第2部 迷子

第11話 召喚 

 深夜になり、カフェ『ホワイトローズ』から、故郷の町近くにある『地球の家』に帰ってきた俺は、ベッドに横になり、これまであったことを思いだしていた。


 加藤の不注意から、ランダムポータルを通り、異世界に転移したこと。

 アリスト城でルル、リーヴァスさん、点ちゃんと出会ったこと。

 パンゲア世界、獣人世界、学園都市世界、エルファリア世界、竜人世界、スレッジ世界と続く冒険者生活で、娘のナルとメルに、そして、コルナとコリーダに出会ったこと。

 神樹様、おばば様、聖樹様との出会い。

 竜王様や子竜たちとの出会い。

 その他、多くの人たちとの出会いと別れ。


 今まで縁があった人たちのことを思いうかべながら、眠りについた。


 俺がそんなことをするのは、めったに無い事だから、これから起こることに無意識に備えていたのかもしれない。

 俺には神樹様から頂いた、『未来予知(弱)』の加護があるからね。

  

 ◇


 次の日、目が覚めた俺は、朝一で温泉風呂に入ると、林先生が担任する異世界科クラスのために資料を整え、それを高校へ送っておいた。

 瞬間移動で沖縄と北海道に跳び、それぞれの地にある別荘をチェックしておく。


 そうこうしているうちに、お昼近くなったので、仕事を切りあげる。 

 さて、そろそろアリストに帰るとしますか。

 俺の点収納には、焼きたてのお好み焼きが百枚入っている。

 それを食べるナルとメルの顔を想像すると、思わず笑みが浮かんでくる。


 さあ、点ちゃん、ブラン、アリストへ、『くつろぎの家』に帰ろうか。


『(*'▽')つ 了解!』

「ミー!」(帰ろう!)

 

 俺は左手にブランを抱き、中庭に出ると、その中心に立つ『光る木』の神樹様と、建物の中間辺りに場所を定めた。

 そして、頭に浮かんだ世界群の映像からパンゲア世界を選び、『くつろぎの家』の庭をイメージして『セルフポータル』を発動させる。


 いつものように、暗闇の中、エレベーターが下降するときの感覚が訪れる。

 しかし、今回の転移は、いつもと違っていた。

 途中で、強く横から引っぱられるような力を感じたのだ。


 これは……。


 俺が現われたのは、巨石の柱が円形に並ぶ、遺跡のような場所だった。


 ◇


「この方が救世主……?」


 背後から聞こえたのは、男の子の声だった。

 俺が振りかえると、灰色のローブを羽織った人物と、やはり灰色のローブに身を包んだ、少年の姿があった。

 背が高い方は銀の仮面を着けているので、性別も年齢も分からない。


「そのはずだ」


 銀仮面が話した声は、ボイスチェンジャーを通したような、しわがれ声だった。


「この生き物は?」


 いつの間にか、俺の懐から抜けだしたブランが、少年に近づいていく。

 ブランは少年が差しだした手を嗅いだ後、彼の足に背中を擦りつけた。どうやら少年を敵対する人物ではないと判断したらしい。


 少年の問いかけに銀仮面が答える。


「恐らく伝説にある聖獣だろう」


 いえ、ただの白猫スライムなんですが……。


「お師匠様、この人、本当に救世主?」


 少年が銀仮面に問いかける。

 彼の疑がうのも当然だ。俺の格好は、頭に茶色の布をまき、カーキ色の長そで長ズボンと言う冒険者姿だからね。

 だいたい、俺、救世主とかじゃないし。


「間違いない。

 召喚によって現れたのだから」


 えっ!?

 今、「召喚」って言わなかった?

 じゃあ、この見知らぬ場所に転移したのは、この人のせい?


「救世主様、私たちをお救いください」


 銀仮面が両膝を石畳に着き、頭を下げる。

 この場合、返事は決まってるよね。


「嫌です」


「へっ!?」


 銀仮面は地面にひれ伏したままだが、立っていた少年が、そんな声を出した。


「きゅ、救世主様ですよね!?」


 少年の言葉を俺が重ねて否定する前に、銀仮面が立ちあがった。


「とにかく、ここでは話もできません。

 どうぞ、こちらに」


 俺は少し考えた後、すでに歩きだしていた二人を追い、足を踏みだした。

 なんで、この緊急事態を点ちゃんと相談しないかって?


 点ちゃんが、答えないからだよ。

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