第60話 ドラゴンの国 


 王都から南西方向へ一時間ほど飛ぶと、下に山岳地帯が見えてきた。

 さらにしばらく飛ぶと、山肌が次第に赤っぽくなってくる。

 一際高い富士山型の大きな山があり、その赤い山肌に、溝のような太い筋が一本、麓まで走っていた。

 それを眺めていると、下方から黒い影がいくつか飛来する。

 ドラゴンだ。


 大きさは、かつてドラゴニアで出会った天竜くらいだろうか。

 大きさだけでなく、その形まで驚くほど似ている。

 点ちゃん1号を宙に停止させると、その周囲をぐるりとドラゴンがとり囲んだ。 

 

『何者だ?!

 ここは我らドラゴンのテリトリーだぞ』


 ドラゴンの一体が念話で詰問してくる。

 さすが飛行型生物。点ちゃん1号が空を飛んでることには驚かないね。


『俺はシロー。

 大事な話があってここへ来た。

 あなた方の王に会いたい』


『お前、変なものに乗ってるが人族だな?

 アリンにも劣る種族が竜王様になど会えるか!

 身の程を弁えろ!』


 アリンってなんだろう。

 とにかくバカにされていることは確かだな。

 いきなり訪れたこちらも悪いけど、これでは話にならないね。

 

『どうすれば、その竜王様とやらに会わせてもらえるのかな?』

 

『とるに足らないものを、竜王様に会わせるわけにはゆかぬ。

 すぐにたち去れ!』


 ここは、少しだけこちらの力を見せた方がいいかもね。


『分かった。

 少しこちらの力を見せるが、後で愚痴は言うなよ』


『愚か者が!

 そんなことをする前に、お前の命を頂く!』


 機体を囲んだ竜たちが頭を少し後ろへ引く。

 その口の中に炎がちらついている。

 ブレス攻撃をするつもりだな。


 すでに竜たちにつけてあった、重力を付与した点を発動させる。

 全ての竜がきりもみ状態で地上へ落ちていく。


『ぐっ!?』

『ガーっ!』

『ひぐっ!』


 ドラゴンといえども、この高さから落ちたらタダでは済まないのだろう。

 念話を通し、落ちていくドラゴンの恐怖が伝わってくる。

 地上すれすれでヤツらの落下速度を殺し、ゆっくり地上へ降ろした。


 自分自身にも重力付与をおこない、点ちゃん1号の外へ飛びだす。

 落下の恐怖が消えず、ノロノロと動いている、ドラゴンたちのまん中へ着地する。


『い、今のは何だ!?』

『コイツ、本当に人族なのか?』 

『何者だ?!』


 そんな念話が聞こえる中、俺は先ほどの質問をくり返した。


『竜王様に会わせてもらえるか?』


 ◇


 落下のショックでヨレヨレになったドラゴンに案内されたのは、ドーム球場ほどもある巨大な洞窟だった。

 壁面が磨いたように滑らかなのは、ドラゴンが手を加えたからかもしれない。

 壁には、数か所、大きな穴が開いており、洞窟のさらに奥へと通じているようだ。

 一体のドラゴンがその穴から奥へ入り、しばらくすると、それぞれの穴からドラゴンが次々に現れた。

 広大な岩床がドラゴンで埋められていく。彼らの爪が岩床に当たる音だろう、カチャカチャという音が続いている。

 辺りには、線香をたいたような匂いが漂っていた。

 最後に一際大きく黒いドラゴンが現れる。

 そのドラゴンは翼を広げ飛びあがると、高さが二十メートルほどはありそうな場所にある、壁からつき出た岩棚にふわりと降りた。


 グゥオオオオッ


 岩棚の上でそのドラゴンが一声咆える。


 グゥオオオオッ


 他のドラゴンが同じように咆えることでそれに応えた。 

 俺は点魔法のシールドで聴覚を遮断し、その轟音に耐えた。 


『皆のもの、今日集まってもらったのは他ではない。

 そこにいる人族がワシと話がしたいそうだ』 


 ドラゴンたちのざわつく念話が伝わってくる。


『何か考えのある者はおらぬか?』 


 竜王の問いかけに、すぐ答えたドラゴンがいた。


『我に考えがある』


『マズル、またお前か』


 竜王の念話に、並みいるドラゴンたちが一体のドラゴンを見る。

 そのドラゴンは他より大きく、色も黒かった。体についた無数の傷は、そのドラゴンが潜りぬけてきた戦いの証だろう。


『そやつに『試しの儀』をおこなえばよい』


 そのドラゴンは堂々とそう答えたが、それを見ているドラゴンたちの目はなぜか冷たいものだった。

 何か事情があるのかもしれない。


『うむ。

 しからば『試しの儀』を行うとして、誰がその相手をする?』


 竜王の重々しい念話が伝わってくる。


『我が言いだしたのだ。

 我が相手をしよう』


『皆のもの、マズルの意見に賛成するか?』


 グオオオ


 賛成の声は上がったようだが、それは積極的なものとは言いがたかった。

 渋々賛成しているように聞こえる。


『仕方ない。

 マズル、お前に相手をしてもらうが、前回のように相手を殺すような戦いをするな』

 

 なるほど、このマズルと名のドラゴン、前科があるわけか。

 だから、みなに支持されていないんだな。


『分かっている』


 マズルが俺の方へその首を向ける。

 その目には明らかに殺意があった。

 おいおい、言っていることと考えていることが違うじゃないか。


『では、明日、ソルが天頂に昇る刻をもって、『試しの儀』を行う』


 竜王の念話に、他のドラゴンが一斉に咆えた。


 グゥオオオオッ

 

 あなたたち、人族がここにいるんだから、もう少し音量を絞ってもらえませんかね。

 しかし、結局、俺は一言も発言せずじまいか。

 こいつら、自分たちがドラゴンだからって、あまりにも人族を舐めてないか?

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