第16話 ぴかぴかの街

 大陸の上空に戻り、高度を調節してその形と大きさを観察する。

 大陸の形は円をしている。余りにもその形が綺麗なので、もしかすると、人の手が加わっているかもしれない。

 大きさは、オーストラリア大陸の半分くらいだろうか。

 南八割は、緑に覆われており、都市らしきものは小規模なものが一つだけだ。高度を下げると、小さな集落がいくつか散らばっているのが見えてきた。

 どう見ても、人口は少なそうだ。

 さらに高度を下げると、都市と森以外は、ほとんどが耕作地だと分かる。

 これだと人口も増えようがないだろう。

 そして、なぜか酪農のようなことをしている様子はなかった。家畜らしきものがいないのだ。


 これで、ますます銀仮面が言っていた、「低い生産力」が裏づけられることになった。

 俺は大陸の全体、そして各地域を点写真として記録しておく。

 もちろん、大陸全土に、調査用の点をばら撒いておく。


 小屋に残してきた点が、銀仮面と少年が起きて活動を始めたことを伝えてきたので、元居た森の上空まで移動する。

 

 点ちゃん1号の機内でボードを出し、それに乗ってから機体をしまう。

 透明化の闇魔術を掛けたボードの高度を下げていく。

 ちょうど昨日昼寝した辺りに降り、透明化を解くと、木立から棍棒を持ったタム少年が飛びだしてきた。


「シロー!

 無事だったのか!?」


 どうやら、昨日あれほど俺の事を怖がっていたのに、心配してくれたらしい。


「お早う、タム。

 ちょっと散歩してたんだ」


「この森には、ときどき恐ろしい『悪魔』が出るんだぞ。

 お前なんか、ぱくっと食べられちゃうんだからな」


「そうか、心配かけたな」


「し、心配なんかしてないからなっ!」


 ツンデレ少年は顔を赤くしている。


「それより、昨日のアレ、もう無いのか?」


「アレ?

 ああ、お好み焼きのことか」


「ふうん、『オコノミヤキ』って言うのか」


「もう、朝ご飯は食べたのか?」


「いや、まだだよ」


「じゃ、今日は『クッキー』ってのを食べさせてやろう」


「そ、そうか?

 もう一度、『オコノミヤキ』が食べたかったなあ」


「じゃ、また、昼食にでも出してやるよ」


「その『チュウショク』ってなんだ?」


「ああ、あれが空のてっぺんに来る頃に食べる食事だ」


 俺は木々の上に顔を出した、太陽を指さす。


「シロー、食事は朝と夕方に二回だけだぞ」


「そうか。

 俺の世界では、三回だった。

 俺はここでも一日三回食事するから、よければタムも付きあえよ。

 一人で食事するのは寂しいからな」


「一人で食べるのが寂しいって、変なヤツだな、シローは」


 もしかすると、この文明では食事は一人でするのが普通なのかもしれない。

 

 俺とタルは、木立に隠れた小屋に向かった。


 ◇


 蜂蜜を掛けたクッキーにタムが大喜びした朝食の後、銀仮面は、俺を連れて街へ行くと告げた。

 白猫を小屋に残していくよう言われたが、それを無視する。



 小屋から少し離れた所にある茂みには、軽四自動車をさらに小型にしたようなものが隠されていた。

 黄色いタイヤが、前に一つ、後ろに二つ着いている。

 それは二人乗りで、後ろに小さな荷台のようなものがついていた。


 俺に生成り色の長そで長ズボンを手渡した銀仮面は、少し離れておれの服装を確認し、気になる所を整えていた。

 目隠し替わりだろう、俺は黒い布をかぶらされ、膝を抱える形で、荷台に乗せられた。

 念入りに、布らしきもので覆ってある。

 荷台には、折りたたんだ毛布が何枚か敷かれているから、銀仮面が『自走車』と呼ぶ車が走りだしても、地面から伝わる揺れをかなり防いでくれた。

 それでも、長い時間その姿勢だったから、下にしていた左肩から左腰にかけて、かなり痛くなった。


 『自走車』がやっと停まる。


 肩をポンポンと叩かれたので身体を起こす。

 

「痛たた……」


 さすがに、身体が強張っている。 

 黒い布が取られると、そこが薄暗い倉庫のような場所だと分かる。

 小さな体育館ほどあるその空間には、袋詰めにされた何かが沢山積みあげられていた。

袋には、白いものと黒いものがあった。


「これは何なの?」

 

「それ『ウイー』と呼ばれる穀物だ」


 白い袋を指さした俺に、銀仮面が答える。


「で、こっちの黒いのは?」


「そ……それは、肥料だ」


 不自然な間が、明らかに怪しいけど、ここは突っこまずにおこう。


 倉庫の入り口は、大きな両開きの扉になっていて、俺たちが外に出た後、銀仮面はそれを片方ずつ閉めていた。

 どうやら、カギは掛けないようだ。


 倉庫を出た所は裏路地だったのだろう、人影はない。

 しかし、一つ角を曲がり、大きな通りに出ると、思った以上に人通りがあった、

 住人は総じて小柄で、見た目の年齢が七才くらいから二十才過ぎの人までで、三十代以上にみえる者は一人もいなかった。

 全員が生成りのワンピースを着ている。 

 彼らは、銀仮面に深くお辞儀していく。

 街は非常に清潔で、ゴミと言うか、チリ一つ落ちていないようにみえた。

 まさに、ぴかぴかだね。


 どうやら、彼は高い地位にいるらしい。 

 人々が、俺の方をチラリと見る視線は、頭に巻いた茶色い布にむけられていた。

 森の小屋を出発する前、銀仮面は俺にそれを取るように言ったが、下から黒髪が出てくると、少し考えた後、また布を頭に巻くよう指示したのだ。

 それはそうだろう。

 この世界の住民は、みんな頭の毛をぴかぴかに剃りあげていた。

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