scene2*「おはよう」



“おはよう”……ただそれだけなのに、どうしてこの胸は言う事を聞かなくなるんだろう。



【2:おはよう 】



人生で「おはよう」の言葉を、人は一体どれくらいの数言うんだろう。

そしてそのうち、何回くらい好きな人に言えるのだろう。

きっと社交的な子はものすごい数になるに違いない。

そんな事を考えてみた次に自分の事を振り返り……ため息しかでてこない。


さっさと上履きに履き替えればいいのに、必要もないのにわざとゆっくりした動作で上履きを足元に落とす。

そんな私に下駄箱で会ういつもの友達は「またいつもの低血圧だね~」と冗談っぽく言う。それに対して「あはは~朝は毎回弱くてさ」なんて期待通りのリアクションをしてみる。

誰も私の朝の行動の真意に気付かない。


さりげなく下駄箱で挨拶を交わすことなんて、ほんと何でもない日常なんだ。

彼にとっても、私にとっても。


そんな風にしていたら、いつもの時間に彼はやってきた。

あくびをしながらくぐってきた玄関。友達に挨拶されるたびにやんわり笑って返す。

私はその笑顔を見て色んな気持が喉元まで出かける。グッと言葉が押し寄せてくるような。

言葉って本当は実体があるんじゃないの?って思うほど。


ただのクラスメートだけど……

そのわりにはあんまり話したこととかないけど……

私もみんなのように言うべきか、言わざるべきか……!


でも、それ以上に改善しなきゃならないのは、

いくらでも彼を見つめられるこの心臓と、

馬鹿正直に「すきなんですけど」と出てしまう、真っ赤な顔だけ。




( どうか、ばれませんように。 )

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