第38話 冒険者稼業(上) 


 異世界で最後の仕事として、冒険者への取材を選んだ。

 これは、地球世界にはない冒険者というものが取材対象に適していたのと、個人的にシロー君がやっていることをもっと知りたかったからだ。

 私たち三人は、再びアリストのギルドを訪れた。


「お、ヤナイじゃないか。

 また飲みに来たのかい?」


 ギルドの建物に入るなり、顔と右の二の腕に大きな古傷がある女性に話しかけられた。

 見た覚えはあるのだが、前に会った時は泥酔していたので、名前が出てこない。


「いえ、今日は飲みません。

 ええと、『星の卵』の三人はいますか?」


「ああ、あの新米パーティね。

 もう昼前だよ。

 いるわけないじゃないか。

 じきに帰ってくるだろうから、待ってるといいよ」


「どうもありがとう」


 私たちは、四つ置かれた丸テーブルの一つに着き、『星の卵』を待つことにした。

 何人かの冒険者が、気さくに声を掛けてくる。

 それほど待たずに、三人の少年少女が帰ってきた。


「あれ?

 確か、ヤナイさんですよね。

 また何か尋ねたいことが?」


 リーダーのスタン君が、私の顔を見るなりそう言った。 

 あごの辺りに、乾いた血がついている。

 魔獣と戦ったのかしら。


「仕事終わりでしょう?

 まず座ってください」


 気を利かせた遠藤が、足りない分の椅子を隣の丸テーブルから運んできた。

 

「「こんにちは」」


 スノウちゃんとリンド君は、日焼けした顔に少し疲れが見てとれた。


「お仕事ご苦労様。

 今日は、どんな依頼を受けたの?」


「ハーフラビットの討伐ですね。

 畑が荒らされてるとかで、それを狩ってきました。

 俺、依頼の報告をしてきますね」


 そう言うと、スタン君はゴミ袋ほどの大きさがある布袋を持ち、受付カウンターの前に並んだ。

 

「お仕事は大変だったの?」


「仕事自体は簡単だったけど、帰りに近道しようとしたらゴブリンがいたんです」


 スノウちゃんは、なぜかとがめるような目でリンド君を見ている。

 近道したのは、彼の意見だったのかもしれない。


「ゴブリン?

 小さな人型のモンスターよね」


「ええ、このくらいの魔獣です」


 スノウちゃんは、あごの辺りに手を当てた。

 

「強い魔獣なの?」


「それほどでもありません。

 ただ、今回は二体いたので、少し大変でした」


「それって見せてもらえる?」

 

「いえ、森に埋めてきました。

 討伐部位の耳は兄さんが持ってた袋に入ってます」


「トウバツブイって?」


「どの魔獣を何体倒したか、それが分かるように体の一部を切りとって持ちかえるんです。

 ゴブリンなら右耳となります」


 なにそれ、怖いわね。

 耳を切りとるなんて、私には絶対無理だわ。


「今日は君たちの仕事にご一緒させてもらおうと思ってたんだけど、もう無理よね」


 スノウちゃんとリンド君が顔を見合わせる。


「どういうことでしょうか?」


 リンド君がけげんな顔で首をかしげている。


「冒険者の仕事を実際に見てみたいの」


「うーん、ボクたちの仕事でいいのかなあ。

 たぶん、ブレットさんたちの方がいいと思うけど……」


「でも、あの人たちって金ランクなんでしょ?

 依頼料がとても高いって聞いたわ」


「え?

 依頼してくれるんですか?」


「ええ、もちろんよ。

 シロー君が、君たちに依頼するようアドバイスしてくれたの」


「ええ!

 シローさんが……。

 やります!

 その依頼受けます!」


「ちょと、リンド!

 依頼を受けるにしても、兄さんに話してからだよ。

 先走らないでよね」


 そこへスタン君が戻ってきた。

 妹のスノウちゃんから話を聞くと、彼は乗り気になってくれた。

 

「こんな時間ですから、たいした依頼は受けられませんよ。

 それでいいのなら」


「兄さん、指名依頼って私たちまだ受けられないんじゃない?」


 スノウちゃんの質問には、私が答えておく。


「ああ、それはシロー君がギルマスに頼んでおいたって言ってたわ」


「じゃあ、受付で聞いてきます!」


 顔にやる気をみなぎらせたスタン君は、再び受付に並んだ。


「この時間からだと、行けるところは限られるわね」


「うーん、『聖騎士の森』くらいかなあ」


 残った二人が、どこにするか話しあっている。   


「社長、魔獣が出ないところでお願いしますよ」


 後藤は、普段あまり見せない不安そうな表情をしている。 


「だけど、ゴブリンくらいなら何んとかなりそうですよ」


 武闘派の遠藤は、やる気満々だ。

 スタン君が受付で依頼をもらい帰ってくると、『採集』というのを見せてくれることになった。特定の植物を採る依頼のことだそうだ。

 こうして、私たちと『星の卵』、合わせて六人は、『聖騎士の森』へ向けギルドを出発した。

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