神様オンライン

たはしかよきあし

光あれ①

 天界にインターネットが普及してしばらくになる。


 下界の人間たちの暮らしぶりをよりよく知るため……というのが導入された経緯であるが、それまでろくな娯楽もなかった天界である。天使たちは、初めて触るコンピュータというものに夢中になり、しばしば、端末機械のとりあいなぞも起こった。


「お前たち、遊んでないで持ち場に戻らんか!」

 天使長ルシフェルの一喝で、機械にむらがっていた天使たちはちりぢりになって逃げ出した。昔から、小天使たちの遊びぐせは、天使たちをまとめる立場であるルシフェルにとって大きな悩みのタネであったが、このところは特にそれが顕著になっていた。


(まったく、ミカエルにそそのかされてこんなものの許しをだしたはいいものの……私の仕事は増える一方ではないか)


 その中でも、特に頭を痛めている問題がある。

 ルシフェルは天界の最上部にある一室の扉をノックした。返事はない。いつものこと、なれっこである。ルシフェルは部屋に入った。


 部屋の中には、雲でできたベッドをはじめ、雲でできたソファ、雲でできたテーブル、雲でできた書棚、雲でできたデスクトップPCなどがあった。そして、デスクトップの前に座るひとりの老人。

 ルシフェルはその老人に言った。


「神様、そろそろゲームは終わりにして、お仕事に戻りませんか。神様がそんなことでは、私も下々の者に強く言うことができませぬ」


 ルシフェルの悩みとはこれのことである。天界でインターネットができるようになってからというもの、天界を総べる神その人がすっかりパソコンにハマってしまい(特にオンラインゲームがお気に入りのようである)自室に専用のパソコンを持ち込んで、引きこもって遊んでばかりいるのである。


 仕事もほったらかしにしているものだから、そのせいでルシフェルがこなさなければならない職務はぐっと増えた。

 いや、そのことについてはいいのだ。ルシフェルは自分の役割と言うものをわきまえている。それよりも、ルシフェルは、天地をお作りになった大いなる神が、このような戯れのために腑抜けてしまっているのが情けなくてしかたがないのだ。

 神としての権威に満ちた、あの頃に戻って欲しい、とルシフェルは天地創造の頃を思い出すのである。


 ところが、当の神ときたらそんなルシフェルの心も知らず、

「おお、分かった分かった」

 とモニターから目を離すこともなく、キーボードを叩きながらまるで上の空で返すばかりである。


 神に忠誠を誓った身ではあるが、こうも毎回適当にあしらわれていたのでは、怒るなというのも無理な話である。いや、神の事を真に思っているからこそ、このような態度に怒りがあふれてくるのである。ルシフェルはついに、

「いい加減にしてください!」

 と激昂し、神通力で部屋の中にあった花瓶をバリンと派手な音を立てて爆発四散させた。


 さすがにこれには驚いたのか、神はけげんそうな顔をしながら振り向いた。

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