第17話 家族の絆


 史郎が見知らぬ異世界に召喚された頃、アリストにいる家族は、彼の帰りを待ちわびていた。


「コー姉、パーパのお好み焼き、まだー?」


「メル、パーパは、すぐに帰ってくるって言ってたから、もうすぐだと思うわよ」


「おこ、早くたべたいなー!」


「そうね、あれは、ジューって美味しいもんね」


 史郎を待ちかねるメルを、コルナが慰めている。


「マンマ、パーパはいつ帰ってくるの?」


「もうすぐだと思うわ、ナル。

 さあ、早く学校へ行く用意をして」


 ナルとメルは手を繋ぎ、元気に玄関を出ていった。

 ルルとコルナは、史郎の帰宅が遅れているのを、それほど心配していなかった。史郎の性格をよく知る彼女たちは、彼がどこかにふらりとたち寄っているだろうと考えていたからだ。

 

 買い物に出ていたコリーダが帰ってくると、ルルがリビングに三人分のお茶を用意した。


「ルル、ナルとメルは?」


 お茶に口をつけてから、コリーダが尋ねる。 


「二人は学校へ行ったわ。

 それより、ギルドの方、どうだった?」


「キャロさんの話だと、地球世界からの連絡はまだ無いそうよ。

 アリストギルドからも、向こうに問いあわせたみたいだけど、まだ応答がないみたい。

 地球のギルドマスター、白騎士さんがまだ異世界間通信の魔道具に慣れていないから、こちらの問いかけに気づいてないかもしれないそうよ」


「そうだね、あの人、ちょっと頼りなかったね」


 コルナは白騎士に会った時の事を思いだし、そう言った。

 

「柳井さんに連絡が取れたら、詳しいことが分かるんだろうけど」


 そう言うルルの表情は、落ちついていた。


「それはそうね。

 ルルはシローの事が心配ではない?」


「コリーダ、あなたには、まだ言ってなかったわね。

 私、神樹様から、ご加護を頂いているの」


「ご加護?」


「ええ、強いものではないけれど、ある程度の未来予知ができるの」 


 ルルの言葉を聞き、コリーダは目を大きく見ひらいた。


「ええっ!

 それ、凄い事だよね?」


 その言葉に対する、ルルの反応は落ちついたものだった。


「そうかな。

 とにかく、シローが危機に陥るようなことがあれば、私が何か感じるはずなの」


「そうだったの。

 だから落ちついてたのね」


「黙っててごめんなさい」


「いや、これは私が悪かった。

 加護というのは、簡単に他人の前で話していいことではないのだろう?」


「ええ、だけど、コリーダ、あなたになら話してもいいの」


「そ、そうか?」


 コルナが立ちあがり、ソファーに座るコリーダの後ろから抱きつく。


「当たり前でしょ、私たち、家族なんだから」


「コルナ……」


 コリーダが目を閉じ、自分の首に回されたコルナの腕を撫でた。


「ねえ、『ポンポコ商会』で衣服部門に力を入れはじめたって知ってる?」


 コルナが急に話題を変えたので、コリーダが戸惑う。


「えっ?

 そうなの?」


「デロリンがキツネさんから聞いてきたんだけど、水着も売るんだって」


「へえ、そんなものまで」


「コルナと話したんだけど、水着を新調しない、コリーダ?」


 ルルが、コリーダに微笑む。


「だが、私のは、まだそれほど着てないのだが――」


「地球世界の資料によると、毎年替えたりするそうよ、水着は」


 地球の文化に詳しいルルが説明する。


「そうなのか?」


「ねえ、新しい水着で、お兄ちゃんを驚かせちゃお!」


「そ、そうだな」


 そう言ったコリーダの手をルルが取り、彼女をソファーから立たせる。


「今日は『やすらぎの家』にキツネさんが来てるそうだから、水着の事、お願いしておきましょう」


「そうよ、コリーダ。

『思いたったら』……ええと、何だっけ?」


「もう、コルナったら、また大聖女様から変な言葉習ったんでしょ?」


「し、失礼ね、ルル!

 変な言葉じゃないもん!」


 三人がワイワイやっていると、冒険者姿のリーヴァスが姿を見せた。


「「「おじい様、お帰りなさい」」」


 ルル、コルナ、コリーダが声を合わせる。


「ただいま。

 ナルとメルは、学校かな?」


「はい、そうです」


 ルルはリーヴァスが手にした荷物を受けとり、仕分けにかかる。

 彼がソファーに座ると、コルナ、コリーダも腰掛けた。 


「シローは、まだなのかな?」


「「はい、おじい様」」


「ふむ、予定より遅れているようだが、彼のことだ。

 心配は要るまい」


「はい、ルルとコルナからも、そう言われました」


「ははは、コリーダは、彼の事がよほど……だな」


「も、もう、おじい様、からかわないでください!」


 コリーダが両頬を手で押さえ俯く。

 

「ナルとメルが、お好み焼きを待ちかねているから、そろそろ帰ってきてほしいです」


「コルナの言うとおりだな」


 遅くなる時、連絡ぐらいするだろうシローがそれをしないのが、リーヴァスには少し気がかりだったが、三人の娘たちを不安にさせてもいけないので、それは口にしなかった。

 

「おじい様、『やすらぎの家』でキツネさんに会ってきます」


 荷物の仕分けが終わったルルが顔を出す。


「ああ、ゆっくりしてきなさい。

 今日の夕方は、みなで『カラス亭』に行くかな」


「まあ!

 メルが喜びます!」


 三人の娘が手を取りあい、離れに向かう後姿を、リーヴァスは微笑みながら眺めていた。

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