第26話 ギルド本部訪問


 パンゲア世界から旅行している一行に、獣人世界で舞子、ミミ、ポルを加えた俺たちは、エルファリア世界にある『聖樹の島』、ギルド本部近くの森へ転移セルフポータルした。


 全員が揃っていることを確認すると、木々の根を避け、森の中を進む。十分もしないでギルド本部がある、小さな集落へと着いた。


 集落の中心にある広場で遊んでいた女の子が、こちらを見た。


「あ、ナルちゃん、メルちゃん!」

 

 その声で、集落の子供たちがわらわら集まってくる。


「私、トンちゃんワイバーンに乗ったんだよー!」

「ボクもー!」

「あれ、気持ちいいねー!」


 ナルとメルをとり囲み、口々に話しかけている。


「ナル、メル、これを」


 俺は点収納から取りだした、飴が入った袋を一つずつ二人に渡す。


「「「わーっ!」」」


 娘たちが飴を配ると、子供たちが歓声を上げる。

 この世界もだけど、異世界って、甘味が発達してないんだよね。

 

 子供たちの輪にナルとメルを残し、広場に面した一際大きな木造三階建ての建物、ギルド本部へ向かう。

 俺たちが戸口に近づくと、中からぞろぞろ職員が出てくる。

 その中には、ルルの両親であるエレノア、レガルス夫妻もいた。いつもならルルに飛びつくレガルスだが、この日は他の職員と共に神妙な顔で片膝を地面に着いた。


 それに対し、こちらも儀礼上、エミリー、ショータ、舞子以外の仲間が膝を着く。

 もちろん、俺も膝を着いた。

 ギルドから二人の職員を連れたギルド本部長ミランダさんが現われる。

 光沢がある黒いローブを身にまとった長身は、それだけで威厳があった。

 彼女が現われた途端、俺たちを遠巻きにしていた集落の住人がみな膝を着いた。

 

 ミランダさんは、エミリーの前に膝を着き頭を下げる。  


「聖女様、この度はわざわざおいでいただき、感謝の言葉もございません。

 このエルファリア世界を含め、世界群をお救いいただきありがとうございます」


 彼女の言葉に、広場に集まった人々が、身をすくめ息を呑む。


「大聖女様も、お変わりなく。

 先だっては、ウチの冒険者を癒していただきありがとうございます」


 ミランダさんは、エミリーが『聖樹の巫女』だと知っているが、他の目があるときは彼女のことを『聖女』、舞子のことを『大聖女』と呼んでいる。エミリーがとりたてて重く扱われるのは、ギルドがそもそも神聖神樹聖樹、神樹を守るために設立されたという歴史から来るものだ。


 ギルド職員たちからのかしこまった礼を受け、エミリーも舞子も戸惑っていたが、俺が目で合図すると、軽く頷き少しの間、膝を軽く曲げた。


「みなさん、ご苦労様」


「「「ははーっ!」」」


 エミリーの言葉に、ミランダさんを始め、ギルド職員たちが声を合わせた。

 彼女には、こういう時の対応をあらかじめ教えておいたからね。

 

「みなさん、立ってください」


 舞子の声で、ギルド職員と俺たち一行が立ちあがる。

 エミリー、ショータ、舞子がミランダさんの案内で、ギルド一階奥にある客間へ向かう。


 戸口を入ってすぐの所にあるホールには、丸テーブルがいくつか置いてあるのだが、リーヴァスさんがさっさとそこに座った。俺もその隣に座る。


 やっとくつろげると思ったが、それは甘かった。

 一度姿を消したミランダさんが廊下からこちらに顔を出した。


「リーヴァス、シロー、何やってるんだい。

 あんたたちも来な」


 リーヴァスさんと、俺は顔を合わせ、苦笑いしてその後を追った。


「ルル~!

 我が愛しの娘~!」


 ポコン


 背後からは、レガルスさんがルルに甘えた声をかけ、エレノアさんに叩かれる音が聞こえてきた。


 ◇


「しかし、シロー、この前は災難だったねえ」 


「ええ、ミランダさん、ご心配おかけしました」


「この前来た時にゃ、時間が無くて詳しく聞けなかったが、世界群統合の事、今日はしっかり話しとくれ」


「え、ええ、分かりました。

 では、リーヴァスさん、みんなに遅くなるって伝えてください」


「いや、リーヴァス、あんたも残っときな。

 ちょっと頼みたいことがあるからね」


 こうしてエルファリア世界到着初日は、俺の天敵である長い会議から始まった。

 くつろぎを返せー!


『(*'▽') 返せー!』


 また、点ちゃんが面白がってる……。

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