scene4*「子供」
「子供ほしいなぁ」
思わずそう言ってしまった瞬間、あたしも「女」なんだなって思った。
ユウの顔を見たら、ちょっとぎょっとしてた。
あんたもいつかは「パパ」になるかもしれないのにね。
【4:子供 】
「産休のオギハラ先生、赤ちゃん生まれたんだってー!」
「男の子?」
「女の子だって!」
「ちょー見たーい!」
昼休みの教室では、そんな会話が繰り広げられていた。
かねてから産休をとっていた、数学を担当しているオギハラ先生にどうやら赤ちゃんが誕生したらしい。
どこから情報を仕入れたのか、女子たちは朝からその話題で持ちきりだ。
窓際の席の友達を中心に、あたしたちのグループも例にもれず。
話しながらみんな楽しそうで、他人の出来事ではあるけれど何故かちょっと嬉しそうな顔。そんでもって、もし子供が生まれたら!なんて話までして盛り上がっている。
「ねー!エリカはぁ?どっちほしい!?」
「えぇっ!?急にんなこと言われても……!」
話を急にあたしに振られてきたもんだからびっくりする。
ただ相槌を打っていただけに、ふいうちの質問に思わずしっかりした答えが出てこない。
「う~ん……どっちでもいいや」
「ロマンないよー!それ!」
ロマンって何だロマンって。
答えの求めどころが今いち掴めずにあたしは思わずそう突っ込んだ。
そして「私もエリカと同じだな。まだ子供とかピンとこないし」「え!私20歳になったら結婚して子供産みたい!」「いくらなんでも早くね?」と好き勝手にそれぞれの未来予想図をそれぞれが喋っては笑った。
学校辞めちゃったギャルの子でも、既に「ママ」になっちゃった子はちらほらいる。
そういう子たちは皆大体辞めて結婚したり、親に協力してもらってシングルで育てたりと股聞きで噂が流れてくる。
それでも、自分と同い年で十月十日お腹の中に赤ちゃんがいて、なんかとにかくすごく痛い大変な思いをして産んでママになったとかピンとこない。
仮に今赤ちゃんとかできたら親とか学校とかお金とか将来とか、色んなものを考えてしまってきっとどうしていいかわからない。
もし大人になって働いていても、仕事どうしようとかニュースでやってる「待機児童問題」とか、とにかく迷ったり悩んだりすることが多そうな気がしてしまう。
そういうものをひっくるめて腹をくくって「ママ」になっている女性たちは何となくすごいなぁ。
(オギハラ先生、復帰したら赤ちゃんの写真見せてくれるかな。)
(あ、でもその頃にはうちら卒業してるか。)
そう思ったときに、5時間目のはじまるチャイムが学校中に鳴り響いた。
今日は水曜日だ。
あたしの水曜日は決まって彼氏のユウと帰る。 水曜日はユウの部活が休みだからだ。
ユウは隣のクラスで、付き合って1年くらいだから結構たつ。
クラスが同じになった事がないからまさに共通の友達の紹介で付き合い始めた。
なんか友達がSNSに載せてるみたいに、ラブラブ!リア充!って感じではないけれど、でもお互いちゃんと好き合っている。 (とは思う!)
一緒に帰り道ながら、あたしたちは来週から始まるテストの話をしていた。
「あーーー!もうマジ数学やべーよ!!」
「っていつもじゃん。でも英語は得意なんでしょ?」
「英語も今回はヤマ次第……だな」
「まぁあたしも人のこと言えないけどさー!」
「今日はどっか寄ってく?」
「んー。特には、ないけど……ちょいそこらでまったりせん?」
「天気いいし公園でいい?」
「いーね。自販機あるし」
他愛ない事ばっかり話してるのが意外にも大事で、相手を知る事にもなるし、色々な面が見れるから好き。
だから公園で話すだけでもあたしは充分楽しいんだけど、友達からは「昭和かよ!」とかって言われるのが心外だったりしている。
なんとなく「公園の高校生カップル……」と呟いてみる。
すると、「それ言われると微妙にハズい……」なんてユウが照れ笑いの顔を見せた。
そう言う時の表情がちょっとだけ幼く映って、あたしはもうその顔だけでごちそうさまですってなるくらいにキュンとなったりしている。
公園に着くとベンチ確保して、じゃんけんで負けたほうがジュースを買いに行くことになった。
でも大概向こうが買ってくれたりするから、そういう優しいところもすごく好きだったりする。
わざとぶーたれながら自販機へと向かうユウの後ろ姿を笑いながら、あたしはベンチに座った。
待っているとそこからは親子連れが見えた。
砂場で遊んでたりとか手を繋いで歩いてたりとか、他所の子とまぜてたりとか。よくある公園の光景。
あのお母さんたちも、昔はあたしたちみたいだったんだよね……。
そう思ったら、なんか「未来」が急に近いようにも思えた。
いいなぁ。
何故か、ちょっとだけそう思ってしまった。
女子供は犬猫や赤ん坊がすき、とか聞くけどあながち嘘じゃないかもね。
母性本能?生まれながらなのかなぁ。まだよくわかんない。
でもユウとゴハン食べてたりすると口のまわりにちょっとついてたり、寝癖とかあったりすると「可愛いなぁ。子供みたい」って思うことがある。心のそこから「いとおしい」という感じ?それは母性とは違うのだろうか。
「なーに見てんの?」
「んー?」
おどかすように後ろから現れたユウに声をかけられて、そのままジュースをうけとる。
あたしの大好きな炭酸グレープジュースだ。それを見てますます嬉しくなる。
悟られるのがちょっと恥ずかしいので、あたしは意地悪そうな表情をユウに向けた。
「知りたい?」
「イケてるメンズいた?」
「ばか!違うよ。子供」
「は?」
「子供見てたの!可愛いなぁって」
本当は『親子』なんだけど。
あたしの発言にユウは思い出したように言った。
「あー、そういやオギハラ先生赤ちゃん生まれたらしいなぁ」
「うん」
「……子供、ほしいなぁ」
思わずそう言ってしまった瞬間、あたしも「女」なんだなって思った。
もちろんユウの顔を見たら、ちょっとぎょっとしてた。
それを見て噴き出しそうになる。
ユウだっていつかは「パパ」になるかもしれないのに。誰かと一緒になるか、わからないけど。
本音は、あたしが一緒だったら、いいけど。
あんまりにも驚かせっぱなしなのが可哀想になってきたので、あたしはぷっと噴き出すとそのまま笑った。
「冗談だよ。少なくとも今、じゃないから安心して」
「ビビらせんなよおい~!」
「やっぱビビった?」
「カンベンしてくれよ……。かなり今焦ったから!いや、子供が嫌いとじゃないからな!」
「わかってるって」
お互い笑ってしまう。
そう、どんなにいくらほしいって思ってもとにかく「今」のあたしとユウには「まだ無理」だと思う。
こんな話題でうろたえちゃうくらいだし、簡単な問題でもない。
せめて、もっとあたしたちは大人にならないとダメだねって話。
あんまりにもびっくりした様子が、ほんのちょっとだけ寂しい気持ちにもなった。けれど試すような発言した私もそれをちゃんとわかってたから、意固地にならず納得できた自分がいて、少し安心した。
帰り際、夕日きれいだなーなんて言いながら手を繋いで帰る幸せ。
子供のように楽しそうな顔をするユウが好き。とうぶんそれだけでいい。
「でもさぁ」
「んー?」
立ち止まって、夕日を見つめたままでユウが言った。
「もし、このままお互いうまくいけたら、叶わない事もないんじゃね?」
あたしはちょっとびっくりした。
なんか、なんか、すんごくうれしい。
保障なんてないけど、でもアレ、「可能性」ってやつ。
若さゆえってやつだろうが、それだけでなんかあたしはいっぱいな気持ち。
夕日と私の穏やかで幸せに満たされてる感じがリンクしてる。
「ん――――、そうかも!」
ぎゅっと強く握ってるユウの手が、ちょっとだけ汗ばんでるのが「子供みたい」って思ったことは内緒にしとこう。
( 未来予想図を描こう )
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