第46話 モフラーさんと採集依頼


 泊めてもらった部屋は八畳ほどもあり、風通しもよく思いのほか快適だった。

 お風呂は無く、裏庭にある井戸の水を大きなタライに入れ、それにお湯を足して入った。

 俺の場合、点ちゃん1号を出せば、きちんとした風呂にも入れるのだが、郷に入れば郷に従えっていうからね。

 屋外で入る風呂は、タライの木が香り、それはそれで気持ちよかった。空を見上げると星が広がっていて、まるで露天風呂のようだ。


 ◇


 昼近くになってルエランに起こされる。

 

「よくお休みでしたね。

 採集は明日でいいですから、今日はゆっくりなさってください」


 そう言われ、お言葉に甘えることにする。


『(*´з`) あー、ダメなパターンだ。ご主人様は、甘やかされるとダメダメになるから』


 そうは言ってもね、点ちゃん。ほら、ブランちゃんとキューちゃんのこのモフモフを感じながら二度寝できるって、天国ですよ、もう天国ぅ~zzz。


『(; ・`д・´) さっさと起きろーっ!』


 あれ、どうして怒ってるの?


 その後、点ちゃんから、散々お説教されました。


 ◇


 お昼を食べに出たついでに、街を歩いてみる。

 活気があって人々の表情が明るい。

 ルエランの話では、このベラコスの街は、新興の『ティーヤム王国』が治めており、以前に比べ、ずい分住みやすくなったそうだ。


 屋台で肉串を買うついでに、図書館があるかどうか尋ねたが、それは王都にしか無いということだった。

 この世界について情報を集めるためには、そこまで行ってみるしかないだろう。

 

 ◇


 次の日、俺とルエランは、早朝から郊外の森へ来ている。昨日一日英気を養ったからか、身体が軽い。


「シ、シローさん、ちょっと待ってください」


 ルエランは元冒険者と言うことだが、鍛え方が足りないようだ。


「ルエラン、しっかりしろよ。

 君もこの前まで冒険者だったんだろ?」


「はあ、はあ、そ、それがギルドには登録していたんですが、小間使いのようなことしかしてなくて……」


「そうか、じゃ、少しペースを落とそうか」


 ボードを出せば楽なんだが、手の内はなるべく隠しておきたいからね。


「もうそろそろのはずです」


 木立を抜けると、かなり広い草原くさはらが広がっていた。野球場くらいはあるだろう。  

 そこには、沢山の花が咲き乱れていた。


「綺麗だな。

 ナルやメルに見せてやりたい」


 俺は思わずそう口にした。


「ナルさんとメルさんというのは、ご家族ですか?」


「ああ、娘なんだ」


「へえ、シローさん、娘さんがいらっしゃったんですね。

 奥様はどんな方ですか?」


「ははは、そん辺は、まあね」


 俺の口調に何かを感じたのか、ルエランはそのことについてそれ以上聞いてこなかった。


「ルエラン、集めなきゃならない薬草を教えてくれるか?」


「はい、ちょっと待ってください」


 彼はその辺を歩きまわり、何種類かの花や草を摘んできた。

 丈の短い草がカーペットのように生えているところに白い布を敷き、その上に草花そうかを広げる。


「ざっとこんなものですね?」


「採り方に注意とかあるかな?」


「ええ、いくつかあります」


 ルエランから注意事項を聞くと、俺たちは二手に分かれて薬草を採集することになった。

 薬草を探しながら、俺はアリストの『聖騎士の森』でルルと白雪草を採ったことを思いだしていた。

 

『(・ω・)ノ ご主人様ー、私に任せてもらえば、すぐに薬草を集めますよ』 


 ありがとう、点ちゃん。

 でも、時には、こうやって自分の身体を動かさないとね。

 

 もう少しでルエランから言われた数の薬草を採り終えるというとき、叫び声が聞こえてきた。


「ひーっ!

 た、助けてーっ!」


 そちらを見ると、ルエランが宙を舞っているところだった。


 ぽわ~ん、ふわん

 ぽわ~ん、ふわん 


 彼はかなり高いところを上下している。

 俺が近づいていくと、カワイイ鳴き声がした。


「キューッ!」(楽しー!)


 草原に来てから、キューとブランは適当に遊ばせておいたからね。

 しょうがないなあ。


 キューとブランに掛けておいた透明化を解除する。


「げっ!

 し、し、し、『白い悪魔』。。。」


 キューの白い体が現われた途端、そう叫んだルエランが、白目をむき気を失う。

 あちゃー、かえって怖がらせちゃったか。


「キューちゃん、小さくなってくれる?」


 通じるかどうか分からないけど、キューちゃんにそう呼びかけてみる。


 ぽふん


 白く大きなふわふわが消え、バレーボールほどの毛玉キューになった。

 地面に落ちかけたルエランの身体は、重力付与の『・』をつけ、受けとめてある。


 小さくなったキューが、ぽんぽん弾んで、俺の胸に飛びこんでくる。

 それを抱いて撫でてやる。


「きゅきゅーっ!」(気持ちいいー!)


 キューは、つぶらな黒い目を細め、じっとしている。

 ブランが俺の肩に跳びのった。

 肉球を俺の額に当ててくるので、彼女の記憶を覗くと、ブランはルエランと一緒に、キューちゃんの上で、上下して遊んでいたらしい。まあ、ルエランは、遊んだとは思っていないだろうけどね。


「う、ううう」


 気を失っていたルエランが目覚めたようだ。


「こ、ここは……あ、シローさん!

 ボク、昼寝してて悪い夢を見たみたいです。

 あれ?

 その肩に乗った白いのは?」


「ああ、俺が飼ってる魔獣だよ」  

   

「え?

 今までどこにいたんです?」


「ああ、その辺で遊ばせておいた」


 本当は、透明にしておいたんだけどね。

 ここは、適当にごまかしておこう。


「その手に持ったものは?」


「これは俺の友達、キューちゃんだよ」


「へえ、何ですか?」


「多分、魔獣の一種だと思うよ」


「初めて見ますね」


 これが『白い悪魔』だと言わない方がいいね。


「撫でてみる?」


「えっ、いいんですか?」


 ルエランの目がキラキラする。もしかして、君もモフラーか?

 ルエランが目を細めながら、白いふわふわの毛を撫でる。


「くう~っ!

 これは癖になりますね」


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