scene14*「友達」

友達って、時には「痛い」って気持ち。


【14:友達 】


[ 友達同士においてタブーであり、しかしながらよくあるケース ]

その1・・・友達って言いながら、裏では他の子に悪口を言っている。

その2・・・友達の彼氏(もしくは片思い相手)をうっかり好きになってしまう。

その3・・・2の状況でうっかり、相手に近づこうとしてしまう。(もしくはしてしまった。)


私はそう思っている、はずだったのに、その「2」にうっかり、該当してしまったのだ。

でも、友達は裏切りたくない。だから私は隠し続けている。

それ以上に「裏切りたくない」よりも親友のことが「大好き」だから隠し続けている。


「はぁ……」

「どーしたのっ?」

「タエコ……」

「だってハツミ、元気ないんだもん。何かあった?」


親友のタエコはすごく可愛いと思う。


前髪のあるストレートの王道ヘアに 、マスカラ、ビューラーをあまりやらなくても目がパッチリしてるくらいに睫毛もたっぷりあるくっきり二重で。肌だって透き通るように白くて頬は綺麗に薔薇色だ。

自分ではちょっとぽっちゃりしてるって言ってるけれどそんなに感じないし、小柄だからなおさら可愛い。性格だって優しくて、おとぼけなとこも全部が可愛い。

「タエコ」って名前もおばちゃんみたいだって気にしてるとこだって可愛い。

タエコ自身が思っているよりも美少女だと思う。

それに比べてあたしはひょろっと背が高くて、一重まぶたのスッキリ顔だ。よく「クール」と言われるような性格でタエコとは正反対。

性格だってすごく心根の優しい良い子だ。

そう、そんな可愛い彼女には勿論、かっこいい王子がいるわけで……タエコがいじわるじゃないから変に嫉妬もないんだと思うんだ。


「んーん。ただ……」

「ただ……?」

「昨日ゴハン食べ過ぎちゃってさぁ!もうすんごいお腹調子悪いのね~!」

「もうっ!!食べ過ぎかい!」


言えない。言えないよ。本当の事、なんて。



タエコの彼氏は「アキラ」という。アキラは、背が高くてかっこいい。


違う高校なんだけど、アキラと私は中学で部活が一緒で、その流れでタエコに紹介する機会があったのだ。

そこでどうやらアキラがタエコに一目ぼれしてしまったのだ。その2週間後には二人はくっついていた。 私は素直におめでとうって思った。

小柄な彼女を守るように、大きい彼氏が寄り添うってのはホント絵になるんだよね。


可愛い親友と、部活仲間だった頼れる男なアキラの二人が付き合うのは本当に嬉しいって思ったし、タエコを大事にしてほしいって思った。

あれから3ヶ月たつけど二人は順調で……でも、タエコがアキラの話をするたびに、どこか自分の中が泣きそうな気持ちになる。 そういえば、アキラに妙子のことを聞かれたときも、心がザワザワしてたかもしれない。


ついこないだ、アキラが好きだったって事に気がついた私は、馬鹿だなって思った。

それといつか、大好きなタエコの事を憎んでしまうんじゃないかって。

ドロドロの感情もすごく怖いと感じるようになった。だから私はいつも笑顔でいようと決めた。



その日、一緒に帰ろうとタエコと教室を出ようとした時、途中からタエコはアキラから電話がきたらしく「ごめん!」って合図をした。

電話のアキラの声を聞いて、驚きながらも瞳が輝いたのを見て、 あぁ、もしかしたら帰りデートかなぁなんて思った。 どうやら的中らしい。

あたしは「いいよ。いっといで。送り狼されないように!」と笑顔で友達を見送った。

自分の笑顔が痛いなって初めて思った。


パタパタと先に廊下を駆けていくタエコの後ろ姿。恋に一生懸命な親友がすごく羨ましかった。

今頃二人は仲良く歩いてるんだろうか。 電車の窓からは夕日が広がっていた。

一人でボンヤリ考えながら帰り道を歩いた。


タエコが大好き。すごくいい子だし優しいから。


(なんであたしはタエコみたく可愛い子じゃないんだろう)


アキラが好き。あの優しい目が、本当は私も好き。


(それともタエコが好きなアキラがすきなんだろうか。だとしたら)


友達のだって同じ以上に大切。


(あたしは最低だ)


こんな恋やめちゃいたい。


親友の彼氏になってから気づくなんてありえない。まるで人のものになったから好きになったみたいじゃないか。

だけど、二人を壊したくない。 私とタエコの関係も壊したくない。


なぜなら、私はやっぱりタエコと友達でいたいから。

だから私はきっと明日も笑うんだろう。

大好きだから、笑うんだろう。


(だって私、タエコみたく可愛くはなれない) (素直になれない)


家の前、 夕日がやけににじんで、眩しくて、私は目をこすった。

初めて友達でいるのが「痛い」って思った。

こすった手の甲は、ちょっとだけ濡れていた。



( いつか、あたしも幸せになれるように。 )

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