第24話 魔術学院での取材(下)



 インタビューに夢中になってしまった私たちは、ぎりぎりの時間にランチを終え、体育館のような場所までやって来た。

 体育館と言っても地球のそれとはずいぶん違い、床が張られておらず、地面がむき出しになっている。


「く、苦しい!」


「社長、あんなにたくさんお皿に盛るからですよ」


「ご、後藤、そうはいっても、どれも美味しそうだったんだもん」


「カロリーえらいことになってますよ」


「そ、それはまずいわね。

 明日から城下町を走ろうかしら」


「それはどうかと思いますよ。

 ランニングの文化がない国でそんなことしてたら、間違いなく変な人ってことになっちゃいます、きっと」  


「それより、生徒たちはなにをするつもりでしょう?」


 遠藤が指さす方を見ると、背の低いふくよかな中年女性が生徒たちに何か指示している。

 黒ローブを着た生徒たちは、手に短い木の杖を持ち、「体育館」から外へ出ていく。


 あれ?

 ここって実技棟ってことだけど、ここで授業するんじゃないのかな。


 外へ出ると、生徒たちはいくつか並んだ盛り土の前にいた。

 盛り土の前には、弓道の的そっくりの円形パネルを載せたポールが立っている。

 

「今日からいよいよ土魔術で的を撃つ練習を始めます。

 危険なこともありますから、必ず指示を守るように」


 小柄だがふくよかな女性の声は、野外でもよく通った。

 生徒たちは四五人ずつの組に分かれ、それぞれが盛り土の前に並んだ。


「では、練習中は線から前に出ないように。

 始め!」


 教師の合図で、一番前に並んだ生徒たちが、菜箸さいばしに似た棒を手に詠唱を始める。


「「「大地の力、我に従え!」」」


 それぞれ生徒が持つ棒から少し離れて、空中に石くれのようなものが現れた。

 石くれはビー玉くらいの大きさからミカンくらいの大きさまで、大きさは様々だった。

 生徒たちが棒を振ると、宙に浮かんだ石くれが勢いよく的へ向け飛んでいく。


 カーン!

 カラン!

 コッ!


 的に当たった石くれは、様々な音を立てた。

 ただ、的を外した生徒も少なくなかった。

 先頭の生徒が次の生徒と入れかわり、練習は続いた。


「あれ?

 翔太君、君は練習しないの?」


 翔太君は、一人だけ他の生徒たちから少し離れたところで練習を見ていた。

 

「ボクは後から練習することになってるんです」


 うーん、どういうことだろう?

 プリンスだから特別扱いなのかな?

 私はそう思ったが、すぐにその考えが間違っていたと気づかされることになる。


「そのくらいでいいでしょう。

 みなさん、そろそろショータ君の模範演技を見せてもらいましょう」


 ふくよかな女性教師が手を叩き、生徒の注目を集めてからそう言った。


「大地の力、我に従え」


 ショータ君の前には盛り土がなかったが、彼がそう口にしただけで地面が持ちあがり、他の盛り土の横に大型トラックサイズの「箱」ができた。

 その「箱」はティッシュの箱に似た形をしており、一番面積が少ない面がこちらに向いていた。

 

「プリンス、がんばって!」

「派手なのいきましょう!」

「一発頼むぜ!」


 生徒たちからそんな声が飛ぶ。

 巨大な土の箱を作るのは、ただの準備だったようだ。

 翔太君は、真剣な顔で右手を空へ向けた。

 バスケットボールほどの赤い火の玉が空中に現れた。

 彼が左手をそちらへ向けると、その火の玉がくるりと石に覆われた。

 内側からあぶられ、石くれの表面が次第に赤くなってくる。

 翔太君は、右手を前へ振った。


 火の玉を包んだ石くれは、白い煙の筋を引き、圧倒的なスピードで土の「箱」にぶつかった。

 黒い穴を開け、石くれが「箱」の中にめりこむと、一瞬の間をおいて破裂音が轟いた。


 ドーンンン!  


 腹に響くその音と同時にやってきた衝撃波が突風となり、私たちに襲いかかる。

 思わず目を閉じ、乱れる髪ごと頭を抱えた。

 突風はすぐに止んだ。

 目を開けると、水でできているのか、波うつ透明な膜のようなものが、目の前に立っている。 

 振りむくと、膜はドーム状に生徒と私たちを覆っていた。


「ごめんなさい!

 できるだけ小さくしたんですが、思ったより威力があったみたいです」


 翔太くんが頭を下げると、生徒たちが拍手した。


「さすがプリンス!」

「やっぱ凄えぜ!」

「どーん、最高!」


 みんな手放しで彼を誉めたたえる。


「ショータ君、今のは?」


 先生が興奮した表情で翔太君に詰めよる。


「火魔術と土魔術を複合させてみました」


「や、やっぱり複合魔術でしたか……」


 複合魔術? 初めて聞く言葉だ。先生に尋ねてみよう。


「先生、複合魔術とはなんですか?」


「二種類以上の魔術を組みあわせて一つにしたものです。

 私の知る限り、現在の魔術師で、独りでこれができるのはショータ君だけなんです」


「す、凄いですね」


「ショータ君は、大魔術師として有名な、かのヴォーモーンの再来と言われています」


 ぶぉーなんとかさんって誰?

 どうやら、勉強が足りなかったようね。魔術について、もっと調べておくんだったわ。 


「遠藤、今の写真に撮った?」


「ばっちりです。

 動画で撮りましたよ」


 うーん、その動画、シロー君に公開禁止って言われそうね。まあ、いいか。


 予想通り、翔太君の動画はボツにされてしまったが、やがて地球に帰ってから公開した、魔術練習を映した動画は、大変な視聴数を稼ぐことになる。

 

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