第9話 地球世界からの報告 

 ガリガリと精神を削られた結婚式の後、アリストの『くつろぎの家』に帰ってきた俺は、ルルが呆れるほど、ぼやぼやと何もせず過ごしていた。

 今も三階の自室にこもり、ベッドに横になりゴロゴロしている。

 だって、削られた精神を元に戻すのって大変なんだよ。

 

『(*'▽')つ 言い訳ーっ!』

「みゅー!」(ほんと、そう!)


 いや、点ちゃんはともかく、ブランちゃんは、俺と一緒にゴロゴロしてるじゃない?


「みみみ、みゅ~」(猫はゴロゴロするのがお仕事)


 まあ、そうなんですがね。

 

「お兄ちゃん、ブレットさんが来てるよ」


 ノックの音がに続き、コルナの声がする。


「分かった。

 すぐに降りるから、お茶を出して待っててもらって」


「早くしてね」


 くう、コルナはよく分かってるなあ。

 あと五分、あと五分横になっていいよね。


 ◇


「おい、シロー、ずい分遅かったな」


 しばらくして客間に降りると、空になったカップを前に、ブレットが手もち無沙汰で座っていた。

 彼はアリストギルド所属の冒険者で、俺の友人でもある。

 

「シロー、お客様を待たせすぎです」


「コリーダ、次から気をつけるよ」


 お茶が入ったカップを二つ、コリーダがトレイに載せ運んできてくれたので、それを受けとる。


「で、何の話です?」


 俺の問いかけに、ブレッドが身を乗りだす。


「お前の故郷、『地球世界』って言ったか、そこのギルドから連絡があったんだ」


 少し前に、翔太の『騎士』たちがこの世界を訪れたのだが、それをきっかけに、ギルドから頼まれ、地球にギルド支部を作ることになった。 

 地球には、今までギルドが無かったわけで、当然のこと冒険者もいないから、ギルド設立といっても形だけのものになる。 

 白騎士がギルドマスターとなり、施設もつくらず、ポンポコ商会が、そのままギルド支部としての働きも担うことになった。

 

「地球ギルドからの連絡って?」


「なんでも、『枯れクズ』ってものに関することらしい。

 お前、何のことか分かるか?」


 ふーん、『枯れクズ』のことでわざわざ連絡があるってことは、エネルギー変換器の開発で、何か進展があったのかもしれないな。


「ああ、分かった。

 連絡ありがとう。

『ハピィフェロー』のみんなにもよろしくね」


 ブレットは、『ハピィフェロー』という冒険者パーティのリーダーだ。


「ああ、ウチの女性陣が、お前が地球世界に行くなら、チョコレートとかいうの頼むって言ってたぞ」


「ああ、分かってる」


「俺にはウイスケたのむぞ」


「ああ、ウイスキーね」


 ブレットは、下げていた布袋をテーブルの上に置いた。


「あと、これ、俺たちからの結婚祝い。

 ヒロコさんに渡しといて」


 ブレットたちのパーティは、ヒロ姉と面識があるからね。


「ありがとう、渡しとくよ」


 ブレットが帰ると、俺は旅の準備を始めた。

 どうやら、のんびりできる時間は終わったようだ。


 ◇


「お兄ちゃんは両極端なんだから、もう!」


 コルナが言っているのは、俺がテキパキ旅行の準備を始めたからだ。

 

「シロー、今回、私たちはどうしましょう?」


 行く先が地球世界と分かっているので、ルルが期待を込めた目でこちらを見ている。


「うーん、残念だけど、今回は俺だけで行くよ。

 かなり大事な仕事が待ってそうだから」


「そうですか……では、次の機会を待ちます」


 ルルは、肩を落としている。


「私も行きたかったなあ」


 コリーダも残念そうだ。


「パーパ、『お好み焼き』食べに行けないの?」

「おこー!」


「ナル、メル、お土産として買ってくるから、それで我慢してね」


「残念!」

「おこー!」


 二人にとって、「お好み焼き」とは、目の前にある鉄板の上でジュージュー音をたてているものを言うらしい。

 うちのキッチンにも、鉄板を用意するかな。


「気をつけてね、シロー」

「お土産忘れないで、お兄ちゃん」

「なるべく早く帰ってきて」


 ルル、コルナ、コリーダの声を聞いてから、庭へ出る。

 どこからともなく現れた白猫ブランが、俺の肩に跳びのる。


「じゃ、行ってくるよ」


 転移に巻きこまれないよう、少し離れた所から見おくる家族に声を掛ける。


 じゃ、点ちゃん、ブラン、行こうか。


『(・ω・)ノ 了解』  

「ミー!」(さあ、行こう!)

   

 俺は地球世界へのセルフポータルを開いた。

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