大魔王になったんでしょうか。
それでも、それを期待してしまってるあたしも、いつからこんな子になったんでしょうか。
自分の気付かないうちにどんどんあなたに変えられてってしまってるみたい。
だけどそれすらも悪くないと思ってしまうのだから、この恋という病は相当に性質が悪いようだ。
これからどんなあたしに変えられていくんだろう。
想像もつかないままに、あたしは素直に頷いたのだった。
( あぁ、その手がなくちゃ、きっと私、生きてゆけない。 )
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